休日に
文月 12
休日、朝から暑さにいきおいがある。
町をひとまわり走りに出たら、
会社へ向かうかたがたとすれちがう。
暑くても、背広を着たりネクタイをしめたり、
勤め人は大変と眺めながら行く。
丹波島橋の上からはるかに北アルプスが見える。
裾花小学校の校舎から、子供たちの元気な声が聞こえ、
ここはまだ、これから夏休みとわかる。
一時間ゆっくり走ってくれば、
昨日のアルコールもすっかり汗になっている。
シャワーを浴びてさっぱりしたら、
さっそくの黒ラベルが旨い。
懐ぐあいのさびしい月末は、近所でおとなしくときめて、
蕎麦屋の元屋の暖簾をくぐる。
11時、開店早々の店内には、すでに観光客の姿があった。
入り口わきの入れ込みに落ち着いて、黒ラベルの生を頼む。
茄子の煮びたしと枝豆で二杯。
そのあとに燗酒に切りかえる。どんなに暑い日でも、
燗酒のやわらかい旨みは、体がほっとする。
漬け物ときのこおろしで二本。
もりを食べてから、蕎麦湯を飲みながらもう一本。
昼寝にちょうど好い、酔い加減になった。
目覚めたら、ふたたび黒ラベルの栓を抜き、
納豆とキムチを混ぜて、晩酌のつまみにする。
納豆好きの友だちから、混ぜると旨いと教わったのだった。
前日、おそい誕生日祝いをいただいた。
四月生まれだからと、
桜の模様のガラスの盃と片口をいただいた。
相馬佳織さんの作品で、
以前、おなじく桜の模様のグラスを買ったことがある。
好みに合った贈り物に感謝した。
蒸し暑さの残る空に、じいじいと蝉の声がひびく。
諏訪の本金を注いで、盃をかたむけた。
夏休みになって、学校帰りの子供たちの、
にぎやかな声も聞こえない。
しずかな休日の、夕方のひとときなのだった。

休日、朝から暑さにいきおいがある。
町をひとまわり走りに出たら、
会社へ向かうかたがたとすれちがう。
暑くても、背広を着たりネクタイをしめたり、
勤め人は大変と眺めながら行く。
丹波島橋の上からはるかに北アルプスが見える。
裾花小学校の校舎から、子供たちの元気な声が聞こえ、
ここはまだ、これから夏休みとわかる。
一時間ゆっくり走ってくれば、
昨日のアルコールもすっかり汗になっている。
シャワーを浴びてさっぱりしたら、
さっそくの黒ラベルが旨い。
懐ぐあいのさびしい月末は、近所でおとなしくときめて、
蕎麦屋の元屋の暖簾をくぐる。
11時、開店早々の店内には、すでに観光客の姿があった。
入り口わきの入れ込みに落ち着いて、黒ラベルの生を頼む。
茄子の煮びたしと枝豆で二杯。
そのあとに燗酒に切りかえる。どんなに暑い日でも、
燗酒のやわらかい旨みは、体がほっとする。
漬け物ときのこおろしで二本。
もりを食べてから、蕎麦湯を飲みながらもう一本。
昼寝にちょうど好い、酔い加減になった。
目覚めたら、ふたたび黒ラベルの栓を抜き、
納豆とキムチを混ぜて、晩酌のつまみにする。
納豆好きの友だちから、混ぜると旨いと教わったのだった。
前日、おそい誕生日祝いをいただいた。
四月生まれだからと、
桜の模様のガラスの盃と片口をいただいた。
相馬佳織さんの作品で、
以前、おなじく桜の模様のグラスを買ったことがある。
好みに合った贈り物に感謝した。
蒸し暑さの残る空に、じいじいと蝉の声がひびく。
諏訪の本金を注いで、盃をかたむけた。
夏休みになって、学校帰りの子供たちの、
にぎやかな声も聞こえない。
しずかな休日の、夕方のひとときなのだった。
上田わっしょいへ
文月 11
上田の町が気に入りで、ときどき出かける。
先週の祇園祭につづいて、上田わっしょいに出かけた。
駅を出たら、ちょうど始まったところで、
通りを埋めつくした、そろいの法被やTシャツ姿の人たちが踊りだす。
すいすい進みながら、
右手、左手、両手をあげてわっしょいわっしょい。
初めて目にする踊りは、わかりやすい振り付けで好い。
駅前では、上田原陣太鼓の子供たちが、
勇ましく太鼓をたたいている。
真剣な面持ちで腰を落として、健気な音が腹にひびく。
職場の有志に、飲み屋の常連、クラスの仲間の子供たち。
いろいろな連が目の前をすぎていく。
とおく武石地区から参加している子供たちもいて、
えらいなあと見送った。
友だち夫婦と落ち合って、一献の場を求めてわき道へそれれば、
祭りの夜は、どこの飲み屋もいそがしい。
花壱は貸しきりで、たつみ寿司は予約のお客のみ。
田田は満席で入れず、小路をさまよい歩く。
ちいさくてふるい店がいくつも並び、怪しいネオンの一角もある。
上田の夜、袋町界隈は、なんとも心惹かれてしまうのだった。
田吾作を覗いたら、折よく三人分空いていて、ようやくおちつく。
カウンター越しの冷蔵庫を眺めれば、
いまどきの銘酒居酒屋ではおめにかからない、
なつかしい銘柄が並ぶ。
焼き鳥と出汁巻きたまごとキャベツ揚げをつまみに、
鶴齢と一の蔵と浦霞と土佐鶴と景虎を酌み干した。
祭りの夜をひとときすごせば、
やっぱり、上田は好い町だなあと思ったのだった。
次の朝、上田の知り合いからメールが来た。
大工町のいっ平、従兄弟がやってます。
良かったら出かけてください。
行きますとも、行きますとも。
こじんまりと奥ゆきのある風情に、また浸りたいのだった。

上田の町が気に入りで、ときどき出かける。
先週の祇園祭につづいて、上田わっしょいに出かけた。
駅を出たら、ちょうど始まったところで、
通りを埋めつくした、そろいの法被やTシャツ姿の人たちが踊りだす。
すいすい進みながら、
右手、左手、両手をあげてわっしょいわっしょい。
初めて目にする踊りは、わかりやすい振り付けで好い。
駅前では、上田原陣太鼓の子供たちが、
勇ましく太鼓をたたいている。
真剣な面持ちで腰を落として、健気な音が腹にひびく。
職場の有志に、飲み屋の常連、クラスの仲間の子供たち。
いろいろな連が目の前をすぎていく。
とおく武石地区から参加している子供たちもいて、
えらいなあと見送った。
友だち夫婦と落ち合って、一献の場を求めてわき道へそれれば、
祭りの夜は、どこの飲み屋もいそがしい。
花壱は貸しきりで、たつみ寿司は予約のお客のみ。
田田は満席で入れず、小路をさまよい歩く。
ちいさくてふるい店がいくつも並び、怪しいネオンの一角もある。
上田の夜、袋町界隈は、なんとも心惹かれてしまうのだった。
田吾作を覗いたら、折よく三人分空いていて、ようやくおちつく。
カウンター越しの冷蔵庫を眺めれば、
いまどきの銘酒居酒屋ではおめにかからない、
なつかしい銘柄が並ぶ。
焼き鳥と出汁巻きたまごとキャベツ揚げをつまみに、
鶴齢と一の蔵と浦霞と土佐鶴と景虎を酌み干した。
祭りの夜をひとときすごせば、
やっぱり、上田は好い町だなあと思ったのだった。
次の朝、上田の知り合いからメールが来た。
大工町のいっ平、従兄弟がやってます。
良かったら出かけてください。
行きますとも、行きますとも。
こじんまりと奥ゆきのある風情に、また浸りたいのだった。
夏本番に
文月 10
城山公園の信濃美術館へ出かけた。
梅雨が明けて、暑さのいきおいが増した。
坂道をすこし歩いただけで汗ばんでくるのだった。
城山小学校のプールにたっぷりと水が張られ、飛び込みたくなる。
グラウンドでは、ユニフォーム姿の男の子が、
おとうさんの打ったボールに飛びついて、
炎天下の中、子供は元気がいい。
美術館では、経営学者として名高い、
ピーター・ドラッカーの収集した、水墨画展をやっているのだった。
親日家で、日本に来るたびに集めた作品は、
効いた覚えのあるかたのものから、
作者不詳のものまで数が多い。
大学生だったころ、一年間、ドラッカーを学んだ。
身の入らない経営学よりも、水墨画のどこに魅かれたかのほうが、
よほど興味があると、無駄に過ごした若いときを思いだした。
そのままとなりの東山魁夷館へ行き、
東山魁夷と杉山寧と高山辰夫の、日展三山展を観る。
杉山寧と高山辰夫の作品を目にするのは、
初めてのことだったから、好いときを持てた。
美術館の静かな気配が好きだから、
近所に在るのはありがたいことだった。
美術館の前では、噴水がたかだか涼を誘っている。
木陰では、お年寄りや男の子が、ベンチに座って休んでいる。
善光寺にも、家族連れや団体の、観光客が増えてきた。
今朝実家へ出かけたら、目の前の田んぼに、
稲が青々と成っていた。
陽射しのつよさに、里山や界隈の緑もめりはりが出て、
雨が降れば艶やかに冴える。
青天の日は、菅平の空に、おおきな入道雲が湧き、
目にする景色も、色合いがゆたかになるのだった。
神社の木々から蝉の鳴き声が聞こえるようになり、、
鳥の声とあいまって、路地に静かにひびいている。
小学校も夏休みに入るという。
城山小学校から、
子供たちの歌声やお昼の放送が聞こえなくなるのは、
ちょっとさみしいか。
夏本番と、まわりのあちこちで感じられるのだった。

城山公園の信濃美術館へ出かけた。
梅雨が明けて、暑さのいきおいが増した。
坂道をすこし歩いただけで汗ばんでくるのだった。
城山小学校のプールにたっぷりと水が張られ、飛び込みたくなる。
グラウンドでは、ユニフォーム姿の男の子が、
おとうさんの打ったボールに飛びついて、
炎天下の中、子供は元気がいい。
美術館では、経営学者として名高い、
ピーター・ドラッカーの収集した、水墨画展をやっているのだった。
親日家で、日本に来るたびに集めた作品は、
効いた覚えのあるかたのものから、
作者不詳のものまで数が多い。
大学生だったころ、一年間、ドラッカーを学んだ。
身の入らない経営学よりも、水墨画のどこに魅かれたかのほうが、
よほど興味があると、無駄に過ごした若いときを思いだした。
そのままとなりの東山魁夷館へ行き、
東山魁夷と杉山寧と高山辰夫の、日展三山展を観る。
杉山寧と高山辰夫の作品を目にするのは、
初めてのことだったから、好いときを持てた。
美術館の静かな気配が好きだから、
近所に在るのはありがたいことだった。
美術館の前では、噴水がたかだか涼を誘っている。
木陰では、お年寄りや男の子が、ベンチに座って休んでいる。
善光寺にも、家族連れや団体の、観光客が増えてきた。
今朝実家へ出かけたら、目の前の田んぼに、
稲が青々と成っていた。
陽射しのつよさに、里山や界隈の緑もめりはりが出て、
雨が降れば艶やかに冴える。
青天の日は、菅平の空に、おおきな入道雲が湧き、
目にする景色も、色合いがゆたかになるのだった。
神社の木々から蝉の鳴き声が聞こえるようになり、、
鳥の声とあいまって、路地に静かにひびいている。
小学校も夏休みに入るという。
城山小学校から、
子供たちの歌声やお昼の放送が聞こえなくなるのは、
ちょっとさみしいか。
夏本番と、まわりのあちこちで感じられるのだった。
北信濃のお蔵さんと
文月 9
毎日日本酒を酌んでいる。
ありがたいのは、
ときどき、造り手さんと一緒のときを過ごせることだった。
飯山で北光正宗を醸す、角口酒造店の蔵元が来てくれた。
昼酒のひとときをと、蕎麦屋の元屋の暖簾をくぐる。
元屋の酒は、木曽の七笑の普通酒で、
店長の、気遣いのつまみをいただきながら酌み交わせば、
七笑、久しぶりに飲んだけど旨いですねという。
こういう、何気なくするする飲める酒が良いといい、
たしかに、北光正宗の普通酒も、そんな味と思いだす。
ところがその普通酒の売れ行きが、毎年減っているという。
安い普通酒が売れるのは、もっぱら地元だけ。
愛飲者のおじいさんが亡くなるたびに、
買い手が減ってしまうのだった。
北陸新幹線が開通しても、あいかわらず、
町の景気はパッとしない。
観光客が来て、飲み屋が潤うわけでもないから、
そちらも見込みが立たないという。
以前結婚していたときに、
飯山に、連れ合いの親戚が在った。
お盆のたびに出かけていて、
小菅神社の入り口から、ひろい空を眺めたり、
国道沿いの高台から、ゆうゆう流れる千曲川を眺めたり、
お蔵のある戸狩地区も、道沿いの緑がまぶしかった。
それ以来、気が向けば、
飯山めぐりに足を運んでいるのだった。
飯山、好いところなのにねえとため息が出た。
地元での売り上げが見込めない中、
都市圏に販路を求めているといい、
県外の酒販店や、
お蔵さんとのかかわりで視野を広げることが、
あか抜けた酒質につながるというのだった。
でも、こういう旨い普通酒も好いもので、
さんざん上等な酒を飲みつくしたのち、
最後は普通酒に落ちつくというのがいいのですという。
すべてを知って普通に帰る、それはなかなか粋ですなあ。
うなずいて、お銚子8本空にしたのだった。

毎日日本酒を酌んでいる。
ありがたいのは、
ときどき、造り手さんと一緒のときを過ごせることだった。
飯山で北光正宗を醸す、角口酒造店の蔵元が来てくれた。
昼酒のひとときをと、蕎麦屋の元屋の暖簾をくぐる。
元屋の酒は、木曽の七笑の普通酒で、
店長の、気遣いのつまみをいただきながら酌み交わせば、
七笑、久しぶりに飲んだけど旨いですねという。
こういう、何気なくするする飲める酒が良いといい、
たしかに、北光正宗の普通酒も、そんな味と思いだす。
ところがその普通酒の売れ行きが、毎年減っているという。
安い普通酒が売れるのは、もっぱら地元だけ。
愛飲者のおじいさんが亡くなるたびに、
買い手が減ってしまうのだった。
北陸新幹線が開通しても、あいかわらず、
町の景気はパッとしない。
観光客が来て、飲み屋が潤うわけでもないから、
そちらも見込みが立たないという。
以前結婚していたときに、
飯山に、連れ合いの親戚が在った。
お盆のたびに出かけていて、
小菅神社の入り口から、ひろい空を眺めたり、
国道沿いの高台から、ゆうゆう流れる千曲川を眺めたり、
お蔵のある戸狩地区も、道沿いの緑がまぶしかった。
それ以来、気が向けば、
飯山めぐりに足を運んでいるのだった。
飯山、好いところなのにねえとため息が出た。
地元での売り上げが見込めない中、
都市圏に販路を求めているといい、
県外の酒販店や、
お蔵さんとのかかわりで視野を広げることが、
あか抜けた酒質につながるというのだった。
でも、こういう旨い普通酒も好いもので、
さんざん上等な酒を飲みつくしたのち、
最後は普通酒に落ちつくというのがいいのですという。
すべてを知って普通に帰る、それはなかなか粋ですなあ。
うなずいて、お銚子8本空にしたのだった。
須坂の花火
文月 8
日曜日の夕方、飲み仲間のかたがたと須坂へ出かけた。
花火を眺めに行ったのだった。
駅を出てしばらく行くと、昨年廃業した、
酒蔵の松葉屋さんがある。
趣きのある、白壁づくりの蔵はこわされて、
すっかりさら地になっていた。
蔵の酵母もなくなっちゃたんだあ。
酒豪の女性が名残惜しそうにつぶやいた。
須坂高校の入り口のすぐ先に、「十九」という飲み屋がある。
須坂出身の、馴染みの飲み屋の御主人に、
須坂で飲むならお勧めですと、教えてもらったのだった。
小上がりに落ちつけば、壁一面に、
酒と肴のたんざくが貼ってある。
「十九」という店なのに、信州新町の銘酒、十九は、
あいにく、ない。
お通しのやっこは、ジュレの出汁が効いていて旨い。
サラダとなんこつのから揚げと赤ウインナーと厚揚げで、
生ビール一杯に、日本酒二本。
ほどよく腹を満たして、百々川の河川敷に行った。
土手には、屋台がこじんまりと4台ならんでいて、
いかにも小さな町の花火大会っぽい。
ビールを買って、芝生に座って夜空を見上げれば、
間近でつぎつぎと花火がひろがる。
花火好きの友だちがいて、この時期になると、
遠くちかく、あちこちの花火へ出かけている。
長岡、大曲、片貝、りっぱな花火を知っている友だちが、
須坂の花火にも毎年来ていて、
今夜もどこかで写真を撮っている。なるほどなあと、
めりはり効いた迫力ある咲き模様に見惚れたのだった。
ところがまあ、ひときわおおきな花が咲いたあと、
まわりのかたがたが帰り支度を始めて、
えっ?もうおわりなの?ととまどった。
缶ビール一本飲み干せず、
笑えるくらい、短期集中花火なのだった。
盛りを過ぎたちいさな町では、一時間に満たない花火でも、
精いっぱいなのかもしれない。それでも、
上がるたびに、歓声と拍手が沸き上がる仕掛けぶりには、
花火師さんの心意気もうかがえた。
十九で一杯ひっかけて、花火。
気に入りの須坂の町に、楽しみが増えたのだった。

日曜日の夕方、飲み仲間のかたがたと須坂へ出かけた。
花火を眺めに行ったのだった。
駅を出てしばらく行くと、昨年廃業した、
酒蔵の松葉屋さんがある。
趣きのある、白壁づくりの蔵はこわされて、
すっかりさら地になっていた。
蔵の酵母もなくなっちゃたんだあ。
酒豪の女性が名残惜しそうにつぶやいた。
須坂高校の入り口のすぐ先に、「十九」という飲み屋がある。
須坂出身の、馴染みの飲み屋の御主人に、
須坂で飲むならお勧めですと、教えてもらったのだった。
小上がりに落ちつけば、壁一面に、
酒と肴のたんざくが貼ってある。
「十九」という店なのに、信州新町の銘酒、十九は、
あいにく、ない。
お通しのやっこは、ジュレの出汁が効いていて旨い。
サラダとなんこつのから揚げと赤ウインナーと厚揚げで、
生ビール一杯に、日本酒二本。
ほどよく腹を満たして、百々川の河川敷に行った。
土手には、屋台がこじんまりと4台ならんでいて、
いかにも小さな町の花火大会っぽい。
ビールを買って、芝生に座って夜空を見上げれば、
間近でつぎつぎと花火がひろがる。
花火好きの友だちがいて、この時期になると、
遠くちかく、あちこちの花火へ出かけている。
長岡、大曲、片貝、りっぱな花火を知っている友だちが、
須坂の花火にも毎年来ていて、
今夜もどこかで写真を撮っている。なるほどなあと、
めりはり効いた迫力ある咲き模様に見惚れたのだった。
ところがまあ、ひときわおおきな花が咲いたあと、
まわりのかたがたが帰り支度を始めて、
えっ?もうおわりなの?ととまどった。
缶ビール一本飲み干せず、
笑えるくらい、短期集中花火なのだった。
盛りを過ぎたちいさな町では、一時間に満たない花火でも、
精いっぱいなのかもしれない。それでも、
上がるたびに、歓声と拍手が沸き上がる仕掛けぶりには、
花火師さんの心意気もうかがえた。
十九で一杯ひっかけて、花火。
気に入りの須坂の町に、楽しみが増えたのだった。
上田、祇園祭
文月 7
夏になるとあちこちの町で、疫病退散の祇園祭が行われる。
先日、善光寺門前、弥栄神社の祇園祭が行われた。
神様の代わりの、馬にまたがった子供に従って、
おおきな屋台が神社へと向かう。
屋台の上には美しい踊り手さんが鎮座して、
道中の会所に着くたびに、踊りを披露するのだった。
昔はどこの町にも屋台があったのに、
維持管理にお金がかかると、持っている町も少なくなった。
このたびは4台の屋台が巡行した。
付き添って歩くかたの中にはお年寄りも多い。
ひとまわりして帰ってくるころには、
みなさん、平家の落ち武者のように疲れ果てているのだった。
友だち夫婦と、上田の祇園祭へ出かけた。
上田に暮らす知人と待ち合わせて、
ひろい通りを上っていけば、ちっちゃな女の子が、
金魚すくいの金魚を手に入れて、うれしそうにしている。
上田の祇園祭は、それぞれの町が神輿を繰りだして、
町をねり歩く。
威勢よく担がれてきた神輿を見上げれば、
どの町の神輿もたいそうりっぱで、町の誇りが見てとれる。
松尾町に海野町、川辺町に大手町、
つぎつぎと神輿がすぎていく。上田の神輿はお江戸調。
そいやそいやと小気味のいいテンポで、
こまかく足を運んでいく。
担ぎ手の中に女性が多いのも目を引いて、
きっちり髪を結い上げて、
ほそい鉢巻の横顔が、どなたも美しい。
歩道には屋台が連なって、浴衣姿の子供たちが、
からあげやチョコバナナを買っている。
混みあう通りをわたって小路に入れば、
赤い法被の兄さんがたが、いっぷくしていた。
明日はみんな、肩が痛いだろうなあと眺めた。
知人の馴染みの、たつみ寿司さんにおちついて、
今宵の宴となった。
来週は上田わっしょいで、月が替わってすぐに花火大会。
そのあとには、美味だれ焼き鳥の宴も控えていて、
ちいさな城下町の夏が盛りあがる。
小路にも、にぎやかに神輿がやって来て、
杯もますますすすんだのだった。

夏になるとあちこちの町で、疫病退散の祇園祭が行われる。
先日、善光寺門前、弥栄神社の祇園祭が行われた。
神様の代わりの、馬にまたがった子供に従って、
おおきな屋台が神社へと向かう。
屋台の上には美しい踊り手さんが鎮座して、
道中の会所に着くたびに、踊りを披露するのだった。
昔はどこの町にも屋台があったのに、
維持管理にお金がかかると、持っている町も少なくなった。
このたびは4台の屋台が巡行した。
付き添って歩くかたの中にはお年寄りも多い。
ひとまわりして帰ってくるころには、
みなさん、平家の落ち武者のように疲れ果てているのだった。
友だち夫婦と、上田の祇園祭へ出かけた。
上田に暮らす知人と待ち合わせて、
ひろい通りを上っていけば、ちっちゃな女の子が、
金魚すくいの金魚を手に入れて、うれしそうにしている。
上田の祇園祭は、それぞれの町が神輿を繰りだして、
町をねり歩く。
威勢よく担がれてきた神輿を見上げれば、
どの町の神輿もたいそうりっぱで、町の誇りが見てとれる。
松尾町に海野町、川辺町に大手町、
つぎつぎと神輿がすぎていく。上田の神輿はお江戸調。
そいやそいやと小気味のいいテンポで、
こまかく足を運んでいく。
担ぎ手の中に女性が多いのも目を引いて、
きっちり髪を結い上げて、
ほそい鉢巻の横顔が、どなたも美しい。
歩道には屋台が連なって、浴衣姿の子供たちが、
からあげやチョコバナナを買っている。
混みあう通りをわたって小路に入れば、
赤い法被の兄さんがたが、いっぷくしていた。
明日はみんな、肩が痛いだろうなあと眺めた。
知人の馴染みの、たつみ寿司さんにおちついて、
今宵の宴となった。
来週は上田わっしょいで、月が替わってすぐに花火大会。
そのあとには、美味だれ焼き鳥の宴も控えていて、
ちいさな城下町の夏が盛りあがる。
小路にも、にぎやかに神輿がやって来て、
杯もますますすすんだのだった。
還暦祝い
文月 6
連日暑い日がつづく。
あっけらかんと30度を超えて、
夕方のビールが待ち遠しい。
春、ひとつ歳をかさねた折りに、飲み仲間のかたに、
枝豆を簡単にゆでられる器と、きめ細かい泡のビールを注げる、
信楽焼きの注ぎ口を頂いた。
飲兵衛のツボを押さえたプレゼントは、
毎晩重宝しているのだった。
祝い事に疎い家庭に育ったから、
子供のころに、誕生日を祝ってもらった記憶がない。
母は仕事にいそがしく、父は飲み屋通いにいそがしく、
6歳上の兄はバイトに明け暮れて、
こちらも気にせずすごしていた。
むしろこの頃になり、
年下の飲み仲間のかたがたに毎年祝っていただくようになり、
こそばゆく、ありがたい気分なのだった。
今月、60歳の誕生日をむかえた知り合いがいて、
我が家でささやかに祝いの宴をした。
還暦ですからと、蕎麦屋の若だんなが赤いシャツをプレゼントして、
なかなか似合う。
こちらは、暑い時期ですからハイボールでもと、
ウイスキーを差し上げた。
酔いのいきおいで外へ繰り出して、はしご酒となる。
長らく料理人をしているかただった。
繁華街の権堂がにぎやかだったころ、
いくつか店を持っていたという。
アーケードに酔客の姿がたくさんあって、
今の閑散ぶりからは、想像がつかないほどだった。
しだいに景気がわるくなり、店も人手に渡してしまい、
今は、山の上のホテルで料理長をしている。
その間に、結婚2回に離婚2回。
浮き沈みを経験した先達は、酔ったときでも、
ときどきためになることもおっしゃってくれるのだった。
疲れていても弱っていても、いっしょに酔えるかたがいる。
それがいちばんのお祝いと、この歳になるとしみじみとわかる。
おでん屋のカウンターで酔いつぶれた背中が、
ちょいと切ないのだった。

連日暑い日がつづく。
あっけらかんと30度を超えて、
夕方のビールが待ち遠しい。
春、ひとつ歳をかさねた折りに、飲み仲間のかたに、
枝豆を簡単にゆでられる器と、きめ細かい泡のビールを注げる、
信楽焼きの注ぎ口を頂いた。
飲兵衛のツボを押さえたプレゼントは、
毎晩重宝しているのだった。
祝い事に疎い家庭に育ったから、
子供のころに、誕生日を祝ってもらった記憶がない。
母は仕事にいそがしく、父は飲み屋通いにいそがしく、
6歳上の兄はバイトに明け暮れて、
こちらも気にせずすごしていた。
むしろこの頃になり、
年下の飲み仲間のかたがたに毎年祝っていただくようになり、
こそばゆく、ありがたい気分なのだった。
今月、60歳の誕生日をむかえた知り合いがいて、
我が家でささやかに祝いの宴をした。
還暦ですからと、蕎麦屋の若だんなが赤いシャツをプレゼントして、
なかなか似合う。
こちらは、暑い時期ですからハイボールでもと、
ウイスキーを差し上げた。
酔いのいきおいで外へ繰り出して、はしご酒となる。
長らく料理人をしているかただった。
繁華街の権堂がにぎやかだったころ、
いくつか店を持っていたという。
アーケードに酔客の姿がたくさんあって、
今の閑散ぶりからは、想像がつかないほどだった。
しだいに景気がわるくなり、店も人手に渡してしまい、
今は、山の上のホテルで料理長をしている。
その間に、結婚2回に離婚2回。
浮き沈みを経験した先達は、酔ったときでも、
ときどきためになることもおっしゃってくれるのだった。
疲れていても弱っていても、いっしょに酔えるかたがいる。
それがいちばんのお祝いと、この歳になるとしみじみとわかる。
おでん屋のカウンターで酔いつぶれた背中が、
ちょいと切ないのだった。
葡萄畑で
文月 5
電車に乗って坂城町へ出かけた。
ぶどう作りをしている友だち夫婦を訪ねたのだった。
やる気のなさそうな、坂城高校の生徒に交じって駅を出たら、
軽トラで畑を案内してもらう。
平地のぶどうはすでに色づきはじめ、
お盆のころに出荷するという。
坂を上った畑では、ワイン用のぶどうを作っている。
植樹したころにはまだすかすかだったのに、
今では葉が茂り、房も連なって、畑にも貫禄が出ていた。
ほそくて急な坂道をぐいぐい進んで、
標高600メートルの畑へ連れて行ってもらったら、
おそろしく急勾配な斜面に、一面ぶどうが成っていた。
転がらぬように注意して、畑の中を歩いていく。
畑には、友だちの御両親も手伝いに来ていて、
ごくろうさまですと挨拶をした。
ひと房ひと房、ぎっしりついた実のなかから、
不要な実を剪定する。ここまで成長するまでに、
すでに何回もの剪定をしているという。
毎日、こうした地道な作業のくりかえしで、手間がかかる。
その分、仕上げたときのよろこびもおおきいという。
それでもときにはけものに食べられたり、
つよい雨風に打たれてしまうこともある。
作物を作るということは、
ほんとに耐え忍びの積み重ねなのだった。
休憩時間、ふとどき者は、ひとり金麦の栓を抜く。
お母さんの作ったにらせんべいと、
梅のおにぎりが美味しい。
遠く、千曲川の川面が光っている。
畑の下の田んぼでは、青々と、稲が風に揺れている。
おおきな雲を抱えた青空を仰ぎ、
坂城の町は、ほんとに空が広いのだった。
いずれこの傾斜地で、ワイン用のぶどうを作りたいといい、
この陽当たりなら、きっと良いぶどうができると同感した。
たっぷりとぶどうの緑にいやされて、好い気分転換ができた。
昼ごはんは、名物の、
おしぼりうどんの店に連れて行ってもらい、
美味しくごちそうになったのだった。


電車に乗って坂城町へ出かけた。
ぶどう作りをしている友だち夫婦を訪ねたのだった。
やる気のなさそうな、坂城高校の生徒に交じって駅を出たら、
軽トラで畑を案内してもらう。
平地のぶどうはすでに色づきはじめ、
お盆のころに出荷するという。
坂を上った畑では、ワイン用のぶどうを作っている。
植樹したころにはまだすかすかだったのに、
今では葉が茂り、房も連なって、畑にも貫禄が出ていた。
ほそくて急な坂道をぐいぐい進んで、
標高600メートルの畑へ連れて行ってもらったら、
おそろしく急勾配な斜面に、一面ぶどうが成っていた。
転がらぬように注意して、畑の中を歩いていく。
畑には、友だちの御両親も手伝いに来ていて、
ごくろうさまですと挨拶をした。
ひと房ひと房、ぎっしりついた実のなかから、
不要な実を剪定する。ここまで成長するまでに、
すでに何回もの剪定をしているという。
毎日、こうした地道な作業のくりかえしで、手間がかかる。
その分、仕上げたときのよろこびもおおきいという。
それでもときにはけものに食べられたり、
つよい雨風に打たれてしまうこともある。
作物を作るということは、
ほんとに耐え忍びの積み重ねなのだった。
休憩時間、ふとどき者は、ひとり金麦の栓を抜く。
お母さんの作ったにらせんべいと、
梅のおにぎりが美味しい。
遠く、千曲川の川面が光っている。
畑の下の田んぼでは、青々と、稲が風に揺れている。
おおきな雲を抱えた青空を仰ぎ、
坂城の町は、ほんとに空が広いのだった。
いずれこの傾斜地で、ワイン用のぶどうを作りたいといい、
この陽当たりなら、きっと良いぶどうができると同感した。
たっぷりとぶどうの緑にいやされて、好い気分転換ができた。
昼ごはんは、名物の、
おしぼりうどんの店に連れて行ってもらい、
美味しくごちそうになったのだった。
DATE SEVENという日本酒
文月 4
毎日日本酒を酌んでいる。
はじめて好い印象を受けたのは、宮城の一ノ蔵だった。
旨さに感動して、お蔵さんに手紙を書いたら、
当時の専務さんが、造りへの想いを、
便箋4枚にしたためて返してくれた。
今でも宮城の酒は気に入りで、
冷蔵庫の中には、いつも鎮座しているのだった。
酒屋の峯村君からメールが来た。
このたび宮城の七つのお蔵さんが、
DATE SEVEN (伊達セブン)という会を結成したという。
精米から絞りまで、主要工程を分担して、
共同で酒を造ったのだった。
参加しているのは、墨廼江に山和に寒梅に勝山、
伯楽星に萩の鶴に黄金澤を醸すお蔵さんがたで、
米は、地元の蔵の華の33パーセント精米で、
酵母は伊達7酵母という。
予約完売で、競争率11倍のところ入荷できたといい、
でかした、みねむら!すぐに注文を入れた。
宮城らしくスマートで凛とした味わい。
甘さを落ちつかせた爽快な切れ味。ファーストインパクトよりも、
長くあなたに寄り添う酒をコンセプトに造られたといい、
寄り添ってくれる相手のいない身は、
封を切るのが楽しみになるのだった。
おなじ企画は、先だって秋田の五つのお蔵さんが、
NEXT5と称して行っていた。
フェイスブックのページでは、
わざわざ、秋田まで挑戦状をたたきつけに行った様子が、
和やかに載っていた。
長野でも、佐久の十三のお蔵さんが、SAKU13の会を結成して、
米作りから醸造まで共同で行っている。
この頃は、昭和59年生まれ、御年30歳の蔵元さんたちが、
59醸の会を立ち上げて、おなじ規格の酒を発売した。
低迷する日本酒業界を、良き味醸して立て直そうと、
若いお蔵さんがたが、力を合わせて取り組んでいる。
日本酒のおかげで、人生に、ずいぶん彩り添えてもらっている。
せいぜい飲んで、応援したいのだった。

毎日日本酒を酌んでいる。
はじめて好い印象を受けたのは、宮城の一ノ蔵だった。
旨さに感動して、お蔵さんに手紙を書いたら、
当時の専務さんが、造りへの想いを、
便箋4枚にしたためて返してくれた。
今でも宮城の酒は気に入りで、
冷蔵庫の中には、いつも鎮座しているのだった。
酒屋の峯村君からメールが来た。
このたび宮城の七つのお蔵さんが、
DATE SEVEN (伊達セブン)という会を結成したという。
精米から絞りまで、主要工程を分担して、
共同で酒を造ったのだった。
参加しているのは、墨廼江に山和に寒梅に勝山、
伯楽星に萩の鶴に黄金澤を醸すお蔵さんがたで、
米は、地元の蔵の華の33パーセント精米で、
酵母は伊達7酵母という。
予約完売で、競争率11倍のところ入荷できたといい、
でかした、みねむら!すぐに注文を入れた。
宮城らしくスマートで凛とした味わい。
甘さを落ちつかせた爽快な切れ味。ファーストインパクトよりも、
長くあなたに寄り添う酒をコンセプトに造られたといい、
寄り添ってくれる相手のいない身は、
封を切るのが楽しみになるのだった。
おなじ企画は、先だって秋田の五つのお蔵さんが、
NEXT5と称して行っていた。
フェイスブックのページでは、
わざわざ、秋田まで挑戦状をたたきつけに行った様子が、
和やかに載っていた。
長野でも、佐久の十三のお蔵さんが、SAKU13の会を結成して、
米作りから醸造まで共同で行っている。
この頃は、昭和59年生まれ、御年30歳の蔵元さんたちが、
59醸の会を立ち上げて、おなじ規格の酒を発売した。
低迷する日本酒業界を、良き味醸して立て直そうと、
若いお蔵さんがたが、力を合わせて取り組んでいる。
日本酒のおかげで、人生に、ずいぶん彩り添えてもらっている。
せいぜい飲んで、応援したいのだった。
小雨の中で
文月 3
梅雨らしい日がつづく。
朝からこまかい雨が降っている。
この頃氏神さんに、ひとつお願いごとが増えた。
近所に暮らす同級生が病気になったのだった。
頭痛がおさまらず、お医者で調べてもらったら、
異常はないと言われた。
その一週間後に、くも膜下出血で倒れたのだった。
意識が戻って手術をしたという。
そのまま無事に回復しますよう、毎朝頭を下げている。
おおきな病気をした友だちに、すでに彼岸に往った友だちもいる。
この歳になり、なにがあってもおかしくないと、よくよく思う。
長野電鉄の電車の警笛が、湿った町にひびく。
お稲荷さんの階段を下りていけば、社務所から、
NHKのニュースが聞こえてきた。
砂利道で、しゃがんでカメラを構えていたら、
ジャージ姿のおばあさんに、
なにかいるんですか?と神妙に声をかけられた。
濡れた草を撮っていますと答えたら、
拍子抜けしたような笑顔で去っていく。
昔のNHKのアンテナを見上げれば、所在なげにわびしい。
善光寺の本堂のわきに、色とりどりに、
七夕の短冊が揺れていた。
スターニンジャーになりたい。にんにんじゃーになりたい。
ちびっ子たちは、忍者にあこがれる。
テストで400点とれますように。
そんなにとれなかったなあと、学生時代を思いだす。
谷浩二朗がさらにパンプアップしますように。
パンプアップの意味が分からない。
希望の職業についてお金持ちになれますように、
あと、マンションも購入できますようにというのもあって、
欲張りすぎとたしなめたくなった。
寛慶寺の凌霄花は、今が見頃と咲きほこっている。
さめた気配の中、鮮やかな朱色がしずかに冴えていた。
今日の季節を感じられること。
それだけでしあわせと思えるのだった。
それでも、週末からは晴天を望みたい。
全国高校野球長野大会が始まるのだった。
友だちの息子が、長野西高校で選手をしている。
折よく、初戦が仕事が休みの日だった。
応援に駆けつけるときめた。

梅雨らしい日がつづく。
朝からこまかい雨が降っている。
この頃氏神さんに、ひとつお願いごとが増えた。
近所に暮らす同級生が病気になったのだった。
頭痛がおさまらず、お医者で調べてもらったら、
異常はないと言われた。
その一週間後に、くも膜下出血で倒れたのだった。
意識が戻って手術をしたという。
そのまま無事に回復しますよう、毎朝頭を下げている。
おおきな病気をした友だちに、すでに彼岸に往った友だちもいる。
この歳になり、なにがあってもおかしくないと、よくよく思う。
長野電鉄の電車の警笛が、湿った町にひびく。
お稲荷さんの階段を下りていけば、社務所から、
NHKのニュースが聞こえてきた。
砂利道で、しゃがんでカメラを構えていたら、
ジャージ姿のおばあさんに、
なにかいるんですか?と神妙に声をかけられた。
濡れた草を撮っていますと答えたら、
拍子抜けしたような笑顔で去っていく。
昔のNHKのアンテナを見上げれば、所在なげにわびしい。
善光寺の本堂のわきに、色とりどりに、
七夕の短冊が揺れていた。
スターニンジャーになりたい。にんにんじゃーになりたい。
ちびっ子たちは、忍者にあこがれる。
テストで400点とれますように。
そんなにとれなかったなあと、学生時代を思いだす。
谷浩二朗がさらにパンプアップしますように。
パンプアップの意味が分からない。
希望の職業についてお金持ちになれますように、
あと、マンションも購入できますようにというのもあって、
欲張りすぎとたしなめたくなった。
寛慶寺の凌霄花は、今が見頃と咲きほこっている。
さめた気配の中、鮮やかな朱色がしずかに冴えていた。
今日の季節を感じられること。
それだけでしあわせと思えるのだった。
それでも、週末からは晴天を望みたい。
全国高校野球長野大会が始まるのだった。
友だちの息子が、長野西高校で選手をしている。
折よく、初戦が仕事が休みの日だった。
応援に駆けつけるときめた。
新酒を利いて
文月 2
馴染みの蕎麦屋さんへ出かけたら、
大信州が手に入りづらくなっちゃってと御主人がこぼす。
蕎麦前に、大信州の純米吟醸・超辛口を使っているのだった。
近ごろ人気があって、特約店の酒屋さんにもなかなか入荷しない。
ほかの銘柄に変えよう思うが、おすすめはと聞かれたから、
辛口なら飯山の北光正宗とこたえたら、
御主人も、北光正宗の純米吟醸を考えていたという。
造り手の世代が変わり、長野にも美味しい銘柄が増えてきた。
選ぶ楽しみがあるから、ひとつにかたよらず、
いろんな銘柄に人気が出てほしいのだった。
お蔵さんに酒屋さん、飲み屋の御主人、
ときどき、その道に精通したかたと、杯を交わすときがある。
酒にまつわるうら話など聞けて、
酔っ払い冥利なこととありがたい。
日曜日、知り合いの蔵人さんが訪ねてきた。
川中島の、酒千蔵野に勤めるかたで、
日夜、女性杜氏のもとで造りをしている。
このたび、任されて仕込んだ新酒を、
小瓶に詰めて持ってきてくれたのだった。
グラスに注いで利いてみれば、
香りが控えめで、酸と旨みのはばの案配が好い。
あとくちの切れも好く爽やかで、
こりゃ見事と、酒屋の友だちに注文した。
アルコール度数は17度。
日本酒度が+4で、酸度が1,8の無濾過生原酒という。
数字を見れば、がっちりとしてるのに、
アルコールの高さも酸のつよさも、原酒の重みも気にさせない、
みずみずしく、きれいな印象だった。
銘柄は、青嵐とつけたといい、この季節にふさわしく、
なかなか粋な名前をおつけになる。
水音と風音つなぐ青嵐 稲畑汀子
酒徒のみなさんに酌んでいただきたいのだった。

馴染みの蕎麦屋さんへ出かけたら、
大信州が手に入りづらくなっちゃってと御主人がこぼす。
蕎麦前に、大信州の純米吟醸・超辛口を使っているのだった。
近ごろ人気があって、特約店の酒屋さんにもなかなか入荷しない。
ほかの銘柄に変えよう思うが、おすすめはと聞かれたから、
辛口なら飯山の北光正宗とこたえたら、
御主人も、北光正宗の純米吟醸を考えていたという。
造り手の世代が変わり、長野にも美味しい銘柄が増えてきた。
選ぶ楽しみがあるから、ひとつにかたよらず、
いろんな銘柄に人気が出てほしいのだった。
お蔵さんに酒屋さん、飲み屋の御主人、
ときどき、その道に精通したかたと、杯を交わすときがある。
酒にまつわるうら話など聞けて、
酔っ払い冥利なこととありがたい。
日曜日、知り合いの蔵人さんが訪ねてきた。
川中島の、酒千蔵野に勤めるかたで、
日夜、女性杜氏のもとで造りをしている。
このたび、任されて仕込んだ新酒を、
小瓶に詰めて持ってきてくれたのだった。
グラスに注いで利いてみれば、
香りが控えめで、酸と旨みのはばの案配が好い。
あとくちの切れも好く爽やかで、
こりゃ見事と、酒屋の友だちに注文した。
アルコール度数は17度。
日本酒度が+4で、酸度が1,8の無濾過生原酒という。
数字を見れば、がっちりとしてるのに、
アルコールの高さも酸のつよさも、原酒の重みも気にさせない、
みずみずしく、きれいな印象だった。
銘柄は、青嵐とつけたといい、この季節にふさわしく、
なかなか粋な名前をおつけになる。
水音と風音つなぐ青嵐 稲畑汀子
酒徒のみなさんに酌んでいただきたいのだった。
今が在ること
文月 1
久しぶりに千石劇場へ出かけた。
平日の映画館は他の客の姿がなく、貸切の鑑賞になる。
樹木希林さんの「あん」を観たのだった。
桜の季節、さえないどら焼き屋の千太郎の店に、
老女の徳江さんが訪ねてきた。
働かせてくれないかというのだった。いちどは断ったものの、
徳江さんの作った餡子の旨さに感動して、手伝ってもらうようになる。
味の良さが評判になり、店は行列ができるほどに繁盛する。
ところが、徳江さんがライ病だったことが知れわたり、
ぱたりとお客が来なくなり、徳江さんも店をやめてしまうのだった。
あずきに語りかけながら、丁寧に餡子を作る。
常連の子供たちが美味しいと喜んでくれたり、
いっしょに笑いあったり、季節の移ろいを愛であうのは、
長いあいだ施設に隔離された身にとって、
自由に人と関われる、とても楽しくて嬉しいことだった。
朝夕、仕事場の前を子供たちが通っていく。
にぎやかな話し声や笑い声を耳にすると、こちらも和む。
早朝、菩提寺へお参りに出かけたら、
本堂の前の凌霄花が目にとまる。
ひと色、鮮やかな朱に、気持ちがすっとしんとした。
梅雨どきの天気がつづき、ひと雨ごとに、
遠くちかくの緑が深さを増している。
夕べは馴染みのおでん屋で、気のおけないかたがたと、
つぎつぎとワインの瓶を空にした。
常々のかたも久しぶりのかたも、懐ふかく、
だらしのないヨッパに付きあってくれている。
なんともなしに過ごす今をしあわせと感じれば、
日々を往く足どりも、静かに丁寧にして行けると思うのだった。

久しぶりに千石劇場へ出かけた。
平日の映画館は他の客の姿がなく、貸切の鑑賞になる。
樹木希林さんの「あん」を観たのだった。
桜の季節、さえないどら焼き屋の千太郎の店に、
老女の徳江さんが訪ねてきた。
働かせてくれないかというのだった。いちどは断ったものの、
徳江さんの作った餡子の旨さに感動して、手伝ってもらうようになる。
味の良さが評判になり、店は行列ができるほどに繁盛する。
ところが、徳江さんがライ病だったことが知れわたり、
ぱたりとお客が来なくなり、徳江さんも店をやめてしまうのだった。
あずきに語りかけながら、丁寧に餡子を作る。
常連の子供たちが美味しいと喜んでくれたり、
いっしょに笑いあったり、季節の移ろいを愛であうのは、
長いあいだ施設に隔離された身にとって、
自由に人と関われる、とても楽しくて嬉しいことだった。
朝夕、仕事場の前を子供たちが通っていく。
にぎやかな話し声や笑い声を耳にすると、こちらも和む。
早朝、菩提寺へお参りに出かけたら、
本堂の前の凌霄花が目にとまる。
ひと色、鮮やかな朱に、気持ちがすっとしんとした。
梅雨どきの天気がつづき、ひと雨ごとに、
遠くちかくの緑が深さを増している。
夕べは馴染みのおでん屋で、気のおけないかたがたと、
つぎつぎとワインの瓶を空にした。
常々のかたも久しぶりのかたも、懐ふかく、
だらしのないヨッパに付きあってくれている。
なんともなしに過ごす今をしあわせと感じれば、
日々を往く足どりも、静かに丁寧にして行けると思うのだった。