飲んで、憂さを晴らして
水無月 4
夕方になると、
いそいそと、馴染みの飲み屋へ出かけていく。
中央通りから、しまんりょ小路を抜けた先、
信号の前に立つと、,きまって向かいのビルの
3階を見上げてしまう。
かつての勤め先があるのだった。
30年も昔のことで、
気のつよい先輩方との関係に、
髪がうすくなるほど、
へきえきとした毎日を過ごしていた。
友だちにも、おおきな会社で働く
人たちがいる。
人間関係のしがらみに悩んだり、
思わぬところへ飛ばされたり、
パワハラにあったり、
組織で働くということは、
ほんとにままならぬことだった。
飲み屋で、ワイシャツ姿の
おじさんたちを目にすると、
のんきなひとり働きの身は、
今日もご苦労様でしたと
頭が下がる思いになるのだった。
飲み友だちに宴の席に誘われた。
ひと足早く店に着き、ビールを飲みはじめれば、
先客のおじさん4人組は、すでに盛り上がっている。
おおきな声で話しているのは、会社の社長の悪口だった。
まったく、大企業の社長のつもりなのかね、
あのバカは!
うちの規模にはそれなりのやり方があるのに、
それがわかんねえんだ、あのバカは!
いとー部長が、
もっと進言してくれるといいんですけどねえ。
むりむり!
あのバカにはひとの話を聞くっていう気が
さらさらねえんだ!
ビールをぐいぐいおかわりしながら、
そのあとも歯切れよく、バカバカバカを連呼する。
なんだかこちらも愉快になって、
バカ社長に負けるな~と、
応援したい気分になってしまった。
ぐいぐい飲んで、ざっくり腹を明かして、
今日の憂さを晴らすのだった。
アマゾンで。
水無月 3
このところ買い物といえば、
すっかりインターネットのお世話になっている。
着るもの、履くもの、ちょいとした日用品から本など、
早いときには注文した翌日に届くから、
まことに便利この上ないのだった。
最近のおおきな買い物は空気清浄器で、
韓国製の真四角なやつを買って、
仕事場で使っている。
空気が汚れると、ごおごおと動きだし、
健気にきれいにしてくれている。
先だってアマゾンを物色していたら、
除菌ライトなる代物が目に付いた。
強烈な紫外線の光で、
部屋の中を殺菌してくれるという。
おおっ、コロナ騒ぎの折り、
これは好いものを見つけたと、
ポチっとしたのだった。
ところが、4月が終わり、5月の下旬を迎えても、
品物が届かない。
どうしたんですかねえと、出品者に問い合わせたら、
2日ほどして、口座に代金返還の知らせが届いた。
やれやれ、損をしないだけ良かったわい。
このたびは縁がなかったことと忘れかけたころ、
ひょっこり郵便屋さんが持ってきた。
???
中国の出品者からの商品で、
郵便局のホームページで配達経路をたどったら、
発送してから中国を出るまでに、
一か月以上かかっていた。
日本に着いてからは早2日で手元に届いたから、
日本の物流は優秀だなあと、
あらためて感心してしまった。
再び問い合わせたら、
返品しなくていいです。
高評価お願いしますと返事が来た。
いや、手間かけて返品する気はない。
支払いをどうするか、とまどっているのだった。
フェイスブックを覗いたら、
注文して3週間もたつのに商品が届かないと、
友だちがアマゾンを愚痴っていた。
友よ、おまえもかと苦笑いをしてしまった。
こんどなにかを買うときは、
よくよく慎重にならねばと思ったことだった。

このところ買い物といえば、
すっかりインターネットのお世話になっている。
着るもの、履くもの、ちょいとした日用品から本など、
早いときには注文した翌日に届くから、
まことに便利この上ないのだった。
最近のおおきな買い物は空気清浄器で、
韓国製の真四角なやつを買って、
仕事場で使っている。
空気が汚れると、ごおごおと動きだし、
健気にきれいにしてくれている。
先だってアマゾンを物色していたら、
除菌ライトなる代物が目に付いた。
強烈な紫外線の光で、
部屋の中を殺菌してくれるという。
おおっ、コロナ騒ぎの折り、
これは好いものを見つけたと、
ポチっとしたのだった。
ところが、4月が終わり、5月の下旬を迎えても、
品物が届かない。
どうしたんですかねえと、出品者に問い合わせたら、
2日ほどして、口座に代金返還の知らせが届いた。
やれやれ、損をしないだけ良かったわい。
このたびは縁がなかったことと忘れかけたころ、
ひょっこり郵便屋さんが持ってきた。
???
中国の出品者からの商品で、
郵便局のホームページで配達経路をたどったら、
発送してから中国を出るまでに、
一か月以上かかっていた。
日本に着いてからは早2日で手元に届いたから、
日本の物流は優秀だなあと、
あらためて感心してしまった。
再び問い合わせたら、
返品しなくていいです。
高評価お願いしますと返事が来た。
いや、手間かけて返品する気はない。
支払いをどうするか、とまどっているのだった。
フェイスブックを覗いたら、
注文して3週間もたつのに商品が届かないと、
友だちがアマゾンを愚痴っていた。
友よ、おまえもかと苦笑いをしてしまった。
こんどなにかを買うときは、
よくよく慎重にならねばと思ったことだった。
須坂にて
水無月 2
夏を迎えても、マスクをしているかたが多い。
コロナへの心配が、まだまだつづいている。
新聞をめくっていたら、須坂版画美術館で、
現代版画コレクション展を開いていると載っていた。
休日、バイクに乗って出かけたのだった。
須坂駅を過ぎて、菅平への道を上がって、
南原町の信号を右折する。
まっすぐ走って橋を渡った左手に、
ちいさな美術館が在るのだった。
木漏れ日ゆれる小道を抜けていくと、
入口の扉に、
マスク着用、手の消毒の張り紙がしてあった。
消毒液で手を拭いて受付に行くと、
住所と名前と電話番号の記入をお願いしますと
言われた。
展示室の前には、他者との間隔をあけて
拝観してくださいと貼ってあり、
ちょっと笑える。
もうずいぶん訪ねてきているものの、
にぎわっているところを見たことがない。
いつ来ても、しずかにゆっくりひととき過ごせる。
ちいさな美術館の好さなのだった。
草間彌生、池田満寿夫、著名なかたの作品に、
はじめてお目にするかたの作品が並ぶ。
松本出身の版画家、樋勝朋巳さんの作品も、
一点展示してあった。
このかたの、どこか懐かしい作風が好きで、
この美術館での個展にうかがったのは、
もう10年以上むかしのことだった。
一点だけでもひさしぶりに向きあえて、
来た甲斐があったというものだった。
美術館を出て臥竜公園に行くと、
木々も池も、深いみどりをたたえている。
春、桜の名所百選の、桜詣でに来たときは、
コロナの影響で、いつもの賑わいがみられなかった。
ぐるりと並ぶおでん屋もみなお客がなく、
気の毒になってしまった。
ひとまわり、ひと気のない公園で、
ゆっくり緑に癒されたのだった。
さて、寄り道をして、
新崎酒店さんで酒でも買っていくかと
思いきや、正午をすっかりまわっていた。
いかん、蕎麦屋の昼酒に間に合わんではないか。
酒はまた、配達をお願いすることにして、
帰り道、急いた気分でバイクを飛ばしたのだった。

夏を迎えても、マスクをしているかたが多い。
コロナへの心配が、まだまだつづいている。
新聞をめくっていたら、須坂版画美術館で、
現代版画コレクション展を開いていると載っていた。
休日、バイクに乗って出かけたのだった。
須坂駅を過ぎて、菅平への道を上がって、
南原町の信号を右折する。
まっすぐ走って橋を渡った左手に、
ちいさな美術館が在るのだった。
木漏れ日ゆれる小道を抜けていくと、
入口の扉に、
マスク着用、手の消毒の張り紙がしてあった。
消毒液で手を拭いて受付に行くと、
住所と名前と電話番号の記入をお願いしますと
言われた。
展示室の前には、他者との間隔をあけて
拝観してくださいと貼ってあり、
ちょっと笑える。
もうずいぶん訪ねてきているものの、
にぎわっているところを見たことがない。
いつ来ても、しずかにゆっくりひととき過ごせる。
ちいさな美術館の好さなのだった。
草間彌生、池田満寿夫、著名なかたの作品に、
はじめてお目にするかたの作品が並ぶ。
松本出身の版画家、樋勝朋巳さんの作品も、
一点展示してあった。
このかたの、どこか懐かしい作風が好きで、
この美術館での個展にうかがったのは、
もう10年以上むかしのことだった。
一点だけでもひさしぶりに向きあえて、
来た甲斐があったというものだった。
美術館を出て臥竜公園に行くと、
木々も池も、深いみどりをたたえている。
春、桜の名所百選の、桜詣でに来たときは、
コロナの影響で、いつもの賑わいがみられなかった。
ぐるりと並ぶおでん屋もみなお客がなく、
気の毒になってしまった。
ひとまわり、ひと気のない公園で、
ゆっくり緑に癒されたのだった。
さて、寄り道をして、
新崎酒店さんで酒でも買っていくかと
思いきや、正午をすっかりまわっていた。
いかん、蕎麦屋の昼酒に間に合わんではないか。
酒はまた、配達をお願いすることにして、
帰り道、急いた気分でバイクを飛ばしたのだった。
夏を思って
水無月 1
コロナの緊急事態宣言が解けて、
6月、朝夕、路地を行き来する
子供たちの姿が戻ってきた。
城山小学校の敷地では、
にぎやかに、
ちびっ子たちが走りまわっていた。
元気な声を聞いていると、
こちらも気持ちが和むのだった。
善光寺門前、
仲見世の土産物屋も商いを再開した。
蕎麦屋の丸清さんで、
酒を酌みながら眺めていれば、
まだ、通りを行く人の姿はまばらだった。
善光寺は、来年予定されていた御開帳を、
1年延期するという。御開帳といえば毎回、
本堂前に立つ御柱に、
願いを託す人たちの長い列ができる。
コロナに用心して間隔をあけて並んだら、
2キロ先、
長野駅の向こうまで行列が
できてしまうではないか。
だいたい、これだけ消毒除菌と騒がれれば、
柱が手垢にまみれるほど、みんなべたべた
触れるのかな。
気になってしまったのだった。
仕事を終えた夕方、通りを下りていく。
長らく休業中だった飲み屋の赤ちょうちんに
灯がともり、営業を始めていた。
長野駅の通路を抜けて、
馴染みの店のカウンターに着く。
エビスの生を飲みながら、
お客さんどう?と、ご主人に尋ねれば、
だめですねえ、6月になっても、
多くて3人来れば良いほうという。
通常どおりの営業ができるようになっても、
なかなかすんなりと、客足は戻らないのだった。
冷や酒を酌みながら、生シラスを
しょうが醤油でいただけば、さっぱりと、
夏だねえの気分になる。
この夏はどんなふうになるのやら。
コロナのことを思うと、
さっぱり加減も、いささか薄らいでしまうのだった。

コロナの緊急事態宣言が解けて、
6月、朝夕、路地を行き来する
子供たちの姿が戻ってきた。
城山小学校の敷地では、
にぎやかに、
ちびっ子たちが走りまわっていた。
元気な声を聞いていると、
こちらも気持ちが和むのだった。
善光寺門前、
仲見世の土産物屋も商いを再開した。
蕎麦屋の丸清さんで、
酒を酌みながら眺めていれば、
まだ、通りを行く人の姿はまばらだった。
善光寺は、来年予定されていた御開帳を、
1年延期するという。御開帳といえば毎回、
本堂前に立つ御柱に、
願いを託す人たちの長い列ができる。
コロナに用心して間隔をあけて並んだら、
2キロ先、
長野駅の向こうまで行列が
できてしまうではないか。
だいたい、これだけ消毒除菌と騒がれれば、
柱が手垢にまみれるほど、みんなべたべた
触れるのかな。
気になってしまったのだった。
仕事を終えた夕方、通りを下りていく。
長らく休業中だった飲み屋の赤ちょうちんに
灯がともり、営業を始めていた。
長野駅の通路を抜けて、
馴染みの店のカウンターに着く。
エビスの生を飲みながら、
お客さんどう?と、ご主人に尋ねれば、
だめですねえ、6月になっても、
多くて3人来れば良いほうという。
通常どおりの営業ができるようになっても、
なかなかすんなりと、客足は戻らないのだった。
冷や酒を酌みながら、生シラスを
しょうが醤油でいただけば、さっぱりと、
夏だねえの気分になる。
この夏はどんなふうになるのやら。
コロナのことを思うと、
さっぱり加減も、いささか薄らいでしまうのだった。