頂き酒ざんまい
葉月 七
冷蔵庫の中に、ようやくすき間が見えてきた。
夏、つづけざまに酒を頂いて、いっぱいになっていたのだった。
遠く宮城の酒屋さんから、
あたらしく取り引きを始めた、栃木の朝日栄を頂いた。
追って、名物の笹かまぼこも届いたから、
かさねがさねの気遣いに感謝した。
金沢の知人にみすゞ飴を送ったら、お返しに、
石川の地酒の天狗舞が届いた。
ひところ好んで飲んでいたことがある。
ひさしぶりの味を利いてみれば、
相変わらずの、どしっとした旨みがなつかしい。
お盆休みの初日、どうしてもと頼まれて仕事をした。
訪ねてきたかたに、無理を言ったおわびにと、
麦焼酎を頂いた。
焼酎は、この頃麦を好んでいるときだったから、
間の好いこととうれしい。
遠くの街で暮らすかたがいて、
以前、長野の地酒を送ったことがある。
好いのが手に入りましたと、お礼にジンを送ってきてくれた。
フィンセント・ファン・ゴッホ。
オランダの有名な画家の名前のジンは、
きれいな町並みが、ボトルにあしらわれている。
はなやかな柑橘系の旨みの口あたりが好く、
贅沢な味わいと、晩酌の締めに味わっている。
お盆明け、娘が訪ねてきた。
今年結婚をした。お腹の子は八か月になったといい、
あんまり大きくないねと、まあるい腹をさわった。
旦那さんの実家のある、
飯山の水尾の純米大吟醸を持ってきてくれたのだった。
水尾はときどき飲むことがある。
それでも、純米大吟醸は値が張るから、
買ったためしがなかった。
ろくでなしの父に高価なものをと、ありがたく酌んだ。
処暑すぎて、雨降りの日がつづく。
しずかな虫の声も聞こえるようになり、
ひと夏越えた、秋酒の気分になってくる。

冷蔵庫の中に、ようやくすき間が見えてきた。
夏、つづけざまに酒を頂いて、いっぱいになっていたのだった。
遠く宮城の酒屋さんから、
あたらしく取り引きを始めた、栃木の朝日栄を頂いた。
追って、名物の笹かまぼこも届いたから、
かさねがさねの気遣いに感謝した。
金沢の知人にみすゞ飴を送ったら、お返しに、
石川の地酒の天狗舞が届いた。
ひところ好んで飲んでいたことがある。
ひさしぶりの味を利いてみれば、
相変わらずの、どしっとした旨みがなつかしい。
お盆休みの初日、どうしてもと頼まれて仕事をした。
訪ねてきたかたに、無理を言ったおわびにと、
麦焼酎を頂いた。
焼酎は、この頃麦を好んでいるときだったから、
間の好いこととうれしい。
遠くの街で暮らすかたがいて、
以前、長野の地酒を送ったことがある。
好いのが手に入りましたと、お礼にジンを送ってきてくれた。
フィンセント・ファン・ゴッホ。
オランダの有名な画家の名前のジンは、
きれいな町並みが、ボトルにあしらわれている。
はなやかな柑橘系の旨みの口あたりが好く、
贅沢な味わいと、晩酌の締めに味わっている。
お盆明け、娘が訪ねてきた。
今年結婚をした。お腹の子は八か月になったといい、
あんまり大きくないねと、まあるい腹をさわった。
旦那さんの実家のある、
飯山の水尾の純米大吟醸を持ってきてくれたのだった。
水尾はときどき飲むことがある。
それでも、純米大吟醸は値が張るから、
買ったためしがなかった。
ろくでなしの父に高価なものをと、ありがたく酌んだ。
処暑すぎて、雨降りの日がつづく。
しずかな虫の声も聞こえるようになり、
ひと夏越えた、秋酒の気分になってくる。
ワインガーデン
葉月 六
夕方、さっさと仕事を切り上げて出かけた。
飲み屋さんと酒屋さんの有志でつくる、長野ワイン応援団が、
長野県ワインを一同に集めて飲むという、
ワインガーデンというイベントを開くのだった。
残暑の日照りの中を、はとぽっぽ公園に行けば、
テントが張られたブースに、ずらっとボトルが並び、
壮観ですなと喉が鳴る。
まわりには近所のレストランのかたがたが店を出し、
料理を提供している。
グラスを持ってワインを注いでもらいに行けば、
ワインに詳しい、顔馴染みのかたがたが手伝っていて、
ごくろうさまと声をかけた。
主催者のかたの挨拶があり、
ヴィラデストワイナリーの、玉村豊男さんの発声で
乾杯をした。
暮れかかる空に涼しい風が吹きはじめ、
外で飲むのは気持ちが好い。
杯をかさねながら眺めていれば、
仕事帰りのワイシャツ姿のおじさんたちや、
ちいさな子を連れた家族連れ、
若いにいさんねえさんたちが、つぎつぎとやって来て、
どんどんにぎやかになっていく。
ブースにも長い列ができ、スタッフのかたがたも、
ワインを注ぐのにいそがしい。
予想外の来訪に、ワインも終わりそうだといい、
初日から大盛況なのだった。
長野県では、ちいさなワイナリーを開いたり、
葡萄を栽培して、委託してワインを造ってもらう
かたが出てきている。そういうかたがたの銘柄は、
造る量に限りがあるから、
気楽に飲める機会がすくない。
こうして、離れた地域の、
ふだん味わえない銘柄を利ける企画は、
それぞれの造り手の、個性を垣間見ることができて
ありがたいことだった。
イベントはあと二日つづくという。
雨の知らせの天気予報は、
どうか、はずれていただきたい。

夕方、さっさと仕事を切り上げて出かけた。
飲み屋さんと酒屋さんの有志でつくる、長野ワイン応援団が、
長野県ワインを一同に集めて飲むという、
ワインガーデンというイベントを開くのだった。
残暑の日照りの中を、はとぽっぽ公園に行けば、
テントが張られたブースに、ずらっとボトルが並び、
壮観ですなと喉が鳴る。
まわりには近所のレストランのかたがたが店を出し、
料理を提供している。
グラスを持ってワインを注いでもらいに行けば、
ワインに詳しい、顔馴染みのかたがたが手伝っていて、
ごくろうさまと声をかけた。
主催者のかたの挨拶があり、
ヴィラデストワイナリーの、玉村豊男さんの発声で
乾杯をした。
暮れかかる空に涼しい風が吹きはじめ、
外で飲むのは気持ちが好い。
杯をかさねながら眺めていれば、
仕事帰りのワイシャツ姿のおじさんたちや、
ちいさな子を連れた家族連れ、
若いにいさんねえさんたちが、つぎつぎとやって来て、
どんどんにぎやかになっていく。
ブースにも長い列ができ、スタッフのかたがたも、
ワインを注ぐのにいそがしい。
予想外の来訪に、ワインも終わりそうだといい、
初日から大盛況なのだった。
長野県では、ちいさなワイナリーを開いたり、
葡萄を栽培して、委託してワインを造ってもらう
かたが出てきている。そういうかたがたの銘柄は、
造る量に限りがあるから、
気楽に飲める機会がすくない。
こうして、離れた地域の、
ふだん味わえない銘柄を利ける企画は、
それぞれの造り手の、個性を垣間見ることができて
ありがたいことだった。
イベントはあと二日つづくという。
雨の知らせの天気予報は、
どうか、はずれていただきたい。
お盆もすぎて
葉月 五
ひさしぶりの友だちふたりと酌み交わした。
近況話をかわしながら杯をかさねても、
ふたりそろって酒によわい。
めずらしくはしご酒もせず、切り上げて帰った。
おかげで、迎え盆の朝の目覚めがすがすがしい。
早朝、歩いてすぐの菩提寺へむかえば、
花を片手に、檀家のかたがたが門をくぐっていく。
本堂のご本尊に手を合わせ、
祖父母の眠る墓に手を合わせた。
この春、若い知り合いが亡くなった。
おなじ敷地に墓があるから、そちらへも足を運ぶ。
新盆のお参りをすれば、
墓碑にきざまれた、享年二十二歳の文字が、
今さらながらにせつない。
夕方、帰省してきた友だちと、
馴染みの飲み屋で酌み交わした。
看護師をしている長女が、
オーストラリアに研修に行っている。
慣れない環境に四苦八苦している様子が、
毎日メールで届くという。
おなじく看護師を目指す次女は、
学校で実習が始まったといい、
ストレスでじんましんが出たという。
あいかわらず、親の気苦労が絶えないのだった。
本人も、この歳からの転職を考えているといい、
歩く道すじに、まだまだ節目のあることと知る。
次の日、観光客であふれる善光寺界隈を避けて、
信濃美術館で日本画を観た。
館内のカフェで梅シラスご飯を食べていたら、
これから戻ります。元気をもらえたと、
友だちからのメールが届く。こちらこそと返事をして、
次の再会が楽しみになる。
次の日は、水野美術館へ出かけた。
浮世絵の艶やかな女性たちに見惚れてから、
りっぱな庭を眺めながら、
ハヤシオムライスを食べて帰って来た。
お盆休みが終われば、夏の気配も和らいでいく。
ひとりで、あるいは馴染みのかたがたと、
花火に祭りに、花と緑と、夏の景色を楽しんだ。
八月は、仕事はひまなのに、
散財ばかりの日がつづいた。
懐には、早々に秋の風が吹いているのだった。

ひさしぶりの友だちふたりと酌み交わした。
近況話をかわしながら杯をかさねても、
ふたりそろって酒によわい。
めずらしくはしご酒もせず、切り上げて帰った。
おかげで、迎え盆の朝の目覚めがすがすがしい。
早朝、歩いてすぐの菩提寺へむかえば、
花を片手に、檀家のかたがたが門をくぐっていく。
本堂のご本尊に手を合わせ、
祖父母の眠る墓に手を合わせた。
この春、若い知り合いが亡くなった。
おなじ敷地に墓があるから、そちらへも足を運ぶ。
新盆のお参りをすれば、
墓碑にきざまれた、享年二十二歳の文字が、
今さらながらにせつない。
夕方、帰省してきた友だちと、
馴染みの飲み屋で酌み交わした。
看護師をしている長女が、
オーストラリアに研修に行っている。
慣れない環境に四苦八苦している様子が、
毎日メールで届くという。
おなじく看護師を目指す次女は、
学校で実習が始まったといい、
ストレスでじんましんが出たという。
あいかわらず、親の気苦労が絶えないのだった。
本人も、この歳からの転職を考えているといい、
歩く道すじに、まだまだ節目のあることと知る。
次の日、観光客であふれる善光寺界隈を避けて、
信濃美術館で日本画を観た。
館内のカフェで梅シラスご飯を食べていたら、
これから戻ります。元気をもらえたと、
友だちからのメールが届く。こちらこそと返事をして、
次の再会が楽しみになる。
次の日は、水野美術館へ出かけた。
浮世絵の艶やかな女性たちに見惚れてから、
りっぱな庭を眺めながら、
ハヤシオムライスを食べて帰って来た。
お盆休みが終われば、夏の気配も和らいでいく。
ひとりで、あるいは馴染みのかたがたと、
花火に祭りに、花と緑と、夏の景色を楽しんだ。
八月は、仕事はひまなのに、
散財ばかりの日がつづいた。
懐には、早々に秋の風が吹いているのだった。
信濃町まで
葉月 四
信濃町まで墓参りに出かけた。
電車に乗って古間駅で降りる。
ひと気のない道を歩いていけば、
じきに、曇天の空に映える、田んぼの緑が目に入る。
台風一過の空には霧が立ち込めて、
端正な姿の黒姫山も、険しい姿の妙高山も見えない。
古間の商店街の、馴染みの酒屋の峯村君を訪ねれば、
午前早々の、生ビールのもてなしがうれしい。
ひと息ついたら、国道沿いのスーパーで花を買う。
駐車場は車でいっぱいで、
ときどき県外ナンバーの車も入ってくる。
店内では、夏休みの子供たちを連れた家族連れが、
にぎやかにお盆前の買い出しをしていた。
集落の中の、田んぼと畑を眺めながら行く。
蝉の鳴き声がひびき、
ときどき、鳥を追い払う鉄砲がどんとなる。
道々、あざやかな黄色のひまわりが、
のんびりと揺れていた。
栗の木の茂みがあって、その先を歩いていくと、
おじさんがひとり、畑のあぜ道の草を刈っていて、
草刈り機の音が威勢よくひびいている。
県道沿いのブルーベリーの農園や、
野菜の販売所を通りすぎて、
北川遊漁の看板を左に曲がる。
林の中を歩いていると、蝉の声に交じって、
まだうぐいすの鳴き声がきれいに聞こえた。
流れのはやい、鳥居川の音を聞きながら、
景色を眺めて歩いていたら、道をまちがえた。
ずいぶんのまわり道をして、
一年ぶりの墓地にたどり着く。花を挿し、線香をたいて、
さんざん世話になったかたに手を合わせた。
気がつけば、お亡くなりになって、
この夏が十三回忌だった。
月日の過ぎるのはあらためて早い。
帰り道、県道沿いの蕎麦屋に行ったら、
県外ナンバーの車がいっぱいであきらめた。
黒姫駅の食堂で、冬瓜の刺身でビールを飲んで、
長々歩いた疲れを癒した。
駅のホームで電車を待っていたら、
流れる霧のすきまから、ひょっこりと、
黒姫山が顔を出す。

信濃町まで墓参りに出かけた。
電車に乗って古間駅で降りる。
ひと気のない道を歩いていけば、
じきに、曇天の空に映える、田んぼの緑が目に入る。
台風一過の空には霧が立ち込めて、
端正な姿の黒姫山も、険しい姿の妙高山も見えない。
古間の商店街の、馴染みの酒屋の峯村君を訪ねれば、
午前早々の、生ビールのもてなしがうれしい。
ひと息ついたら、国道沿いのスーパーで花を買う。
駐車場は車でいっぱいで、
ときどき県外ナンバーの車も入ってくる。
店内では、夏休みの子供たちを連れた家族連れが、
にぎやかにお盆前の買い出しをしていた。
集落の中の、田んぼと畑を眺めながら行く。
蝉の鳴き声がひびき、
ときどき、鳥を追い払う鉄砲がどんとなる。
道々、あざやかな黄色のひまわりが、
のんびりと揺れていた。
栗の木の茂みがあって、その先を歩いていくと、
おじさんがひとり、畑のあぜ道の草を刈っていて、
草刈り機の音が威勢よくひびいている。
県道沿いのブルーベリーの農園や、
野菜の販売所を通りすぎて、
北川遊漁の看板を左に曲がる。
林の中を歩いていると、蝉の声に交じって、
まだうぐいすの鳴き声がきれいに聞こえた。
流れのはやい、鳥居川の音を聞きながら、
景色を眺めて歩いていたら、道をまちがえた。
ずいぶんのまわり道をして、
一年ぶりの墓地にたどり着く。花を挿し、線香をたいて、
さんざん世話になったかたに手を合わせた。
気がつけば、お亡くなりになって、
この夏が十三回忌だった。
月日の過ぎるのはあらためて早い。
帰り道、県道沿いの蕎麦屋に行ったら、
県外ナンバーの車がいっぱいであきらめた。
黒姫駅の食堂で、冬瓜の刺身でビールを飲んで、
長々歩いた疲れを癒した。
駅のホームで電車を待っていたら、
流れる霧のすきまから、ひょっこりと、
黒姫山が顔を出す。
戸倉の花火
葉月 三
この歳になると、ひまさえあれば温泉に出かけたい。
湯に浸かり、かわいたのどをビールで潤せば、
充分幸せになれるのだった。
戸倉上山田へ出かけるときがある。
大正橋から千曲川の景色を眺め、
ひと気のない温泉街の外湯に落ち着けば、
やわらかい湯加減に、身も心も癒される。
飲み仲間のかたがたと、戸倉の花火大会へ出かけた。
駅を降りて、人ごみにまぎれて大正橋を渡ったら、
始まりの一発目が、薄暮の空にどんと上がった。
河川敷に並ぶ屋台で、
から揚げとたこ焼きと焼きそばとビールを買って、
家族連れやカップルのすきまに腰をおろして、
夜空を彩る花火を眺めた。
二日前に、上田の花火を観ていたのだった。
同行した花火ハンターの友だちが、
上田のあとの戸倉では、物足りないかもと言っていた。
眺めていれば、なるほどと合点がいった。
テンポよく、工夫をこらしたあざやかな彩りの、
上田の花火に比べると、
戸倉の花火は間延びがして、昔ながらの感がある。
それでも肩の力の抜けたおおらかさが、
さびれた温泉街の風情に好く合うのだった。
締めの大スターマインを見届けて、
来年は、温泉で一泊しながら来たいものです。
語り合いながら、混みあう帰りの電車に乗り込んだ。

この歳になると、ひまさえあれば温泉に出かけたい。
湯に浸かり、かわいたのどをビールで潤せば、
充分幸せになれるのだった。
戸倉上山田へ出かけるときがある。
大正橋から千曲川の景色を眺め、
ひと気のない温泉街の外湯に落ち着けば、
やわらかい湯加減に、身も心も癒される。
飲み仲間のかたがたと、戸倉の花火大会へ出かけた。
駅を降りて、人ごみにまぎれて大正橋を渡ったら、
始まりの一発目が、薄暮の空にどんと上がった。
河川敷に並ぶ屋台で、
から揚げとたこ焼きと焼きそばとビールを買って、
家族連れやカップルのすきまに腰をおろして、
夜空を彩る花火を眺めた。
二日前に、上田の花火を観ていたのだった。
同行した花火ハンターの友だちが、
上田のあとの戸倉では、物足りないかもと言っていた。
眺めていれば、なるほどと合点がいった。
テンポよく、工夫をこらしたあざやかな彩りの、
上田の花火に比べると、
戸倉の花火は間延びがして、昔ながらの感がある。
それでも肩の力の抜けたおおらかさが、
さびれた温泉街の風情に好く合うのだった。
締めの大スターマインを見届けて、
来年は、温泉で一泊しながら来たいものです。
語り合いながら、混みあう帰りの電車に乗り込んだ。
ぶらぶら外で
葉月 二
夏、夕方出歩く機会が増える。
となりの西之門町の、夕涼み市へ出かけた。
ちいさな町の駐車場に、
浴衣姿のお母さんと子どもが集まって、にぎやかになる。
流しそうめんを突っつく子供たちを眺めながら、
生ビールを飲んだ。
東口ゆめりあ祭りでは、
馴染みの酒蔵さんがブースを出していた。
飲み屋の並ぶ通りにステージが作られて、
日本酒を飲みながら、熟女のかたたちのフラダンスに、
女装したお兄さんたちの、恋するフォーチュンクッキーに、
しぶいおじさんの、
アリスのチャンピオンの熱唱を眺めた。
長野びんずる祭りの日は、毎年決まって雨が降る。
たいてい踊りが始まる前に止むのに、
今年はいけなかった。
終いまで降っていて、雨宿りのはしご酒に酔っぱらって、
けっきょく五分も踊りを見なかった。
飲み仲間のかたがたと、上田の花火大会へ出かけた。
駅前の、ゴールデン酒場で生ビールをひっかけて、
会場の河川敷へ行く。母袋市長の挨拶が済むと、
ぽっかり半月の浮かぶ薄暮の空に、
威勢よく上がりはじめた。
間近に高々花が咲き、はらわたに重たい音がひびく。
上田の花火は毎年八千発が上がるという。
今年はさらに増えて、
一万発が上がるというから、景気が好いのだった。
提供された会社の名が呼ばれ、
打ち上げる花火屋の名が呼ばれる。
このたびは、
青木煙火さんに勤める知り合いも同行してくれた。
青木煙火さんの名が呼ばれるたびに、
ひいき目に、見事な打ち上げに見入った。
夏になると花火行脚をしている友だちは、
りっぱなカメラで写真を撮っている。
あちこちいろんな花火を見ていても、
上田の花火はたいそう好いという。
余韻を抱えて、
締めの一献をと、駅前のゆう杉さんに落ち着けば、
すでに泥酔したおじさんグループが、
もう帰ってくださいと、
店員のおねえさんに怒られていた。

夏、夕方出歩く機会が増える。
となりの西之門町の、夕涼み市へ出かけた。
ちいさな町の駐車場に、
浴衣姿のお母さんと子どもが集まって、にぎやかになる。
流しそうめんを突っつく子供たちを眺めながら、
生ビールを飲んだ。
東口ゆめりあ祭りでは、
馴染みの酒蔵さんがブースを出していた。
飲み屋の並ぶ通りにステージが作られて、
日本酒を飲みながら、熟女のかたたちのフラダンスに、
女装したお兄さんたちの、恋するフォーチュンクッキーに、
しぶいおじさんの、
アリスのチャンピオンの熱唱を眺めた。
長野びんずる祭りの日は、毎年決まって雨が降る。
たいてい踊りが始まる前に止むのに、
今年はいけなかった。
終いまで降っていて、雨宿りのはしご酒に酔っぱらって、
けっきょく五分も踊りを見なかった。
飲み仲間のかたがたと、上田の花火大会へ出かけた。
駅前の、ゴールデン酒場で生ビールをひっかけて、
会場の河川敷へ行く。母袋市長の挨拶が済むと、
ぽっかり半月の浮かぶ薄暮の空に、
威勢よく上がりはじめた。
間近に高々花が咲き、はらわたに重たい音がひびく。
上田の花火は毎年八千発が上がるという。
今年はさらに増えて、
一万発が上がるというから、景気が好いのだった。
提供された会社の名が呼ばれ、
打ち上げる花火屋の名が呼ばれる。
このたびは、
青木煙火さんに勤める知り合いも同行してくれた。
青木煙火さんの名が呼ばれるたびに、
ひいき目に、見事な打ち上げに見入った。
夏になると花火行脚をしている友だちは、
りっぱなカメラで写真を撮っている。
あちこちいろんな花火を見ていても、
上田の花火はたいそう好いという。
余韻を抱えて、
締めの一献をと、駅前のゆう杉さんに落ち着けば、
すでに泥酔したおじさんグループが、
もう帰ってくださいと、
店員のおねえさんに怒られていた。
歳のかさねかたは
葉月 一
冷房漬けの毎日に、冷や酒漬けの毎日に、
肩と背中の凝りがひどい。
ほぐしてもらおうと、近所の整体院へ出かけた道すがら、
なつかしいかたと遭遇した。
高校生のときに世話になった音楽の先生で、
卒業して以来のお見かけだった。
曲がった腰を支えるように、両手に杖をついて、
坂道を上がって行く。
高校の授業で、音楽と書道と美術の中から、
ひとつを選択しなければいけなかった。
仲のよかった友だちに付き合って、音楽を選んだものの、
ぜんぜん身を入れず、さぼってばかりいた。
おかげで、高校時代の試験の最低点は、
音楽の12点だった。
そんな出来だったから、もとより覚えているはずもないと、
声もかけずにすれ違えば、
颯爽と指揮棒を振っていた姿を思いだし、
先生もすっかり御歳を召された。
毎週火曜日の夜に、
酒とつまみと男と女という番組をやっている。
作家の坂崎重盛さんが、毎回いろんなゲストを招いては、
東京の町を飲み歩く。
今週のゲストは女優の川上麻衣子さんで、
むかし金八先生を観ていたときに、
子供なのに妙な色気があると気に入りだった。
谷中の酒屋の軒下で生ビールを飲んでから、
蕎麦屋で日本酒を酌み交わす。
坂崎重盛さんは、
仕事に文学、暮らしの心得、延々と台詞がつづいても、
語り口が軽妙で、話がくどくない。
頭に帽子をちょこんと乗せて、おしゃれないでたちで、
ステッキ片手に、鼻唄交じりで飲み屋へ行く。
風通しの好い、
こんなお年寄りになりたいという手本なのだった。
はしご酒の帰り道、川上麻衣子さんに手をつないでもらい、
生きてて良かったなあとでれっとしていた。
力の抜けたうしろ姿に、
男ってしょうがないもんですな感が出ていて好いのだった。

冷房漬けの毎日に、冷や酒漬けの毎日に、
肩と背中の凝りがひどい。
ほぐしてもらおうと、近所の整体院へ出かけた道すがら、
なつかしいかたと遭遇した。
高校生のときに世話になった音楽の先生で、
卒業して以来のお見かけだった。
曲がった腰を支えるように、両手に杖をついて、
坂道を上がって行く。
高校の授業で、音楽と書道と美術の中から、
ひとつを選択しなければいけなかった。
仲のよかった友だちに付き合って、音楽を選んだものの、
ぜんぜん身を入れず、さぼってばかりいた。
おかげで、高校時代の試験の最低点は、
音楽の12点だった。
そんな出来だったから、もとより覚えているはずもないと、
声もかけずにすれ違えば、
颯爽と指揮棒を振っていた姿を思いだし、
先生もすっかり御歳を召された。
毎週火曜日の夜に、
酒とつまみと男と女という番組をやっている。
作家の坂崎重盛さんが、毎回いろんなゲストを招いては、
東京の町を飲み歩く。
今週のゲストは女優の川上麻衣子さんで、
むかし金八先生を観ていたときに、
子供なのに妙な色気があると気に入りだった。
谷中の酒屋の軒下で生ビールを飲んでから、
蕎麦屋で日本酒を酌み交わす。
坂崎重盛さんは、
仕事に文学、暮らしの心得、延々と台詞がつづいても、
語り口が軽妙で、話がくどくない。
頭に帽子をちょこんと乗せて、おしゃれないでたちで、
ステッキ片手に、鼻唄交じりで飲み屋へ行く。
風通しの好い、
こんなお年寄りになりたいという手本なのだった。
はしご酒の帰り道、川上麻衣子さんに手をつないでもらい、
生きてて良かったなあとでれっとしていた。
力の抜けたうしろ姿に、
男ってしょうがないもんですな感が出ていて好いのだった。
