旅立つ春
弥生 十一
新年度が近くなり、新しい場所へと旅立つ人がいる。
町内に双子の男の子がいる。
この春から、二人そろって無事の大学進学と相成った。
お兄さんは三月の下旬まで受験の結果定まらず、
ずいぶんやきもきしていたものの、
晴れて東京の大学へ進路が決まり、弁護士の将来を目指すという。
弟さんは高校の三年間、サッカーにあけくれていた。
県下でも強い学校だったから、勉強まで手がまわらず、
三年生の夏にサッカー生活が終わってから、猛勉強が始まった。
半年間の追い上げが実り、見事志望校に合格できたのは
サッカーで鍛えた忍耐力と集中力のたまものと感心をした。
おだやかな海の町で、動物のお医者さんを目指すという。
朝から春らしい陽気の日、
お兄さんが、今日出発しますと挨拶に来てくれた。
わざわざ顔を出してくれるその気持ちがうれしいぞ。
体に気をつけてがんばってと見送った。
馴染みのおでん屋の常連さんにドコモの課長さんがいる。
ひとりで飲んでいるところに会えば、
いっしょに酌み交わさせていただいた。
ときどき部下の方々引き連れて、飲みに来ているときがあった。
楽しそうに顔を真っ赤に酔っているさまは、
ともに働いてくれる方々への好意が感じられ、
眺めているこちらも、燗酒の好い肴にさせていただいた。
電話がらみの困りごとがあった時は、
ずいぶんときめ細かく面倒を見ていただき
人との関わりひとつ見ても、縁を大事にする方とわかり
知り合えたのがありがたかった。
この春から東京への転勤が決まり、
他の顔馴染みの常連さんも交え、送別会をやることになった。
ところが当日おでん屋に出かけたら、部下の身内に不幸があって
遠路、お悔やみに行かなくてはならないと連絡がある。
不測のことはしょうがない。
地震の影響で転勤も一ヶ月伸びたというから、
また来月、盛大に仕切りなおしですなと言いながら
主賓のいない席で集まった方々と酩酊した。
春、住む場所や仕事の変わる人もいれば
同じ場所で同じ仕事をしてゆく人もいる。
桜の季節を迎えるたびに、今年の春に生きのびられた気持ちになる。
ひとりひとり、気持ち新たに迎える春と思う。
新年度が近くなり、新しい場所へと旅立つ人がいる。
町内に双子の男の子がいる。
この春から、二人そろって無事の大学進学と相成った。
お兄さんは三月の下旬まで受験の結果定まらず、
ずいぶんやきもきしていたものの、
晴れて東京の大学へ進路が決まり、弁護士の将来を目指すという。
弟さんは高校の三年間、サッカーにあけくれていた。
県下でも強い学校だったから、勉強まで手がまわらず、
三年生の夏にサッカー生活が終わってから、猛勉強が始まった。
半年間の追い上げが実り、見事志望校に合格できたのは
サッカーで鍛えた忍耐力と集中力のたまものと感心をした。
おだやかな海の町で、動物のお医者さんを目指すという。
朝から春らしい陽気の日、
お兄さんが、今日出発しますと挨拶に来てくれた。
わざわざ顔を出してくれるその気持ちがうれしいぞ。
体に気をつけてがんばってと見送った。
馴染みのおでん屋の常連さんにドコモの課長さんがいる。
ひとりで飲んでいるところに会えば、
いっしょに酌み交わさせていただいた。
ときどき部下の方々引き連れて、飲みに来ているときがあった。
楽しそうに顔を真っ赤に酔っているさまは、
ともに働いてくれる方々への好意が感じられ、
眺めているこちらも、燗酒の好い肴にさせていただいた。
電話がらみの困りごとがあった時は、
ずいぶんときめ細かく面倒を見ていただき
人との関わりひとつ見ても、縁を大事にする方とわかり
知り合えたのがありがたかった。
この春から東京への転勤が決まり、
他の顔馴染みの常連さんも交え、送別会をやることになった。
ところが当日おでん屋に出かけたら、部下の身内に不幸があって
遠路、お悔やみに行かなくてはならないと連絡がある。
不測のことはしょうがない。
地震の影響で転勤も一ヶ月伸びたというから、
また来月、盛大に仕切りなおしですなと言いながら
主賓のいない席で集まった方々と酩酊した。
春、住む場所や仕事の変わる人もいれば
同じ場所で同じ仕事をしてゆく人もいる。
桜の季節を迎えるたびに、今年の春に生きのびられた気持ちになる。
ひとりひとり、気持ち新たに迎える春と思う。
春の気配に
弥生 十
家飲みをした。
枝豆をつまみながら先にちびちびやっていれば
手土産持って、同業の友だちふたりやってくる。
豆腐に焼き鳥、卯の花にシュウマイにチーズ、
テーブルの上がたちまちにぎやかになる。
ストーブの上でパンを焼き、
友だち自家製のソースにつけてかじりながら
安くて旨い赤ワインと、めずらしい赤の発砲ワインを飲んだ。
テレビのニュースを見ていれば、おのずと話は震災のことになる。
用意しておいたのは東北の酒三本。
渋みの残る、桜のラベルの惣邑を味わうと、
今年の桜はことさらに待ち遠しい。
宮城の山和の栓を抜けば、初めて口にした友だちが
旨いなあと感心をする。ほんとうに。
きれいな旨みの味わいに、一升瓶があっというまに空になる。
もう一本、宮城の酒を。
思い入れのある、新澤さんの愛宕の松の栓を抜く。
この仲間で酌み交わすようになり、もう十年の上が過ぎている。
それぞれなかなか不惑の日々過ごせず、
話を聞いてもらったり、話を聞かせてもらったり。
程よい距離でつづく縁のありがたさと思う。
これからの在り方は。そこに通じる話などしながら
日付けが変わるまで盃を重ねたのは、久しぶりのことだった。
翌朝、寝坊の床から抜け出せば、さすがに頭がぼうっとしている。
雲ひとつない晴天の空眺めて、町へ走り出す。
十キロ、いつものコースを走っていくと、
陽射しのあたたかさが気持ちがいい。
三月最後の週になり、ようやく春の気配に町が包まれる。
夕べのアルコールを汗にして、ひと風呂浴びてさっぱりと、
休みの日の昼時になった。天気が良いから歩きたい。
昼飯はきらくさんの焼きそばと決めて、のんびり東へ下りてゆく。
日本酒の品揃えの良い店だから、
カウンターに腰掛けて旦那さんと話をすれば、
心配事な東北の蔵の話しになる。
復旧をめざすところもあれば、廃業を決めたところもあるという。
もつ煮と焼きそばをつまみに、小さなグラスで
山口と青森と新潟の銘柄を一杯づついただいた。
ごちそうさまと店を出て、帰りは遠回りをして歩く。
畑の間のあぜ道や、ひと気のない住宅街、
思いついたところをぶらぶらと
陽射しを受けて歩いて家へと向かった。
夕方、テレビのニュースを見ていたら、
私立図書館のろとう桜が咲いたという。
今年の春が来るのだなと思う。

家飲みをした。
枝豆をつまみながら先にちびちびやっていれば
手土産持って、同業の友だちふたりやってくる。
豆腐に焼き鳥、卯の花にシュウマイにチーズ、
テーブルの上がたちまちにぎやかになる。
ストーブの上でパンを焼き、
友だち自家製のソースにつけてかじりながら
安くて旨い赤ワインと、めずらしい赤の発砲ワインを飲んだ。
テレビのニュースを見ていれば、おのずと話は震災のことになる。
用意しておいたのは東北の酒三本。
渋みの残る、桜のラベルの惣邑を味わうと、
今年の桜はことさらに待ち遠しい。
宮城の山和の栓を抜けば、初めて口にした友だちが
旨いなあと感心をする。ほんとうに。
きれいな旨みの味わいに、一升瓶があっというまに空になる。
もう一本、宮城の酒を。
思い入れのある、新澤さんの愛宕の松の栓を抜く。
この仲間で酌み交わすようになり、もう十年の上が過ぎている。
それぞれなかなか不惑の日々過ごせず、
話を聞いてもらったり、話を聞かせてもらったり。
程よい距離でつづく縁のありがたさと思う。
これからの在り方は。そこに通じる話などしながら
日付けが変わるまで盃を重ねたのは、久しぶりのことだった。
翌朝、寝坊の床から抜け出せば、さすがに頭がぼうっとしている。
雲ひとつない晴天の空眺めて、町へ走り出す。
十キロ、いつものコースを走っていくと、
陽射しのあたたかさが気持ちがいい。
三月最後の週になり、ようやく春の気配に町が包まれる。
夕べのアルコールを汗にして、ひと風呂浴びてさっぱりと、
休みの日の昼時になった。天気が良いから歩きたい。
昼飯はきらくさんの焼きそばと決めて、のんびり東へ下りてゆく。
日本酒の品揃えの良い店だから、
カウンターに腰掛けて旦那さんと話をすれば、
心配事な東北の蔵の話しになる。
復旧をめざすところもあれば、廃業を決めたところもあるという。
もつ煮と焼きそばをつまみに、小さなグラスで
山口と青森と新潟の銘柄を一杯づついただいた。
ごちそうさまと店を出て、帰りは遠回りをして歩く。
畑の間のあぜ道や、ひと気のない住宅街、
思いついたところをぶらぶらと
陽射しを受けて歩いて家へと向かった。
夕方、テレビのニュースを見ていたら、
私立図書館のろとう桜が咲いたという。
今年の春が来るのだなと思う。

この時期に
弥生 九
学校が休みになり、路地を通る学生の姿も少なくなる。
部活にいそしむ運動着姿の子供たちが
ときどき通ってゆく。
男の子のように髪の短い女の子二人が
毎朝にこにこ話しながら学校へ行き、
昼過ぎどき、にこにこ話しながら帰ってゆく。
運動着の背中には塁球部と書いてあり、
はて、なんの種目かいなと考えて、
字面から、ソフトボールかとあたりをつけた。
震災の後、町の気配も静かになる。
行きつけの蕎麦屋さんは、お客の入りがいつもの
三分の一になったという。
薬屋さんは、発注した薬がなかなか手に入らなくなった。
飲み屋さんでは予約のキャンセルが相次ぎ
冬さながらに寒い日が続き、三月に気持ちが盛り上がらない。
遠くの町に住んでいる友だちが帰省してきた。
中学校の同級生で、もうひとり、懇意にしている友だち誘い、
三人で酌み交わした。
このたびの地震の影響で、生活にも支障があったという。
それでもこうして顔つき合わせて飲めるのはなによりのこと。
往く先々、それぞれいろんなことがあっても
会えばかわらぬ馴染んだ気持ちで話が出来る。
昨年の夏、酔ってころんで頭に切り傷こしらえた話しをしたら
次の日に、帰るたび会えるのを楽しみにしているのだから、
自分を大事にしなさいとメールが来た。
ほんとになあ。無事会えるのはなによりのこと。
古い友だちの台詞に素直になる。
甲子園で選抜大会が始まれば、春の訪れを感じるようになる。
開会式は例年より地味に静かに行なわれた。
被災地から出場した学校の行進に、ひときわ高い拍手がおくられる。
女子高生の歌う君が代が、清々と澄んだ響きで胸に染み入ってくる。
この声がはるばる天まで届いてくれればと願わずにいられない。
選手宣誓をした少年は阪神大震災の年に生まれたという。
がんばれ日本!
生かされる命に感謝して、全力でプレーをすると力づよく誓う。
それぞれの人が、被災地への思いを胸に自分と向き合う。
そんな三月がつづく。
学校が休みになり、路地を通る学生の姿も少なくなる。
部活にいそしむ運動着姿の子供たちが
ときどき通ってゆく。
男の子のように髪の短い女の子二人が
毎朝にこにこ話しながら学校へ行き、
昼過ぎどき、にこにこ話しながら帰ってゆく。
運動着の背中には塁球部と書いてあり、
はて、なんの種目かいなと考えて、
字面から、ソフトボールかとあたりをつけた。
震災の後、町の気配も静かになる。
行きつけの蕎麦屋さんは、お客の入りがいつもの
三分の一になったという。
薬屋さんは、発注した薬がなかなか手に入らなくなった。
飲み屋さんでは予約のキャンセルが相次ぎ
冬さながらに寒い日が続き、三月に気持ちが盛り上がらない。
遠くの町に住んでいる友だちが帰省してきた。
中学校の同級生で、もうひとり、懇意にしている友だち誘い、
三人で酌み交わした。
このたびの地震の影響で、生活にも支障があったという。
それでもこうして顔つき合わせて飲めるのはなによりのこと。
往く先々、それぞれいろんなことがあっても
会えばかわらぬ馴染んだ気持ちで話が出来る。
昨年の夏、酔ってころんで頭に切り傷こしらえた話しをしたら
次の日に、帰るたび会えるのを楽しみにしているのだから、
自分を大事にしなさいとメールが来た。
ほんとになあ。無事会えるのはなによりのこと。
古い友だちの台詞に素直になる。
甲子園で選抜大会が始まれば、春の訪れを感じるようになる。
開会式は例年より地味に静かに行なわれた。
被災地から出場した学校の行進に、ひときわ高い拍手がおくられる。
女子高生の歌う君が代が、清々と澄んだ響きで胸に染み入ってくる。
この声がはるばる天まで届いてくれればと願わずにいられない。
選手宣誓をした少年は阪神大震災の年に生まれたという。
がんばれ日本!
生かされる命に感謝して、全力でプレーをすると力づよく誓う。
それぞれの人が、被災地への思いを胸に自分と向き合う。
そんな三月がつづく。
彼岸に
弥生 八
朝から天気が良かった彼岸の中日、
朝ごはんを済ませ、仕事前に近所の菩提寺へ
墓参りに出た。
陽射しに春の強さがあり、それだけでうれしい。
陽の当たる道を少し遠回りして歩きながら
菩提寺へ行く。
御本尊に手を合わせてから、祖父と祖母の墓に手を合わせた。
その場所に、めったに会うことがなくても
親しさを感じている人がいるということ、
身近にいる親しい友人の御家族がいるということ。
規模の大きさも有り、このたびの震災が
腹の底にもたれている。
佐川急便さんが、営業所止めで東北に荷物を届けてくれるという。
まだ限られた数の営業所だけだが、被災した酒蔵の新澤さんの町の
営業所にも行ってもらえると、
取り引きをしている酒屋の峯村君から連絡がある。
共通の知人みんなで工面して、食品を運んでもらうこととなった。
セブンイレブンの柄沢君は、東北への募金箱の他に、
自分で栄村への募金箱を作り、集まったお金を
毎日県庁へ運んでいるという。
被災地でがんばっているみなさんに一日でも早く
春の日差しの強さを、静かに感じられる日がきますように。
言葉を伝えたい。
朝から天気が良かった彼岸の中日、
朝ごはんを済ませ、仕事前に近所の菩提寺へ
墓参りに出た。
陽射しに春の強さがあり、それだけでうれしい。
陽の当たる道を少し遠回りして歩きながら
菩提寺へ行く。
御本尊に手を合わせてから、祖父と祖母の墓に手を合わせた。
その場所に、めったに会うことがなくても
親しさを感じている人がいるということ、
身近にいる親しい友人の御家族がいるということ。
規模の大きさも有り、このたびの震災が
腹の底にもたれている。
佐川急便さんが、営業所止めで東北に荷物を届けてくれるという。
まだ限られた数の営業所だけだが、被災した酒蔵の新澤さんの町の
営業所にも行ってもらえると、
取り引きをしている酒屋の峯村君から連絡がある。
共通の知人みんなで工面して、食品を運んでもらうこととなった。
セブンイレブンの柄沢君は、東北への募金箱の他に、
自分で栄村への募金箱を作り、集まったお金を
毎日県庁へ運んでいるという。
被災地でがんばっているみなさんに一日でも早く
春の日差しの強さを、静かに感じられる日がきますように。
言葉を伝えたい。
やれることを
弥生 七
伯楽星、愛宕の松に、一の蔵。山和、米鶴、惣邑、写楽。
酒飲みの身は、東北の蔵に思いを馳せる。
蔵の倒壊した宮城の伯楽星を
酒屋の峯村君の好意で一本分けて頂いた。
この先いつ飲めるのか。
行きつけのひ魯ひ魯さんに持ち込んで、
思いを込めて口にした。
流通経路が回復しだい、送りたい。
できることなら造りもしたい。
前を向く姿勢に頭が下がる。
須坂の酒屋の新崎さんは、宮城の蔵と、福島の蔵と
懇意にしている。
こんなときこそ被災した蔵の酒を売り、
少しでも再建の力になれればという。
持ってきたチラシには、
こんなときにお酒というと不謹慎かもしれませんがと
書いてある。
そんなことは全然ない。
自分の生業通じて力になりたい。その気持ちを形にすることを。
そんな気持ちの重なりが、被災された方々の、
救助に向かった方々の、励みになってくれればと思う。
やれることをやりたい。
がんばれ。みんながんばれ。がんばれ。

伯楽星、愛宕の松に、一の蔵。山和、米鶴、惣邑、写楽。
酒飲みの身は、東北の蔵に思いを馳せる。
蔵の倒壊した宮城の伯楽星を
酒屋の峯村君の好意で一本分けて頂いた。
この先いつ飲めるのか。
行きつけのひ魯ひ魯さんに持ち込んで、
思いを込めて口にした。
流通経路が回復しだい、送りたい。
できることなら造りもしたい。
前を向く姿勢に頭が下がる。
須坂の酒屋の新崎さんは、宮城の蔵と、福島の蔵と
懇意にしている。
こんなときこそ被災した蔵の酒を売り、
少しでも再建の力になれればという。
持ってきたチラシには、
こんなときにお酒というと不謹慎かもしれませんがと
書いてある。
そんなことは全然ない。
自分の生業通じて力になりたい。その気持ちを形にすることを。
そんな気持ちの重なりが、被災された方々の、
救助に向かった方々の、励みになってくれればと思う。
やれることをやりたい。
がんばれ。みんながんばれ。がんばれ。

思いを向けて
弥生 六
気に入りの酒に宮城の新澤醸造さんの
伯楽星がある。
不味い酒を造っていて、売れずにつぶれそうだった蔵を
東京農大を卒業して戻ってきた息子さんが引き継いだ。
その頃、酒屋の友だちの峯村君が取り引きを始めて
その縁で、蔵の息子さんと一献交わしたことがある。
銘酒の揃う居酒屋で、京都の澤屋まつもとを飲みながら
こんな酒を造りたいと言っていたのを覚えている。
しばらくして伯楽星という銘柄を立ち上げて、
飲み続けて九年になる。
九年の間にすっかり酒質を上げて、全国クラスの蔵になった。
このたびの地震で蔵が倒壊して、仕込んだ酒も全滅したという。
幸い本人、御家族は無事だったというものの、
復旧にいったいいくらかかるのか、どれだけの日数がかかるのか
わからない。
福島に御実家のある友だちがいる。
連絡が着いて、家族の皆さん無事だと聞いて安心をした。
それでも地元の友人、知人の安否はどうなのか、
原子力発電所の様子もままならず、不安な状況は変わらない。
近所の行きつけのパスタ屋さんに福島に御実家のある
スタッフの方がいて、
御家族は無事だったものの、動揺は抑えられない。
がんばってと声をかけた。
きれいな笑顔でまたワインをすすめてもらいたい。
テレビで被災地の様子を見ていれば、気が落ち込み、
当たり前の一日を送れることに後ろめたさを覚える。
地震が起きてから、予約のお客さんのキャンセルが相次いだという。
でも店は開けてこその店と言う御主人の台詞に、同感ですとうなづいた。
罪悪感にかられて日々を疎かにしない。
不謹慎という言葉を恐れて人を笑顔にするのを忘れない。
人さまの世話をする仕事をしている人からそんなメールを頂いた。
ほんとにそのとおりだと思う。
携わる仕事をきっちりとやる。笑顔で関わり、笑顔で送る。
今、やることを腹据えて、腰据えて。
セブンイレブンの募金箱にお金を入れた人に
いつも無愛想な店員の吉池君が、ありがとうございますと頭を下げていた。
微力ながら力になれればと思う。
がんばれ。みんながんばれ。
気に入りの酒に宮城の新澤醸造さんの
伯楽星がある。
不味い酒を造っていて、売れずにつぶれそうだった蔵を
東京農大を卒業して戻ってきた息子さんが引き継いだ。
その頃、酒屋の友だちの峯村君が取り引きを始めて
その縁で、蔵の息子さんと一献交わしたことがある。
銘酒の揃う居酒屋で、京都の澤屋まつもとを飲みながら
こんな酒を造りたいと言っていたのを覚えている。
しばらくして伯楽星という銘柄を立ち上げて、
飲み続けて九年になる。
九年の間にすっかり酒質を上げて、全国クラスの蔵になった。
このたびの地震で蔵が倒壊して、仕込んだ酒も全滅したという。
幸い本人、御家族は無事だったというものの、
復旧にいったいいくらかかるのか、どれだけの日数がかかるのか
わからない。
福島に御実家のある友だちがいる。
連絡が着いて、家族の皆さん無事だと聞いて安心をした。
それでも地元の友人、知人の安否はどうなのか、
原子力発電所の様子もままならず、不安な状況は変わらない。
近所の行きつけのパスタ屋さんに福島に御実家のある
スタッフの方がいて、
御家族は無事だったものの、動揺は抑えられない。
がんばってと声をかけた。
きれいな笑顔でまたワインをすすめてもらいたい。
テレビで被災地の様子を見ていれば、気が落ち込み、
当たり前の一日を送れることに後ろめたさを覚える。
地震が起きてから、予約のお客さんのキャンセルが相次いだという。
でも店は開けてこその店と言う御主人の台詞に、同感ですとうなづいた。
罪悪感にかられて日々を疎かにしない。
不謹慎という言葉を恐れて人を笑顔にするのを忘れない。
人さまの世話をする仕事をしている人からそんなメールを頂いた。
ほんとにそのとおりだと思う。
携わる仕事をきっちりとやる。笑顔で関わり、笑顔で送る。
今、やることを腹据えて、腰据えて。
セブンイレブンの募金箱にお金を入れた人に
いつも無愛想な店員の吉池君が、ありがとうございますと頭を下げていた。
微力ながら力になれればと思う。
がんばれ。みんながんばれ。
風通し良く
弥生 五
携帯電話のホームページを覗いたら
すっかりスマートフォンが盛りになっている。
知り合いにも持つ人が増えてきた。
仕事仲間の友だちに使い勝手を尋ねたら、
携帯電話として使うにはあんまり好くないとこぼす。
タッチパネルは慣れるまでが使いづらい。
ちょっと触っただけで画面が変わるから、
メールを打っている途中でうっかり消してしまうことがあったという。
パソコンとして使うにも、小型のノートパソコンを買ったほうが
具合が好いといい、便利な道具が増えてきても
手にして気持ちの負担になることもある。
飲み仲間の女の子は、よけいな機能はいらないから
シンプルで飽きのこない、そんな電話がないものかと
ドコモに行って尋ねたら、らくらくホンをすすめられ
面食らった。
さすがにまだらくらくホンを持つには抵抗がある。
数ある機種の中から気持ちに馴染むものを見つけるのも
容易なことではないのだった。
花屋の若旦那が訪ねてきて、車を売ろうかと思いますと話しだす。
商用車のほかに、高性能なスバルの車を持っている。
マフラーを変えたり、ハンドルを変えたり、
お金をかけていじくりまわしたのに、
なかなか乗っている時間がないという。
乗れないのに持っていることが気持ちの重荷になってきた。
手放して身の回りを軽くして、シンプルな暮らしをしたいというから
それは良いことだとうなずいた。
身持ち気持ちを軽くして往きたいと常々思っている。
時代劇を見るたびに、長屋暮らしが良いなとあこがれる。
ひと間の部屋に、箱膳ひとつに布団がひと組。
ふだんのと、よそ行きの着物が一枚づつ。
物持ち少なく、屈託のない、人との関わりで日々を暮らす。
単純明快なのが好い。
着るもの履くものはこの頃簡素にできたのはよいとして、
いじきたない酒飲みは、口にするものがなかなか潔くいかない。
外へ飲みに出たときに、あれこれ欲張って飲み食いしてしまうから
たいてい重たい胃を抱えて、次の朝を迎えるはめになる。
胃持ち軽く体を軽く、仕事をするにもその方が調子がいい。
風通し良く自分らしく。身のまわり整えて、日々の流れを作りたい。
携帯電話のホームページを覗いたら
すっかりスマートフォンが盛りになっている。
知り合いにも持つ人が増えてきた。
仕事仲間の友だちに使い勝手を尋ねたら、
携帯電話として使うにはあんまり好くないとこぼす。
タッチパネルは慣れるまでが使いづらい。
ちょっと触っただけで画面が変わるから、
メールを打っている途中でうっかり消してしまうことがあったという。
パソコンとして使うにも、小型のノートパソコンを買ったほうが
具合が好いといい、便利な道具が増えてきても
手にして気持ちの負担になることもある。
飲み仲間の女の子は、よけいな機能はいらないから
シンプルで飽きのこない、そんな電話がないものかと
ドコモに行って尋ねたら、らくらくホンをすすめられ
面食らった。
さすがにまだらくらくホンを持つには抵抗がある。
数ある機種の中から気持ちに馴染むものを見つけるのも
容易なことではないのだった。
花屋の若旦那が訪ねてきて、車を売ろうかと思いますと話しだす。
商用車のほかに、高性能なスバルの車を持っている。
マフラーを変えたり、ハンドルを変えたり、
お金をかけていじくりまわしたのに、
なかなか乗っている時間がないという。
乗れないのに持っていることが気持ちの重荷になってきた。
手放して身の回りを軽くして、シンプルな暮らしをしたいというから
それは良いことだとうなずいた。
身持ち気持ちを軽くして往きたいと常々思っている。
時代劇を見るたびに、長屋暮らしが良いなとあこがれる。
ひと間の部屋に、箱膳ひとつに布団がひと組。
ふだんのと、よそ行きの着物が一枚づつ。
物持ち少なく、屈託のない、人との関わりで日々を暮らす。
単純明快なのが好い。
着るもの履くものはこの頃簡素にできたのはよいとして、
いじきたない酒飲みは、口にするものがなかなか潔くいかない。
外へ飲みに出たときに、あれこれ欲張って飲み食いしてしまうから
たいてい重たい胃を抱えて、次の朝を迎えるはめになる。
胃持ち軽く体を軽く、仕事をするにもその方が調子がいい。
風通し良く自分らしく。身のまわり整えて、日々の流れを作りたい。
菱友醸造 御湖鶴を酌んで
弥生 四
毎日日本酒を酌んでいる。
好きな銘柄のひとつに、下諏訪の菱友醸造の
御湖鶴がある。
権堂のやま茶屋さんで、その御湖鶴を飲む会があると
友だちに誘われた。
それは行かなくてはいけないと、いそいそと足を運んだ。
長い間廃業をしていた蔵だった。
酒造りに想いをかけた近藤さんが
蔵を買い入れ、八年前から造りを始めた。
そのころ、友だちの酒屋の峯村君が、
この蔵の将来に目をつけて取り引きをするようになった。
先見の明が当たり、みるみる酒質が良くなって
今ではすっかり信州を代表する銘柄になっている。
駅前にある酒屋さんがこのたび長い間の念願叶い、
この御湖鶴を扱えるようになったという。
その酒屋さん主催の酒の会なのだった。
昨年の秋に別の飲み屋で、峯村君主催の
御湖鶴の会に行ったことがある。
近藤さんと会うのはそれ以来のこと。
久しぶりですと挨拶をすれば、
左手を包帯で首から吊っている。
おどろいて、どうしたのですかと尋ねれば、
造りの最中に、蔵で転んで折ってしまったのだという。
でかい体でいかつい顔をしている人だから
包帯姿がよけいに痛々しい。
睡眠時間をとることもままならない仕事だから
ずいぶん疲れがたまっていたのかもしれない。
この日の会では、純米酒三種類に純米吟醸酒を二種類、
やま茶屋さんの料理を肴に頂いた。
御湖鶴は、きれいな酸の味わいが特徴で、
冷やでも燗でも、飲み飽きせずにすいすいいける。
飲みながら近藤さんと話をすれば、
先日東北の酒蔵を巡ってきて、
ずいぶん刺激を受けてきたという。
長野の蔵もがんばらなければいけないと力づよく語る。
酒造りには米を使う。
全国で唯一、北信濃の木島平で作られている
金紋錦という米がある。
長野県の誇る、この米を使っての酒造りに力を入れていきたいという。
金紋錦で仕込まれた二年熟成の御湖鶴を頂いた。
やわらかい口当たりで、ふわっと膨らむ味わいが
やさしく切れてゆく旨さだった。
今年は新たに金紋錦の純米酒も仕込んだという。
春になり、新酒を味わうのが今から楽しみになる。
あと少しで酒造りの季節も仕舞いとなる。
これから純米大吟醸の搾りがあるという。
もうひとがんばりをしたら、ゆっくりけがを養生してもらいたい。

毎日日本酒を酌んでいる。
好きな銘柄のひとつに、下諏訪の菱友醸造の
御湖鶴がある。
権堂のやま茶屋さんで、その御湖鶴を飲む会があると
友だちに誘われた。
それは行かなくてはいけないと、いそいそと足を運んだ。
長い間廃業をしていた蔵だった。
酒造りに想いをかけた近藤さんが
蔵を買い入れ、八年前から造りを始めた。
そのころ、友だちの酒屋の峯村君が、
この蔵の将来に目をつけて取り引きをするようになった。
先見の明が当たり、みるみる酒質が良くなって
今ではすっかり信州を代表する銘柄になっている。
駅前にある酒屋さんがこのたび長い間の念願叶い、
この御湖鶴を扱えるようになったという。
その酒屋さん主催の酒の会なのだった。
昨年の秋に別の飲み屋で、峯村君主催の
御湖鶴の会に行ったことがある。
近藤さんと会うのはそれ以来のこと。
久しぶりですと挨拶をすれば、
左手を包帯で首から吊っている。
おどろいて、どうしたのですかと尋ねれば、
造りの最中に、蔵で転んで折ってしまったのだという。
でかい体でいかつい顔をしている人だから
包帯姿がよけいに痛々しい。
睡眠時間をとることもままならない仕事だから
ずいぶん疲れがたまっていたのかもしれない。
この日の会では、純米酒三種類に純米吟醸酒を二種類、
やま茶屋さんの料理を肴に頂いた。
御湖鶴は、きれいな酸の味わいが特徴で、
冷やでも燗でも、飲み飽きせずにすいすいいける。
飲みながら近藤さんと話をすれば、
先日東北の酒蔵を巡ってきて、
ずいぶん刺激を受けてきたという。
長野の蔵もがんばらなければいけないと力づよく語る。
酒造りには米を使う。
全国で唯一、北信濃の木島平で作られている
金紋錦という米がある。
長野県の誇る、この米を使っての酒造りに力を入れていきたいという。
金紋錦で仕込まれた二年熟成の御湖鶴を頂いた。
やわらかい口当たりで、ふわっと膨らむ味わいが
やさしく切れてゆく旨さだった。
今年は新たに金紋錦の純米酒も仕込んだという。
春になり、新酒を味わうのが今から楽しみになる。
あと少しで酒造りの季節も仕舞いとなる。
これから純米大吟醸の搾りがあるという。
もうひとがんばりをしたら、ゆっくりけがを養生してもらいたい。

バイクが欲しくて
弥生 三
年上の知り合いがいる。
大きな病気を抱えているのに、楽天的な性格で
会社を退職した後も、スクーターに乗って
あちこちツーリングをしたり、冬はスキーを楽しんで
明るく暮らしている。
その知り合いが外国製の大きなバイクを買ったという。
ずいぶん高価な買い物は奥さんに内緒のことだから
ばれないように知人の車庫を借りて隠してあるという。
いくつになってもおもちゃのほしい身に
奥さんの怒りはいちばんこわい。
仲のいい友だちにバイクを買おうとしている人がいる。
すでに大きなバイクを一台と、中ぐらいのバイクを三台持っている。
このたび買おうとしているのは、
山や林の中を走れる大きなバイクで、
値段がちょっと高くてなあと迷っている。
休みの日、その目当てのバイクが置いてあるバイク屋さんに
一緒にくっ付いていった。
国道沿いのレッドバロンには新車や中古車、
いろんなバイクが置いてある。
初めて買ったホンダのバイクや、一世を風靡したスズキのバイクは
目にするとその当時のことを思い出しなつかしい。
黒くて大きなアメリカンタイプのバイクがある。
値札を見たら韓国のメーカーのバイクで、
車格のわりに値段が高くなくちょっとそそられた。
友だちの欲しいのはホンダの赤いバイクで、
レッドバロンの店長さんの持ち物だった。
店長さんにエンジンをかけてもらえば
歯切れのいい排気音が威勢好くひびき、
この音を聞いているだけ、で友だちの欲しい度が増すのがわかる。
バイクは欲しいが、これ以上増やすと奥さんに怒られると、
ここでも奥さんの怒りが壁になっている。
一台が二台になったらあきらかにばれる。
けれど四台が五台になっても、意外と気がつかないかもしれない。
駐車場の車の陰になるように置いておけば大丈夫。
春が来る勢いにまかせ買ってしまいなさいとせっつきたい。
年上の知り合いがいる。
大きな病気を抱えているのに、楽天的な性格で
会社を退職した後も、スクーターに乗って
あちこちツーリングをしたり、冬はスキーを楽しんで
明るく暮らしている。
その知り合いが外国製の大きなバイクを買ったという。
ずいぶん高価な買い物は奥さんに内緒のことだから
ばれないように知人の車庫を借りて隠してあるという。
いくつになってもおもちゃのほしい身に
奥さんの怒りはいちばんこわい。
仲のいい友だちにバイクを買おうとしている人がいる。
すでに大きなバイクを一台と、中ぐらいのバイクを三台持っている。
このたび買おうとしているのは、
山や林の中を走れる大きなバイクで、
値段がちょっと高くてなあと迷っている。
休みの日、その目当てのバイクが置いてあるバイク屋さんに
一緒にくっ付いていった。
国道沿いのレッドバロンには新車や中古車、
いろんなバイクが置いてある。
初めて買ったホンダのバイクや、一世を風靡したスズキのバイクは
目にするとその当時のことを思い出しなつかしい。
黒くて大きなアメリカンタイプのバイクがある。
値札を見たら韓国のメーカーのバイクで、
車格のわりに値段が高くなくちょっとそそられた。
友だちの欲しいのはホンダの赤いバイクで、
レッドバロンの店長さんの持ち物だった。
店長さんにエンジンをかけてもらえば
歯切れのいい排気音が威勢好くひびき、
この音を聞いているだけ、で友だちの欲しい度が増すのがわかる。
バイクは欲しいが、これ以上増やすと奥さんに怒られると、
ここでも奥さんの怒りが壁になっている。
一台が二台になったらあきらかにばれる。
けれど四台が五台になっても、意外と気がつかないかもしれない。
駐車場の車の陰になるように置いておけば大丈夫。
春が来る勢いにまかせ買ってしまいなさいとせっつきたい。
占いをあてにして
弥生 二
毎年、年の始めに姓名判断の先生に
その年一年の運勢を占ってもらっていたことがある。
その当時、家庭の中で、
どうにも困ったわだかまりごとがあり、
一度視てもらったらいいと、
友だちに紹介してもらったのだった。
初めて伺ったときに、まずは自分の成りをみてもらい、
悩み事を聞いてもらった。
沈着というよりはものぐさな性格です。
ずいぶんと当たっている。
金銭よりも名誉を重んじます。
確かに。というよりも、
金銭がないから名誉にすがるしかない。
他人の忠告を聞き入れないばかりか、
正反対の行動を起こしてはわざわいを招きます。
これもまた身に覚えのあることで耳が痛かった。
悩み事に対しては、お守り札を作って
おまじないの言葉を毎日唱えれば解決するといわれ
しばらくそのとおりにしていたら、
本当に良い方向へと流れが変わりおどろいたのだった。
いちど、大きな借金をすると
運気が向いてくるといわれた年があった。
それではでかい買い物でもと、新車を買ってみたものの、
果たしてその年に運気が向くようなことがあったのか、
定かではなく、
ローンを抱えて生活の負担が増えたことだけ覚えている。
中途半端に国産の小型車なんかを買わずに
どーんと外車にでも手を出したなら
運気もどーんと向いてきたのかもしれない。
平成十七年の年に視てもらったときは、
家族との運気が最低になる。自分本位にならぬように。
そう言われたのにもかかわらず、
ここでもまた、他人の忠告を聞き入れない性格が
わざわい招く結果となって、人さまの言葉に、
こころして耳を傾けなかったつけをもらうこととなった。
今では姓名判断の先生ともすっかり縁遠くなり、
占いといえば近頃は、
手軽にインターネットのお世話になっている。
好んで覗いているのは知り合いに教えてもらった
石井ゆかりさんという方の星座占いで、
一週間ごとにその週の流れを伝えてくれる。
抽象的な表現が、気持ちに合うなというときもあれば
自分のどこに当てはまるのだろうと考えるときもある。
どのみち自分の在り方を見つめるきっかけになるから
肩に力を入れないで、日々の流れの指針にさせてもらっている。
今週は、感覚的に決めたことにさらに思考力が加わって
風通しの良い自由度が増す週になると伝えられた。
ちょっと馴染む台詞だなと思いながら過ごしている。
毎年、年の始めに姓名判断の先生に
その年一年の運勢を占ってもらっていたことがある。
その当時、家庭の中で、
どうにも困ったわだかまりごとがあり、
一度視てもらったらいいと、
友だちに紹介してもらったのだった。
初めて伺ったときに、まずは自分の成りをみてもらい、
悩み事を聞いてもらった。
沈着というよりはものぐさな性格です。
ずいぶんと当たっている。
金銭よりも名誉を重んじます。
確かに。というよりも、
金銭がないから名誉にすがるしかない。
他人の忠告を聞き入れないばかりか、
正反対の行動を起こしてはわざわいを招きます。
これもまた身に覚えのあることで耳が痛かった。
悩み事に対しては、お守り札を作って
おまじないの言葉を毎日唱えれば解決するといわれ
しばらくそのとおりにしていたら、
本当に良い方向へと流れが変わりおどろいたのだった。
いちど、大きな借金をすると
運気が向いてくるといわれた年があった。
それではでかい買い物でもと、新車を買ってみたものの、
果たしてその年に運気が向くようなことがあったのか、
定かではなく、
ローンを抱えて生活の負担が増えたことだけ覚えている。
中途半端に国産の小型車なんかを買わずに
どーんと外車にでも手を出したなら
運気もどーんと向いてきたのかもしれない。
平成十七年の年に視てもらったときは、
家族との運気が最低になる。自分本位にならぬように。
そう言われたのにもかかわらず、
ここでもまた、他人の忠告を聞き入れない性格が
わざわい招く結果となって、人さまの言葉に、
こころして耳を傾けなかったつけをもらうこととなった。
今では姓名判断の先生ともすっかり縁遠くなり、
占いといえば近頃は、
手軽にインターネットのお世話になっている。
好んで覗いているのは知り合いに教えてもらった
石井ゆかりさんという方の星座占いで、
一週間ごとにその週の流れを伝えてくれる。
抽象的な表現が、気持ちに合うなというときもあれば
自分のどこに当てはまるのだろうと考えるときもある。
どのみち自分の在り方を見つめるきっかけになるから
肩に力を入れないで、日々の流れの指針にさせてもらっている。
今週は、感覚的に決めたことにさらに思考力が加わって
風通しの良い自由度が増す週になると伝えられた。
ちょっと馴染む台詞だなと思いながら過ごしている。
風邪をひいて
弥生 一
風邪をひいた。
寒中まっただなかの間は、
酔ってうたた寝くりかえしてもひくことはないのに、
すこし気温がゆるくなり、春の気配が感じられるころに
たいがいやられる。
二月の下旬、暖かい日がつづき、このまま春になればいい、
そう思っていたらひいてしまった。
朝起きたら咳が出る。
気にもせず仕事をしていたら、
午後になり、目玉がかっかと熱くなり寒気がしてくる。
熱を計ったら三十八度五分をさしていて
久しぶりの風邪っぴきになる。
風邪をひいたときは、厚着をして、
毛布と掛け布団をよけいにかけて寝る。
夜中に汗をかいたら着替えて、体を冷やさぬようにしていれば
薬を飲まなくてもたいてい翌朝には熱も下がっている。
今回もそのようにして早めに床についたのに
翌朝も熱が下がらず体がだるい。
あきらめて近所の薬屋さんに行き、
若旦那に強力な解熱剤をゆずってもらう。
みみず一風散、飲んだらじきに熱が下がり始め
体が楽になる。
みみずの力はたいしたものだと感心して、
仕事が終わってからもうひと包み飲んで、これでもう安心と寝た。
ところが翌朝になったら、ふたたび熱が上がっていてびびった。
午前の仕事を早めに終えて、近くの内科へ足を運んだ。
無口な先生に、長い麺棒を鼻に突っ込まれ調べてもらったら
A型だねと言われ、初めてインフルエンザにかかってしまったのだった。
インフルエンザではみみずもかなわない。
タミフルを五日分頂いて、その日は早めに仕事を終えて休んだ。
二月は日数が少ないのに、今年はやけに長く感じた。
冬の間抱えていたわだかまりごとに、ようやく気持ちが収まりはじめ、
自分の言葉で消化しようと、
そんなことにずっと気が向いていたからかもしれない。
タミフルのおかげであっというまに熱も下がってありがたい。
久しぶりの大風邪を冬と春の区切りにして、
気持ちあらたに弥生の月を往きたいものと思う。
風邪をひいた。
寒中まっただなかの間は、
酔ってうたた寝くりかえしてもひくことはないのに、
すこし気温がゆるくなり、春の気配が感じられるころに
たいがいやられる。
二月の下旬、暖かい日がつづき、このまま春になればいい、
そう思っていたらひいてしまった。
朝起きたら咳が出る。
気にもせず仕事をしていたら、
午後になり、目玉がかっかと熱くなり寒気がしてくる。
熱を計ったら三十八度五分をさしていて
久しぶりの風邪っぴきになる。
風邪をひいたときは、厚着をして、
毛布と掛け布団をよけいにかけて寝る。
夜中に汗をかいたら着替えて、体を冷やさぬようにしていれば
薬を飲まなくてもたいてい翌朝には熱も下がっている。
今回もそのようにして早めに床についたのに
翌朝も熱が下がらず体がだるい。
あきらめて近所の薬屋さんに行き、
若旦那に強力な解熱剤をゆずってもらう。
みみず一風散、飲んだらじきに熱が下がり始め
体が楽になる。
みみずの力はたいしたものだと感心して、
仕事が終わってからもうひと包み飲んで、これでもう安心と寝た。
ところが翌朝になったら、ふたたび熱が上がっていてびびった。
午前の仕事を早めに終えて、近くの内科へ足を運んだ。
無口な先生に、長い麺棒を鼻に突っ込まれ調べてもらったら
A型だねと言われ、初めてインフルエンザにかかってしまったのだった。
インフルエンザではみみずもかなわない。
タミフルを五日分頂いて、その日は早めに仕事を終えて休んだ。
二月は日数が少ないのに、今年はやけに長く感じた。
冬の間抱えていたわだかまりごとに、ようやく気持ちが収まりはじめ、
自分の言葉で消化しようと、
そんなことにずっと気が向いていたからかもしれない。
タミフルのおかげであっというまに熱も下がってありがたい。
久しぶりの大風邪を冬と春の区切りにして、
気持ちあらたに弥生の月を往きたいものと思う。