犯人が捕まって
葉月 4
週末の午前、
長野中央警察署の刑事さんがやってきた。
犯人が捕まったというのだった。
昨年の秋に、空き家にしている実家に、
空き巣が入った。
別件で捕まえた犯人が、、
実家への犯行も自白したというのだった。
35歳の男性で、以前松本で、
飲食店ばかりを狙って、窃盗を繰り返して
いた。
捕まって服役をして、刑期を終えて出てきたら、
今度は空き家ばかりを狙って、
忍び込んでいた。
箱清水に上松あたりを中心に、
浅川や安茂里のお宅まで足を延ばして
いたという。
毎晩のように出歩いては、
あちこち下見して、
これまで100件以上の犯行を
かさねてきた。
怪しまれぬように犯行に使うのは、
ポケットに隠せるペンライトと、
ドライバー1本だけという。
身軽で、雨どいをつたって、
2階から侵入されたお宅も多いといい、
たしかに実家の場合も、鍵のこわれた
細い高窓を外して侵入されたのだった。
その労力を、
まともな仕事に活かせないんですかねえ。
刑事さんにあきれていえば、
取り調べをしていても、
反省している様子がまるでみられないと、
憎々しげにいうのだった。
さいわい実家では、
たいした被害はなかったものの、
世の中には、ほんとに悪いやつがいる。
しっかり罰を与えてくださいと、
自白に基づいた書類をたしかめて、
はんこを押した。
それにしても、最近の刑事さんは、
ずいぶんとあかぬけたものだった。
訪ねてきたのは、若いツーブロックカットの
イケメンさんで、
そのまま刑事ドラマに出てもおかしくない。
MIU404どうですか。
思わず突っ込みそうになる。

週末の午前、
長野中央警察署の刑事さんがやってきた。
犯人が捕まったというのだった。
昨年の秋に、空き家にしている実家に、
空き巣が入った。
別件で捕まえた犯人が、、
実家への犯行も自白したというのだった。
35歳の男性で、以前松本で、
飲食店ばかりを狙って、窃盗を繰り返して
いた。
捕まって服役をして、刑期を終えて出てきたら、
今度は空き家ばかりを狙って、
忍び込んでいた。
箱清水に上松あたりを中心に、
浅川や安茂里のお宅まで足を延ばして
いたという。
毎晩のように出歩いては、
あちこち下見して、
これまで100件以上の犯行を
かさねてきた。
怪しまれぬように犯行に使うのは、
ポケットに隠せるペンライトと、
ドライバー1本だけという。
身軽で、雨どいをつたって、
2階から侵入されたお宅も多いといい、
たしかに実家の場合も、鍵のこわれた
細い高窓を外して侵入されたのだった。
その労力を、
まともな仕事に活かせないんですかねえ。
刑事さんにあきれていえば、
取り調べをしていても、
反省している様子がまるでみられないと、
憎々しげにいうのだった。
さいわい実家では、
たいした被害はなかったものの、
世の中には、ほんとに悪いやつがいる。
しっかり罰を与えてくださいと、
自白に基づいた書類をたしかめて、
はんこを押した。
それにしても、最近の刑事さんは、
ずいぶんとあかぬけたものだった。
訪ねてきたのは、若いツーブロックカットの
イケメンさんで、
そのまま刑事ドラマに出てもおかしくない。
MIU404どうですか。
思わず突っ込みそうになる。
このお盆に
葉月 3
迎え盆の13日、朝いちばんに
西町の西方寺へ出かけた。
2年前に亡くなった友だちがいる。
残ったご家族や、親しかった友だちを
見守ってくれるよう、
おおらかな体、人柄思い出し、
墓に手を合わせた。
お昼前の午前、菩提寺の寛慶寺へ行けば、
つぎつぎと檀家さんがやってくる。
墓前でかんばを焚いて、
この明かりでおいでおいで。
手を合わせ、祖父に祖母に父、
ご先祖さんをおむかえした。
翌日、信濃町まで出かけた。
黒姫山のふもとに、世話になったかたの
墓がある。
林の中の墓地に着けば、
虫のささやきと、降りそそぐ蝉の鳴き声が、
しずかに迎えてくれた。
かつて縁のあったかたを
見守ってくれますよう、手を合わせた。
生前親しかったかたに手を合わせれば、
気持ちがしんと温かい。思い出し、
温かい気持ちを頂くことでつながれる。
お盆はそんなひとときと思う。
今日の黒姫山は、のんびりとした
夏雲がかかっていた。
鳥居川の流れは軽快に涼を呼び、
林の緑ふかく、黄緑色の稲穂の実る
田んぼの向こうには、
ひろびろと夏空が広がっている。
いつ来ても好い処なのだった。
熊に出会わぬうちにと、車に乗って、
そのまま飯山の、菜の花公園へ向かった。
春の菜の花公園は、夏の間、
ひまわり公園になる。
人っ子ひとりいない中、
きらきら光る千曲川を背景に、
行儀よく、
ひまわりの明るい黄色が揺れていた。
公園を出てしばらく行くと、福島地区の
棚田がある。
汗をかきかき棚田の先まで上がっていくと、
阿弥陀堂へたどり着く.
ちいさくなった集落のむこう、
悠々とした夏空を眺めれば、
ほっと気持ちも和むのだった。
信濃町まで行ったのに、景色ばかりに
気をとられた。
名物のトウモロコシを失念していたのは、
なんとも間抜けなことだった。

迎え盆の13日、朝いちばんに
西町の西方寺へ出かけた。
2年前に亡くなった友だちがいる。
残ったご家族や、親しかった友だちを
見守ってくれるよう、
おおらかな体、人柄思い出し、
墓に手を合わせた。
お昼前の午前、菩提寺の寛慶寺へ行けば、
つぎつぎと檀家さんがやってくる。
墓前でかんばを焚いて、
この明かりでおいでおいで。
手を合わせ、祖父に祖母に父、
ご先祖さんをおむかえした。
翌日、信濃町まで出かけた。
黒姫山のふもとに、世話になったかたの
墓がある。
林の中の墓地に着けば、
虫のささやきと、降りそそぐ蝉の鳴き声が、
しずかに迎えてくれた。
かつて縁のあったかたを
見守ってくれますよう、手を合わせた。
生前親しかったかたに手を合わせれば、
気持ちがしんと温かい。思い出し、
温かい気持ちを頂くことでつながれる。
お盆はそんなひとときと思う。
今日の黒姫山は、のんびりとした
夏雲がかかっていた。
鳥居川の流れは軽快に涼を呼び、
林の緑ふかく、黄緑色の稲穂の実る
田んぼの向こうには、
ひろびろと夏空が広がっている。
いつ来ても好い処なのだった。
熊に出会わぬうちにと、車に乗って、
そのまま飯山の、菜の花公園へ向かった。
春の菜の花公園は、夏の間、
ひまわり公園になる。
人っ子ひとりいない中、
きらきら光る千曲川を背景に、
行儀よく、
ひまわりの明るい黄色が揺れていた。
公園を出てしばらく行くと、福島地区の
棚田がある。
汗をかきかき棚田の先まで上がっていくと、
阿弥陀堂へたどり着く.
ちいさくなった集落のむこう、
悠々とした夏空を眺めれば、
ほっと気持ちも和むのだった。
信濃町まで行ったのに、景色ばかりに
気をとられた。
名物のトウモロコシを失念していたのは、
なんとも間抜けなことだった。
孫の笑顔が
葉月 2
朝、仕事場で新聞を広げていたら、
となりの旦那さんが、ひょいっと顔を出してきた。
今、ひま?と聞くから、
ひまですと返したら、
ちょっと来てという。
促されるままお宅におじゃまをしたら、
これ見てよという。
和室の床の間に、
戦艦大和が、鎮座していたのだった。
旦那さんが作ったんですかあ!と感嘆したら、
ようやく完成してねえと、にこにこする。
威風堂々とした船体に、甲板や砲台に銃台、
こまかなパーツが組付けられて、
じつに精密に作られている。
男の子のお孫さんが二人いて、
ときどき遊びにやってくる。
まだ上の子がちいさいころ、
どこぞで大和の写真か動画を観て、
いたく惹かれたらしい。
以来顔を合わせるたびに、
じぃじ、やまと作ってよ~と催促をされていた。
そんな折り、テレビで、
戦艦大和組み立てキットの広告が流れた。
1週間にいちど、
雑誌と一緒に組み立てパーツが送られてくる。
全巻90回で完成に至る、大がかりな代物だった。
さっそく注文して取り掛かってみたら、
パーツのひとつひとつが、思いのほかに細かくて、
一筋縄ではいかない。
町の区長の仕事もいそがしくなり、
手を付けられない日もつづいてしまった。
この春、区長の座を退いて、ようやくゆとりができた。
完成まで10年かかっちゃったと、笑うのだった。
昔、岡谷の音響会社で、
アンプやスピーカーを作っていたかただった。
いまでも駐車場の奥の作業場で、
こつこつアンプを作っている。
細かな作業は、きっちりお手の物なのだった。
丁寧に作られた模型、
お孫さん喜びますねといえば、
乱暴に扱って
こわされなきゃいいんだけどと笑う。
このお盆は、じぃじの株も一段上がることとなり、
まことに喜ばしいことだった。

朝、仕事場で新聞を広げていたら、
となりの旦那さんが、ひょいっと顔を出してきた。
今、ひま?と聞くから、
ひまですと返したら、
ちょっと来てという。
促されるままお宅におじゃまをしたら、
これ見てよという。
和室の床の間に、
戦艦大和が、鎮座していたのだった。
旦那さんが作ったんですかあ!と感嘆したら、
ようやく完成してねえと、にこにこする。
威風堂々とした船体に、甲板や砲台に銃台、
こまかなパーツが組付けられて、
じつに精密に作られている。
男の子のお孫さんが二人いて、
ときどき遊びにやってくる。
まだ上の子がちいさいころ、
どこぞで大和の写真か動画を観て、
いたく惹かれたらしい。
以来顔を合わせるたびに、
じぃじ、やまと作ってよ~と催促をされていた。
そんな折り、テレビで、
戦艦大和組み立てキットの広告が流れた。
1週間にいちど、
雑誌と一緒に組み立てパーツが送られてくる。
全巻90回で完成に至る、大がかりな代物だった。
さっそく注文して取り掛かってみたら、
パーツのひとつひとつが、思いのほかに細かくて、
一筋縄ではいかない。
町の区長の仕事もいそがしくなり、
手を付けられない日もつづいてしまった。
この春、区長の座を退いて、ようやくゆとりができた。
完成まで10年かかっちゃったと、笑うのだった。
昔、岡谷の音響会社で、
アンプやスピーカーを作っていたかただった。
いまでも駐車場の奥の作業場で、
こつこつアンプを作っている。
細かな作業は、きっちりお手の物なのだった。
丁寧に作られた模型、
お孫さん喜びますねといえば、
乱暴に扱って
こわされなきゃいいんだけどと笑う。
このお盆は、じぃじの株も一段上がることとなり、
まことに喜ばしいことだった。
明るい夏を
葉月 1
7月さいごの日、
馴染みのべじた坊さんへ出かけた。
酌みながら、ご主人と話をすれば、
年が明けてから、この半年とひと月、
なにもしないまま過ぎていったという。
コロナの緊急事態宣言を受けて、休業して、
営業を再開しても、以前の客足が戻らない。
だらだらと、
今日まで来てしまったというのだった。
たしかに、コロナ騒ぎが起きてから、
なんとなく不安のまとわりついた、
浮かない気分の毎日だった。
そんなときにたとえばニュースで、
バイクの男性が、車に衝突されて死亡したと
聞けば、
とたんにバイクになるのが怖くなる。
アパートの一室で、老人が孤独死していたと
聞けば、
5年先、10年先の老後が心配になる。
負の連鎖にしばられて、
よくないことばかりを想像しては、
こちらもだらだらと、過ごしていた。
外出する気も、それほど起きなかったのに、
手帳を開いてみれば、さにあらず。
定例の、ワインの会に日本酒の会に、
近所の旦那衆との集まりに。
久しいかたとの一献もあれば、
ふらふら独酌の日もあって、
いつもと変わらぬ酔っ払いぶりだった。
気分が明暗どちらでも、
飲まなきゃやってられんのだった。
それならば、明るい気分で酔ったほうが、
心身のためにも好いに決まっている。
余計な不安にしばられずに、この夏を。
言い聞かせたことだった。
べじた坊さんに通うようになって、
この6月で、まる10年と相成った。
バカ酔っ払いを、ながなが引き受けてくださって。
まことにありがたいことだった。

HPから拝借。
7月さいごの日、
馴染みのべじた坊さんへ出かけた。
酌みながら、ご主人と話をすれば、
年が明けてから、この半年とひと月、
なにもしないまま過ぎていったという。
コロナの緊急事態宣言を受けて、休業して、
営業を再開しても、以前の客足が戻らない。
だらだらと、
今日まで来てしまったというのだった。
たしかに、コロナ騒ぎが起きてから、
なんとなく不安のまとわりついた、
浮かない気分の毎日だった。
そんなときにたとえばニュースで、
バイクの男性が、車に衝突されて死亡したと
聞けば、
とたんにバイクになるのが怖くなる。
アパートの一室で、老人が孤独死していたと
聞けば、
5年先、10年先の老後が心配になる。
負の連鎖にしばられて、
よくないことばかりを想像しては、
こちらもだらだらと、過ごしていた。
外出する気も、それほど起きなかったのに、
手帳を開いてみれば、さにあらず。
定例の、ワインの会に日本酒の会に、
近所の旦那衆との集まりに。
久しいかたとの一献もあれば、
ふらふら独酌の日もあって、
いつもと変わらぬ酔っ払いぶりだった。
気分が明暗どちらでも、
飲まなきゃやってられんのだった。
それならば、明るい気分で酔ったほうが、
心身のためにも好いに決まっている。
余計な不安にしばられずに、この夏を。
言い聞かせたことだった。
べじた坊さんに通うようになって、
この6月で、まる10年と相成った。
バカ酔っ払いを、ながなが引き受けてくださって。
まことにありがたいことだった。

HPから拝借。