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蔵の方々と

2011年05月31日

 へこりと at 13:35  | Comments(2)
皐月 十三

毎日日本酒を酌んでいる。
仕事を終えて、陽の明るい夕方に
茶碗に酌んだ冷や酒をあおっったり。
穏やかな風に吹かれながら友だちと連れ立って
馴染みの店へ行き、一献酌み交わしたり。
緑の季節のひとときがなによりのぜいたくになる。
日々口にする旨き銘柄がどんな現場で造られているのかと
いくつか蔵に足を運んだことがある。
寒い季節、米を洗い、蒸し、もろみを寝かせて搾る。
睡眠時間もままならず、いくら好きでもとてもできない
お蔵さんの仕事の大変ぶりを、目にするたびに頭が下がった。
酒屋の峯村君が、取り引きをしている蔵の方々と
宴をやるという。
好意に甘えて席に交ぜさせていただいた。
この日集まった方々は、五つの蔵の杜氏さんや蔵人さんで
二十歳代から三十歳代とみな若い。
ぜんぜん畑ちがいの職場から、酒好きが高じて蔵に入った人や
修行を終えて実家に戻ってきた跡取り息子さんや
大きな蔵から小さな蔵に移り、今年から酒米作りに励む人もいる。
それぞれの蔵の酒を、銘柄を隠して利いてみた。
ふだんわかったつもりで酌んでいても、比べて飲むと迷いが出る。
どの味がどの銘柄か、造った本人たちも
これはなかなかむずかしいと、真剣な顔で自分の蔵の酒を選んでいる。
酌み交わすうち、少し温度が上がってくれば
それぞれの個性がわいてきた。
香りのはなやかな味に酸のあたりのつよい味、
きれいだけれどちょっと腰の弱い味に、後口に独特の余韻を残す味、
飲み飽きしない澄んだ味もあり、それぞれの蔵の
味のちがいがうかがえる。
最初はぱっとしなくても、年を重ねるごとに味わい深くなってくる。
峯村君の扱う銘柄に、味の流れのみちすじを眺めたこともあったから、
酒造りにたずさわる若き方々の、これからの成果も楽しみになるのだった。


  


銘仙

2011年05月29日

 へこりと at 17:43  | Comments(2)
皐月 十二

須坂へ出かけた。
クラシック美術館で、昭和の初めの銘仙の着物展が始まった。
もともと福島の郡山の美術館で行なわれていた。
今回の震災で休止を余儀なくされたのを
親交のあった縁で、引き継ぎたいと申し入れ
開かれたのだった。
クラシック美術館は、昔の大きな屋敷をそのまま使っている。
平日は訪れる人も少なく、せまい階段を二階へ上がれば
窓から静かな蔵造りの町並みが見える。
それぞれの部屋に飾られた着物を眺めまわす。
赤、青、緑、はなやかな色合いの中に、花や鳥、
馬車に城にテニスラケットなど、遊びごころのある柄が目を引いて
大きな戦争を始める前の、時代の軽やかな空気をしのばせる。
ふだん三百円の入場料が、このたびは無料になっていた。
その代わりに郡山への義捐金を募っていたから
こころばかり入れさせていただいた。
美術館を出て町を歩けば、小さな飲み屋のつづく小路がある。
老舗の味噌屋に酒屋に呉服屋があり、
栗中華の有名な和菓子屋もある。
古い蔵を店にして、雑貨や洋服を売っている若い人もいる。
通り端の酒蔵の前を歩けば、日本一小さい酒蔵と看板が出ている。
そのわりには、あちこちでおたくの銘柄を見かけるぞ。
もっと小さくて、もっと旨い酒を造るお蔵さんを知っているぞ。
おもわずつっこみそうになる。
煉瓦だたみの、ひと気のない小路を歩けば、小さな銭湯があった。
陽の明るい夕方にひと風呂浴びて、近所の飲み屋で一杯ひっかける。
このあたりのご隠居は、そんな毎日を過ごしているかとうらやましい。
ほどよくぶらぶらして少し早めの昼どきに、うまい具合にのどもかわいてくる。
旨い店と聞いていた、路地をまがってまがった先にある
あがれ家さんの暖簾をくぐる。
囲炉裏のすみに落ち着いて、ビールでのどをうるおせば、
本日も蕎麦屋の一杯がさっぱりと美味しい。



  


尾澤さんの酒の会

2011年05月25日

 へこりと at 14:08  | Comments(0)
皐月 十一

酒の会に出かけた。
信州新町の尾澤酒造場さんの、十九の新酒を酌む。
女性杜氏の美由紀さんの説明を聞きながら、
純米、純米吟醸、純米大吟醸、それぞれの味を利く。
米は地元の美山錦やひとごこちを使い、
今回初めてしらかば錦を使った酒もある。
使う酵母もさまざまで、自家培養のアルプスや
醸造試験場の開発した酵母に、
秋田で開発された花酵母も使っており、
ちいさな造りの中でいろんな試みをされたのだった。
どの酒も無濾過の原酒なのに、アルコール度が高くなく
きれいな旨みが飲み飽きしない。
十九という銘柄を立ち上げて、今季の造りで
八期目になるという。
そのころからずっと酵母の研究をしてきたといい、
長いあいだの努力が実り、このたびの十九は
どれを飲んでも洗練された味わいの感がある。
旨い旨いと調子に乗って、さしつさされつ盃を重ねていたら
酔いの波間に、みごとに記憶をうしなった。
十九は信濃町にある酒屋の峯村君が扱っている。
川の町で仕込まれた酒を、山の町の酒屋が売っている
良い酒を造りたい。試行錯誤で造りをつづける蔵元を
良い酒を売りたいと、見守りながら変わらぬ縁をつづけてきた。
お互いの思いと信頼関係がみちびいた、今度の十九の旨さと思う。
純米クラスばかりではなく、手ごろな価格の
本醸造や普通酒もいっそう美味しくなったという。
安い酒を楽しみに待つのも、ずいぶん久しぶりのことだった。

  


のんびりと休日を

2011年05月20日

 へこりと at 13:06  | Comments(0)
皐月 十

冬物をクリーニングに出した。
半纏三枚にセーター一枚にコートを一枚、
たたんで抱えて持ってゆく。
平日でも観光客で、朝の善光寺はにぎわっている。
青いジャージの中学生たちが、本堂の写生をしていた。
正面から描いている子、横から眺めて描いている子、
裏側から描いている女の子も二人いた。
鉛筆でこまめに下書きをする子もいれば、
早々に絵の具で色をのせている子もいる。
飽きてしまい、スケッチブックを置いたまま、
境内を徘徊している男の子たちもいる。
つばめ池を覗いていた小さな男の子が、
亀がたくさんいるよおっと、さけびながらおとうさんのもとへ
駆けてゆく。
ちいさなリュックにお守りをふたつみっつとぶら下げて、
はずむように歩くたび、お守りもそれに合わせてゆれている。
善光寺保育園の庭では、園児たちが走りまわり、
にぎやかな声のひびきに、子供は朝から元気がいい。
戻ってきて、冬のあいだ乗っていなかったバイクにまたがれば、
エンジンの調子が気にかかる。
信号で停まるたびに止まってしまうから、
そのままバイク屋まで持っていった。
古いガソリンがたまっているのかなあ。
りょうすけさんに直してもらい、
また調子がわるくなったら、キャブレターをきれいにしましょうと
見送られ、買い物ついでに町の中を走り回った。
昼すこし前に元屋さんにうかがえば、すでにお客でにぎわっていた。
すみのテーブル席で、にしんの棒焼きとこしあぶらのくるみ和えで
燗酒をたしなんでいたら、母娘の二人連れが入ってきた。
おかあさんは、足がわるくて杖をついている。
一階のテーブル席は満席で、二階へ上るのは難儀とわかる。
こちらへどうぞと席をゆずり、二階の座敷の窓ぎわに落ち着いて
盃のつづきをかさねた。
今日はほんとに天気が好い。
菅平の山並みが町のむこうによく見える。
席をゆずってくれたお礼にと、蕎麦屋の旦那が山菜の天ぷらを出してくれ、
いそがしいのに気を使ってと恐縮をした。
おばあさんと男の子が仲よく歩いてゆく。
外人さんの二人連れが、地図を見ながらきょろきょろと歩いてゆく。
窓の外を見下ろし眺めながら過ごし、
もりで腹を満たした。
良い加減に昼寝をしたら、夕方、権堂まで下りてゆく。
神社の横道を抜けたところで声をかけられた。
自転車に乗った女の子は、友だち家族の娘で、
おお、久しぶり~と挨拶をすれば、
そばかすの笑顔につられ、こっちもにこにこ気持ちがゆるむ。
またみんなでごはんを食べに行こう。
黒胡椒せんべい、注文したら持って行くね。
言葉を交わしてわかれた。
いい子だなあ。一日のおわり、笑顔の余韻があたたかい。
今日も一日良い日だったと、馴染みの飲み屋へむかった。

  


飛露喜を酌みながら

2011年05月19日

 へこりと at 15:27  | Comments(2)
皐月 九

蕎麦屋の旦那が訪ねてきた。
福島の地酒をもらったから、いっしょに酌もうという。
玉子焼きと刺身も肴に持ってきてくれたから
飲み仲間に料理人がいるのはまことにありがたい。
近所に住んでいる飲み屋の御主人もお誘いすれば
こちらはマリネに揚げ物を持ってきてくれて、
男三人の飲み会と相成った。
飛露喜の吟醸は、しなやかな旨みと含み香が
きれいに切れてゆく。
旨いねえといいながら、飲み飽きせずに盃をかさねた。
飲み屋の御主人は、権堂で営んできた店を
この五月で閉めることにした。
がんばってきたものの、このへんが潮時と見切りをつけた。
もうすこし上手いやり方があったのかもしれないが、
そのへんが不器用でと苦笑いをする。
お客相手の仕事はもう疲れたから、
今度は畑違いの仕事をしてみたいという。
そうだなあ、たちの好くない酔っ払いもいたからなあと、
自分のことは棚に上げてうなづいた。
蕎麦屋の若旦那は、最近付き合っている彼女と調子がいい。
以前はちょっとしたくい違いで、しょっちゅうけんかをしていた。
いちど大きなけんかをしたときに、携帯電話を折られたことがあった。
それ以来、会えば、携帯電話は無事ですかが
あいさつ代わりになっている。
届いたメールを見せてもらえば、
明日、待ってるね。とあって、まあ、仲のよろしいことで、
にやけた顔にしまりがない。
波風立てず、長々つづいていただきたい。
酔う間もなく盃がすすみ、飛露喜の一升瓶がきれいに空いた。
帰る御主人を見送って、
ふねを漕ぎ出した蕎麦屋の旦那を布団に突っ込んで、
洗い物を片付けてから、ひとり締めの酒を酌んだ。
気のおけない方々との縁が有り、しんとひとりのときが有り、
季節を眺めてこうして往けるのは、まあ、しあわせなことだと
夜のよなかの燗酒をなめていれば、
気持ちよさそうに、蕎麦屋の旦那のいびきが聞こえてきた。

  


みみず一風散

2011年05月17日

 へこりと at 12:54  | Comments(0)
皐月 八

五月の陽気の良さに上着が一枚いらなくなる頃
毎年きまって風邪をひく。
焼き肉屋でいつもの飲み仲間と酌み交わした。
旨いと評判の店で、
幹事のよういちろうさんが焼き肉奉行をつとめてくれるから、
ビールや焼酎を飲みながら、焼きあがったそばから
次から次へと口にほうりこむ。
こんな機会でもなければ焼き肉屋へ来ることもない。
よくばって腹いっぱいになり、もう一軒寄り道をして
酩酊して帰った次の朝、
今年も五月の風邪っぴきになったのだった。
たんまり栄養をつけた次の日に風邪をひくのもなさけないことで、
のどや関節の節々がいたくて体がだるい。
熱を計ってみたら、平熱よりもすこし高いくらいだったから
たかをくくっていたら
午後になってまぶたがあつくなってきて、
三十八度三分まで上がっていた。
仁王門前の小山薬局の若旦那にすすめられた
熱さましがあったと思い出し、
軽めの夕ごはんを済ませてから、ひと包み飲んで
早めに寝た。
翌朝、アラームがなる前に目覚めれば、
だるさもとれて、計らなくても熱の下がったのがわかる。
みみず一風散、よく効くなあと感心をした。
みみずは昔から漢方薬として、
風邪や熱さましに用いられてきたと書いてある。
そのみみずのエキスを原料に用いた薬なのだった。
もういちどひと包み飲んで寝たら、
次の日、風邪をひく前よりも肩や背中のはりがなくなっていて
すっかり体が軽くなって具合が良い。
愛用している友だちは、頭痛がすると飲むといっていた。
馴染みの食堂の御主人は、肩こりがひどくなると飲むといっていた。
身近なところで効き目の良さを聞いていたのに
今ごろになって実感しているようでは
付き合い長い薬屋の若旦那に、不義理だったと申しわけがない。
母に似て、子供の頃から体が固い身は、
たいした仕事もしていないくせに、週末になれば
肩がこって、頭痛が痛くなる。
常備しておけば、心配無用の安心感がありがたい。
道ばたでみみずを見つけても、粗末に扱わぬよう
よくよくこころがけたい。




  


拾い物 頂き物

2011年05月13日

 へこりと at 18:18  | Comments(4)
皐月 七

携帯電話を拾った。
親のご機嫌うかがいに、ときどき実家でひととき過ごす。
父と一献やったあと、歩いてすぐの道端に落ちていた。
交番までがすこし遠く、酔った足で届けるのもめんどうくさい。
もうしわけない。開いてキーを押してみた。
以前に使っていた物と同じメーカーだったから、扱いがわかる。
覗いてみたら男の人の持ち物で、
かわいいイルカのシールが貼ってあったから、
落とし主は中学生か高校生かとあたりをつけた。
自宅の電話番号にかけてみれば女の人が出た。
箱清水にて電話を拾いました。
城山公園のバス停の前にいます。
伝えてからしばらく待っていたら、
ありがとうございました。助かりましたとやって来て、
お礼にと紙袋をわたしてくれる。
たいしたことではないのにと恐縮して、帰宅してあけてみたら、
紫色の竹の模様の扇子がでてきて、
それこそセンスの好い頂き物がうれしい。
名刺もいっしょに入っていたから見てみれば、
なんのことはない。落とし主は顔なじみの、
この界隈の神社をつかさどっている宮司さんで、
苗字は知っていても下の名前を知らなかったから
携帯電話のプロフィールを見ても気がつかなかった。
扇子のお礼の電話をかけたら、バイクに乗っているときに、
ポケットから落としてしまったといい、
日ごろ、大きな体を丸めてスクーターに乗っている姿を
思い出した。
それにしても、氏神さんの春祭り、秋祭りの折に
威風堂々、太い声で祝詞を唱えるさまと、
かわいいイルカのシールではずいぶんと似つかわしくなく
おかしい。
晴れたり降ったり、はっきりしない天気の日、
近所の方が、おかあさんに差し上げてと
こごみをひと袋持ってきてくれた。
小雨の夕方届けに行って、ついでに父と一杯交わす。
さつま揚げの煮物で酌んでいれば
うらの田んぼから、蛙の声が響いてきた。
昔はうら手いちめんが田んぼだったから、
空にもとどく蛙のうたがにぎやかだった。
地主さんが、わずかな広さの田んぼをのこし売ってしまってから
新しい家が増え、前ほどのにぎやかさがなくなった。
それでも新緑のいきおいに目をみはり、
梅雨のちかさを蛙の声に気づき、
今年の季節のうつろいにも、かわりばえがある。
暑くなるときにむけて、思いがけず扇子を頂けたのは
ありがたいことだった。


  


休日に

2011年05月11日

 へこりと at 12:21  | Comments(2)
皐月 六

蕎麦屋さんで昼酒をたしなんだ。
馴染みの丸清さんへ行けば、
かわらず元気な笑顔のおかあさんが迎えてくれる。
山椒のつくだ煮をつまみにビールを飲めば
さっぱりとした辛さが口の中でここちいい。
震災の後、ずいぶんと客足が途絶えたものの
この連休は久しぶりのいそがしさで良かったという。
観光客の姿もまだ仲見世の通りに多い。
入れ代わり入ってくる人たちが蕎麦を食べ、カツ丼を食べ、
腹を満たして次の目的地の算段をしている。
いちばん奥のテーブルで、蕗味噌をつまみに燗酒を酌み、眺め、
ゆっくりひととき楽しんでもりで締めた。
ナノグラフィカで、朝比奈克文さんの個展をやっているから
寄り道をして覗いてみた。
店番をしているはやかさんがすっきり髪を短くして、
清々とした笑顔がきれいとみとれた。
白地に紺。カフェも兼ねた和室のギャラリーに
朝比奈さんの器がならぶ。
大ぶりの盃をひとつ、友だちへの贈りものに求めた。
左利き用の片口があって、湾曲した形がほどよく手に納まって、
晩酌に使うと決めて求めた。
折りよく以前お世話になった方とお会いして、
初めて会った方々も交え、しばし過ごさせてもらう。
上着を一枚脱いでもよいほど陽気がいい。
西長野の静かな小路を歩いていけば、
見上げた緑の映え具合も好く、誘われて坂道をのぼった。
町を見下ろしながら行くと、
うぐいすの声がひびき、りんごの木が白い花を咲かせている。
川のせせらぎを聞きながら、緑に囲まれた遊覧道路を歩く。
まあしあわせってもんでしょう。
そんなことを思いながら歩いた。
くねった道の下った先に、古い民家のカフェがある。
珈琲でいっぷくと行ったら、あいにくと閉まっていた。
店の名前は夏至という。
立夏を過ぎて、あとひと月もすれば夏至になる。
春の名残の花粉症がいまだつづいていることだけ
困りものになっている。


  


宮城の地酒

2011年05月07日

 へこりと at 12:03  | Comments(2)
皐月 五

ダンチュウの冒頭に、被災した宮城の酒蔵の記事が
載っていた。
石巻にある日高見さんは津波で家をなくされて
五百本以上の酒瓶が割れたという。
蔵元は避難所でひと晩過ごしてから、
小学生の長男を連れて、汚水の中を蔵まで戻った。
蔵を継ぐ長男に石巻の惨状を見せて語り継いでもらうのは、
地域とともにある蔵元の務めだという。
墨廼江さんは、津波が蔵の中まで押しよせた。
水が引き、泥に埋まった瓶を洗ってみると
出荷できる酒が以外に多くあったのが救いだという。
県内の同業者や取引先から支援物資が届けられ、
仕事に必要な道具を貸してくれると言ってくれる
同業者もいたという。
このたびはいろんな人に助けられました。
酒を造ることで恩返しがしたいという。
乾坤一さんは、三百年前に建てられた蔵が傾いて
倒壊寸前になってしまった。
タンク数本分の酒がだめになり、
蔵の建て替えも必要かもしれない。
ご先祖様から引き継いだ蔵を、自分の代でなくすのは
たまらない。
それでも跡を引き継いでくれる若い世代のいることが
心の支えで、六十歳になる蔵元は
五年で引退するつもりでしたが、大きな借金を抱えそうだから
十年はやめられないと豪快に笑ったという。
愛飲している伯楽星の蔵元も載っていた。
蔵の被害は甚大で、補強をしても使えない。
四万本近くの瓶が割れ、
未来が欠けてゆく気持ちになったという。
取引先から支援の物資が届き、
ボランティアの食事にまわせたり、他の県の蔵元から
造りに必要な道具が届けられて気持ちが切り替わった。
落ち込んで入られないと、被災してから十三日目から
仕事を再開した。
これからは蔵を新築するか移転するか、
どちらにしても大きなお金がかかる。
それでもお知り合いになり九年間、毎年の味の向上を
じかに感じてきた身には、
これからも一層のレベルアップをしたいとの言葉が
頼もしい。
これまで口にしたことのある、宮城の地酒を思い出せば
ひとつひとつ、どれも味にはずれがない。
被災した酒蔵も、より美味しくなって戻ってくるのは
まちがいない。
今夜は千酔さんで宮城の酒を酌むときめる。



一緒に飲みたいのお!


  


春と夏の間

2011年05月06日

 へこりと at 07:38  | Comments(0)
皐月 四

路地の掃除をしていたら、隣の家の旦那さんが出てきた。
おはようございますと挨拶をすれば、
神社の枯れ枝の始末を、植木屋さんに頼んだと話し出す。
旦那さんは区長をしているから、町のこまごましたことを
いろいろ心配しなくてはいけないから、たいへんなのだった。
あっというまに新緑になったねえ。
たかだか神社の緑を眺めながらおおらかな声で感心する。
ほんとうに。気がつけばほんとうにあっというまに
鮮やかな緑が空に映えている。
友だち夫婦が訪ねてきた。
この連休は、つづけざまにステーキを食べに出かけたり
松本で、新しく開店したイタリアンの店でピザを食べてきたり
手近なところで楽しんだという。
手土産に蕗をいただいた。
うす味の品のある味わいは、きれいな味の酒に合う。
作ってくれた方の故郷に合わせて、
福島の奈良萬を酌んだ。
ぬるめの燗にして酌んで、春の味を噛めば、
気持ちがゆっくりとほどけてくる。
おだやかなひとときが心地いい。
奈良萬といっしょに十九の特別純米を買った。
純米吟醸につづいての新酒の味を確かめたら
予想以上にきれいな味でたまげた。
たまげたいきおいで、旨いですと蔵元に電話をかけてしまったら
折りよく杜氏さんが出てくれた。
燗にしても旨いと伝えたら、実は燗冷ましも旨いと教えてくれる。
仕込にはアルプス酵母を使ったという。
酒造りを始めたときにお世話になった醸造研究所の先生と、
研究に研究を重ねて開発した、新しい酵母だという。
昨年、その先生がお亡くなりになってしまった。
それだけにこのお酒には思い入れがあるという。
あなたのお弟子さんはこんなに美味しい酒を造って
飲兵衛をしあわせにしてくれています。
会ったことのない天の人に、高々杯をささげたい。
春でもない夏でもない、五月は独立したひとつの季節と
言った人がいる。
新緑を眺め新酒を酌み、気持ちのざわつきを
腹の底になじませる。
そんな季節かと過ごしている。








  


栃木の酒ふたつ

2011年05月05日

 へこりと at 13:14  | Comments(0)
皐月 三

酒の会に出かけた。
食堂きらくさんで栃木の蔵元を招いて開くという。
あまたの酒を酌んできても、栃木の酒は馴染みがうすい。
これまでに三つほどの銘柄しか口にしたことがない。
飯沼銘醸さんは杉並木という名の酒を造っていて、
跡取りの息子さんが新しく 姿 という銘柄を立ち上げた。
名前の由来は地元にある姿見の池から取ったといい、
その姿を飲む会なのだった。
何種類も並べられた一升瓶を、とっかえひっかえして
味を利く。
姿は香りよく、旨みが濃い。それでいて切れがいい。
印象に残る酒を売りたかったから、
インパクトのある味にしましたと、招かれた息子さんがいう。
久しぶりの芳香旨酒の宴の席で、
テンポ好く杯を空けて見事に酔った。
次の日の朝、起きたら、台所に袋に入ったカップラーメンが五つと
バタピーが置いてあった。
帰り道、セブンイレブンで買ったらしいのに記憶にない。
バタピーもシーフードヌードルもふだん買ったためしがない。
なにゆえ買ったのか、記憶がぽっかり抜けている。
たまにしか食べることのないカップラーメンを五つも買って、
買占めをしたような後ろめたい気持ちになった。
ふたたび栃木の酒を酌んだ。
須坂の酒屋の新崎さんが、 大那 を扱い始めたという。
特別純米を配達してもらい酌んでみたら、
こちらは香りが控えめの、なだらかな幅のある味わいで、
燗にして旨みも増す。
造り手によって、同じところの酒でも全然味がちがうから
おもしろい。
姿や大那も含めて、この頃は酒造りに携わる若い人が
増えている。
縁あってお会いできた方々は、皆さん腰低く
造りに対する思いをせつせつと語られる。
じっさい口にしてみれば、味の濃淡いろいろあれど、
共通していえるのは、変な香りや雑味のないことで、
あたりまえのようにこういう酒で日々の疲れを癒せるのは
ありがたいことなのだった。
ありがたいと言いながら、たいてい杯を重ねすぎているから
始末がわるい。
燗酒の、温め加減を少しゆるくしてちょうどいい。
そんな陽気になってきた。

  


近所の肉屋さん

2011年05月04日

 へこりと at 17:38  | Comments(2)
皐月 二

連休になり、善光寺にも朝からたくさんの人が
訪れている。
仕事場から出たおもての通りも一日中
車が渋滞している。
町が混むのは、観光シーズンのいっときだけで、
ふだんといえば、朝の通勤通学の時間を過ぎれば
ぱたっと人の姿がとだえる。
大きなスーパーマーケットやホームセンターが
あちこちに出来る前、町内にスーパーマーケットがあった。
夕方になれば近所の人たちが、入り口の赤いかごをぶらさげて
買い物をしていて毎日賑わっていた。
安くて品揃えの豊富な大手のスーパーマーケットが出来てから
客足が落ちて、いつのことか思い出せないほど前に
店がなくなって、その場所は、今は更地の駐車場になっている。
ぽつぽつと通りに並んでいた個人の店もなくなって、
ずいぶん町が静かになってしまったものの、
今でも変わらず商いをつづけている店もある。
町内にある肉屋さんは御兄弟で営んでいた。
いちばん目と二ばん目のお兄さんが亡くなって
今はいちばん下の弟さんが社長になって身内の方々と
切り盛りをしている。
魚に豆腐に野菜に菓子にカップラーメンに缶詰と、
ひととおりのものは揃っているから、
近所の方々の暮らしのより処になっているのだった。
トンカツ、コロッケ、エビフライにから揚げに、
ピーマンの肉詰めに串物など、揚げ物の種類が多い。
夕方ぶらりと行ってお願いすれば、
すぐに揚げたてを食べられる。
ときどき女子高生がコロッケをかじりながら歩いてゆく。
育ち盛りの身は、夕ご飯まで間が持たない。
帰り道、揚げたてのホクホクで腹を満たせるのは
なによりのことだった。
花見の宴に招かれたときは、クリームコロッケを
二十個持っていった。
一個四十九円だから、それだけ買っても千円でお釣りがくる。
見た目のボリュームのわりに手軽に帰る気楽さは、
手土産にありがたい。
ひじきに卯の花、マリネに白和えに具の多い餃子、
おかずのたぐいも品揃えがある。
いちばんの気に入りは、かくし味の酢の効いたポテトサラダで
カツやコロッケの添え物にもなるから具合が好い。
肉屋さんは毎月1の付く日が休みになる。
31日だけは休まずに営業をする。
この頃第四日曜日も休みと決めて休日が増えた。
毎日いそがしくしているから、ひと息つける日が増えたのは
よろこばしい。
体に無理かけず、界隈の人たちのため、
長々の商いを願いたい。



  


テレビの方々と

2011年05月01日

 へこりと at 12:18  | Comments(6)
皐月 一

桜の季節があっというまに終わった。
葉桜になった神社の木々で、うぐいすが
ぴょうぴょうとなごりの声をひびかせている。
馴染みのおでん屋の女将さんから電話があった。
おでん屋は、さびれた鶴賀の通りの
わきに入ったところにある。
今晩、テレビの収録があるという。
さくらになってくれというから
そうだよね、テレビに映えるいい男が必要だよねと
ふたつ返事で引き受けた。
夕方、雨の中を出かけていくと、
テレビ局の人たちが撮影の準備をしていた。
隠れ家のような飲み屋の特集をやることになり
その一軒に選ばれたのだった。
近頃は大手のチェーン店ばかりが多くなりあじけない。
個人の方が営んでいる、味のある店を
もっと知っていただきたいとテレビ局の人がいう。
ビールを飲みながら撮影が始まるのを待っていれば
見覚えのある男性アナウンサーが入ってきて
折りよくいつもの常連さんもやってきた。
番組のスポンサーが酒造会社だから、
ビールや焼酎のボトルは映らないようにしないといけない。
一番搾りを飲み干して、熱燗にきりかえて始まった。
カウンターに座ったアナウンサーが、おでんを頼み、
熱燗を飲みながら、店の成り立ちや思い入れについて
女将さんに尋ねている。
台本もなく、たいした打ち合わせもしていないのに
すらすらと台詞が出るさまは、さすがプロと感心をした。
熱燗に気持ちもゆるくなれば、
カメラを向けられる緊張感もほどけてくる。
常連さんのいつものにくまれ口もとびだして、
女将さんもにこにことやりかえす。
無事撮影が済んでから、そのままみんなで
一献酌み交わす。
アナウンサーの方とさしつさされつ話をすれば、
日本酒が大好きなのだという。
言われてみれば、けっこうな量を飲んでいるのに
すこしも酔っているように見えない。
出身が石川県の松任市だと聞いて合点がいく。
松任には菊姫に萬歳楽、石川を代表する銘酒の蔵がある。
そんなところで生まれ育ったのでは、
酒を好きにならないわけにはいかない。
おでん屋では月に一回日本酒の会をやっている。
今度ぜひご一緒にとお誘いした。