暖かな日に
如月 5
寒さの合間に、暖かな日が、
ちらほら顔を出すようになった。
早朝、県庁のわきを抜けて、裾花川沿いの堤防を
散歩した。
日の出間近の、柔らかな空気に触れながら
歩いていると、
雪解け水の流れの響きが、
なんとも耳に心地よい。
懐かしく温かく、春が来るなあと思えるのだった。
ひとまわりして自宅に戻ったら、
母から電話がかかってきた。
ツルヤのちらし寿司が食べたいから
買ってきておくれという。
開店時間を見計らって、平林街道のツルヤへ
出向いた。
ちらし寿司に春雨サラダをかごに入れて、
菓子と飲み物を物色していたら、
母方のいとことバッタリ出くわした。
あれまあひさしぶり、みなさん元気にしてますかあ。
3年半ぶりの再会に、
お互いの、身うちの近況報告となった。
かつて仕事で世話になったかたが、
善光寺の仲見世でカフェを営んでいるといい、
ときどきお茶を飲みがてら、お参りに来ているという。
観光客が少なくて、どこの店も大変そうだけど、
かつての、古刹のしずかな趣きが戻ってきて、
それはそれで好いという。
日ごろ、俳句や短歌にいそしんで、
ときどき新聞にも作品が掲載される人だった。
わびさびを好む気持ちに、騒々しい外人客の訪問は、
そぐわないのだった。
母の住む介護施設へ買い物袋を届け、
近所のイタリアンで昼酒をして、
昼寝から覚めた夕暮れどき、
ひとまわり近所を散歩する。
完成間近な、県立美術館の白梅が、
ぽつぽつほころんでいて、気持ちを癒してくれた。
穏やかな陽気だった一日の余韻が、
善光寺の境内を静かにつつんでいる。
早々に春向きの服も買ったことだし。
待ち遠しかった春の訪れなのだった。

寒さの合間に、暖かな日が、
ちらほら顔を出すようになった。
早朝、県庁のわきを抜けて、裾花川沿いの堤防を
散歩した。
日の出間近の、柔らかな空気に触れながら
歩いていると、
雪解け水の流れの響きが、
なんとも耳に心地よい。
懐かしく温かく、春が来るなあと思えるのだった。
ひとまわりして自宅に戻ったら、
母から電話がかかってきた。
ツルヤのちらし寿司が食べたいから
買ってきておくれという。
開店時間を見計らって、平林街道のツルヤへ
出向いた。
ちらし寿司に春雨サラダをかごに入れて、
菓子と飲み物を物色していたら、
母方のいとことバッタリ出くわした。
あれまあひさしぶり、みなさん元気にしてますかあ。
3年半ぶりの再会に、
お互いの、身うちの近況報告となった。
かつて仕事で世話になったかたが、
善光寺の仲見世でカフェを営んでいるといい、
ときどきお茶を飲みがてら、お参りに来ているという。
観光客が少なくて、どこの店も大変そうだけど、
かつての、古刹のしずかな趣きが戻ってきて、
それはそれで好いという。
日ごろ、俳句や短歌にいそしんで、
ときどき新聞にも作品が掲載される人だった。
わびさびを好む気持ちに、騒々しい外人客の訪問は、
そぐわないのだった。
母の住む介護施設へ買い物袋を届け、
近所のイタリアンで昼酒をして、
昼寝から覚めた夕暮れどき、
ひとまわり近所を散歩する。
完成間近な、県立美術館の白梅が、
ぽつぽつほころんでいて、気持ちを癒してくれた。
穏やかな陽気だった一日の余韻が、
善光寺の境内を静かにつつんでいる。
早々に春向きの服も買ったことだし。
待ち遠しかった春の訪れなのだった。
歳のかさねかたが
如月 4
日々、髪を切らせていただいて、
生計を立てている。
朝いちばん、近所のかたが
訪ねてきてくれた。
毎月2回、足を運んでくれるかただった。
今日は髪を切ってから、温泉に行くという。
週に3回、車で10分のスーパー銭湯に
通っているのだった。
源泉かけ流しの湯のおかげで
御年85歳になるというのに、お顔にしわもなく、
つるつるときれいな肌をしている。
声をかけあう常連さんもできて、
話し相手になってくれるのがありがたい。
ところが、ちょっと前に知り合ったかたがいて、
それが面倒くさくてというのだった。
会うたびに、息子の嫁に仲の悪いご近所さんに、
パート先の同僚に上司、まわりの人のつまらない
悪口を、延々聞かされるという。
悪口ばかり言っているから、顔つき目つきも良くなくて、
見るだけで、こちらの気も滅入ってしまう。
この頃は時間をずらして、
会わないようにしているというのだった。
この歳になったら、
いつあの世へ行くかわかんないんだから、
悪いことばかり考えないで、、
明るく楽しく過ごさなきゃという。
お言葉どおり、
毎朝友だちとヨガ体操をしたり、2キロ先のスーパーまで
歩いて出かけたり、
いろんな料理を作っては、
ときどきおすそ分けを持ってきてくれたりもする。
うなぎや寿司にイタリアン、美味しい店を見つけると、
そのたびに、嬉しそうに報告してくれるかただった。
昨年、コロナの給付金の10万円をもらったときは、
近所の肉屋で、
最高の霜ふり牛のステーキを買ったという。。
すごーい美味しかったわと、
ほれぼれ感動をあらわにしていた。
心身無理のかからぬ身近な範囲で、
体を動かして、気持ち豊かな暮らしをしているかたは、
こちらもお会いして、話をするのが楽しいことだった。
お客さん商売をしていると、
そんなかたばかりが来てくれると限らない。
中には、ぐったりと気を持っていかれ、
帰ったあとに、窓や玄関の戸を開けて、
部屋の空気を入れ替えなきゃというかたもいる。
良きにつけ悪しきにつけ、
まわりのかたに、歳のかさねかたが大事ですと
教えられている。
気楽なヨッパの身でも、
一応、この歳なりきに積もった屈託があって、
杯をかさねすぎると、
むくむくと思い出してしまうらしい。
酔ってぶつぶつ独り言を愚痴ってるときがありますよ。
以前、馴染みの飲み屋のご主人に、
注意をされてしまったのだった。歳かさね、
身近なかたにつまらん思いをさせぬよう、
気をつけにゃあ,あかんのだった。

日々、髪を切らせていただいて、
生計を立てている。
朝いちばん、近所のかたが
訪ねてきてくれた。
毎月2回、足を運んでくれるかただった。
今日は髪を切ってから、温泉に行くという。
週に3回、車で10分のスーパー銭湯に
通っているのだった。
源泉かけ流しの湯のおかげで
御年85歳になるというのに、お顔にしわもなく、
つるつるときれいな肌をしている。
声をかけあう常連さんもできて、
話し相手になってくれるのがありがたい。
ところが、ちょっと前に知り合ったかたがいて、
それが面倒くさくてというのだった。
会うたびに、息子の嫁に仲の悪いご近所さんに、
パート先の同僚に上司、まわりの人のつまらない
悪口を、延々聞かされるという。
悪口ばかり言っているから、顔つき目つきも良くなくて、
見るだけで、こちらの気も滅入ってしまう。
この頃は時間をずらして、
会わないようにしているというのだった。
この歳になったら、
いつあの世へ行くかわかんないんだから、
悪いことばかり考えないで、、
明るく楽しく過ごさなきゃという。
お言葉どおり、
毎朝友だちとヨガ体操をしたり、2キロ先のスーパーまで
歩いて出かけたり、
いろんな料理を作っては、
ときどきおすそ分けを持ってきてくれたりもする。
うなぎや寿司にイタリアン、美味しい店を見つけると、
そのたびに、嬉しそうに報告してくれるかただった。
昨年、コロナの給付金の10万円をもらったときは、
近所の肉屋で、
最高の霜ふり牛のステーキを買ったという。。
すごーい美味しかったわと、
ほれぼれ感動をあらわにしていた。
心身無理のかからぬ身近な範囲で、
体を動かして、気持ち豊かな暮らしをしているかたは、
こちらもお会いして、話をするのが楽しいことだった。
お客さん商売をしていると、
そんなかたばかりが来てくれると限らない。
中には、ぐったりと気を持っていかれ、
帰ったあとに、窓や玄関の戸を開けて、
部屋の空気を入れ替えなきゃというかたもいる。
良きにつけ悪しきにつけ、
まわりのかたに、歳のかさねかたが大事ですと
教えられている。
気楽なヨッパの身でも、
一応、この歳なりきに積もった屈託があって、
杯をかさねすぎると、
むくむくと思い出してしまうらしい。
酔ってぶつぶつ独り言を愚痴ってるときがありますよ。
以前、馴染みの飲み屋のご主人に、
注意をされてしまったのだった。歳かさね、
身近なかたにつまらん思いをさせぬよう、
気をつけにゃあ,あかんのだった。
上田が恋しくて
如月 3
上田へ出かけた。町を散策して、
東横インでチェックインを済ませた日暮れどき、
久しぶりに花壱で、赤ナマコと生しらうおと生たこで、
地酒の杯をかさねた。
はしご酒に、ホテルの近くの幸村に寄ったのに、
なにを食べて飲んで、ご主人となにを話したのか、
翌朝、さっぱりと記憶がなかった。
ホテルを出て、上田に暮らす友だちと落ち合う。
イケメンのマスターが営むヴァシランド・コーヒーは、
白い壁に、木のぬくもりが感じられる落ちついた店だった。
旨いコーヒーを飲みながら、
ランチをどこでしようか算段をしていたら、
駅前の蕎麦屋、東都庵の女将さんが入ってきた。
挨拶をして、東都庵で昼酒を。あっさりと決まった。
店を出てしばし、しずかな旧道を歩いていく。
おなじ城下町でも、岳都の松本は、北アルプスからの
冷涼な風が吹きおろすから、
町の気配がきりっとしている。
かたや上田の町はといえば、
来るたびに、なんとものどかな気配が感じられる。
そんな話をしたら、友だちが、
だって上田は太郎山だもんというのだった。
町の北に位置する太郎山は、のんびりとした構えの
里山だった。
吹く風が、町をのどかに包んでいると、
合点がいったのだった。
ものぐさで緊張感のない身には、
この町の気配がまことに馴染むことで、
パソコンで上田の空き家物件を眺めては、
お金があればなあと、ため息をついている。
初対面の、友だちの知人と合流して、
東都庵へ向かう。天神通りを歩いていくと、
明治屋のとなりのシャッターに
「天神ブリュワリー。上田地域初の、
飲食店併設の地ビール醸造所計画地」と貼り紙があり、
まじっすか!
上田に来る楽しみが、また増えてしまったではないか。
ビルの階段を下りて、先ほどはどうも。
女将さんに挨拶をして、ビールで乾杯をする。
東都庵は、蕎麦も旨いが、酒と肴の品ぞろえが好い。
馬刺しと、野沢菜の天ぷらとちくわの天ぷらに、
女将さんの御好意の、蕗玉の天ぷらで、
お銚子を並べていった。
バスで帰る友だちの知人を見送って、
友だち御用たしの、内山魚店に連れて行ってもらった。
魚のほかにも、自家製のおかずが店に並び、
この日、目当ての数の子入りひたしマメはなかったものの、
友だちに、貝の煮つけとでかい玉子焼きを買ってもらった。
帰宅して、酒を酌みながらつついた玉子焼きは、
子供のころを思い出す、甘くてなつかしい味だった。
フォローした内山さんのインスタグラムを見ていると、
連日、旨そうな魚と肴がアップされてくる。
いてもたってもいられずに、
上田へ行きたくなったしまうのだった。

上田へ出かけた。町を散策して、
東横インでチェックインを済ませた日暮れどき、
久しぶりに花壱で、赤ナマコと生しらうおと生たこで、
地酒の杯をかさねた。
はしご酒に、ホテルの近くの幸村に寄ったのに、
なにを食べて飲んで、ご主人となにを話したのか、
翌朝、さっぱりと記憶がなかった。
ホテルを出て、上田に暮らす友だちと落ち合う。
イケメンのマスターが営むヴァシランド・コーヒーは、
白い壁に、木のぬくもりが感じられる落ちついた店だった。
旨いコーヒーを飲みながら、
ランチをどこでしようか算段をしていたら、
駅前の蕎麦屋、東都庵の女将さんが入ってきた。
挨拶をして、東都庵で昼酒を。あっさりと決まった。
店を出てしばし、しずかな旧道を歩いていく。
おなじ城下町でも、岳都の松本は、北アルプスからの
冷涼な風が吹きおろすから、
町の気配がきりっとしている。
かたや上田の町はといえば、
来るたびに、なんとものどかな気配が感じられる。
そんな話をしたら、友だちが、
だって上田は太郎山だもんというのだった。
町の北に位置する太郎山は、のんびりとした構えの
里山だった。
吹く風が、町をのどかに包んでいると、
合点がいったのだった。
ものぐさで緊張感のない身には、
この町の気配がまことに馴染むことで、
パソコンで上田の空き家物件を眺めては、
お金があればなあと、ため息をついている。
初対面の、友だちの知人と合流して、
東都庵へ向かう。天神通りを歩いていくと、
明治屋のとなりのシャッターに
「天神ブリュワリー。上田地域初の、
飲食店併設の地ビール醸造所計画地」と貼り紙があり、
まじっすか!
上田に来る楽しみが、また増えてしまったではないか。
ビルの階段を下りて、先ほどはどうも。
女将さんに挨拶をして、ビールで乾杯をする。
東都庵は、蕎麦も旨いが、酒と肴の品ぞろえが好い。
馬刺しと、野沢菜の天ぷらとちくわの天ぷらに、
女将さんの御好意の、蕗玉の天ぷらで、
お銚子を並べていった。
バスで帰る友だちの知人を見送って、
友だち御用たしの、内山魚店に連れて行ってもらった。
魚のほかにも、自家製のおかずが店に並び、
この日、目当ての数の子入りひたしマメはなかったものの、
友だちに、貝の煮つけとでかい玉子焼きを買ってもらった。
帰宅して、酒を酌みながらつついた玉子焼きは、
子供のころを思い出す、甘くてなつかしい味だった。
フォローした内山さんのインスタグラムを見ていると、
連日、旨そうな魚と肴がアップされてくる。
いてもたってもいられずに、
上田へ行きたくなったしまうのだった。
上田で春の気配を
如月 2
休日の昼どき、上田へ出かけた。
駅前の東横インに荷物を預け、
久しぶりに、上田名物の焼きそばでもと、
袋町の日昇亭へ行く。ところが店の前に
順番待ちの人が並んでいて、満席とわかる。
あいかわらずの盛況ぶりに思いなおして、
海野町の檸檬へ向かった。
以前、映画「青天の霹靂」のロケを
上田でおこなった際、主演の大泉洋さんが、
この店の焼きそばを絶賛していたのだった。
初めての店に入ったら、こちらはお客がいなくて、
すんなりと席に落ちつく。
店内には有名人の色紙が飾ってあって、
大泉さんの色紙には、
僕はここの麺が好きなんだな。
まっ、中でも焼きそばだよね。と、
焼きそば愛がつづってある。
ビールを飲みながら食べた五目焼きそばは、
ふんわりとやさしい味わいで、油がつよくなく、
絶賛どおりの美味しさだった。
酢豚に八宝菜にエビのチリソース煮など、
ほかのメニューにもそそられて、
なぜだか、山形の銘酒、
初孫が品書きにあるのも好い。
早々に再訪したい気分になってしまった。
店を出て、横町の信号を渡って、あてもなく歩いていくと、
53歳の若さでコロナで亡くなった、
羽田雄一郎さんの事務所があった。
入口の看板の笑顔の写真が、
なんともせつなく見えてしまった。
材木町2丁目の信号を左に折れていくと、
細い川に沿った小路があった。
入口に、近所の自治会が川をきれいに
しているとあり、
さらさらと、きれいな流れがつづいている。
押出川といい、春には花桃が川沿いに咲き並び、
夏には蛍が舞うという。
上田の町はあちこちに、川が流れていて、
ちいさな橋がかかっていたり、
しずかな流れの音が聞こえたり、
昔の面影が残る町なみに、
趣きを添えているのが好いのだった。
小路の突き当りの月窓寺でお参りをして、
ちょいと上がって本陽寺の境内へ行く。
境内にある、たちばな幼稚園には、
かつてちいさな友だちが通っていた。
現在小学3年生。
変わらず見守ってくれますよう、
本堂の仏さまに手を合わせた。
境内を出て、馬場町をすぎてまっすぐ行けば、
じきに城跡公園に着く。
園内の紅梅に目をやれば、すでにぽつぽつ
咲いていたのだった。
そっと春の訪れが、身近に感じられたことだった。

休日の昼どき、上田へ出かけた。
駅前の東横インに荷物を預け、
久しぶりに、上田名物の焼きそばでもと、
袋町の日昇亭へ行く。ところが店の前に
順番待ちの人が並んでいて、満席とわかる。
あいかわらずの盛況ぶりに思いなおして、
海野町の檸檬へ向かった。
以前、映画「青天の霹靂」のロケを
上田でおこなった際、主演の大泉洋さんが、
この店の焼きそばを絶賛していたのだった。
初めての店に入ったら、こちらはお客がいなくて、
すんなりと席に落ちつく。
店内には有名人の色紙が飾ってあって、
大泉さんの色紙には、
僕はここの麺が好きなんだな。
まっ、中でも焼きそばだよね。と、
焼きそば愛がつづってある。
ビールを飲みながら食べた五目焼きそばは、
ふんわりとやさしい味わいで、油がつよくなく、
絶賛どおりの美味しさだった。
酢豚に八宝菜にエビのチリソース煮など、
ほかのメニューにもそそられて、
なぜだか、山形の銘酒、
初孫が品書きにあるのも好い。
早々に再訪したい気分になってしまった。
店を出て、横町の信号を渡って、あてもなく歩いていくと、
53歳の若さでコロナで亡くなった、
羽田雄一郎さんの事務所があった。
入口の看板の笑顔の写真が、
なんともせつなく見えてしまった。
材木町2丁目の信号を左に折れていくと、
細い川に沿った小路があった。
入口に、近所の自治会が川をきれいに
しているとあり、
さらさらと、きれいな流れがつづいている。
押出川といい、春には花桃が川沿いに咲き並び、
夏には蛍が舞うという。
上田の町はあちこちに、川が流れていて、
ちいさな橋がかかっていたり、
しずかな流れの音が聞こえたり、
昔の面影が残る町なみに、
趣きを添えているのが好いのだった。
小路の突き当りの月窓寺でお参りをして、
ちょいと上がって本陽寺の境内へ行く。
境内にある、たちばな幼稚園には、
かつてちいさな友だちが通っていた。
現在小学3年生。
変わらず見守ってくれますよう、
本堂の仏さまに手を合わせた。
境内を出て、馬場町をすぎてまっすぐ行けば、
じきに城跡公園に着く。
園内の紅梅に目をやれば、すでにぽつぽつ
咲いていたのだった。
そっと春の訪れが、身近に感じられたことだった。
2月になって
如月 1
久しぶりのかたが訪ねて来た。
お元気でしたかと近況をうかがえば、
この頃アルバイトをしているという。
東急の食堂街にある、
干物ダイニング・まるたけさんで
働いているというのだった。
房総半島で獲れた、魚の干物を提供していて、
とてもおいしいですから来てくださいという。
東急はときどき買い物に行くものの、
食堂街は、ここ何年も足を運んでいなかった。
そんな店ができたことも知らずにいたのだった。
酒飲みで干物のきらいな人はいない。
そそられて、その日の夕方さっそくおじゃました。
久しぶりの食堂街は、食事どきの時間というのに、
人の姿がない。
コロナの収まりが見えぬ中、
みんな外出を控えているから、
飲食店はどこも不況にあえいでいる。
大変なことと、眺めるたびに思ってしまう。
カウンターに落ちついて、生ビールを飲みながら
品書きを覗けば、
あじにさば、かますにほっけにきんきなどの
干物を焼いたのが、単品と定食で。
ほかにも、
手づくりさつま揚げやら味付けあさりの玉子焼きやら,
なめろうを焼いたさんが焼きやら、
飲兵衛をそそる肴が並ぶ。
酒の品ぞろえもよく、
でかいあじの干物を突っつきながら、
秋田の銘酒、雪の茅舎の新酒を酌んだ。
月が変わり如月初日。
寝坊をして、のんびりと外へ出たら、雲ひとつない晴天に、
清々と気持ちが好い。
2月のひと月をすぎれば、いよいよ春の気配も増してくる。
というか、目と鼻がすでにぐずぐずで、
花粉の到来が春を教えてくれている。
先の見えない世の中だけど、美味しいものを食べながら、
梅を愛で、桜を愛でて、
明るくこの春を。
往きたいと思う次第だった。

久しぶりのかたが訪ねて来た。
お元気でしたかと近況をうかがえば、
この頃アルバイトをしているという。
東急の食堂街にある、
干物ダイニング・まるたけさんで
働いているというのだった。
房総半島で獲れた、魚の干物を提供していて、
とてもおいしいですから来てくださいという。
東急はときどき買い物に行くものの、
食堂街は、ここ何年も足を運んでいなかった。
そんな店ができたことも知らずにいたのだった。
酒飲みで干物のきらいな人はいない。
そそられて、その日の夕方さっそくおじゃました。
久しぶりの食堂街は、食事どきの時間というのに、
人の姿がない。
コロナの収まりが見えぬ中、
みんな外出を控えているから、
飲食店はどこも不況にあえいでいる。
大変なことと、眺めるたびに思ってしまう。
カウンターに落ちついて、生ビールを飲みながら
品書きを覗けば、
あじにさば、かますにほっけにきんきなどの
干物を焼いたのが、単品と定食で。
ほかにも、
手づくりさつま揚げやら味付けあさりの玉子焼きやら,
なめろうを焼いたさんが焼きやら、
飲兵衛をそそる肴が並ぶ。
酒の品ぞろえもよく、
でかいあじの干物を突っつきながら、
秋田の銘酒、雪の茅舎の新酒を酌んだ。
月が変わり如月初日。
寝坊をして、のんびりと外へ出たら、雲ひとつない晴天に、
清々と気持ちが好い。
2月のひと月をすぎれば、いよいよ春の気配も増してくる。
というか、目と鼻がすでにぐずぐずで、
花粉の到来が春を教えてくれている。
先の見えない世の中だけど、美味しいものを食べながら、
梅を愛で、桜を愛でて、
明るくこの春を。
往きたいと思う次第だった。