今年のおわりに
師走 八
今年ももうすぐおわりとなる。年明けからこんにちまで、
春夏秋冬、災害に見舞われた信州だった。
友だちのブログを覗いたら、今朝の気温は-12度とあり、
きれいな雪の結晶の写真が載っていた。
雪かきをして、朝ごはんを食べてまた雪かき。
元気に朝をむかえられること、
あったかい味噌汁の朝ごはんが食べられること、
なによりのことだなあという。
ほんとうに。
あたりまえの日々を過ごせることの有り難さを、
あらためて実感した一年だった。
春のはじめに、若い知り合いが逝ってしまった。
花の季節、ひとりで桜や菜の花を見ていると思いだされ、
ずいぶんせつなかったものだった。
それでも、春の夜桜に夏の花火、秋の紅葉に、
まだ雪浅いころの温泉と、
常づねのかたにひさしぶりのかた、
初めてのかたにもお会いして
楽しい宴のひとときをご一緒させていただいた。
離れて暮らす娘がいる。今年結婚をして、
秋に女の子を産んだ。娘はお母さんになり、
こちらはおじいさんになってしまった。
生まれた子には、太陽の陽と書いて、はる という名前を付けた。
陽のひかりのように、明るくあたたかな柄に育っていただきたい。
あいかわらず、後悔しても反省をしない身は、
今年もおなじあやまちをくりかえしていた。
中途半端に気持ちと体をうごかさぬこと。
来年は大丈夫かいなとため息が出る。
だらしのないヨッパに、懲りずに付き合ってくれて
ありがとうございました。
未の年も、みなさんと笑顔で酌み交わせますよう。
好い年をお迎えください。

今年ももうすぐおわりとなる。年明けからこんにちまで、
春夏秋冬、災害に見舞われた信州だった。
友だちのブログを覗いたら、今朝の気温は-12度とあり、
きれいな雪の結晶の写真が載っていた。
雪かきをして、朝ごはんを食べてまた雪かき。
元気に朝をむかえられること、
あったかい味噌汁の朝ごはんが食べられること、
なによりのことだなあという。
ほんとうに。
あたりまえの日々を過ごせることの有り難さを、
あらためて実感した一年だった。
春のはじめに、若い知り合いが逝ってしまった。
花の季節、ひとりで桜や菜の花を見ていると思いだされ、
ずいぶんせつなかったものだった。
それでも、春の夜桜に夏の花火、秋の紅葉に、
まだ雪浅いころの温泉と、
常づねのかたにひさしぶりのかた、
初めてのかたにもお会いして
楽しい宴のひとときをご一緒させていただいた。
離れて暮らす娘がいる。今年結婚をして、
秋に女の子を産んだ。娘はお母さんになり、
こちらはおじいさんになってしまった。
生まれた子には、太陽の陽と書いて、はる という名前を付けた。
陽のひかりのように、明るくあたたかな柄に育っていただきたい。
あいかわらず、後悔しても反省をしない身は、
今年もおなじあやまちをくりかえしていた。
中途半端に気持ちと体をうごかさぬこと。
来年は大丈夫かいなとため息が出る。
だらしのないヨッパに、懲りずに付き合ってくれて
ありがとうございました。
未の年も、みなさんと笑顔で酌み交わせますよう。
好い年をお迎えください。
栃木、相良酒造さん
師走 七
師走下旬、同業の友だち二人と我が家で忘年会をした。
仕事に対する構え方はちがうものの、
蕎麦屋と飲み屋と酒の味に関しては、実に気持ちが通じ合う。
折よく、利いてもらいたい銘柄が冷蔵庫にあるのだった。
遠くの町で酒屋を営む友だちが、
取引をしている、栃木の相良酒造さんの新酒を送ってきてくれた。
家族で営むちいさなお蔵で、お兄さんが営業を、
娘さんが造りの跡を継いでいる。
朝日栄といい、新年を迎えるのにふさわしい、
めでたい銘柄なのだった。
しぼりたての原酒と特別純米の二本、
酔う前に三人で利いてみる。
しぼりたては、原酒の濃い旨みがあるものの、
十八度のアルコールのわりには飲みやすい。
切れは、あと味がゆるゆると口にのこる。
特別純米は、十四度と低いアルコールのせいか、
口あたりが軽い。
ほどよい酸の旨みが、かすかな個性的な含み香とともに、
これまたゆっくり口にのこる。
テレビでは、全日本フィギアの、女子のフリーを映していた。
浅田真央のような華やかさではない。
鈴木明子のような、ほっとする感じの味わいなのだった。
朝日栄のあとに、くどき上手を空けて、澤屋まつもとへといった。
合間にチェイサーでスパークリングワインを二本に赤を二本、
麦焼酎のお湯割りにくつろいで、
帰る二人を見送った。
夜半、グラスと器を片付けながら思いつく。
燗がいいのではないか。
冷蔵庫にしまったばかりの朝日栄の二本を、
引っ張り出して温めた。
ゆるやかだった輪郭の角が立ち、
冷やや常温で酌むよりも、酸の旨みがぱっと冴えた。
鈴木明子、そう来ましたか。
兄妹で力を合わせるちいさなお蔵のこれからが
飲兵衛の楽しみに加わってしまうのだった。

師走下旬、同業の友だち二人と我が家で忘年会をした。
仕事に対する構え方はちがうものの、
蕎麦屋と飲み屋と酒の味に関しては、実に気持ちが通じ合う。
折よく、利いてもらいたい銘柄が冷蔵庫にあるのだった。
遠くの町で酒屋を営む友だちが、
取引をしている、栃木の相良酒造さんの新酒を送ってきてくれた。
家族で営むちいさなお蔵で、お兄さんが営業を、
娘さんが造りの跡を継いでいる。
朝日栄といい、新年を迎えるのにふさわしい、
めでたい銘柄なのだった。
しぼりたての原酒と特別純米の二本、
酔う前に三人で利いてみる。
しぼりたては、原酒の濃い旨みがあるものの、
十八度のアルコールのわりには飲みやすい。
切れは、あと味がゆるゆると口にのこる。
特別純米は、十四度と低いアルコールのせいか、
口あたりが軽い。
ほどよい酸の旨みが、かすかな個性的な含み香とともに、
これまたゆっくり口にのこる。
テレビでは、全日本フィギアの、女子のフリーを映していた。
浅田真央のような華やかさではない。
鈴木明子のような、ほっとする感じの味わいなのだった。
朝日栄のあとに、くどき上手を空けて、澤屋まつもとへといった。
合間にチェイサーでスパークリングワインを二本に赤を二本、
麦焼酎のお湯割りにくつろいで、
帰る二人を見送った。
夜半、グラスと器を片付けながら思いつく。
燗がいいのではないか。
冷蔵庫にしまったばかりの朝日栄の二本を、
引っ張り出して温めた。
ゆるやかだった輪郭の角が立ち、
冷やや常温で酌むよりも、酸の旨みがぱっと冴えた。
鈴木明子、そう来ましたか。
兄妹で力を合わせるちいさなお蔵のこれからが
飲兵衛の楽しみに加わってしまうのだった。

クリスマスになると
師走 六
天皇誕生日、さっぱりと晴れて気持ちが好い。
夕方、宴の席に出かけた。
その前にと思いついて、駅前のデパートに行った。
地下の食品売り場は、威勢のいい、
お兄さんやおじさんの呼び込みの声がひびき、
クリスマスの買い物客で混みあっている。
酒売り場で思案して、秋田と島根の酒を一本づつ買いもとめた。
今夜お会いするかたに、先日心づかいをいただいた。
そのお礼なのだった。
ワインを買うおじさんに、ウイスキーを買っていくアベックに、
クリスマスの酔いをもとめるお客が、
つぎつぎとレジに並んでくる。
この頃は、すっかりクリスマスにも縁がない。
縁がないのに、毎晩クリスマスか正月かというように、
めでたく酔っぱらっている。
だらだら惰性のようにめりはりがなく、
もうすこし、ハレとケの区別をしなければいけないのだった。
子供のころ、クリスマスを家族で過ごした記憶がない。
酒飲みの父は、毎晩飲み屋に通っていた。
クリスマスだから、子供にケーキを買ってゆく。
そんなことを、米粒ほども思わない酔っ払いだった。
母も仕事がいそがしかったから、
特別にごちそうを作るひまもなく、
今ほどケーキ屋があちこちにあるわけではなかったから、
買いに行くのも面倒だった。
それでもありがたいことに、毎年美味しいケーキにありつけた。
母のふるい友だちのおじさんが、
きまって買ってきてくれたのだった。
奥さんとの間に子供のいないかただった。
ときどきご飯を食べに連れて行ってくれたり、
誕生日には野球のグローブやボールなど、
プレゼントもいただいて、ずいぶんかわいがってもらった。
何年も、我が子のように好くしてくれたのに、
養子にくれないかとお願いして、母の怒りを買ってしまった。
それ以来出入りをことわったという話は、
ずいぶんあとになって聞かされた。
あんなに世話になったのだから、
訪ねていくなり、電話をすればよかった。
中学生になり、部活や勉強にかまけて、
来なくなったことも気に留めない、薄情な子供だった。
今もたいして変わらぬ柄は、養子にしなくて正解でした。
思いだすたびに言い訳めいている。

天皇誕生日、さっぱりと晴れて気持ちが好い。
夕方、宴の席に出かけた。
その前にと思いついて、駅前のデパートに行った。
地下の食品売り場は、威勢のいい、
お兄さんやおじさんの呼び込みの声がひびき、
クリスマスの買い物客で混みあっている。
酒売り場で思案して、秋田と島根の酒を一本づつ買いもとめた。
今夜お会いするかたに、先日心づかいをいただいた。
そのお礼なのだった。
ワインを買うおじさんに、ウイスキーを買っていくアベックに、
クリスマスの酔いをもとめるお客が、
つぎつぎとレジに並んでくる。
この頃は、すっかりクリスマスにも縁がない。
縁がないのに、毎晩クリスマスか正月かというように、
めでたく酔っぱらっている。
だらだら惰性のようにめりはりがなく、
もうすこし、ハレとケの区別をしなければいけないのだった。
子供のころ、クリスマスを家族で過ごした記憶がない。
酒飲みの父は、毎晩飲み屋に通っていた。
クリスマスだから、子供にケーキを買ってゆく。
そんなことを、米粒ほども思わない酔っ払いだった。
母も仕事がいそがしかったから、
特別にごちそうを作るひまもなく、
今ほどケーキ屋があちこちにあるわけではなかったから、
買いに行くのも面倒だった。
それでもありがたいことに、毎年美味しいケーキにありつけた。
母のふるい友だちのおじさんが、
きまって買ってきてくれたのだった。
奥さんとの間に子供のいないかただった。
ときどきご飯を食べに連れて行ってくれたり、
誕生日には野球のグローブやボールなど、
プレゼントもいただいて、ずいぶんかわいがってもらった。
何年も、我が子のように好くしてくれたのに、
養子にくれないかとお願いして、母の怒りを買ってしまった。
それ以来出入りをことわったという話は、
ずいぶんあとになって聞かされた。
あんなに世話になったのだから、
訪ねていくなり、電話をすればよかった。
中学生になり、部活や勉強にかまけて、
来なくなったことも気に留めない、薄情な子供だった。
今もたいして変わらぬ柄は、養子にしなくて正解でした。
思いだすたびに言い訳めいている。
ひと冬養生
師走 五
整骨院を営んでいる友だちがいて、
ここ二週間ほど世話になっている。
先月の末に左のひざを痛めた。
湿布を貼っておけば大丈夫と、たかをくくっていたら、
腫れも引かずに痛みも増してきた。
診てもらったら、お皿と靭帯を痛めてるねえ。
これは時間がかかるねえと、さっぱりと言われてしまった。
朝の七時に伺って、電気を当ててマッサージをしてもらい、
薬を塗って包帯を巻いてもらう。寒さがきびしくなって、
常連のおじいさんやおばあさんも来るのがおそい。
仕事前、待たずに診てもらうのはありがたいことだった。
毎朝通ってくる中学生がいて、
部活で怪我した足を治療してもらっている。
あのころは、すぐに治ったものだったなあ。
病気をしても怪我をしても、治るのがおそくなった。
つくづく寄る年なみには勝てないのだった。
師走のなか日、空気がぐんと冷え込んで、ざんざんと雪が降った。
早朝、となりの家の奥さんの雪かきの音にあおられて、
布団から這い出た。窓から見上げれば、
冴えばえとした空に、くっきりするどい有明の月が浮かんでいた。
雪かきをつづけていたら、すこしひざが重たくなってくる。
おまけに、知らずにかばっていたせいか、
ふくらはぎと腰も張ってきてなさけない。
ひと冬養生かなの気分になった。
毎年師走になると、忘年会つづきの散財つづきになる。
怪我もしているしと言い聞かせて、
今月は自重しているのだった。
折よく、近所のかたに大根をたくさんいただいた。
ほどなく別のかたから里芋をたくさんいただいた。
毎日煮てはつまみにして、家飲みをしている。
そうはいっても、来週から月末に、四つ予定が入っている。
酔ってころんで怪我を悪化させぬよう、
よくよく気を付けなくてはいけないのだった。

整骨院を営んでいる友だちがいて、
ここ二週間ほど世話になっている。
先月の末に左のひざを痛めた。
湿布を貼っておけば大丈夫と、たかをくくっていたら、
腫れも引かずに痛みも増してきた。
診てもらったら、お皿と靭帯を痛めてるねえ。
これは時間がかかるねえと、さっぱりと言われてしまった。
朝の七時に伺って、電気を当ててマッサージをしてもらい、
薬を塗って包帯を巻いてもらう。寒さがきびしくなって、
常連のおじいさんやおばあさんも来るのがおそい。
仕事前、待たずに診てもらうのはありがたいことだった。
毎朝通ってくる中学生がいて、
部活で怪我した足を治療してもらっている。
あのころは、すぐに治ったものだったなあ。
病気をしても怪我をしても、治るのがおそくなった。
つくづく寄る年なみには勝てないのだった。
師走のなか日、空気がぐんと冷え込んで、ざんざんと雪が降った。
早朝、となりの家の奥さんの雪かきの音にあおられて、
布団から這い出た。窓から見上げれば、
冴えばえとした空に、くっきりするどい有明の月が浮かんでいた。
雪かきをつづけていたら、すこしひざが重たくなってくる。
おまけに、知らずにかばっていたせいか、
ふくらはぎと腰も張ってきてなさけない。
ひと冬養生かなの気分になった。
毎年師走になると、忘年会つづきの散財つづきになる。
怪我もしているしと言い聞かせて、
今月は自重しているのだった。
折よく、近所のかたに大根をたくさんいただいた。
ほどなく別のかたから里芋をたくさんいただいた。
毎日煮てはつまみにして、家飲みをしている。
そうはいっても、来週から月末に、四つ予定が入っている。
酔ってころんで怪我を悪化させぬよう、
よくよく気を付けなくてはいけないのだった。
今年もおわりが見えてきて
師走 四
休日、お歳暮を求めて、駅前のデパートへ出かけた。
ついでに、新しくなった、駅ビルのMIDORIを覗いてみた。
十時の開店に合わせて入ったら、
あちこちのテナントのおねえさんたちに、
おはようございますと挨拶をされてこそばゆい。
二階から四階までひとまわり、
東急ハンズがあって、若い人向けの、おしゃれな服の店が並ぶ。
着物のやまとは、さかんに造っている最中だった。
あまり縁がなさそうと早々に合点して、
丸山珈琲でひと休みをする。
酸味の効いた銘柄を飲みながら眺めれば、
カウンターの向こうで、黒いベストに黒縁めがねのおにいさんが、
つぎつぎとサイフォンを操って、コーヒーを淹れている。
みごとな手さばきに見惚れていたら、目が合って、にこっとされた。
爽やかな笑顔は、じきに女性のファンが増えるとわかる。
おじいさんがひとり入ってきて、
メニューを見たかと思ったら、すぐに出ていった。
年金暮らしの身に、
コーヒー一杯六百円は、高かったのかもしれない。
東急で、東の町に暮らす友だちのために、海老せんべいを買い、
戻ってくれば、ちょうど昼酒の昼どきとなる。
今日はワインの気分ですと、こまつやさんへ伺った。
ハンバーグをつまみに、白を三杯に赤を二杯。
御主人や奥さんと言葉を交わしながら、
雪のちらつく通りを眺めながら、ゆっくりとくつろいだ。
ほどよい酔いで昼寝をしていたら、
クロネコさんが荷物を持ってきた。
南の町に暮らす友だちの気遣いは、
諏訪のお蔵の真澄のあらばしりと、
お蔵とコラボの、丸山珈琲のコーヒーと、
今日は丸山珈琲に縁がある。
夕方、こまつやさんの、
かぼちゃのサラダと野菜のマリネをつまみに利いてみれば、
ひさしぶりのあらばしりは、
以前より、きめの細かい旨みが好かった。
ひんぱんに会う、近くの友だちに、
なかなか会えない遠くの友だちに、
居心地好い、馴染みの店のかたがたに、
今年も気持ちを向けていただいた。
一年のおわりが近くなり、あらためて思い出すのだった。

休日、お歳暮を求めて、駅前のデパートへ出かけた。
ついでに、新しくなった、駅ビルのMIDORIを覗いてみた。
十時の開店に合わせて入ったら、
あちこちのテナントのおねえさんたちに、
おはようございますと挨拶をされてこそばゆい。
二階から四階までひとまわり、
東急ハンズがあって、若い人向けの、おしゃれな服の店が並ぶ。
着物のやまとは、さかんに造っている最中だった。
あまり縁がなさそうと早々に合点して、
丸山珈琲でひと休みをする。
酸味の効いた銘柄を飲みながら眺めれば、
カウンターの向こうで、黒いベストに黒縁めがねのおにいさんが、
つぎつぎとサイフォンを操って、コーヒーを淹れている。
みごとな手さばきに見惚れていたら、目が合って、にこっとされた。
爽やかな笑顔は、じきに女性のファンが増えるとわかる。
おじいさんがひとり入ってきて、
メニューを見たかと思ったら、すぐに出ていった。
年金暮らしの身に、
コーヒー一杯六百円は、高かったのかもしれない。
東急で、東の町に暮らす友だちのために、海老せんべいを買い、
戻ってくれば、ちょうど昼酒の昼どきとなる。
今日はワインの気分ですと、こまつやさんへ伺った。
ハンバーグをつまみに、白を三杯に赤を二杯。
御主人や奥さんと言葉を交わしながら、
雪のちらつく通りを眺めながら、ゆっくりとくつろいだ。
ほどよい酔いで昼寝をしていたら、
クロネコさんが荷物を持ってきた。
南の町に暮らす友だちの気遣いは、
諏訪のお蔵の真澄のあらばしりと、
お蔵とコラボの、丸山珈琲のコーヒーと、
今日は丸山珈琲に縁がある。
夕方、こまつやさんの、
かぼちゃのサラダと野菜のマリネをつまみに利いてみれば、
ひさしぶりのあらばしりは、
以前より、きめの細かい旨みが好かった。
ひんぱんに会う、近くの友だちに、
なかなか会えない遠くの友だちに、
居心地好い、馴染みの店のかたがたに、
今年も気持ちを向けていただいた。
一年のおわりが近くなり、あらためて思い出すのだった。
おでん屋ひろびろで
師走 三
十二月八日、おでん屋のひろびろへ出かけた。
戸を開けたら、常連さんがすでにひとり、杯をかたむけている。
奥の部屋の、女将さんの遺影に香を炊き、手を合わせた。
常連さんと、跡を継いだ息子さんと、
思い出話をしながら酌み交わしていれば、
馴染みの顔ぶれが、ぽつりぽつりと集まってくる。
三回忌の命日なのだった。
店が出来て間もない頃から通っている。
居心地の好い女将さんの人柄に甘え、
だらだら酔っぱらったり、
千鳥足で、おそい時間に押しかけたこともあった。
たよりにしていたのは我が身だけでなく、若い子が、
仕事や、恋愛の悩みを相談していたこともたびたびだった。
我を張ったり、道理のはずれた客は、
ぴしりと出入り禁止にしていた。
節操のないヨッパの身を、いつも迎えてくれたのは、
ありがたいことなのだった。
店を開いて四年目に、今の場所に引っ越した。
そののち体調をくずしてしまい、
手助けに来た息子さんが厨房に入るようになる。
痩せた体で座っている姿を見るたびに、
せつない気分になった。。
ひろびろは、開業してちょうど十年になる。
女将さんから息子さんに代が変わり、
お客の顔ぶれも、
来なくなったかたに、来るようになったかたと変わった。
それでも居心地の好さが変わらないのは
なによりのことだった。
手紙の整理をしていたら、
ずいぶん前に、女将さんに頂いた手紙があった。
ひさしぶりに読んだら、
御自身や、人との絡みに屈託があった頃と思い出す。
ひろびろのことでいっぱい心配させてごめんなさい。
でもこれからもたよりにしていろいろ話してしまうと思います。
うっとおしいかもしれませんがお願いします。
こんな出来そこないの身でも、あてにしてくれてたと思えば、
今でも鼻の奥がつんとする。
相変わらずだらしなく酔ってます。
息子さんに、つまらん下ネタ話の相手をさせてます。
あきれた笑い顔もなつかしい。

十二月八日、おでん屋のひろびろへ出かけた。
戸を開けたら、常連さんがすでにひとり、杯をかたむけている。
奥の部屋の、女将さんの遺影に香を炊き、手を合わせた。
常連さんと、跡を継いだ息子さんと、
思い出話をしながら酌み交わしていれば、
馴染みの顔ぶれが、ぽつりぽつりと集まってくる。
三回忌の命日なのだった。
店が出来て間もない頃から通っている。
居心地の好い女将さんの人柄に甘え、
だらだら酔っぱらったり、
千鳥足で、おそい時間に押しかけたこともあった。
たよりにしていたのは我が身だけでなく、若い子が、
仕事や、恋愛の悩みを相談していたこともたびたびだった。
我を張ったり、道理のはずれた客は、
ぴしりと出入り禁止にしていた。
節操のないヨッパの身を、いつも迎えてくれたのは、
ありがたいことなのだった。
店を開いて四年目に、今の場所に引っ越した。
そののち体調をくずしてしまい、
手助けに来た息子さんが厨房に入るようになる。
痩せた体で座っている姿を見るたびに、
せつない気分になった。。
ひろびろは、開業してちょうど十年になる。
女将さんから息子さんに代が変わり、
お客の顔ぶれも、
来なくなったかたに、来るようになったかたと変わった。
それでも居心地の好さが変わらないのは
なによりのことだった。
手紙の整理をしていたら、
ずいぶん前に、女将さんに頂いた手紙があった。
ひさしぶりに読んだら、
御自身や、人との絡みに屈託があった頃と思い出す。
ひろびろのことでいっぱい心配させてごめんなさい。
でもこれからもたよりにしていろいろ話してしまうと思います。
うっとおしいかもしれませんがお願いします。
こんな出来そこないの身でも、あてにしてくれてたと思えば、
今でも鼻の奥がつんとする。
相変わらずだらしなく酔ってます。
息子さんに、つまらん下ネタ話の相手をさせてます。
あきれた笑い顔もなつかしい。
野沢温泉で
師走 二
飲み仲間のおじさんたちと、野沢温泉へ出かけた。
飯山を過ぎて村に入ったら、道路の両脇に、雪が高々積もっていて、
すっかり雪国の様相になっている。
宿に荷をおろしたら、さっそく大湯へと向かう。
スキー場が開く前の村内は、まだお客もすくない。
野沢温泉には十三の外湯があって、どこも熱い。
大湯には、熱い湯とぬるい湯の二つの浴槽がある。
ぬるいほうに浸かっても、ぜんぜんぬるくない。
平気な顔の地元のおじさんに混ざって、芯まで体を温めた。
大湯の前に地ビールバーがあるから、
四種類の味比べをしながら、のどをうるおした。
ひと息ついたら、宿のとなりの萬里さんで、
ジンギスカンをつまみに、今年もお世話様でしたの宴となる。
愛想の好い御主人の店は、肉の切り方が大ざっぱで好い。
燗酒を頼めば、じもとの光北正宗と、これも好い。
程よく酔ったら、横落の湯でふたたび体を温めた。
上がって外へと出たら、ぼんやりとした満月が、
冷え込んだ空に浮かんでいた。
歩いてすぐの治作さんではしご酒をする。
こちらも愛想の好い御主人で、
お通しの煮物が、味がよく染みていて旨い。
燗酒を頼んだら、これまた北光正宗で、
地元の酒を愛する店がつづいて好いことだった。
熊の手洗い湯と上寺湯に浸かり、
すっかり温泉街の夜を、湯と酒で満喫したのだった。
村人みんなが顔見知り、それほどのちいさな村に、
豊富に湯の沸く温泉と、気軽に飲める店がある。
雪と寒さのことも忘れて、長居をしたくなってしまった。

飲み仲間のおじさんたちと、野沢温泉へ出かけた。
飯山を過ぎて村に入ったら、道路の両脇に、雪が高々積もっていて、
すっかり雪国の様相になっている。
宿に荷をおろしたら、さっそく大湯へと向かう。
スキー場が開く前の村内は、まだお客もすくない。
野沢温泉には十三の外湯があって、どこも熱い。
大湯には、熱い湯とぬるい湯の二つの浴槽がある。
ぬるいほうに浸かっても、ぜんぜんぬるくない。
平気な顔の地元のおじさんに混ざって、芯まで体を温めた。
大湯の前に地ビールバーがあるから、
四種類の味比べをしながら、のどをうるおした。
ひと息ついたら、宿のとなりの萬里さんで、
ジンギスカンをつまみに、今年もお世話様でしたの宴となる。
愛想の好い御主人の店は、肉の切り方が大ざっぱで好い。
燗酒を頼めば、じもとの光北正宗と、これも好い。
程よく酔ったら、横落の湯でふたたび体を温めた。
上がって外へと出たら、ぼんやりとした満月が、
冷え込んだ空に浮かんでいた。
歩いてすぐの治作さんではしご酒をする。
こちらも愛想の好い御主人で、
お通しの煮物が、味がよく染みていて旨い。
燗酒を頼んだら、これまた北光正宗で、
地元の酒を愛する店がつづいて好いことだった。
熊の手洗い湯と上寺湯に浸かり、
すっかり温泉街の夜を、湯と酒で満喫したのだった。
村人みんなが顔見知り、それほどのちいさな村に、
豊富に湯の沸く温泉と、気軽に飲める店がある。
雪と寒さのことも忘れて、長居をしたくなってしまった。
進歩のないまま
師走 一
師走になり、あとひと月の午の年となる。
朝からさっぱり晴れた日は、
冴えばえとした空気に気持ちが好い。
初雪ももうすぐのことと、空を眺めている。
仕事場と住まいの大掃除を、すこしづつ進めている。
一日一か所、まとめてやるよりも、丁寧に磨けるのが好い。
手描きのカレンダーを、親しいかたにさし上げている。
いつも際になってあわてて作っているから、
今年は秋のうちから手掛けて、早めに仕上げた。
仕事の合間に、年賀状も書きはじめた。
毎年、知り合いの印刷屋さんに注文を出していた。
ところが、しばらく縁遠くなりますと、
お詫びのメールが届いたのだった。
縁遠くなるのに注文を出すのは、
返って恐縮させることになる。
思案してこのたびは、近所に暮らす友だちの、
プリンターの世話になった。
一年の終いの用事をしながら思い出せば、
何日も、車が立ち往生した大雪に、
家を軽々こわした土石流に、
たくさんの犠牲者を出した御嶽山の噴火に、
今回の地震と、命にかかわる災害がつづいた。
気楽に日々を過ごせる有り難さを、
あらためて感じたのだった。それなのに、
今年も、浮かれた暮らしぶりだったとため息が出る。
連夜の不摂生で散財をし過ぎたり、
慣れと勘ちがいと思い込みで、
人の絡みで、いらぬことを言いすぎた。
ぽちぽちと、忘年会の誘いも入ってきた。
せめて締めの宴のときだけは、好意の縁のかたがたと、
腰の据わったひととき過ごすよう、肝に命じるのだった。

師走になり、あとひと月の午の年となる。
朝からさっぱり晴れた日は、
冴えばえとした空気に気持ちが好い。
初雪ももうすぐのことと、空を眺めている。
仕事場と住まいの大掃除を、すこしづつ進めている。
一日一か所、まとめてやるよりも、丁寧に磨けるのが好い。
手描きのカレンダーを、親しいかたにさし上げている。
いつも際になってあわてて作っているから、
今年は秋のうちから手掛けて、早めに仕上げた。
仕事の合間に、年賀状も書きはじめた。
毎年、知り合いの印刷屋さんに注文を出していた。
ところが、しばらく縁遠くなりますと、
お詫びのメールが届いたのだった。
縁遠くなるのに注文を出すのは、
返って恐縮させることになる。
思案してこのたびは、近所に暮らす友だちの、
プリンターの世話になった。
一年の終いの用事をしながら思い出せば、
何日も、車が立ち往生した大雪に、
家を軽々こわした土石流に、
たくさんの犠牲者を出した御嶽山の噴火に、
今回の地震と、命にかかわる災害がつづいた。
気楽に日々を過ごせる有り難さを、
あらためて感じたのだった。それなのに、
今年も、浮かれた暮らしぶりだったとため息が出る。
連夜の不摂生で散財をし過ぎたり、
慣れと勘ちがいと思い込みで、
人の絡みで、いらぬことを言いすぎた。
ぽちぽちと、忘年会の誘いも入ってきた。
せめて締めの宴のときだけは、好意の縁のかたがたと、
腰の据わったひととき過ごすよう、肝に命じるのだった。