十月もおわりで
神無月 五
すっかり秋も深まってきた。
十月は、バイクを飛ばして山の紅葉を眺めに行った。
トンネルを抜けて、川沿いの道を戸隠へ行く。
晴々と秋日和の天気なのに、上っていくに連れ
風がつめたくなってきた。
道沿いのケーキ屋のクローバーさんに立ち寄って
戸隠さむいねえと店主のみまほちゃんにいえば、
朝の気温がひとけたですと返ってきた。
モンブランとコーヒーでいっぷくしてから
目当ての鏡池まで向かったら、平日だというのに
すでに車が数珠つなぎになったいてたまげた。
県外ナンバーの車に混じって着けば、写真を撮る人たちに
絵を描く人、弁当をひろげているおじいさんやおばあさんに
小さい子供を連れた若い御夫婦と、
池のむこう、戸隠山の紅葉を楽しんでいた。
次の週は、山田温泉の松川渓谷まで出かけた。
高山村を抜けて、大きな橋の上から眺めれば、
今が盛りの彩りで、ここにも朝からたくさんの人が訪れていた。
冷えた体をあたためようと、大湯のすこし熱めの湯に浸かり
さっぱりとくつろいだ。
いったん帰ってこの日の午後は、友だち夫婦と連れ立って
黒姫高原へと向かう。
刈り入れのおわった田んぼのつづく信濃町を抜けていく。
黒姫山に妙高山はあいにくと厚い雲がかかっていたものの、
高原までの道すがら、立ち並ぶ木々の鮮やかな色合いに見惚れた。
高原のカフェで、ビールを飲んで旨いハヤシライスで腹をみたしていれば、
巻きストーブのあたたかさに、この町にはもう冬が近づいているのがわかる。
すこし足をのばせば、こうしてあちこちの秋の景色を楽しめるのは
この地に生まれ育ったありがたさなのだった。
山の紅葉がおわるころ、住んでいる町の界隈が色づき始めてくる。
窓から眺めれば、向かいの岸さんちのもみじが染まり始め、
氏神さんの高い木々も赤に黄色になってきた。
紅葉、温泉、新蕎麦に早々の新酒。
まだまだ秋をよくばりたい。

すっかり秋も深まってきた。
十月は、バイクを飛ばして山の紅葉を眺めに行った。
トンネルを抜けて、川沿いの道を戸隠へ行く。
晴々と秋日和の天気なのに、上っていくに連れ
風がつめたくなってきた。
道沿いのケーキ屋のクローバーさんに立ち寄って
戸隠さむいねえと店主のみまほちゃんにいえば、
朝の気温がひとけたですと返ってきた。
モンブランとコーヒーでいっぷくしてから
目当ての鏡池まで向かったら、平日だというのに
すでに車が数珠つなぎになったいてたまげた。
県外ナンバーの車に混じって着けば、写真を撮る人たちに
絵を描く人、弁当をひろげているおじいさんやおばあさんに
小さい子供を連れた若い御夫婦と、
池のむこう、戸隠山の紅葉を楽しんでいた。
次の週は、山田温泉の松川渓谷まで出かけた。
高山村を抜けて、大きな橋の上から眺めれば、
今が盛りの彩りで、ここにも朝からたくさんの人が訪れていた。
冷えた体をあたためようと、大湯のすこし熱めの湯に浸かり
さっぱりとくつろいだ。
いったん帰ってこの日の午後は、友だち夫婦と連れ立って
黒姫高原へと向かう。
刈り入れのおわった田んぼのつづく信濃町を抜けていく。
黒姫山に妙高山はあいにくと厚い雲がかかっていたものの、
高原までの道すがら、立ち並ぶ木々の鮮やかな色合いに見惚れた。
高原のカフェで、ビールを飲んで旨いハヤシライスで腹をみたしていれば、
巻きストーブのあたたかさに、この町にはもう冬が近づいているのがわかる。
すこし足をのばせば、こうしてあちこちの秋の景色を楽しめるのは
この地に生まれ育ったありがたさなのだった。
山の紅葉がおわるころ、住んでいる町の界隈が色づき始めてくる。
窓から眺めれば、向かいの岸さんちのもみじが染まり始め、
氏神さんの高い木々も赤に黄色になってきた。
紅葉、温泉、新蕎麦に早々の新酒。
まだまだ秋をよくばりたい。

造りの季節に
神無月 四
日々のいちばんの楽しみは、旨い日本酒で
ひととき過ごすこと。
毎晩ついつい杯をかさねすぎては、
酩酊ばかりしている。
気に入りの宮城のお蔵の新澤さんが
早々に新酒を出したという。
さっそく一本取り寄せて酌んでみた。
震災の影響で蔵と設備を移転してから
今季で二期目の造りになる。
より高い品質を。
きめの細かいきれいな旨みに
新澤さんの意気込みがうかがえた。
十月の半ばになると、毎年駅前の大きなホテルで
日本酒のイベントがおこなわれる。
信州のあちこちのお蔵さんが集まって、
それぞれの味を試飲させてくれるのだった。
ずいぶん以前飲みすぎて、そのあと同行した友だちと
飲み屋を三軒はしごしたのを
まったく覚えていないことがあった。
年々盛況ぶりを増していて、
仕事を終えた六時過ぎに出向けば、
いつもあふれんばかりの人ごみに
歩くのもままならないありさまになっている。
当日、三時過ぎに仕事にひと区切りがついて、これ幸い、
本日の営業はこれまでと、いそいそと駅前へと出かけた。
住んでいる町に老舗の蕎麦屋さんがある。
近々若旦那ご夫婦が駅前に蕎麦居酒屋を開くといい、
店に置く日本酒を探したいからご一緒しましょうと
声をかけてくださった。
だらしのない飲兵衛もお役に立てるならとよろこんで、
待ち合わせをして会場をまわった。
早い時間に出かけたのに、すでに利き猪口片手に
酒を求める人の姿が多い。
あちこちで声をかけられ振り向けば、
顔見知りの飲み屋の方々で、みなさん開店前に
酒の味をたしかめているとわかる。
気に入りの顔馴染みのお蔵さんをまわり、
好い縁ができますよう。
若旦那ご夫婦を紹介しながら利き酒をした。
イベントもおわり、秋の冷え込み
ますます増して来るころに、
いよいよ新酒の造りの時となる。
良い米は手に入りましたか。
まずは蔵の掃除が大変ですね。
寒さ厳しい冬を乗り切って、無事旨い酒を醸せますように。
ほとほと思いを馳せながら酌みつづけることとなる。

日々のいちばんの楽しみは、旨い日本酒で
ひととき過ごすこと。
毎晩ついつい杯をかさねすぎては、
酩酊ばかりしている。
気に入りの宮城のお蔵の新澤さんが
早々に新酒を出したという。
さっそく一本取り寄せて酌んでみた。
震災の影響で蔵と設備を移転してから
今季で二期目の造りになる。
より高い品質を。
きめの細かいきれいな旨みに
新澤さんの意気込みがうかがえた。
十月の半ばになると、毎年駅前の大きなホテルで
日本酒のイベントがおこなわれる。
信州のあちこちのお蔵さんが集まって、
それぞれの味を試飲させてくれるのだった。
ずいぶん以前飲みすぎて、そのあと同行した友だちと
飲み屋を三軒はしごしたのを
まったく覚えていないことがあった。
年々盛況ぶりを増していて、
仕事を終えた六時過ぎに出向けば、
いつもあふれんばかりの人ごみに
歩くのもままならないありさまになっている。
当日、三時過ぎに仕事にひと区切りがついて、これ幸い、
本日の営業はこれまでと、いそいそと駅前へと出かけた。
住んでいる町に老舗の蕎麦屋さんがある。
近々若旦那ご夫婦が駅前に蕎麦居酒屋を開くといい、
店に置く日本酒を探したいからご一緒しましょうと
声をかけてくださった。
だらしのない飲兵衛もお役に立てるならとよろこんで、
待ち合わせをして会場をまわった。
早い時間に出かけたのに、すでに利き猪口片手に
酒を求める人の姿が多い。
あちこちで声をかけられ振り向けば、
顔見知りの飲み屋の方々で、みなさん開店前に
酒の味をたしかめているとわかる。
気に入りの顔馴染みのお蔵さんをまわり、
好い縁ができますよう。
若旦那ご夫婦を紹介しながら利き酒をした。
イベントもおわり、秋の冷え込み
ますます増して来るころに、
いよいよ新酒の造りの時となる。
良い米は手に入りましたか。
まずは蔵の掃除が大変ですね。
寒さ厳しい冬を乗り切って、無事旨い酒を醸せますように。
ほとほと思いを馳せながら酌みつづけることとなる。

紅葉を待って
神無月 三
秋の気配も色濃くなってきた。
早朝冷え込んだ空気の中を散歩すれば、
城山公園の桜の木々も赤く色づきはじめている。
行楽シーズンをむかえ、善光寺にも御朝事に足を運ぶ
観光客の姿が多い。
十月十六日は、住んでいる町の秋祭りが行われた。
長野市でいちばんさいごの祭りで、
町内をにぎやかに神輿がねり歩き、
神楽のかろやかな音色が響きわたる。
祭りがおわり、町にいつもの静けさが戻れば
あとは深まる秋を眺めて過ごすこととなる。
休みの日、バイクにまたがって高山村まで出かけた。
松川渓谷の紅葉を思い出し、久しぶりにと飛んでいったのだった。
須坂を抜けて、坂道をぐんぐん上がってゆく。
道沿いに古い神社があったから、バイクを停めて
境内へ入ってみた。
子安神社、拝殿には子宝安産の神様とあり、
ざんねんながらご縁がありませんと頭をさげた。
山田温泉が近づくにつれ、県外ナンバーの車も増えて
紅葉を楽しみに遠路はるばる来たとわかる。
それなのに橋の上から目にすれば、
渓谷の緑は紅葉にはまだ早く、
確かめてから来ればよかったとしょぼんとなった。
雷滝まで足を伸ばせば、バスや車がたくさん停まり、
おじいさんやおばあさんの団体でにぎわっていた。
温泉街の土産物屋で地元の牛乳を飲んでひと息ついて
坂道を下りた。
道沿いの蕨温泉に立ち寄ったら、ここまでは観光客の姿もなく
地元のおじさんたちに混ざって浸かり手足を伸ばす。
紅葉にはふられたものの、
おだやかな秋日和に山里の静かな景色を楽しめたから
これはこれで好しとしたいとくつろいだ。
後日訪ねてきた人が、戸隠、今が見頃ですと教えてくれた。
それでは今度の休みはそちらへと決めて、
その次は、ふたたびの松川渓谷をわすれない。

秋の気配も色濃くなってきた。
早朝冷え込んだ空気の中を散歩すれば、
城山公園の桜の木々も赤く色づきはじめている。
行楽シーズンをむかえ、善光寺にも御朝事に足を運ぶ
観光客の姿が多い。
十月十六日は、住んでいる町の秋祭りが行われた。
長野市でいちばんさいごの祭りで、
町内をにぎやかに神輿がねり歩き、
神楽のかろやかな音色が響きわたる。
祭りがおわり、町にいつもの静けさが戻れば
あとは深まる秋を眺めて過ごすこととなる。
休みの日、バイクにまたがって高山村まで出かけた。
松川渓谷の紅葉を思い出し、久しぶりにと飛んでいったのだった。
須坂を抜けて、坂道をぐんぐん上がってゆく。
道沿いに古い神社があったから、バイクを停めて
境内へ入ってみた。
子安神社、拝殿には子宝安産の神様とあり、
ざんねんながらご縁がありませんと頭をさげた。
山田温泉が近づくにつれ、県外ナンバーの車も増えて
紅葉を楽しみに遠路はるばる来たとわかる。
それなのに橋の上から目にすれば、
渓谷の緑は紅葉にはまだ早く、
確かめてから来ればよかったとしょぼんとなった。
雷滝まで足を伸ばせば、バスや車がたくさん停まり、
おじいさんやおばあさんの団体でにぎわっていた。
温泉街の土産物屋で地元の牛乳を飲んでひと息ついて
坂道を下りた。
道沿いの蕨温泉に立ち寄ったら、ここまでは観光客の姿もなく
地元のおじさんたちに混ざって浸かり手足を伸ばす。
紅葉にはふられたものの、
おだやかな秋日和に山里の静かな景色を楽しめたから
これはこれで好しとしたいとくつろいだ。
後日訪ねてきた人が、戸隠、今が見頃ですと教えてくれた。
それでは今度の休みはそちらへと決めて、
その次は、ふたたびの松川渓谷をわすれない。

体を動かして
神無月 二
すっかり秋めいた陽気になった。
近所の木々も、紅葉のはじめの気配を出している。
仕事を終えてランニングをすれば、
涼しくなった空気が肌に心地好い。
この頃ランニングを始めた友だちがいる。
汗をかくのは気持ちがいいねえと、
週に三日走っているという。
コンビニエンスストアの店長をしている人で、
毎日気の利かないスタッフのおかげで
ストレスがたまっているというから、走って汗を流すのが
いい発散になっているのかもしれない。
体と気持ちの在りようはつながっているものとわかる。
高校時代の同級生が訪ねてきた。
この頃体が重たくてというから眺めれば、
この間会ったときよりも顔が丸みをおびている。
三年前に病気をしたときに、それまで吸っていた煙草をやめた。
ご飯が美味しく食べられるようになり、体重が増えたという。
着ていたシャツやズボンが合わなくなって昨年サイズを変えたのに、
それもまたきつくなってきてと困った顔をする。
すこし運動でもしたらどうかといえば、
休日にはいつも、犬の散歩がてら歩いているという。
どれくらいと尋ねたら、二十分くらいというから、
そんなのは歩いたうちに入らないとあきれた。
大きな公園のある閑静な住宅街に住んでいる。
ランニングをするのに好いところだから、走って汗を流したらとすすめたら、
冗談じゃない、いちばん苦手なことと大きく首を横に振る。
車に乗ることすくなくして、通勤を歩きか自転車にしたらといっても、
一日仕事をしたあとに、そんな体力残ってないと
これまたあっさり拒否をされて、こりゃあだめだとあきらめた。
自分で会社を経営している人だから、そうやって社長の貫禄たっぷりに
肥えていくのだなあと出っ張ってきた腹に目をやった。

すっかり秋めいた陽気になった。
近所の木々も、紅葉のはじめの気配を出している。
仕事を終えてランニングをすれば、
涼しくなった空気が肌に心地好い。
この頃ランニングを始めた友だちがいる。
汗をかくのは気持ちがいいねえと、
週に三日走っているという。
コンビニエンスストアの店長をしている人で、
毎日気の利かないスタッフのおかげで
ストレスがたまっているというから、走って汗を流すのが
いい発散になっているのかもしれない。
体と気持ちの在りようはつながっているものとわかる。
高校時代の同級生が訪ねてきた。
この頃体が重たくてというから眺めれば、
この間会ったときよりも顔が丸みをおびている。
三年前に病気をしたときに、それまで吸っていた煙草をやめた。
ご飯が美味しく食べられるようになり、体重が増えたという。
着ていたシャツやズボンが合わなくなって昨年サイズを変えたのに、
それもまたきつくなってきてと困った顔をする。
すこし運動でもしたらどうかといえば、
休日にはいつも、犬の散歩がてら歩いているという。
どれくらいと尋ねたら、二十分くらいというから、
そんなのは歩いたうちに入らないとあきれた。
大きな公園のある閑静な住宅街に住んでいる。
ランニングをするのに好いところだから、走って汗を流したらとすすめたら、
冗談じゃない、いちばん苦手なことと大きく首を横に振る。
車に乗ることすくなくして、通勤を歩きか自転車にしたらといっても、
一日仕事をしたあとに、そんな体力残ってないと
これまたあっさり拒否をされて、こりゃあだめだとあきらめた。
自分で会社を経営している人だから、そうやって社長の貫禄たっぷりに
肥えていくのだなあと出っ張ってきた腹に目をやった。

こりずに散財しそうな。
神無月 一
九月は散財つづきですごしてしまった。
酒飲みの身に、いつも以上に飲み会が多く、
月の初めにすでに十二個の予定が入っていた。
定例の飲み会がふたつに、馴染みの飲み屋での
日本酒の会がふたつ。
中学校の同級会に、友だちがらみのイベントがふたつ。
飲み仲間との集まりが五つで、
そのほかに急なお誘いもあったから、
二日に一回飲みに出ていたこととなり、さすがに疲れた。
バイクで散歩に出かけたときに、行った先の温泉にバイクを停めて
ホルダーにヘルメットをぶらさげてひと風呂浴びて戻ってきたら、
マフラーにヘルメットが触れていて、
くっきり熱で溶けてみじめなすがたになっていて
買ってまだ間もなかったのに、新しいのを買うはめになった。
いたって健康で、肩こりで整骨院へいくぐらいしか
お医者の世話になっていなかったのに、
夏の半ばごろからたびたびめまいを起こすようになった。
いよいよアルコールが脳にまわったかと心配になり
大きな病院で細かい検査をしてもらった。
幸いどこにも異常はないといわれたものの、
相変わらずときどきくらっとするときがある。
五十歳になればこんなこともあると、
あまり気にせず構えている。
ときどき町を走っていて、新しいランニングシューズを
買ったのだった。
値段の安さに惹かれて買ったものの、足に合わず
血豆ができたり皮がむけたりと、痛い目にあいしくじった。
しょうがないと奮発して、もう少し値段の高いものを買ってみたら
履き心地好く、喜んでいたのもつかの間のこと、
休日の朝、走ったあとに洗って玄関脇に干して、
近所の温泉で汗を流して帰ってきたらなくなっていた。
まだ二回しか履いていなかったのにと
なくなくまた買う羽目になってしまった。
飲み会に、予定外の出費もあって、
月末には懐にもすっかりさびしい秋の風が吹いていたのだった。
十月はもうすこし切り詰めてと思っていたはずなのに
気がつけばすでに飲み会の予定が八個入っていて、
これも自業自得となさけない。
開き直って、せいぜい旨い酒を酌むと言い聞かす。

九月は散財つづきですごしてしまった。
酒飲みの身に、いつも以上に飲み会が多く、
月の初めにすでに十二個の予定が入っていた。
定例の飲み会がふたつに、馴染みの飲み屋での
日本酒の会がふたつ。
中学校の同級会に、友だちがらみのイベントがふたつ。
飲み仲間との集まりが五つで、
そのほかに急なお誘いもあったから、
二日に一回飲みに出ていたこととなり、さすがに疲れた。
バイクで散歩に出かけたときに、行った先の温泉にバイクを停めて
ホルダーにヘルメットをぶらさげてひと風呂浴びて戻ってきたら、
マフラーにヘルメットが触れていて、
くっきり熱で溶けてみじめなすがたになっていて
買ってまだ間もなかったのに、新しいのを買うはめになった。
いたって健康で、肩こりで整骨院へいくぐらいしか
お医者の世話になっていなかったのに、
夏の半ばごろからたびたびめまいを起こすようになった。
いよいよアルコールが脳にまわったかと心配になり
大きな病院で細かい検査をしてもらった。
幸いどこにも異常はないといわれたものの、
相変わらずときどきくらっとするときがある。
五十歳になればこんなこともあると、
あまり気にせず構えている。
ときどき町を走っていて、新しいランニングシューズを
買ったのだった。
値段の安さに惹かれて買ったものの、足に合わず
血豆ができたり皮がむけたりと、痛い目にあいしくじった。
しょうがないと奮発して、もう少し値段の高いものを買ってみたら
履き心地好く、喜んでいたのもつかの間のこと、
休日の朝、走ったあとに洗って玄関脇に干して、
近所の温泉で汗を流して帰ってきたらなくなっていた。
まだ二回しか履いていなかったのにと
なくなくまた買う羽目になってしまった。
飲み会に、予定外の出費もあって、
月末には懐にもすっかりさびしい秋の風が吹いていたのだった。
十月はもうすこし切り詰めてと思っていたはずなのに
気がつけばすでに飲み会の予定が八個入っていて、
これも自業自得となさけない。
開き直って、せいぜい旨い酒を酌むと言い聞かす。
