山本鼎版画大賞展へ
神無月 8
朝刊をめくっていたら、上田市立美術館で、
山本鼎版画大賞展が始まると載っていた。
電車に乗って出かけたのだった。
山本鼎は、愛知県岡崎市生まれの版画家で、
医者をしていた父が上田市に開業をしたことで、
上田にゆかりのあるかただった。
このたびの大賞展は、八回目になるといい、
この美術館の催しには気を向けていた
つもりなのに、それまでつゆ知らず、
うかつなことだった。
電車を降りて、まずは駅前の東都庵で、
ちょいと遅めの蕎麦屋の昼酒にする。
ときどき訪ねるこの店は、肴と酒の品が好い。
女将さんにもすっかり顔を覚えてもらい、
ビールを飲んでいたら、御好意で、
もずくと笹かまを出してくれた。
地酒の瀧澤を注文して、杯を傾けていれば、
厨房から、ご主人と女将さんと女店員の、
和やかな話し声と笑い声が聞こえてくる。
ほかに客のいない店内で、
酒肴と蕎麦のひとときでくつろいだ。
第八回山本鼎大賞展は、
全国から応募された作品の中から、
入選作品156品が展示されていた。
版画というのは絵画とちがって、
摺るという行為が加わることで、
作者の情感が、一歩距離を引いて
伝わってくる。
それでも、156人の作品を一堂に目にすると、
それぞれの個性に、深々息を吸いたくなるように
圧倒された。
見ごたえのある作品展に引き込まれ、
ぜひ近々もう一度、拝見したくなったのだった。
美術館をあとにして城跡公園に行けば、
お堀のまわりの桜並木や、入口のケヤキ並木が
色づきはじめていた。
今度うかがうときは、見ごろをむかえた頃となる。
それもまた楽しみなことだった。
深まる秋に
神無月 7
日ごと冷え込みが進み、善光寺界隈が、
秋の色味を増してきた。
城山公園の桜並木も、赤く色づいてきたものの、
木の衰えなのか、色づく前にずいぶんと
葉が落ちていた。
スカスカした葉ならびがなんとも寂しいのだった。
毎年12月になると、手描きのカレンダーを
作って配っている。
ものぐさな身でも、数えてみたら、
およそ20年ほどつづいていた。
その年に足を運んだ先々で、
撮りためた写真の中から12枚。
季節ごとの景色を選んで描いて、
コンビニでコピーして仕上げている。
いつも億劫がって、のろのろと始めるから、
締め切りに追われる漫画家のように、
終盤は焦った気持ちで、仕事の合間に
まとめて仕上げているのだった。
ところがふだんのひま加減が、コロナ禍で
輪をかけてひまになった。
コロナをきっかけに、腕不足、気働きせぬ柄に
見切りをつけられたのか、お客さんの訪れが、
今年は昨年よりもよろしくない。
やれやれと、ため息交じりにカレンダーを作り始めたら、
10月が終わらぬうちに描きあげてしまった。
作る前に、今年撮った写真を確かめたら、
遠出といえば、夏に直江津まで酒を飲みに行ったのと、
飯山の菜の花公園と、小諸の懐古園の桜ぐらいなもので、
あとは近所をうろうろと。
大好きな上田の町をうろうろと。
酔っ払ってばかりいた。
年が明けたら、久々の湯の町まで足を延ばしましょう。
飲み仲間に声をかけたのだった。
紅葉の名所、昌禅寺の境内がいよいよ色づいてきた。
まずは秋から冬の深まりを、ゆっくりしずかに
味わってから。ひまな身に、言い聞かせたことだった。

日ごと冷え込みが進み、善光寺界隈が、
秋の色味を増してきた。
城山公園の桜並木も、赤く色づいてきたものの、
木の衰えなのか、色づく前にずいぶんと
葉が落ちていた。
スカスカした葉ならびがなんとも寂しいのだった。
毎年12月になると、手描きのカレンダーを
作って配っている。
ものぐさな身でも、数えてみたら、
およそ20年ほどつづいていた。
その年に足を運んだ先々で、
撮りためた写真の中から12枚。
季節ごとの景色を選んで描いて、
コンビニでコピーして仕上げている。
いつも億劫がって、のろのろと始めるから、
締め切りに追われる漫画家のように、
終盤は焦った気持ちで、仕事の合間に
まとめて仕上げているのだった。
ところがふだんのひま加減が、コロナ禍で
輪をかけてひまになった。
コロナをきっかけに、腕不足、気働きせぬ柄に
見切りをつけられたのか、お客さんの訪れが、
今年は昨年よりもよろしくない。
やれやれと、ため息交じりにカレンダーを作り始めたら、
10月が終わらぬうちに描きあげてしまった。
作る前に、今年撮った写真を確かめたら、
遠出といえば、夏に直江津まで酒を飲みに行ったのと、
飯山の菜の花公園と、小諸の懐古園の桜ぐらいなもので、
あとは近所をうろうろと。
大好きな上田の町をうろうろと。
酔っ払ってばかりいた。
年が明けたら、久々の湯の町まで足を延ばしましょう。
飲み仲間に声をかけたのだった。
紅葉の名所、昌禅寺の境内がいよいよ色づいてきた。
まずは秋から冬の深まりを、ゆっくりしずかに
味わってから。ひまな身に、言い聞かせたことだった。
運気を良くしたくて
神無月 6
10月も終わりが近づいて、日ごと寒さが増している。
仕事場にストーブを出さなきゃと、
馴染みの燃料店のご主人に灯油を届けてもらったら、
昨年よりもずいぶんと値が上がっている。
まじっすか・・
申しわけないですと恐縮するご主人曰く、
来週にはさらに1リットルあたり5円ほど値あがるという。
この冬はできるだけ暖冬になってもらいたいと、
ため息が出たのだった。
暮らしぶりがなかなか苦しいものの、ものぐさな身は、
さしたる努力もしないまま、
ぐずぐずと冴えない気分ですごしている。
そんな折り、ずいぶん久しぶりの友だちと
一献を交わした。
話をしていたら、奥さんが風水を生業にしていると
いうのだった。
風水とは、大地の気の流れを読み、
それを調整し活用する術という。
自宅や仕事場に良い気を巡らせ悪い気を払うように
指南してくれるという。
なんで早く教えてくれなかった。
そういうの大好きだぞ。
努力なしの他力本願。
ぜひ我が家をとお願いをした。
ほどなく足を運んできてくれて、
自宅兼仕事場をじっくり観察してもらい、後日、
冊子にまとめて報告に来てくれた。
その結果、良い運気を流すために、
茶箪笥や冷蔵庫、テレビに本棚や衣装箱の移動が
必要となって、仕事場も住まいも、
家屋を建てて以来の、おおがかりな模様替えと相成った。
この家屋は、北東の方角にもっとも良い運気があるといい、
一階の仕事場では、その場所でお金を保管すると
財に恵まれるといい、二階の住まいでは、
その場所を寝床にすると健康に良いという。
そういえば以前、
霊感のつよい友だちが我が家を訪ねて来たときに、
ここ、すごく良い気を感じると、おなじ位置を指していたと
思い出す。
目に見えない力を信じて、暮らしのかたちを変えて、
このさきどうなるのかな。
ちょいと楽しみなことだった。

10月も終わりが近づいて、日ごと寒さが増している。
仕事場にストーブを出さなきゃと、
馴染みの燃料店のご主人に灯油を届けてもらったら、
昨年よりもずいぶんと値が上がっている。
まじっすか・・
申しわけないですと恐縮するご主人曰く、
来週にはさらに1リットルあたり5円ほど値あがるという。
この冬はできるだけ暖冬になってもらいたいと、
ため息が出たのだった。
暮らしぶりがなかなか苦しいものの、ものぐさな身は、
さしたる努力もしないまま、
ぐずぐずと冴えない気分ですごしている。
そんな折り、ずいぶん久しぶりの友だちと
一献を交わした。
話をしていたら、奥さんが風水を生業にしていると
いうのだった。
風水とは、大地の気の流れを読み、
それを調整し活用する術という。
自宅や仕事場に良い気を巡らせ悪い気を払うように
指南してくれるという。
なんで早く教えてくれなかった。
そういうの大好きだぞ。
努力なしの他力本願。
ぜひ我が家をとお願いをした。
ほどなく足を運んできてくれて、
自宅兼仕事場をじっくり観察してもらい、後日、
冊子にまとめて報告に来てくれた。
その結果、良い運気を流すために、
茶箪笥や冷蔵庫、テレビに本棚や衣装箱の移動が
必要となって、仕事場も住まいも、
家屋を建てて以来の、おおがかりな模様替えと相成った。
この家屋は、北東の方角にもっとも良い運気があるといい、
一階の仕事場では、その場所でお金を保管すると
財に恵まれるといい、二階の住まいでは、
その場所を寝床にすると健康に良いという。
そういえば以前、
霊感のつよい友だちが我が家を訪ねて来たときに、
ここ、すごく良い気を感じると、おなじ位置を指していたと
思い出す。
目に見えない力を信じて、暮らしのかたちを変えて、
このさきどうなるのかな。
ちょいと楽しみなことだった。
スマホを落として
神無月 5
久しぶりの友だちと、ごきげんに酌み交わした翌朝、
スマホが見あたらない。
家じゅう探しても見つからず、
固定電話から発信しても、着信音が聞こえない。
・・またやっちまった・・
酔いよいの帰り道に、どこかでなくして
しまったのだった。
パソコンを開いて、スマホのGPSをたよりに調べたら、
夕べ世話になった、りさちゃんのクピドRから、
なじみの飲み屋、べじた坊さんの周辺にあるらしい。
べじた坊、おじゃましたっけ・・?
店の石垣さんに確認したら、昨晩はお見えになってないという。
りさちゃんに、店に置き忘れてないか
探してくれるようお願いして、
どこかに落ちているかと、
その周辺に出向いて探してみたものの、
見つからない。
悪いことは重なるもので、その帰り道、
信号待ちで車を止めていたら、
わきの駐車場に入ろうとした後続の車に、
後ろのドアをこすられて傷がついた。
踏んだり蹴ったりのありさまで、
とほほの気分で帰宅した。
パソコンを覗いたら、変わらずGPSは、
おなじ位置を示している。
そこではたと気がついた。べじた坊さんのすぐそばに、
やきとり屋、鳥市さんがあるのだった。
同行していた友だちに確認したら、
鳥市、行ったよと返事が来た。
・・まったく記憶がないぞ・・
焼き鳥は食べたのか?酒はなにを飲んだんだ?
うーむ、まったく記憶がないのだった。
夕方の開店どきを見計らって電話をしたら、
店の前の側溝に落ちていました。
先ほど長野駅前の交番に届けておきましたと、
ご主人から返ってきた。
ようやくほっとして、すぐに交番へ行き、
無事にスマホが戻った次第だった。
菓子折りを持って鳥市さんにお礼に行って、
べじた坊さんとりさちゃんに、ご心配をおかけしてと
お詫びにうかがった。
スマホは首から下げておいたほうがいいですよと、
石垣さんに、
アディダスのスマホケースをいただいてしまった。
いくつになっても、
まわりに余計な心配と気遣いをさせてしまい、
申しわけないやら情けないやら。
穴があったら入りたいと、つくづく思ったことだった。

久しぶりの友だちと、ごきげんに酌み交わした翌朝、
スマホが見あたらない。
家じゅう探しても見つからず、
固定電話から発信しても、着信音が聞こえない。
・・またやっちまった・・
酔いよいの帰り道に、どこかでなくして
しまったのだった。
パソコンを開いて、スマホのGPSをたよりに調べたら、
夕べ世話になった、りさちゃんのクピドRから、
なじみの飲み屋、べじた坊さんの周辺にあるらしい。
べじた坊、おじゃましたっけ・・?
店の石垣さんに確認したら、昨晩はお見えになってないという。
りさちゃんに、店に置き忘れてないか
探してくれるようお願いして、
どこかに落ちているかと、
その周辺に出向いて探してみたものの、
見つからない。
悪いことは重なるもので、その帰り道、
信号待ちで車を止めていたら、
わきの駐車場に入ろうとした後続の車に、
後ろのドアをこすられて傷がついた。
踏んだり蹴ったりのありさまで、
とほほの気分で帰宅した。
パソコンを覗いたら、変わらずGPSは、
おなじ位置を示している。
そこではたと気がついた。べじた坊さんのすぐそばに、
やきとり屋、鳥市さんがあるのだった。
同行していた友だちに確認したら、
鳥市、行ったよと返事が来た。
・・まったく記憶がないぞ・・
焼き鳥は食べたのか?酒はなにを飲んだんだ?
うーむ、まったく記憶がないのだった。
夕方の開店どきを見計らって電話をしたら、
店の前の側溝に落ちていました。
先ほど長野駅前の交番に届けておきましたと、
ご主人から返ってきた。
ようやくほっとして、すぐに交番へ行き、
無事にスマホが戻った次第だった。
菓子折りを持って鳥市さんにお礼に行って、
べじた坊さんとりさちゃんに、ご心配をおかけしてと
お詫びにうかがった。
スマホは首から下げておいたほうがいいですよと、
石垣さんに、
アディダスのスマホケースをいただいてしまった。
いくつになっても、
まわりに余計な心配と気遣いをさせてしまい、
申しわけないやら情けないやら。
穴があったら入りたいと、つくづく思ったことだった。
観光列車ろくもんで
神無月 4
十月半ばをすぎて、
それまでの穏やかな陽気がうそのように、
めっきり風が冷たくなった
秋がすすむなか、友だち二人を誘ってちいさな旅をした。
軽井沢から長野まで、しなの鉄道の観光列車、
ろくもんに乗ったのだった。
軽井沢では木々が色づきはじめていて、
見ごろをむかえると、紅葉の名所の雲場池付近は、
観光客でにぎわうこととなる。
昨年は、なんとなく行きそびれてしまったから、
今年は見逃さぬようにしなきゃいけない。
かわいいアテンダントのほら貝を合図に
列車に乗り込むと、
指定席に、
気持ちのこもったウエルカムカードが添えられていた。
列車が出発すると、駅長さんがホームで見送ってくれた。
酒と料理を味わいながら、沿線の景色を眺める旅は、
この日は県外からのお客も多く、
年配のご夫婦や、着物姿のご婦人たちに
たちのわるいヨッパの我が身やら織り交ぜて、
満員御礼と相成った。
料理は、東御市のアトリエ・ド・フロマージュの、
総料理長自ら乗り込んで、
沿線の食材を使った料理を提供してくれる。
ビールにワインに日本酒も、長野の誇る銘柄が
そろっていて、出発早々、宴が始まった。
進んでいくと、沿線沿いの幼稚園のちびっ子たちが、
並んで手を振ってくれてかわいい。
ハゼかけをしてある田んぼと、そのむこうの、
のどかな佇まいの里山と。
進みゆく秋の景色を眺めて、旨い料理と酒を堪能して。
なによりも、サービスを提供してくれるアテンダントのみなさんの、
笑顔の接客がすてきだった。
すぐそばに、女性のひとり客が座っていた。
退屈をしないように、間が持つように、気遣っている様子が
見ていて気持ちよく、
それだけで、ワイン三杯はいけたのだった。
同行した友だちも、贅沢な時間と喜んでくれて、
お誘いした甲斐があった。
コロナのいきおいが、かつてより収まってきたというものの、
まだ遠出をするにはためらいがある。
身近な範囲で命の洗濯ができるのは、
なんともありがたいことだった。
また次回を楽しみに、五百円玉貯金を始めることとする。

十月半ばをすぎて、
それまでの穏やかな陽気がうそのように、
めっきり風が冷たくなった
秋がすすむなか、友だち二人を誘ってちいさな旅をした。
軽井沢から長野まで、しなの鉄道の観光列車、
ろくもんに乗ったのだった。
軽井沢では木々が色づきはじめていて、
見ごろをむかえると、紅葉の名所の雲場池付近は、
観光客でにぎわうこととなる。
昨年は、なんとなく行きそびれてしまったから、
今年は見逃さぬようにしなきゃいけない。
かわいいアテンダントのほら貝を合図に
列車に乗り込むと、
指定席に、
気持ちのこもったウエルカムカードが添えられていた。
列車が出発すると、駅長さんがホームで見送ってくれた。
酒と料理を味わいながら、沿線の景色を眺める旅は、
この日は県外からのお客も多く、
年配のご夫婦や、着物姿のご婦人たちに
たちのわるいヨッパの我が身やら織り交ぜて、
満員御礼と相成った。
料理は、東御市のアトリエ・ド・フロマージュの、
総料理長自ら乗り込んで、
沿線の食材を使った料理を提供してくれる。
ビールにワインに日本酒も、長野の誇る銘柄が
そろっていて、出発早々、宴が始まった。
進んでいくと、沿線沿いの幼稚園のちびっ子たちが、
並んで手を振ってくれてかわいい。
ハゼかけをしてある田んぼと、そのむこうの、
のどかな佇まいの里山と。
進みゆく秋の景色を眺めて、旨い料理と酒を堪能して。
なによりも、サービスを提供してくれるアテンダントのみなさんの、
笑顔の接客がすてきだった。
すぐそばに、女性のひとり客が座っていた。
退屈をしないように、間が持つように、気遣っている様子が
見ていて気持ちよく、
それだけで、ワイン三杯はいけたのだった。
同行した友だちも、贅沢な時間と喜んでくれて、
お誘いした甲斐があった。
コロナのいきおいが、かつてより収まってきたというものの、
まだ遠出をするにはためらいがある。
身近な範囲で命の洗濯ができるのは、
なんともありがたいことだった。
また次回を楽しみに、五百円玉貯金を始めることとする。
玉置さんの歌に
神無月 3
いちばん好きな歌手は玉置浩二さん。
ユーチューブを開いては、仕事の合間に聴いている。
安全地帯でテレビに出ていた30年前は、
いかつい化粧をした姿で歌っていた。
還暦を過ぎたこの頃は、
ちょい長めの白髪で、
落ちついた大人の色気をただよわせている。
このたび、ホクト文化ホールでのライブに、
いそいそと足を運んだのだった。
薄暮の中、文化ホールに着けば、
開場まえから大勢の人が入り口で待っている
ほどなく受付が始まって、
すぐにグッズ売り場に行列ができる。
席について見渡していれば、
あっという間に大ホールが
満員御礼となった。
高校生ぐらいの子供から、同世代のかたや
じいさんばあさんまで、観客の顔つきがさまざまで、
すてきな曲と歌声は、幅ひろい層に
愛されているのがうかがえる。
ライブは、途中休憩をはさんで前半と後半。
長いコートを羽織って現れた玉置さんの曲は、
しっとり聴かせるバラードがつづき、
自身の曲に混じって、
尾崎豊のアイラブユーも披露された。
後半、ヒット曲の田園が始まると、
会場が盛大な手拍子に包まれる。
コロナ対策のために、観客は皆マスクをして、
歓声をあげることができない。
その分も込めて、
拍手と手拍子で歌と演奏にこたえていた。
玉置さんのライブは、途中で語りを入れることなく、
歌声だけがつづく。
なつかしい曲に最近の曲に、合わせて十四曲。
アンコールで、いちばん好きな
しあわせのランプを歌ってくれたからよかった。
玉置さんの魅力は、
馴染みの飲み屋のご主人に教えてもらった。
あいにく今夜は、都合がわるくて来られなかった。
ライブよかったよー。
報告がてらの一献に、
ご主人の店まで早足になる。

いちばん好きな歌手は玉置浩二さん。
ユーチューブを開いては、仕事の合間に聴いている。
安全地帯でテレビに出ていた30年前は、
いかつい化粧をした姿で歌っていた。
還暦を過ぎたこの頃は、
ちょい長めの白髪で、
落ちついた大人の色気をただよわせている。
このたび、ホクト文化ホールでのライブに、
いそいそと足を運んだのだった。
薄暮の中、文化ホールに着けば、
開場まえから大勢の人が入り口で待っている
ほどなく受付が始まって、
すぐにグッズ売り場に行列ができる。
席について見渡していれば、
あっという間に大ホールが
満員御礼となった。
高校生ぐらいの子供から、同世代のかたや
じいさんばあさんまで、観客の顔つきがさまざまで、
すてきな曲と歌声は、幅ひろい層に
愛されているのがうかがえる。
ライブは、途中休憩をはさんで前半と後半。
長いコートを羽織って現れた玉置さんの曲は、
しっとり聴かせるバラードがつづき、
自身の曲に混じって、
尾崎豊のアイラブユーも披露された。
後半、ヒット曲の田園が始まると、
会場が盛大な手拍子に包まれる。
コロナ対策のために、観客は皆マスクをして、
歓声をあげることができない。
その分も込めて、
拍手と手拍子で歌と演奏にこたえていた。
玉置さんのライブは、途中で語りを入れることなく、
歌声だけがつづく。
なつかしい曲に最近の曲に、合わせて十四曲。
アンコールで、いちばん好きな
しあわせのランプを歌ってくれたからよかった。
玉置さんの魅力は、
馴染みの飲み屋のご主人に教えてもらった。
あいにく今夜は、都合がわるくて来られなかった。
ライブよかったよー。
報告がてらの一献に、
ご主人の店まで早足になる。

旬がつかめず。
神無月 2
十月も半ばとなるのに、日中夏場のような陽気がつづく。
Tシャツ一枚で動いていても、
じんわり汗をかいてくる。
それでいて、朝晩の冷え込みは日ごと増している。
早朝の散歩にシャツ一枚の短パン姿で外へ出れば、
思わず鳥肌が立つ。
晩酌で酔いつぶれ、毛布もかけずにうたた寝をしていると、
寒さで目が覚める。
一日の寒暖の差に、体調をくずさぬように
気をつけなくてはいけない。
近所の肉屋に出かけたら、見るからにうまそうな、
大ぶりの真っ赤なトマトがあった。
酒のつまみに買ったら、
見た目にたがわず、甘く熟した味で美味しい。
トマトといえば、夏が旬。
この夏はほぼ毎日のように食べていた。
ところが調べてみたら、
春や、秋から冬の空気の乾燥するときが、
いちばん味がのるというのだった。
今は一年中いろんな野菜が食べられる。
食生活に、たいして気を使っているわけでは
ないけれど、旬の外れた野菜を食べるのは
なんとなく気が引けて、
この頃は、トマトもあまり食べなくなっていた。
旬はまだまだつづくと知って、
トマト好きの身には、なんともうれしいことだった。
ぶどうを作っている友だち夫婦がいる。
気温が上がってほしい八月に
長雨が降り、そのあとも陽気が回復せず、
ぶどうの糖度が上がらないと嘆いていた。
遅れに遅れて、この頃になって、
ようやく出荷のめどがついたという。
春夏秋冬、一年を通して気候の読めない日が多い。
温暖化もあって、野菜や果物の旬が、
昔と変わってくるかもしれない。
農作業をするかたがたの、気苦労が
うかがえるのだった。
鬼滅の刃に
神無月 1
テレビの、アニメ放送を楽しみにしていたのは
いつまでだったか。
振り返れば、高校生の頃の機動戦士ガンダムに
思い当たる。
それ以前、子供の頃に見ていたアニメとちがい、
登場人物の気持ちのありようが、
細やかにあらわされていると
思ったことを覚えている。
それ以降、アニメに興味を持つことなく、
超時空要塞マクロスも、新世紀エヴァンゲリオンも、
観ることもなくすごしてきた。
昨今、ちまたで鬼滅の刃が話題になっても、
まるで興味がむかないのだった。
その鬼滅の刃が、先月テレビで放送された。
興味がないから放送することすら知らず、
晩酌の折りに、
たまたまテレビをつけて、チャンネルを変えていたら
ぶつかった。
ふ~ん、これですかと、
観るともなしに観ていたら、
引き込まれて、結局さいごまで観てしまった。
計六回、連夜にわたる放送で、
鬼もせつない。鬼殺隊もせつない。
みんな名前がむずかしくて、
だれがだれやら覚えられぬまま観ていたのだった。
今月の日曜日の深夜から、再び始まるというから、
酔いつぶれて、
見逃さぬようにしなくてはいけない。
日をおいた月末、愛用のお掃除ロボットの
備品を求めてアマゾンを開いたら、
カートになにか入っている。
確かめたら、鬼滅の刃の単行本、
新品全二十三巻だった。
入れた記憶がないぞ・・
アニメを観て、
酔ったいきおいでカートに放り込んだらしい。
あぶねえあぶねえ。
出費がかさなる月末に、でかい散財を
するとこだった。
ポチっとせずにカートに保留したのは、
そのためらいがあったおかげだった。
五百円玉貯金が貯まったら、
すみやかに取り寄せることにしたのだった。

テレビの、アニメ放送を楽しみにしていたのは
いつまでだったか。
振り返れば、高校生の頃の機動戦士ガンダムに
思い当たる。
それ以前、子供の頃に見ていたアニメとちがい、
登場人物の気持ちのありようが、
細やかにあらわされていると
思ったことを覚えている。
それ以降、アニメに興味を持つことなく、
超時空要塞マクロスも、新世紀エヴァンゲリオンも、
観ることもなくすごしてきた。
昨今、ちまたで鬼滅の刃が話題になっても、
まるで興味がむかないのだった。
その鬼滅の刃が、先月テレビで放送された。
興味がないから放送することすら知らず、
晩酌の折りに、
たまたまテレビをつけて、チャンネルを変えていたら
ぶつかった。
ふ~ん、これですかと、
観るともなしに観ていたら、
引き込まれて、結局さいごまで観てしまった。
計六回、連夜にわたる放送で、
鬼もせつない。鬼殺隊もせつない。
みんな名前がむずかしくて、
だれがだれやら覚えられぬまま観ていたのだった。
今月の日曜日の深夜から、再び始まるというから、
酔いつぶれて、
見逃さぬようにしなくてはいけない。
日をおいた月末、愛用のお掃除ロボットの
備品を求めてアマゾンを開いたら、
カートになにか入っている。
確かめたら、鬼滅の刃の単行本、
新品全二十三巻だった。
入れた記憶がないぞ・・
アニメを観て、
酔ったいきおいでカートに放り込んだらしい。
あぶねえあぶねえ。
出費がかさなる月末に、でかい散財を
するとこだった。
ポチっとせずにカートに保留したのは、
そのためらいがあったおかげだった。
五百円玉貯金が貯まったら、
すみやかに取り寄せることにしたのだった。