ワインを飲んで
霜月 六
友だちご飯に呼ばれた。
ひとり身を案じて、ときどき声をかけてくれるのは
ありがたいことだった。
鍋を囲んで、持参した赤ワインの栓を抜く。
フランスのローザン・セグラはしなやかな旨みと
渋みの余韻が心地よく美味しい。
うまいなあと言い合いながら、
たまにはこういういいワインを飲まなくてはいけないという
友だちの言葉に、
なにがいけないのかよくわからないが、高級なワインの美味しさに
そのとおりとうなづいた。
スペインのアルテロも、ぎゅっとつまった旨みが印象的で、
旨いワイン二本、プレゼントしてくれた人に感謝して
奥さんの手料理を肴に杯をかさねた。
十一月の第三木曜日、今年もボジョレー・ヌーボーを買った。
酒屋の峯村君から買ったのは、日本人の醸造家が造ったもので、
去年初めて飲んでみたら、軽すぎない旨みの感じがよかったのを覚えている。
もう一本は毎年買っている国内限定二百ケースのもので、
インパクトのある旨みが今年も味わえる。
近所のセブンイレブンからも一本買った。
去年買ったのが予想よりも美味しかったから、
今年もまた楽しみになる。
毎年一緒に酌み合っていた人が遠くの町に行ってしまったから、
さみしさを含んで、今年のボジョレーはしみじみ味わい深いものとなる。
初めてボジョレーを飲んだのは、二十五年前のことだった。
飲食店を経営していたいとこの店で飲ませていただいた。
いとこが亡くなってから今月でちょうど十年になる。
十年前のボジョレー・ヌーボーの日に旅立ったのは
いかにもワインの好きな人らしかった。
友だちご飯に呼ばれた。
ひとり身を案じて、ときどき声をかけてくれるのは
ありがたいことだった。
鍋を囲んで、持参した赤ワインの栓を抜く。
フランスのローザン・セグラはしなやかな旨みと
渋みの余韻が心地よく美味しい。
うまいなあと言い合いながら、
たまにはこういういいワインを飲まなくてはいけないという
友だちの言葉に、
なにがいけないのかよくわからないが、高級なワインの美味しさに
そのとおりとうなづいた。
スペインのアルテロも、ぎゅっとつまった旨みが印象的で、
旨いワイン二本、プレゼントしてくれた人に感謝して
奥さんの手料理を肴に杯をかさねた。
十一月の第三木曜日、今年もボジョレー・ヌーボーを買った。
酒屋の峯村君から買ったのは、日本人の醸造家が造ったもので、
去年初めて飲んでみたら、軽すぎない旨みの感じがよかったのを覚えている。
もう一本は毎年買っている国内限定二百ケースのもので、
インパクトのある旨みが今年も味わえる。
近所のセブンイレブンからも一本買った。
去年買ったのが予想よりも美味しかったから、
今年もまた楽しみになる。
毎年一緒に酌み合っていた人が遠くの町に行ってしまったから、
さみしさを含んで、今年のボジョレーはしみじみ味わい深いものとなる。
初めてボジョレーを飲んだのは、二十五年前のことだった。
飲食店を経営していたいとこの店で飲ませていただいた。
いとこが亡くなってから今月でちょうど十年になる。
十年前のボジョレー・ヌーボーの日に旅立ったのは
いかにもワインの好きな人らしかった。
幽霊がいれば
霜月 五
馴染みの飲み屋の御主人が、
店舗のあるビルのひと部屋へ引越しをした。
そのビルではかつて殺人事件があったから
こわくないのですかと尋ねたら、
ぼくは幽霊なんて信じませんからとにこにこ笑う。
勇気があるなあと感心した。
すてきな金縛りを観に行ったのだった。
殺人容疑で逮捕された男が、
その時刻、山奥の旅館で落武者の幽霊に会い、
金縛りになっていたという。
さえない女弁護士が、落武者の幽霊を法廷の場に連れてきて
被告のアリバイを証明するという話なのだった。
落武者の更科六兵衛に西田敏行。
女弁護士の宝生エミに深津絵里。
ふたりのやりとりにいろいろな人が絡み合って、物語がすすむ。
検事役の中井貴一がいい。
きびしく六兵衛さんを追いつめるかたわら
まじめな顔で笑いを誘う演技をする。
そうそうたる役者さんたちがちょい役で出てきては
みじかい場面の中で味を出しているから、
ぜいたくな作りと感心した。
無事事件が解決したあとに、宝生さんは六兵衛さんのはからいで
亡くなったお父さんの幽霊と触れ合うことができた。
いつも見守っているという、
お父さんの気持ちを伝えてもらえたのだった。
毎朝、仕事場の祖母の写真に手を合わせている。
昭和の初め、善光寺界隈にあった遊郭や料理屋の女の人相手に
髪結いを始めたのが、我が家の家業の始まりだった。
もともと遊郭の置屋のひと部屋を借りて始めたから
この家には今でも、
かなしい定めで亡くなった女郎さんの霊があるかもしれない。
お父さんが浮気をしたり、息子が結婚をしくじったのも
そんな女郎さんのたたりだと、母はまじめに信じて疑わない。
生まれたときには、すでに祖母は仕事をやめて隠居をしていた。
亡くなったのは小学校一年生のときだったから、
七年間、孫の面倒を看てくれていた。
昔のアルバムには、割烹着姿で花嫁の髪を結っている
祖母の写真がある。
いちど働いている姿を見てみたかったと、ときどき思う。
亡くなった人への想いは、
生きてる者のひとりよがりではあるけれど、
かわいがってくれたあたたかさが残っているから
手を合わせれば、見守ってくれているかと
気持ちが落ち着く。
形見のキセルは写真の前に置いてある。
お互い生きている身でも、縁切れて会えなくなることもある。
日々のつながりをおろそかにしないようにと思う。
馴染みの飲み屋の御主人が、
店舗のあるビルのひと部屋へ引越しをした。
そのビルではかつて殺人事件があったから
こわくないのですかと尋ねたら、
ぼくは幽霊なんて信じませんからとにこにこ笑う。
勇気があるなあと感心した。
すてきな金縛りを観に行ったのだった。
殺人容疑で逮捕された男が、
その時刻、山奥の旅館で落武者の幽霊に会い、
金縛りになっていたという。
さえない女弁護士が、落武者の幽霊を法廷の場に連れてきて
被告のアリバイを証明するという話なのだった。
落武者の更科六兵衛に西田敏行。
女弁護士の宝生エミに深津絵里。
ふたりのやりとりにいろいろな人が絡み合って、物語がすすむ。
検事役の中井貴一がいい。
きびしく六兵衛さんを追いつめるかたわら
まじめな顔で笑いを誘う演技をする。
そうそうたる役者さんたちがちょい役で出てきては
みじかい場面の中で味を出しているから、
ぜいたくな作りと感心した。
無事事件が解決したあとに、宝生さんは六兵衛さんのはからいで
亡くなったお父さんの幽霊と触れ合うことができた。
いつも見守っているという、
お父さんの気持ちを伝えてもらえたのだった。
毎朝、仕事場の祖母の写真に手を合わせている。
昭和の初め、善光寺界隈にあった遊郭や料理屋の女の人相手に
髪結いを始めたのが、我が家の家業の始まりだった。
もともと遊郭の置屋のひと部屋を借りて始めたから
この家には今でも、
かなしい定めで亡くなった女郎さんの霊があるかもしれない。
お父さんが浮気をしたり、息子が結婚をしくじったのも
そんな女郎さんのたたりだと、母はまじめに信じて疑わない。
生まれたときには、すでに祖母は仕事をやめて隠居をしていた。
亡くなったのは小学校一年生のときだったから、
七年間、孫の面倒を看てくれていた。
昔のアルバムには、割烹着姿で花嫁の髪を結っている
祖母の写真がある。
いちど働いている姿を見てみたかったと、ときどき思う。
亡くなった人への想いは、
生きてる者のひとりよがりではあるけれど、
かわいがってくれたあたたかさが残っているから
手を合わせれば、見守ってくれているかと
気持ちが落ち着く。
形見のキセルは写真の前に置いてある。
お互い生きている身でも、縁切れて会えなくなることもある。
日々のつながりをおろそかにしないようにと思う。

六蔵の方々と
霜月 四
北信の酒がおもしろい。
酒蔵の方々と宴をした。
酒屋の峯村君のはからいで、席に混ぜてもらったのだった。
鴨鍋をつっつきながらそれぞれの酒を楽しんだ。
信濃町の松尾は、今の杜氏さんになってから
酒の味がきれいになった。
以前は独特の老ねた香りがあって、飲むたびに気になっていた。
杜氏の駒村さんは、さらにきれいな味をめざしたいという。
千曲市のオバステ正宗は、造る酒をすべて純米酒だけにした。
月のきれいな棚田の町の酒らしい、
レトロな月の絵柄のラベルにも味がある。
川中島の幻舞と、信州新町の十九は、女性の杜氏が酒を仕込んでいる。
幻舞は香りの印象がつよく、舌の疎い身でも、この味だけはすぐにわかる。
十九は、その酒質が県外の酒屋さんにも注目されるようになり、
センスのいいラベルのデザインもインパクトがあって目をひく。
篠ノ井の積善と飯山の北光正宗は、杜氏さんがそれぞれ蔵の跡取り息子で
ともに二十六歳と若く、東京農大の同級生だという。
積善の杜氏さんはがっしりした体格で、ひげなんぞをはやしているから
ワイルドな印象をうける。
かたや北光正宗の杜氏さんは、色白の女の子のような顔をしているから
ずいぶん対照的な同級生なのだった。
積善は、長野県ではめずらしい、花の酵母を使って造られている。
北光正宗は、全国で唯一、木島平で作られている金紋錦という米を使って
造られている。
晩秋から初冬へ酒造りの季節になり、
携わる方々も、体と神経を酷使する日がつづくこととなる。
今季の酒が仕上がり好く成りますよう。
それぞれのお蔵さんの新酒が楽しみなこととなる。

北信の酒がおもしろい。
酒蔵の方々と宴をした。
酒屋の峯村君のはからいで、席に混ぜてもらったのだった。
鴨鍋をつっつきながらそれぞれの酒を楽しんだ。
信濃町の松尾は、今の杜氏さんになってから
酒の味がきれいになった。
以前は独特の老ねた香りがあって、飲むたびに気になっていた。
杜氏の駒村さんは、さらにきれいな味をめざしたいという。
千曲市のオバステ正宗は、造る酒をすべて純米酒だけにした。
月のきれいな棚田の町の酒らしい、
レトロな月の絵柄のラベルにも味がある。
川中島の幻舞と、信州新町の十九は、女性の杜氏が酒を仕込んでいる。
幻舞は香りの印象がつよく、舌の疎い身でも、この味だけはすぐにわかる。
十九は、その酒質が県外の酒屋さんにも注目されるようになり、
センスのいいラベルのデザインもインパクトがあって目をひく。
篠ノ井の積善と飯山の北光正宗は、杜氏さんがそれぞれ蔵の跡取り息子で
ともに二十六歳と若く、東京農大の同級生だという。
積善の杜氏さんはがっしりした体格で、ひげなんぞをはやしているから
ワイルドな印象をうける。
かたや北光正宗の杜氏さんは、色白の女の子のような顔をしているから
ずいぶん対照的な同級生なのだった。
積善は、長野県ではめずらしい、花の酵母を使って造られている。
北光正宗は、全国で唯一、木島平で作られている金紋錦という米を使って
造られている。
晩秋から初冬へ酒造りの季節になり、
携わる方々も、体と神経を酷使する日がつづくこととなる。
今季の酒が仕上がり好く成りますよう。
それぞれのお蔵さんの新酒が楽しみなこととなる。
朝の景色を眺めながら
霜月 三
すっかり朝晩の冷え込みが増した。
茶の間に小さなこたつを出したら、部屋の空気がすこしおちつく。
もうすぐ西ノ宮神社のえびす講が始まる。
それを過ぎると冬の気配も身近になってくる。
暮れになると、手描きのカレンダーを、友だちや知り合いに差し上げている。
毎年この時期になると、どこかの町を歩いては、
景色を写真に収めて描いて作る。
住んでいる町に信濃町、鬼無里に木島平に須坂に小布施、
上田に松本を描いてきた。
今年のカレンダーには飯山の景色を十二枚描いた。
馴染みの酒蔵に名の知れた古刹、さびれた裏通りの美容室に
木造の教会など。
町を散策したあとに、山手の蕎麦屋で昼酒を楽しんだ。
休日の朝、前の晩からの雨がひきつづきぱらついている。
このごろは休みの日は、裾花川沿いの温泉まで朝風呂に通っている。
いつもは原付バイクを飛ばしていくものの、
この日はぶらぶら歩いて出かけた。
町なかの紅葉も今が見ごろと、赤や黄色の彩りが映えている。
温泉は、六時すぎからおじさんやおじいさんの姿が多い。
ぬるめのお湯でゆっくり体を温めていると
寝ぼけた頭もだんだん覚めてくる。
風呂から上がって外へ出たら、
教会の向こうの空に虹がかかっていて、今日は晴れるとわかる。
帰り道、絵になる眺めを探しながらのんびりと歩く。
善光寺の西側のこの界隈は、古い家並みや路地が残っているから
さびれた風情がある。
来年のカレンダーは身近なこのあたりを描こうと決めた。
目にとまった町のひとかけらを、携帯電話のカメラで撮りながら歩く。
西部中学や長野商業の生徒が、学校へと向う姿とすれちがう。
眠たそうな顔でひとりで歩いている子もいれば、
友だちとにぎやかに話しながら行く子もいる。
古い町の朝の景色に馴染んでいれば、
湯上りの汗もだんだんとひいてくる。

すっかり朝晩の冷え込みが増した。
茶の間に小さなこたつを出したら、部屋の空気がすこしおちつく。
もうすぐ西ノ宮神社のえびす講が始まる。
それを過ぎると冬の気配も身近になってくる。
暮れになると、手描きのカレンダーを、友だちや知り合いに差し上げている。
毎年この時期になると、どこかの町を歩いては、
景色を写真に収めて描いて作る。
住んでいる町に信濃町、鬼無里に木島平に須坂に小布施、
上田に松本を描いてきた。
今年のカレンダーには飯山の景色を十二枚描いた。
馴染みの酒蔵に名の知れた古刹、さびれた裏通りの美容室に
木造の教会など。
町を散策したあとに、山手の蕎麦屋で昼酒を楽しんだ。
休日の朝、前の晩からの雨がひきつづきぱらついている。
このごろは休みの日は、裾花川沿いの温泉まで朝風呂に通っている。
いつもは原付バイクを飛ばしていくものの、
この日はぶらぶら歩いて出かけた。
町なかの紅葉も今が見ごろと、赤や黄色の彩りが映えている。
温泉は、六時すぎからおじさんやおじいさんの姿が多い。
ぬるめのお湯でゆっくり体を温めていると
寝ぼけた頭もだんだん覚めてくる。
風呂から上がって外へ出たら、
教会の向こうの空に虹がかかっていて、今日は晴れるとわかる。
帰り道、絵になる眺めを探しながらのんびりと歩く。
善光寺の西側のこの界隈は、古い家並みや路地が残っているから
さびれた風情がある。
来年のカレンダーは身近なこのあたりを描こうと決めた。
目にとまった町のひとかけらを、携帯電話のカメラで撮りながら歩く。
西部中学や長野商業の生徒が、学校へと向う姿とすれちがう。
眠たそうな顔でひとりで歩いている子もいれば、
友だちとにぎやかに話しながら行く子もいる。
古い町の朝の景色に馴染んでいれば、
湯上りの汗もだんだんとひいてくる。
テキーラは久しぶり
霜月 二
近所に飲食店ができた。
看板がないから、うっかりすると通り過ぎてしまう。
若いご夫婦がやっていて、
奥さんとは、以前馴染みの飲み屋で
席をご一緒させてもらったことがあった。
蕎麦屋で昼酒をたしなんだあと、ぶらぶら通りを上がっていったら
外に出てきた奥さんに、ビールありますよと声をかけられた。
声をかけられたら寄らないわけにはいかない。
締めの一杯のつもりが三杯飲んで酔っ払った。
素木のカウンターに木のテーブルがひとつ。
昔のランプがぶら下がり、ガラスケースの戸棚には
古い器がかさなっている。
店の奥には洋服も何枚かぶら下がっていて、
それもどうやら売り物らしい。
ビールを飲みながら通りを眺めていると、
近所のおじさんやおばさんが立ち寄って、
話をしたり珈琲を飲んでいっぷくしていく。
夕方、飲みに出る道すがら、立ち寄るときがあり、
かるく一杯と、小鉢物で飲んでいれば、
手の空いた旦那さんもいっしょに飲みはじめるから
話がはずんで杯をかさねてしまう。
日本酒をたのむと、
好みの純米酒が出てくるのも好いところなのだった。
月曜日の夕方、飲み会の前に訪ねたら、
カウンターに女性客ふたりに、テーブルにおじさんふたりがいて
繁盛している。
カウンターのすみに腰掛けてビールを飲んでいれば、
いつものように、ちょこちょこ小鉢が並ぶ。
日本酒をたのんだら、この日は木曽漆器の片口で出してくれた。
テーブルのおじさんがたのんだら、そちらには
ふるい松代焼きの片口で出していた。
昔の松代焼き、今のと雰囲気がちがうねと旦那さんにいえば、
そうなんですよお。昔のやつの、
うわぐすりのあらあらしい感じが好きなんですと
顔をほころばせる。
いちどビールが切れていて、旦那さんおすすめの
テキーラをちびちび飲んだことがあった。
昼間のテキーラはずいぶんと効いた。
近所に飲食店ができた。
看板がないから、うっかりすると通り過ぎてしまう。
若いご夫婦がやっていて、
奥さんとは、以前馴染みの飲み屋で
席をご一緒させてもらったことがあった。
蕎麦屋で昼酒をたしなんだあと、ぶらぶら通りを上がっていったら
外に出てきた奥さんに、ビールありますよと声をかけられた。
声をかけられたら寄らないわけにはいかない。
締めの一杯のつもりが三杯飲んで酔っ払った。
素木のカウンターに木のテーブルがひとつ。
昔のランプがぶら下がり、ガラスケースの戸棚には
古い器がかさなっている。
店の奥には洋服も何枚かぶら下がっていて、
それもどうやら売り物らしい。
ビールを飲みながら通りを眺めていると、
近所のおじさんやおばさんが立ち寄って、
話をしたり珈琲を飲んでいっぷくしていく。
夕方、飲みに出る道すがら、立ち寄るときがあり、
かるく一杯と、小鉢物で飲んでいれば、
手の空いた旦那さんもいっしょに飲みはじめるから
話がはずんで杯をかさねてしまう。
日本酒をたのむと、
好みの純米酒が出てくるのも好いところなのだった。
月曜日の夕方、飲み会の前に訪ねたら、
カウンターに女性客ふたりに、テーブルにおじさんふたりがいて
繁盛している。
カウンターのすみに腰掛けてビールを飲んでいれば、
いつものように、ちょこちょこ小鉢が並ぶ。
日本酒をたのんだら、この日は木曽漆器の片口で出してくれた。
テーブルのおじさんがたのんだら、そちらには
ふるい松代焼きの片口で出していた。
昔の松代焼き、今のと雰囲気がちがうねと旦那さんにいえば、
そうなんですよお。昔のやつの、
うわぐすりのあらあらしい感じが好きなんですと
顔をほころばせる。
いちどビールが切れていて、旦那さんおすすめの
テキーラをちびちび飲んだことがあった。
昼間のテキーラはずいぶんと効いた。
寒沢にて
霜月 一
山の内町へ出かけた。
馴染みのおでん屋の女将さん夫婦の別宅がある。
常連さんで集まって、宴をやろうと相成った。
夜間瀬川に沿って行き、山手の道を上がってゆけば
寒沢の集落に入る。
見渡せば、きれいな形の黒姫山と
けわしい形の妙高山が遠くに見える。
風の音と虫の声と、小雨まじりの、枯れた秋の中に立っていれば
気持ちもゆっくりおちついてくる。
穂波のお湯で疲れを癒して、女将さんご夫婦と常連さん四人で
明るい夕方から乾杯をした。
旦那さん自慢のポテトサラダに女将さん自家製のコロッケ、
湯豆腐に馬刺しでテーブルがいっぱいになる。
ポテトサラダは、あらくつぶしたジャガイモに
柿とりんごの甘みが混ざりあって食べごたえがある。
コロッケは、うすめの衣がからっと揚がり
しつこくなく食べられるから、ついもう一個と手が伸びる。
時代物の蕎麦猪口にお酌をすれば、
料理の旨さに愛宕の松の杯がすすみ、みるみる量が減ってくる。
もう一本持ってくればよかったと後悔したら、
こんなのがあったよと、女将さんが七笑の四合瓶を出してくれた。
女将さん夫婦の娘さんは、戸隠でケーキ屋をやっている。
ひとり、誕生日を迎えた人がいたから、
まわり道をして買ってきた。
モンブランの誕生日ケーキは、爽やかなクリームのおかげで
かろやかに食べられる。
ローソクを並べて火をつけてお祝いした。
女将さん夫婦は平塚の人で、ずいぶん以前に長野に移り住んできた。
平塚にいたころ旦那さんは、ジンギスカンとワインの店を
やっていたという。
ちょっと時代が早すぎたかなあというから、
鶴賀の古い通りにあったなら、足繁く通いたいとそそられる。
店の名前はクローバーという。
今は娘さんのケーキ屋が、同じ名前を受け継いでいる。
今度は夏にジンギスカンもいい。
早々来年の楽しみを立てながら、好く飲んで好く食べてつぶれた。

山の内町へ出かけた。
馴染みのおでん屋の女将さん夫婦の別宅がある。
常連さんで集まって、宴をやろうと相成った。
夜間瀬川に沿って行き、山手の道を上がってゆけば
寒沢の集落に入る。
見渡せば、きれいな形の黒姫山と
けわしい形の妙高山が遠くに見える。
風の音と虫の声と、小雨まじりの、枯れた秋の中に立っていれば
気持ちもゆっくりおちついてくる。
穂波のお湯で疲れを癒して、女将さんご夫婦と常連さん四人で
明るい夕方から乾杯をした。
旦那さん自慢のポテトサラダに女将さん自家製のコロッケ、
湯豆腐に馬刺しでテーブルがいっぱいになる。
ポテトサラダは、あらくつぶしたジャガイモに
柿とりんごの甘みが混ざりあって食べごたえがある。
コロッケは、うすめの衣がからっと揚がり
しつこくなく食べられるから、ついもう一個と手が伸びる。
時代物の蕎麦猪口にお酌をすれば、
料理の旨さに愛宕の松の杯がすすみ、みるみる量が減ってくる。
もう一本持ってくればよかったと後悔したら、
こんなのがあったよと、女将さんが七笑の四合瓶を出してくれた。
女将さん夫婦の娘さんは、戸隠でケーキ屋をやっている。
ひとり、誕生日を迎えた人がいたから、
まわり道をして買ってきた。
モンブランの誕生日ケーキは、爽やかなクリームのおかげで
かろやかに食べられる。
ローソクを並べて火をつけてお祝いした。
女将さん夫婦は平塚の人で、ずいぶん以前に長野に移り住んできた。
平塚にいたころ旦那さんは、ジンギスカンとワインの店を
やっていたという。
ちょっと時代が早すぎたかなあというから、
鶴賀の古い通りにあったなら、足繁く通いたいとそそられる。
店の名前はクローバーという。
今は娘さんのケーキ屋が、同じ名前を受け継いでいる。
今度は夏にジンギスカンもいい。
早々来年の楽しみを立てながら、好く飲んで好く食べてつぶれた。