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同級生

2011年08月28日

 へこりと at 17:36  | Comments(5)
葉月 十二

本郷駅で電車を降りた。
昼に、友だちの行きつけの蕎麦屋で
一献の約束をしていた。
駅からまっすぐ道をあがって
やまとも庵へとむかう。
奥の入れ込みに腰をおろしてビールを飲んでいたら
ほどなく友だち夫婦もやってきた。
板わさに焼き味噌に天ぷらを頼み、
〆張鶴と開運をたしなんで、蕎麦で締めた。
酔い覚ましにゆっくり住宅街の中を散歩する。
長野高校近くのこの界隈には
かつて小学校や中学校の同級生が何人か住んでいた。
懐かしい顔を思い浮かべながら、
みんなどうしているかと話す。
消息のわかる人もいれば、どこでなにをしているのか、
見当もつかない人もいる。
中学校のときに、東京から転校してきた男の子がいた。
勉強はからっきしできなかったものの、
運動神経が抜群で、陸上部ではずいぶんと活躍をしていた。
覚えているのは、土曜日の半日の授業がおわったあと、
部活の前にみんなでお昼ご飯を食べるときに
家から弁当を持ってきたことがなく、
いつも学校近くのパン屋でパンを買っていた。
家庭の事情が複雑で、
お父さんとお母さんが離婚したと聞いたのは
ずいぶんあとになってからのことだった。
卒業してから一度だけ会ったことがあり、
それからすっかり行方がわからない。
さみしかったんじゃねえのかなあ。
今になって、いつもいきがって
生意気だった同級生の気持ちが見えてくる。
友だちの家に寄らせてもらい、
石川の五凛の味を利かせてもらっていたら
ひと雨降ってきた。
傘を借り、いつでも会える気のおけない同級生の在ることを
思いながら家路を歩いた。
KURAの今月号の特集は「信州の酒文化」だった。
付き合いのある酒屋の新崎さんと、みちのかの藤澤さんが
でかでか写っていた。
高校の同級生同士だというふたりを眺めれば、
馴染み合い支え合う、気持ちを許した雰囲気が
ほのぼのとほほえましい。






  


美術館と豆腐

2011年08月25日

 へこりと at 13:00  | Comments(0)
葉月 十一

須坂へ出かけた。
電車を降りて、駅前のひと気のない通りを抜けて
須坂クラシック美術館へ行く。
蔵造りの店が並ぶ通りの入り口にある、
古い屋敷をそのまま使った美術館で、
この日は、昔のガラスの器展を見にきたのだった。
先日までは、昔の銘仙の着物の展示会をやっていた。
生活に根ざした古いものを見せてくれるのが好くて
ときどき足を運んでいる。
先客はおばあさんのふたり連れだけで、
ゆっくりと見てまわる。
むかし、飲食店をやっていたいとこがいた。
骨董品が好きな人で、古いガラスの器も集めては
いくつか頂いたことがあり、
仕事場に飾らせてもらっている。
屋敷の中には、なでしこジャパンの優勝を記念して
なでしこ柄の着物もあちこちに飾られていた。
ガラスの器は、屋敷の二階と、
別棟の蔵の一階と二階に飾ってある。
ひととおり見て、広間に腰を下ろして庭先を眺めれば、
蝉の鳴き声が聞こえてきて、それがまた静けさをかもし出す。
ぼーっとするのに好い場所で、昼寝をしたくなってくる。
塀越しに、田中豆腐店の看板が目に入った。
今晩はやっこでいきますか。
豆腐好きの身は、看板を見つけたら
そのまま帰るわけにはいかない。
美術館を出て伺えば、年季のはいったおばあさんが応対してくれる。
このあとに会う友だちへの手土産にもと、
木綿三丁お願いしたら、
水槽の中からかたまりをすくい上げ、
すいすい包丁で切り分けて、袋に入れてくれた。
お代を渡して出ようとしたら、畑で採れた野菜を持っていけという。
熱心なすすめに断りきれずにうなずいたら
袋いっぱいのきゅうりとなすをくれた。
こ、こんなにたくさん・・・
右手に豆腐、左手に野菜をぶら下げて
ずいぶん大荷物の帰り道になる。
晩酌に豆腐をいただけば、豆の味のきゅっとしまった
美味しい豆腐だった。
美術館から豆腐屋さん。決まりのコースにしたい。

  


それぞれの立場を

2011年08月23日

 へこりと at 12:58  | Comments(4)
葉月 十

飲み屋をやっていた知り合いがいる。
店をたたんだあと、知人に頼まれて飲食店の店長をやっている。
駅前で飲み会のあった日に、行きがけにぶらりと立ち寄ってみた。
カウンターに座りメニューを見て、向かいのお姉さんに注文をする。
生ビールが出てきたあと、
いくら待っていても頼んだつまみが出てこないから催促をしたら
厨房に伝えるのをわすれていた。
動きぶりを眺めていれば、少しもいそがしくないのに
よそ事に気をとられてお客の相手をしてるから
すきだらけのおそまつな接客になっている。
中年といってもよい歳の人だったから
これはもう直らないな。こういう人といっしょに働くのでは
知り合いもストレスがたまるなと心配になった。
ハンバーグが旨いと評判の店に出かけた。
お昼どき、開店前から入り口に行列ができている。
扉が開いて入ればたちまち満席になり、盛況ぶりがうかがえる。
ハンバーグはやわらかくてとても美味しい。
森の中に店があり、落ち着いたあつらえの店内に
静かなBGMが流れている。
それだけに、ホールを担当するおじさんの接客がもったいない。
いそがしさに顔がけわしくなり、声も早口の大声になっている。
あおられるようにせかせか歩くから、見ているだけで気ぜわしい。
それほど大きな店ではないから、もうすこしおおらかに動いても
仕事の早さに変わりはない。
お客相手の仕事をしてるから、自分は大丈夫か?
振り返るよいきっかけになった。
こういう店に当たると、日ごろ懇意にしてる蕎麦屋飲み屋のみなさんが
どれだけ手厚く迎えてくれているかと身に染みる。
扱いの好さに杯を重ねすぎ、舟をこいだり、
酔って、知らずのうちに声が大きくなっていたかもしれず、
次の日になれば、迷惑かけてなかったかとくよくよ気にしている。
それでもしばらくたって足を運べば、
変わらない愛想の好さで迎えてもらえるから
今宵も、気持ちの良いひととき過ごせることとなりありがたい。
気持ち好く馴染んだ店の空気を大事に。
訪れる客の心得かと思う。  


ウーロンハイを飲みながら

2011年08月21日

 へこりと at 14:55  | Comments(6)
葉月 九

善光寺門前の蕎麦屋の元屋で、ときどきひとときを過ごす。
顔はいかついが、心根のやさしい店長のいる店で、
細打ちの蕎麦はのど越しが良く、
お盆の間も連日行列ができていた。
もり一人前五百五十円は、今どき良心的な価格で、
おまけに他の店の大盛りくらいの量がある。
最近メニューに、小盛り四百円というのが加わった。
それにしても普通並みの量がある。
休みの日の昼どきや、週末、仕事のあとの夕方に
ぶらりと足を運ぶ。
入り口を開けると、右側に三畳の入れ込みがあって
小ぶりのテーブルがふたつ置いてある。
窓際のテーブルが定席で、壁にもたれて
天ぷらを肴に盃をかたむける。
ビールはエビス、酒は木曽の七笑。
燗のつけ具合がちょうどいい。
信州大学に通う女の子がアルバイトをしている。
明るい笑顔でお客を席に案内して、
注文を取り運んでくる。
空いた器を下げて、厨房の様子をたしかめて、
くるくると目端利かせて好く動いている。
手が空くと、ひとり飲みのおじさんの
話し相手もしてくれる気遣いがうれしい。
ときどき店長に突っ込みを入れては、
入れられた店長もうれしそうににこにこしてるから
楽しく働く若い子がいると、
店の空気もはつらつ明るくなって好いと眺めている。
お花市の晩、アルバイトの女の子も交えて飲み会をした。
福井県の出身で、大学を卒業したら故郷に戻って
学校の先生になりたいという。
お父さんは競艇の予想屋をやっているといい、
ウーロンハイを飲みながら、
携帯電話の写真を見せてくれる。
一喜一憂、一発勝負の男の世界に、
勘と読みと経験駆使して立ち向かい、
家族を養ってきたお父さんは
子供といっしょに優しい笑顔で写っている。
居酒屋から静かなバーへ河岸を変え、
締めの一杯を飲みあえば、
おじさん連中の台詞にも素直にうなずいてくれるから、
気立て良く育ってきたとわかる。
卒業していなくなれば、店長もさみしくなるな。
それでも無事先生の道歩めるよう、
おじさんたちは応援したい。








  


クローバーさんへ

2011年08月20日

 へこりと at 14:06  | Comments(6)
葉月 八

ときどき馴染みのおでん屋で酒を酌む。
気さくな女将さんを相手に、長々ひとりで過ごすこともあれば
気の好い常連さんを相手に酌み交わすこともある。
おでん屋なのに、たいていやっこに枝豆に目刺しにウインナー、
そんなつまみばかりで盃を重ねている。
夏の間はメニューにそうめんチャンプルーがあったから
それも好いつまみになっていた。
暑さが遠のいて上着一枚羽織るころになると
行くたびにさんまの塩焼きで一杯やることとなる。
女将さんには娘がいて、旦那さんと戸隠でケーキ屋をやっている。
戸隠に住んでいる知り合いがいて、
訪ねてきたときに、うす緑色の箱をぶら下げてくれば、
手土産はみまほちゃんのケーキだとすぐわかる。
お盆休みの日曜日、山へドライブに出かけた。
ゆるやかな山道をのんびりと登ってゆく。
大座法師池の前を過ぎて、木洩れ日あふれる緑の道を抜けて行く。
橋の手前を左に折れてまっすぐ行けば、
大きな蕎麦工場の近くに、
みまほちゃん夫婦の菓子工房クローバーがある。
扉を開けて入れば、お母さんと同じ笑顔のみまほちゃんが
旦那さんといっしょに迎えてくれる。
ショーウインドウには、チーズケーキやシュークリームといっしょに
涼しげな夏の夏の菓子が並んでいる。
地元でとれたブルーベリーのたっぷり載ったタルトを頼んで、
窓際の席に腰を下ろした。
店にはケーキや焼き菓子のほかに、かわいい雑貨や洋服も売っている。
みまほちゃんの作るケーキは甘さがしつこくないから
ふだんすすんで食べることをしない左党でも、飽きずに食べられる。
離れて暮らしていても、この母子は、
便りがないのは元気な印と、間柄がさっぱりとしている。
ゆっくりくつろいでごちそうさま。
みまほちゃん、元気にしていたとおかあさんに伝えとくねといえば、
夫婦そろってにこにこと笑って見送ってくれた。


クローバーさんのHPから拝借。  


ふるいつきあいで

2011年08月18日

 へこりと at 16:44  | Comments(0)
葉月 七

中学校の同級生の女友だちがいる。
ふだん娘ふたりと港の町で暮らしている。
お盆の休み、久しぶりに娘ふたりも交え
顔を会わせた。
友だちは以前看護士の仕事をしていて、
今は介護福祉の仕事をしている。
娘ふたりも、お姉ちゃんは看護学校の学生で、
来年国家試験を控えていて、
高校三年生の妹も、来年お姉ちゃんと同じ
看護学校を受験するという。
看護士をしていたお母さんの背中を見て育ったことと、
お父さんを重い病気で亡くしたことが
ふたりに命を救う仕事を選ばせたとわかる。
病気のことなど尋ねれば、
お姉ちゃんがスマートフォンに指をシュッシュッとすべらして
調べてくれる。
それを見ながら妹が、
私も携帯これにしたいとねだれば、
来年合格したらねと、お母さんにたしなめられている。
友だちは、近い将来看護士の仕事に戻るつもりだという。
ホスピスの施設で、患者さんが穏やかに過ごせるような
仕事をしたいという。
介護の現場でいろんなお年寄りを看てきたことや
同じ道を往く娘ふたりに向き合う姿勢が
再びのしごとを望ませた。
中学校を卒業して別々の高校になってからも
ときどき連絡を取り合ったり、
大学に進学したり社会人になって、
ちがう町に暮らすようになっても
盆暮れになれば顔を会わせて一献交わす。
日々の暮らしの中で、お互い小さからぬ波を越えるたびに
話を聞いてもらったり、相手の話にうなずいたり、
いちばん縁の古い女友だちになっている。
このごろ膝が痛くなり、整骨院へ行ったら
水がたまっていると言われたという。
こちらも日々肩こりに腰痛に苦しんでいるから、
心持ちは子供の頃と変わらなくても
お互いしっかり歳をとってますなあとなさけない。
夏休みが終われば、娘ふたりの勉強にも追い込みがかかる。
ふたりとも高校時代はテニスをやっていて
それぞれりっぱな成績を残してきた。
そのパワーを勉強につなげて、
年明けの早春、晴ればれの笑顔にまた会いたい。  


かよちゃん

2011年08月16日

 へこりと at 17:39  | Comments(0)
葉月 六

久しぶりにかよちゃんに会った。
結婚をしていたときがある。
かよちゃんは、連れ合いだった人のお姉さんの子供で
会うのは六年ぶりのことだった。
離婚をしてからも毎年お盆になると、
亡くなったお義父さんの墓参りに出かけている。
今年もバイクに乗って信濃町までお参りに行く。
国道から緑の間の道を抜けていけば
飯綱山と黒姫山のむこうの空に威勢のいい
夏の雲がわきあがっている。
お義母さんがひとりで暮らす実家に
立ち寄らせてもらっていたら
かよちゃんがやってきた。
最後に会ったのは十歳のときだった。
しばらく見ぬ間に大きくなって、
かよちゃーん!と迎えれば
おどろいた顔をして、マジ~!という。
すっきり伸びた手足が陽に焼けて、
切れ長の目元涼しく、
すっかりきれいになっていてなつかしい。
顔をあわせれば、
おじちゃん、あそぼーとまとわりついてきたのが
ついこの間のことのようで、時間のたつのが早い。
今、農業高校の一年生だという。
夏休みになって、
今日はひとりでおばあちゃんの家まで遊びに来た。
農業高校だから、教室での授業のほかに、
野菜や果物を作ったり実習もある。
陽に焼けているのが合点がいった。
勉強はなにが得意なのと尋ねれば、
どれも苦手だと心細いことをいう。
おばあちゃんの家のまわりには、ひろびろ広い畑がある。
卒業したら、ここで野菜を作って売って
暮らせばいいねといえば、はははと笑う。
おばあちゃんの他愛もない話にも、
にこにこ相手をしているから、
そんな様子ひとつにも、心健やかに育ってきたとわかる。
仕事場の前を通る女の子を眺めたときに、
かよちゃんは元気にしてるかなあ。思い出すことがあった。
思いがけず会えたのは、天国から眺めていたお義父さんの
心配りかと手を合わせた。
帰り際、勉強がんばってねと声をかければ
う~ん、多分と、またまた心細い返事が返ってくる。
離婚した次の年の正月に、年賀状をもらったことがあった。
おじちゃん元気ですか。おじちゃんに会いたいです。
今も大事にとってある。



  


バリカン日和

2011年08月12日

 へこりと at 13:41  | Comments(4)
葉月 五

仕事のときにバリカンを使うことがある。
ナショナル製は性能がいい。
かちかち、刃の長さを調節して髪を刈る。
薬屋の旦那に旅館の若旦那。
蕎麦屋の御主人に、行き着けのバーのマスター。
飲み屋をやっている友だちに、巨人ファンの男の子。
訪ねてきてくれるたびに、きっちり髪を短くさせてもらう。
世話になっていた農協の貯金課の男の子が
とつぜん丸坊主にしてきて驚いたことがあった。
母校は松商学園で、野球をやっていた。
今年の松商はぜったい甲子園に行くとまわりに公言していたら
県の予選の準決勝で負けてしまった。
罰ゲームで頭を丸める羽目になったと苦笑いをうかべた。
きちんとした言葉使いや、家に上がるときに
他の人の靴もそろえる礼儀の好さは
野球部で学び育ったせいと合点がいった。
何年も前から髪は短くしていて、
同業の友だちに刈ってもらうこともあれば、自分でやるときもある。
自分の頭をバリカンで刈ると、ぬかりなくやったつもりでも
あとで一本刈り残しに気がついたりして情けない。
飲み仲間の蕎麦屋の旦那が彼女とけんかをした。
繰り返しけんかをしても、ほとぼりがさめれば
また仲良くくっ付いているから、今回もそういうものと思っていたら
このたびは、もう終わりにする。
もしまたよりを戻すようなことがあったら、頭を坊主にするという。
しばらくご無沙汰の日がつづき、
久しぶりに一杯やろうと蕎麦屋の暖簾をくぐった。
エビスの生を飲みながら旦那と話をしていたら
ぼそっと、明日、草津温泉まで行ってきますという。
ゆるんだ顔で話すから、聞かなくても誰と行くのかすぐにわかった。
より、戻ったね。こちらも思わずにやっとした。
充電をして、刃に油をさして準備完了。
夏だから短くするのもいいよねと、
草津から帰ってきた次の日、清々と丸坊主にしていさぎよい。





  


ちゃんと食べなさい

2011年08月11日

 へこりと at 17:27  | Comments(2)
葉月 四

このところ米を食べていない。
暑さで食欲がわかず、
枝豆、やっこ、トマトにきゅうり。
さっぱりしたものばかり食べている。
朝から陽射しのつよい休みの日。
暑さにかまけて、午前にところてんとかき氷のミルクを食べ、
昼に、ビールと冷や酒を飲みながら冷やし中華を食べ、
その帰り、長門屋さんで
ビールを飲みながらかき氷の宇治ミルクを食べ、
夜は枝豆とトマトをつまみにビールと冷や酒を酌んだ。
翌朝、みごとに腹がこわれた。
よりによって宴の予定が入っていた。
百草丸をよけいに飲んで、
ごきげんなおりますように。腹をさする。
夕方、焼き鳥 はな緒の暖簾をくぐれば
あいかわらず、仕事帰りのおじさんたちで混んでいる。
奥の入れ込みに腰を下ろし、まずはビールで乾杯をした。
焼き上がり、つぎつぎと運ばれてくる焼き鳥を
腹の具合を確かめながらほおばって、
食べきれぬ分は、向かいに座る、
大食漢のよういちろうさんの皿にのせる。
よういちろうさんは焼き鳥をたいらげたあと、
牛すじの煮込みをおかずにご飯を食べて、
ふたたび焼き鳥のおかわりを注文している。
夏バテしないために、
せめてこの半分の食欲が欲しいものと感心しながら
キムチをつまみにハイボールの杯をかさねた。
腹も満たされて、帰り道をゆっくり上っていけば
よういちろうさんは、縁あって知り合った人がいるという。
結婚を前提に付き合うべきか迷っているところだといい、
今月ひとつ歳をかさねたひとり身に
思案のしどころとなっているのだった。
大きくて丸い体で、美味しそうに料理を食べる旦那さんを見て
幸せな気持ちになってくれる、
そんな人が奥さんになってくれればなあ。
食べっぷりを思い出しそんなことを思う。
翌朝、腹の調子が元に戻ってくれて安心をする。
近所のおばさんが畑で採れたとトマトを持ってきてくれた。
トマトの皮は消化がよくないから、
良く噛んで、ビールで流し込まなければいけない。

  


祭りの日に

2011年08月07日

 へこりと at 12:04  | Comments(0)
葉月 三

祭りの日、仕事を一時間早く終いにして
友だち夫婦と町へくりだした。
踊りを見に行く人たちで、この日は町もにぎやかになる。
まずはのどをうるおして。
元屋の入れ込みに腰を下ろして
エビスの生で乾杯をした。
テレビでは今日から始まった甲子園の第三試合、
福島の聖光学院と宮崎の日南学園が、
追いつ追われつの好ゲームを展開している。
福島、応援しちゃうよなあと言えば、友だちの奥さんが
宮崎も口蹄疫や噴火があって大変だったから
応援しなくちゃといい、
ほんとにそのとおりとうなずいた。
奥さんは先日、嵐のコンサートを観に
北海道まで行ってきたという。
嵐、好きなの?そんなふうに見えないぞとおどろけば、
おれを残してひとりで行ったんだと友だちがこぼす。
奥さんだってたまには家を飛び出したい。
そういうときもあるのだとなぐさめた。
元屋の旦那さんがサービスで、きのこおろしと玉子焼きをだしてくれ
エビスをもう一杯おかわりをする。
お客さんがひっきりなしに入ってきて、
店もいそがしくなってきた。
アルバイトの信州大学の女の子がふたり、
明るい接客でお茶を運び、注文をとって伝えている。
眺めながら、この友だちとはこの祭りの日、
いくどかこうして飲みに出ていたなと思い出す。
他の友だち何人か交え飲んだのは、
まだ改装する前の、古い佇まいの今村蕎麦屋さんだった。
友だちが独身で、こちらに連れ合いがいたときに、
鶴賀の今はなき焼き鳥屋で一杯やって、
踊りを見てから、春海亭で日本酒に酔ったこともあった。
今は友だちにこうして連れ合いがいて、
こちらは男やもめになっている。
月日ながれて立場が変わっても、
かわらず旨い酒で交われる仲がありがたい。
小盛りの蕎麦で締めてから店を出れば、
ちょうど踊りの始まる時間となる。
明るい時間からの蕎麦屋の一杯は、
居酒屋とはまたちがった風情がある。
通りを下りながら踊りを眺め、
込み合う飲み屋で日本酒を酌み合った。
翌日、すっかり寝坊をして、
昨日も好く飲みました。
寝ぼけた頭で甚平と手ぬぐいを洗濯すれば
今日も朝から陽射しがつよい。

  


大鹿村騒動記

2011年08月04日

 へこりと at 11:54  | Comments(2)
葉月 二

長野県はたてに広い。
駒ヶ根より南へ行ったことがなく、
町や村の配置もよくわからない。
大鹿村騒動記を観に行ったのだった。
どのへんに位置するのか地図を見てみたら
駒ヶ根市の下どなりにあった。
三百年つづく、村の伝統芸能の歌舞伎公演の五日前、
花形役者の善さんのもとへ、
駆け落ちしていた妻の貴子と親友の治が戻ってきた。
貴子は脳みそをやられていて記憶をなくしている。
思いがけず面倒を看るはめになったり、
役者のひとりが事故で入院してしまったり、
リニア新幹線の開通で、役者同士のあいだにいさかいがあったり、
いろんな騒動が起こる。
原田芳雄に岸辺一徳、石橋蓮司に小野武彦。
親子で共演の佐藤浩一に三国連太郎。
ひとくせもふたくせもある俳優が、個性ある面々を演じている。
小倉一郎にいたっては、目にするのはいつ以来かとなつかしい。
車を見ればだれのものかすぐにわかったり、
話をすれば、次の日には村の大勢に伝わっていたり、
小さな古い町に暮らす身は、しばしば同じ場面を経験している。
暮らしている町の界隈にも、個性のつよいやからがそろい、
それぞれお互いちいさなわだかまりを抱えながら
同じ地域に住むものとしてつながりを保っている。
いくつかの騒動もこれまでにあって、
町の道路を拡張する話が出たときは、
賛成する人たちと反対する人たちが険悪な空気になった。
借金をこさえて、ある日とつぜん姿を消した未亡人や、
他人の奥さんとねんごろになって、
旦那にどなりこまれたご主人もいた。
妻と子供を残して若い女と駆け落ちをした団子屋のご主人は
今ごろどこでなにをしているのだろうか。
記憶がよみがえり、自責の念から死のうとした貴子を助けたすえ、
善さんは貴子と舞台を共演することとなる。
あだもうらみもこれまでこれまで。
最後の台詞が味わいのこる。
映画の最後に、塩辛の瓶を振りながら走ってくる
貴子役の大楠道代の笑顔が、少女のようでまことにかわいかった。
原田芳雄さんの遺作になった。

  


夕方に酌みながら

2011年08月01日

 へこりと at 15:19  | Comments(4)
葉月 一

飲み屋のいいだの御主人は音楽好きで
バンドを組んでいる。
カウンターで飲んでいたら、
バンドの仲間のじゅんじいがやって来たから
しばし一緒に酌み交わした。
じゅんじいはこの頃、甲斐バンドにはまっているといい
懐かしい。
高校生から二十歳半ばまで、ずいぶんと聞いていた。
CDが世に出る前のLP盤の頃から
新しいアルバムが出るたびに買っていた。
武道館のコンサートへ行ったことがある。
上の階の席で、一曲目から観客全員総立ちだったから
歌は聞こえてくるものの、姿がほとんど見えなかった。
土曜日、テンポ良く仕事をこなし、夕方切れよく終いにする。
明るいうちからの一杯がうれしゅうございますと
ビールの栓を抜く。
昼間にぎやかだったアブラ蝉の声が止んで
かなかなかなと蜩の鳴き声がひびいている。
蝉の一生はみじかい。
この間鳴き始めたと思っていたのに
路地のそこかしこに、なきがらを見つけるようになっていた。
グラスに氷を入れて麦焼酎を注ぐ。
酌みながら聞いていれば、蜩の鳴き声には
せつない涼やかさがある。
思い立ってパソコンを開いて、
久しぶりに甲斐バンドを聞いてみた。
ずいぶん前の曲とは思えないほど
音のひびきがあかぬけていて、あらためて好いなあと
グラスを揺らしながら曲にも酔いしれた。
二杯飲んで日本酒に切り替える。
宮城の新澤さん。
震災のあとに仕込まれたこの蔵の伯楽星は
澄んだ切れ味が洗練さを増していて、
鬼気迫るものがある。
人生終えるまでこの酒を愛したい。
ここへきて、雨の日がつづき、ほどよく風も吹いていて
夕方も過ごしやすい。
すこし寄り道をしていた。
その寄り道も、おそらくこの先二度と得ることのない
ひとときで、ありがたかったと振り返られるのは
気持ちに沿った流れで往けるようになったからかと思う。
ビールを飲みすぎて、枝豆を食べ過ぎて
お腹をこわしている間に
七月があっという間におわった。
夏もすぎてゆく。
八月を大事に往きたい。


















若い頃を思い出す・・