ウイスキーの夜
霜月 7
柿の甘みはウイスキーに合うと思う。
秋から冬、夜の時間が長くなると、ウイスキーが飲みたくなる。
日ごろ、甘いものを食べたいと思わないものの、
ウイスキーのつまみには、チョコとかジャムとか、
チーズにはちみつをかけたりしたのが、
腹にもたまらず良いのだった。
先日、サントリーに勤めるかたと、
酒屋とバーを訪ね歩く機会に恵まれた。
道々歩きながら、白州と響が大好きですというと、
ウイスキーもなかなか大変な時期でと返ってきた。
以前、朝の連続テレビ小説で、
ニッカウヰスキーを造った、
竹鶴政孝さんをモデルにしたドラマを放送していた。
それからウイスキー人気に火がついて、
おまけにこの頃は、
中国人の金持ちが大量に買うようになったという。
ウイスキーの熟成が需要に追い付かないのだった。
確かに、立ち寄った丸本洋酒店さんで、
ジンの試飲をしながら棚を眺めれば、
ウイスキーのラベルから、
12年とか17年という、熟成年度の表記が消えている。
白州と響の12年が好きだったから、ちょっと悲しい。
次に立ち寄ったバー・リタさんで、
年代表記のない白州と響を利いてみた。
旨いのかなあといぶかしながら口にしたら、
味わいに軽さが感じられるものの、
充分な香りと旨みが有って美味しい。
どこのメーカーさんにも、ウイスキーの味を調整する、
優れたブレンダーさんが存在する。
熟成に頼れない分、
ここは腕の見せどころと、奮闘していると伺えた。
寒い夜、ちびちびと楽しみたいのだった。

柿の甘みはウイスキーに合うと思う。
秋から冬、夜の時間が長くなると、ウイスキーが飲みたくなる。
日ごろ、甘いものを食べたいと思わないものの、
ウイスキーのつまみには、チョコとかジャムとか、
チーズにはちみつをかけたりしたのが、
腹にもたまらず良いのだった。
先日、サントリーに勤めるかたと、
酒屋とバーを訪ね歩く機会に恵まれた。
道々歩きながら、白州と響が大好きですというと、
ウイスキーもなかなか大変な時期でと返ってきた。
以前、朝の連続テレビ小説で、
ニッカウヰスキーを造った、
竹鶴政孝さんをモデルにしたドラマを放送していた。
それからウイスキー人気に火がついて、
おまけにこの頃は、
中国人の金持ちが大量に買うようになったという。
ウイスキーの熟成が需要に追い付かないのだった。
確かに、立ち寄った丸本洋酒店さんで、
ジンの試飲をしながら棚を眺めれば、
ウイスキーのラベルから、
12年とか17年という、熟成年度の表記が消えている。
白州と響の12年が好きだったから、ちょっと悲しい。
次に立ち寄ったバー・リタさんで、
年代表記のない白州と響を利いてみた。
旨いのかなあといぶかしながら口にしたら、
味わいに軽さが感じられるものの、
充分な香りと旨みが有って美味しい。
どこのメーカーさんにも、ウイスキーの味を調整する、
優れたブレンダーさんが存在する。
熟成に頼れない分、
ここは腕の見せどころと、奮闘していると伺えた。
寒い夜、ちびちびと楽しみたいのだった。
えびす講の花火に
霜月 6
11月23日の勤労感謝の日、えびす講大煙火大会が開かれた。
若里の犀川の河川敷で打ち上げられて、
毎回、大勢の見物客でにぎわうのだった。
前日の夕方、仕事をしていたら友だちから電話が来た。
明日の花火、
観覧席のチケットが手に入ったからとのお誘いで、
それはありがたいことと、ふたつ返事で応じた。
次の日、友だちに話を伺えば、
病院を営む知り合いがいて、花火のスポンサーになったという。
スポンサー席のチケットを、
こちらにもまわしてくれたというのだった。
見ず知らずのかたの好意で、
思いがけず好位置で観られることと成り、
ありがたいことだった。
混んだ道路を避けて会場に着くと、
駐車場に大型バスがずらっと並んでいる。
大がかりな冬の花火は珍しいから、
すっかり有名な催し事となっている。
犀川沿いの土手は、すでにたくさんの人で埋まっていた。
カメラを載せた三脚がずらっと並び、
今か今かとシャッターチャンスを待っている。
弁当と発泡酒をもらって席に着けば、
冷え込んだ夜空に欠けた月が冴えていた。
じきに、開催の挨拶が始まって、第112回目の大会の、
花火が打ち上がったのだった。
こちらもカメラと三脚を持ってきたのに、
特等席で、間近に広がる彩りと迫力は、
カメラに収まりきらず、こりゃ、無理とすぐにあきらめた。
煙火師は、長野市の信州煙火さんと青木煙火さん。
それぞれに、工夫を凝らした作品をつぎつぎと披露して、
約2時間、たっぷり堪能させていただいた。
ひととき花火の時間を過ごすと、
どことなく、切ない余韻が胸にのこる。
今年の終わりが見えてきた初冬の花火なら、
なおさらのことだった。
今年も、ひと月余りのこととなる。

11月23日の勤労感謝の日、えびす講大煙火大会が開かれた。
若里の犀川の河川敷で打ち上げられて、
毎回、大勢の見物客でにぎわうのだった。
前日の夕方、仕事をしていたら友だちから電話が来た。
明日の花火、
観覧席のチケットが手に入ったからとのお誘いで、
それはありがたいことと、ふたつ返事で応じた。
次の日、友だちに話を伺えば、
病院を営む知り合いがいて、花火のスポンサーになったという。
スポンサー席のチケットを、
こちらにもまわしてくれたというのだった。
見ず知らずのかたの好意で、
思いがけず好位置で観られることと成り、
ありがたいことだった。
混んだ道路を避けて会場に着くと、
駐車場に大型バスがずらっと並んでいる。
大がかりな冬の花火は珍しいから、
すっかり有名な催し事となっている。
犀川沿いの土手は、すでにたくさんの人で埋まっていた。
カメラを載せた三脚がずらっと並び、
今か今かとシャッターチャンスを待っている。
弁当と発泡酒をもらって席に着けば、
冷え込んだ夜空に欠けた月が冴えていた。
じきに、開催の挨拶が始まって、第112回目の大会の、
花火が打ち上がったのだった。
こちらもカメラと三脚を持ってきたのに、
特等席で、間近に広がる彩りと迫力は、
カメラに収まりきらず、こりゃ、無理とすぐにあきらめた。
煙火師は、長野市の信州煙火さんと青木煙火さん。
それぞれに、工夫を凝らした作品をつぎつぎと披露して、
約2時間、たっぷり堪能させていただいた。
ひととき花火の時間を過ごすと、
どことなく、切ない余韻が胸にのこる。
今年の終わりが見えてきた初冬の花火なら、
なおさらのことだった。
今年も、ひと月余りのこととなる。
酢にほれこんで。
霜月 5
11月も下旬となって、今年もひと月余りとなった。
1年が、ほんとにあっという間にすぎてしまう。
12月になると忘年会のお誘いで、
輪をかけて飲み屋通いが多くなる。
毎年大晦日を迎えるころには、
体も財布もへとへとになっているのだった。
この歳になると、飲み仲間も年下のかたが多くなり、
何の因果か、みなさんそろいもそろって酒がつよい。
男性はもとより女性陣に至っても、
わたし、お酒弱いんですう。
そんな台詞が似合いそうな、かわいい顔をしているくせに、
注げば空ける、注げば空ける、
泰然自若に杯をかさねる輩ばかりだった。
いつもこちらが先につぶれては、
お先に失礼しているのだった。
この頃パソコンを見ていたら、
ライオンの広告が載っていた。
「血圧が高めのかたにトマト酢生活」と、
健康飲料の宣伝だった。
初回限定、10日分を960円でとあって、
血圧は高くないけれど、酢は体に良いというし、
軽い気持ちでポチっとした。
それから間もなく、
いつものように深酒をして帰った翌朝、
目覚めがやけに爽やかで、
今朝に限ってどうしたことかとおどろく。
そういえば布団にもぐる前に、
トマト酢生活を一つ飲んだと思い出し、
酢、二日酔いで検索をしてみた。
おおっ、出てくる出てくる。酢には、
肝臓の動きを活発にする成分が含まれているといい、
飲酒の前後に飲んでおくと、
二日酔いにならないというのだった。
すばらしいぞ発酵食品!
怒涛の忘年会シーズンを前に、
なんと心づよい味方があらわれたことか。
幸い近所の小山薬局さんでも
上等の黒酢を扱っていた。
どんと来なさい忘年会。
勇ましい気持ちで、師走を迎えることとなったのだった。

11月も下旬となって、今年もひと月余りとなった。
1年が、ほんとにあっという間にすぎてしまう。
12月になると忘年会のお誘いで、
輪をかけて飲み屋通いが多くなる。
毎年大晦日を迎えるころには、
体も財布もへとへとになっているのだった。
この歳になると、飲み仲間も年下のかたが多くなり、
何の因果か、みなさんそろいもそろって酒がつよい。
男性はもとより女性陣に至っても、
わたし、お酒弱いんですう。
そんな台詞が似合いそうな、かわいい顔をしているくせに、
注げば空ける、注げば空ける、
泰然自若に杯をかさねる輩ばかりだった。
いつもこちらが先につぶれては、
お先に失礼しているのだった。
この頃パソコンを見ていたら、
ライオンの広告が載っていた。
「血圧が高めのかたにトマト酢生活」と、
健康飲料の宣伝だった。
初回限定、10日分を960円でとあって、
血圧は高くないけれど、酢は体に良いというし、
軽い気持ちでポチっとした。
それから間もなく、
いつものように深酒をして帰った翌朝、
目覚めがやけに爽やかで、
今朝に限ってどうしたことかとおどろく。
そういえば布団にもぐる前に、
トマト酢生活を一つ飲んだと思い出し、
酢、二日酔いで検索をしてみた。
おおっ、出てくる出てくる。酢には、
肝臓の動きを活発にする成分が含まれているといい、
飲酒の前後に飲んでおくと、
二日酔いにならないというのだった。
すばらしいぞ発酵食品!
怒涛の忘年会シーズンを前に、
なんと心づよい味方があらわれたことか。
幸い近所の小山薬局さんでも
上等の黒酢を扱っていた。
どんと来なさい忘年会。
勇ましい気持ちで、師走を迎えることとなったのだった。
形見の時計を
霜月 4
春のはじめに父が亡くなった。
病気が見つかって2年半。
痛みと薬の副作用に耐えながら入退院をくり返し、
最後は緩和ケアの病院で息を引き取った。
家族と知人でささやかに見送って、
5月の連休に49日の法事を済ませ、
ひと段落着いたところで遺品の始末をした。
衣服の類は、兄と甥っ子がまとめてもらっていき、
こちらは生前使っていた文机と、
父が若いときに集めた、
昭和28年ごろの文学全集をもらい受けた。
先日、父のたんすの引き出しを片付けていたら、
壊れた腕時計が出てきた。
幼いころ、父が着けていたのを思い出し、なつかしい。
フェイスブックを開けて、
古い時計を直せる時計屋知りませんかと尋ねたら、
はるばる宮城県の友だちから、
宮入さんの友だちの、
峯村君が知っているとコメントが来た。
えっ、そうなの?灯台下暗しでした。
さっそく峯村君を通じて、おなじ信濃町は古間の、
小口時計店へお願いしたのだった。
それから一か月余り、
峯村君から出来ましたと連絡があり、
次の日に届けてくれた。
修理をしてくれたご主人によると、
セイコーのクラウンという製品で、
グランドセイコーの前身となった高級品という。
製造番号から、昭和35年に造られたとわかり、
こんなに状態が良いのはめずらしいというのだった。
薄給の公務員だった父に買える代物ではない。
美容師として羽振りよく、散財好きだった母が、
買ってあげたと察しがついた。
風防とベルトを新しくして、
きれいにお色直しをして戻ってきた。
長らくぶりに日の目を見て、
大事に使っていこうと思ったのだった。

春のはじめに父が亡くなった。
病気が見つかって2年半。
痛みと薬の副作用に耐えながら入退院をくり返し、
最後は緩和ケアの病院で息を引き取った。
家族と知人でささやかに見送って、
5月の連休に49日の法事を済ませ、
ひと段落着いたところで遺品の始末をした。
衣服の類は、兄と甥っ子がまとめてもらっていき、
こちらは生前使っていた文机と、
父が若いときに集めた、
昭和28年ごろの文学全集をもらい受けた。
先日、父のたんすの引き出しを片付けていたら、
壊れた腕時計が出てきた。
幼いころ、父が着けていたのを思い出し、なつかしい。
フェイスブックを開けて、
古い時計を直せる時計屋知りませんかと尋ねたら、
はるばる宮城県の友だちから、
宮入さんの友だちの、
峯村君が知っているとコメントが来た。
えっ、そうなの?灯台下暗しでした。
さっそく峯村君を通じて、おなじ信濃町は古間の、
小口時計店へお願いしたのだった。
それから一か月余り、
峯村君から出来ましたと連絡があり、
次の日に届けてくれた。
修理をしてくれたご主人によると、
セイコーのクラウンという製品で、
グランドセイコーの前身となった高級品という。
製造番号から、昭和35年に造られたとわかり、
こんなに状態が良いのはめずらしいというのだった。
薄給の公務員だった父に買える代物ではない。
美容師として羽振りよく、散財好きだった母が、
買ってあげたと察しがついた。
風防とベルトを新しくして、
きれいにお色直しをして戻ってきた。
長らくぶりに日の目を見て、
大事に使っていこうと思ったのだった。
同級会に
霜月 3
朝刊を見ていたら、
でかでかと母校のお知らせが載っていた。
長野市立柳町中学校が、創立70周年を迎え、
記念式典を行うというのだった。
在校していた3年生のときに、
30周年の式典に出た覚えがある。
道を踏み外しながら、
あっという間に40年がすぎてしまっていた。
先だって同級生から、
同級会をやることになったと、連絡が来たとこだった
昼からの一次会は、仕事があるから出られない。
当日、仕事を早く終いにして、
夕方からの二次会へと向かった。
すこし早めに居酒屋べじた坊さんに着き、
カウンターでビールを飲みながら待っていれば、
じきに、うえっち、やんさん、りょうこさん、
まっちゃきにまっつにけんちゃんと、まさゆき君にしみずに、
もりさわ君にまゆみちゃんが入ってきた。
ひとりひとりと挨拶を交わして、
5年ぶりの乾杯と成ったのだった。
50歳も半ばとなって、みんなそれなりに
くたびれたおじさんおばさんになっている。
思い出話や、今の暮らしの気苦労話を交わしながら、
わいわいと杯をかさねた。
勉強のできた人たちは、それぞれまっとうに、
真面目さと、学力の良さを活かして社会に貢献している。
国立大学の教授をしているもりさわ君に、
あのさ、飲み屋のカウンターで、
酔っぱらって女性を口説いたことってある?と尋ねたら、
そんな恥ずかしいことしたことないと、
当たり前の顔で返ってきた。
・・だよね・・
子供のころの出来の差は、
大人になっても変わらないのだった。
すでに彼岸に旅だった同級生が3人いる。思い出せば、
こうして無事に会えるのは、なによりのことと思う。
さあさあ、夜は長いよ~。
再会の夜長に、うれしいはしご酒となったのだった。

朝刊を見ていたら、
でかでかと母校のお知らせが載っていた。
長野市立柳町中学校が、創立70周年を迎え、
記念式典を行うというのだった。
在校していた3年生のときに、
30周年の式典に出た覚えがある。
道を踏み外しながら、
あっという間に40年がすぎてしまっていた。
先だって同級生から、
同級会をやることになったと、連絡が来たとこだった
昼からの一次会は、仕事があるから出られない。
当日、仕事を早く終いにして、
夕方からの二次会へと向かった。
すこし早めに居酒屋べじた坊さんに着き、
カウンターでビールを飲みながら待っていれば、
じきに、うえっち、やんさん、りょうこさん、
まっちゃきにまっつにけんちゃんと、まさゆき君にしみずに、
もりさわ君にまゆみちゃんが入ってきた。
ひとりひとりと挨拶を交わして、
5年ぶりの乾杯と成ったのだった。
50歳も半ばとなって、みんなそれなりに
くたびれたおじさんおばさんになっている。
思い出話や、今の暮らしの気苦労話を交わしながら、
わいわいと杯をかさねた。
勉強のできた人たちは、それぞれまっとうに、
真面目さと、学力の良さを活かして社会に貢献している。
国立大学の教授をしているもりさわ君に、
あのさ、飲み屋のカウンターで、
酔っぱらって女性を口説いたことってある?と尋ねたら、
そんな恥ずかしいことしたことないと、
当たり前の顔で返ってきた。
・・だよね・・
子供のころの出来の差は、
大人になっても変わらないのだった。
すでに彼岸に旅だった同級生が3人いる。思い出せば、
こうして無事に会えるのは、なによりのことと思う。
さあさあ、夜は長いよ~。
再会の夜長に、うれしいはしご酒となったのだった。
休日に
霜月 2
朝いちばん、小川村まで出かけた。
村に暮らす知り合いに、お願いごとが有ったのだった。
通勤の車が行き交う国道19号から、
中条の中を抜けていき、しなびた商店や、
長野西高中条分校をすぎていく。
右手にすぎた坂本精肉店は、
遠くに暮らす友だちのご実家だった。
美味しいジンギスカンを作っていたのに、
お父さんが店じまいをしてから、ずいぶんと久しい。
小川村に入ったら、知り合い宅に寄る前に、
アルプス展望台まで上がってみた。
ぴかぴかの青空に、
真っ白で勇壮な北アルプスの山並みが
清々と映えていて、気持ちが好い。
眼下の畑では、焚火の煙がのんびりと漂っている。
穏やかな秋晴れの、村の景色を眺めていると、
こんなところで余生を送るのも好いなあと
思ってしまうのだった。
お願いごとを済ませてから、そのまま長野に戻り、
実家へ行った。
母にお医者に連れて行けと頼まれていたのだった。
初めて伺うお医者で、どんな先生か気にしていたら、
とても感じの良いかたで、母の話をよく聞いて、
ていねいな治療をしてくれたから良かった。
医者と美容師と飲み屋のご主人は、
ほとほと相性が大事なのだった。
実家に戻ったら、
母の作ったさつま揚げときぬさやの煮物で一杯。
ほろ酔い気分で帰って行けば、
東の夜空にきれいな月が浮かんでいる。
見晴らしのいい高台へ上がり眺めると、
穏やかな一日にふさわしい、しずかなしずかな月だった。
一日のはじめと終わりに美しい景色を目にできて、
それだけで、さっぱりと好い日だった。

朝いちばん、小川村まで出かけた。
村に暮らす知り合いに、お願いごとが有ったのだった。
通勤の車が行き交う国道19号から、
中条の中を抜けていき、しなびた商店や、
長野西高中条分校をすぎていく。
右手にすぎた坂本精肉店は、
遠くに暮らす友だちのご実家だった。
美味しいジンギスカンを作っていたのに、
お父さんが店じまいをしてから、ずいぶんと久しい。
小川村に入ったら、知り合い宅に寄る前に、
アルプス展望台まで上がってみた。
ぴかぴかの青空に、
真っ白で勇壮な北アルプスの山並みが
清々と映えていて、気持ちが好い。
眼下の畑では、焚火の煙がのんびりと漂っている。
穏やかな秋晴れの、村の景色を眺めていると、
こんなところで余生を送るのも好いなあと
思ってしまうのだった。
お願いごとを済ませてから、そのまま長野に戻り、
実家へ行った。
母にお医者に連れて行けと頼まれていたのだった。
初めて伺うお医者で、どんな先生か気にしていたら、
とても感じの良いかたで、母の話をよく聞いて、
ていねいな治療をしてくれたから良かった。
医者と美容師と飲み屋のご主人は、
ほとほと相性が大事なのだった。
実家に戻ったら、
母の作ったさつま揚げときぬさやの煮物で一杯。
ほろ酔い気分で帰って行けば、
東の夜空にきれいな月が浮かんでいる。
見晴らしのいい高台へ上がり眺めると、
穏やかな一日にふさわしい、しずかなしずかな月だった。
一日のはじめと終わりに美しい景色を目にできて、
それだけで、さっぱりと好い日だった。
朝の昌禅寺へ
霜月 1
新聞を広げたら、
小諸の懐古園の紅葉が、見ごろを迎えたと載っていた。
先日訪ねた際、葉っぱの色あせた様子に、
てっきり見ごろを過ぎたものだとばかり思っていた。
間を逃したとわかり、ちょいと口惜しい気分になった。
遠くの山の盛りが終わり、
里山や町なかの木々が色づくころとなる。
昨年知人に、上松の昌禅寺の紅葉がきれいと教わった。
足を運んでみたらほんとに見事な景色で、
こんな近所にこんな名所がと見惚れた。
冷え込んだ朝、
今年の色づき具合を確かめに行ったのだった。
ケヤキの色づく氏神さんを抜けていくと、
城山公園の桜並木も、良い塩梅に赤く色づいている。
今年は先月の立て続けの台風で、
葉っぱがずいぶん、雨風に落とされた。
すこしすきまの多い紅葉風情になっている。
長野高校の五差路をすぎていくと、
行く先々で、住民の人たちが草を刈ったり、
道を掃いたり、掃除をしている。
本日、上松地区の一斉清掃の日なのだった。
朝からのんきに散歩の身は、
少々うしろめたい気分で昌禅寺に着く。
境内のもみじや楓は、
見ごろまであとわずかの色づきだった。
木々の間を縫って、
朝陽が柔らかく境内に差し込んでいる。
先客のおじさんは、石段の下に三脚を立てて、
もみじを見上げて撮っている。
おはようございますと声をかけたら、
ちょっと早かったねと返ってきた。
それでも今週中には見ごろを迎えるから、
近々の再訪が楽しみなのだった。
境内を出たら、
清掃終了の時間です。みなさんごくろうさまでした。
のびのびと、ねぎらう声が流れてきたのだった。

新聞を広げたら、
小諸の懐古園の紅葉が、見ごろを迎えたと載っていた。
先日訪ねた際、葉っぱの色あせた様子に、
てっきり見ごろを過ぎたものだとばかり思っていた。
間を逃したとわかり、ちょいと口惜しい気分になった。
遠くの山の盛りが終わり、
里山や町なかの木々が色づくころとなる。
昨年知人に、上松の昌禅寺の紅葉がきれいと教わった。
足を運んでみたらほんとに見事な景色で、
こんな近所にこんな名所がと見惚れた。
冷え込んだ朝、
今年の色づき具合を確かめに行ったのだった。
ケヤキの色づく氏神さんを抜けていくと、
城山公園の桜並木も、良い塩梅に赤く色づいている。
今年は先月の立て続けの台風で、
葉っぱがずいぶん、雨風に落とされた。
すこしすきまの多い紅葉風情になっている。
長野高校の五差路をすぎていくと、
行く先々で、住民の人たちが草を刈ったり、
道を掃いたり、掃除をしている。
本日、上松地区の一斉清掃の日なのだった。
朝からのんきに散歩の身は、
少々うしろめたい気分で昌禅寺に着く。
境内のもみじや楓は、
見ごろまであとわずかの色づきだった。
木々の間を縫って、
朝陽が柔らかく境内に差し込んでいる。
先客のおじさんは、石段の下に三脚を立てて、
もみじを見上げて撮っている。
おはようございますと声をかけたら、
ちょっと早かったねと返ってきた。
それでも今週中には見ごろを迎えるから、
近々の再訪が楽しみなのだった。
境内を出たら、
清掃終了の時間です。みなさんごくろうさまでした。
のびのびと、ねぎらう声が流れてきたのだった。