兄消える
皐月 5
上田の町が好きで、ときどき訪ねている。
袋町にある,カレーの名店べんがるが閉店したという。
1月におじゃましたときは、年配のご主人が
厨房で元気に腕を振るわれていたのに、
どうしたことかと気になった。
そんな上田の町が舞台の映画、「兄消える」の上映が、
TOHOシネマズ上田で始まった。
さっそく観に行ったのだった。
ひとりで町工場を営む鉄男は、工場をつぶさぬように
働きづめの日々を送るうちに、
独身のまま、いつしか老境の身になっていた。
朝はトースト、昼はカップ麺。
夜は馴染みのスナックで仲間と酔っぱらう。
変わりばえのない毎日に気持ちもふさいでいた。
そんな鉄男のもとへ、
行方知れずになっていた兄の金之助が、
40年ぶりに、ひょっこりと帰ってきたのだった。
それも意味ありげな、きれいな中年女性と一緒に。
毎度世話になっている上田駅に、悠々と流れる千曲川。
とことこと鉄橋を渡る別所線に、
飲み屋のネオンが乱立して、昭和の風情を残す袋町と、
見慣れた景色が画面にあらわれる。
上田の町に暮らす友だちがいる。
上田の良いところは、町が小さくぎゅっと、
まとまっているところという。
駅を出てひとまわりすれば、
幼稚園に小学校に中学校に高校、
市役所に、大きなスーパーに、個人で営む商店や食堂、
肝心かなめの、肴の良い飲み屋は、袋町をはじめとして
いくつか点在していてうれしい。
歩ける範囲に必要なものがそろっていて、
住みやすい町とうかがえるのだった。
ほのぼのと良い作品だったと映画を見終えて、
袋町まで行けば、
べんがるの入り口に、張り紙がしてある。
店主体調不良のために閉店します。
長い間ありがとうございました。
向かいの焼きそばの名店福昇亭も、
ご主人が体調不良のまま、休業をつづけている。
古い町には、老境の身で頑張っている店が多い。
すこしでも長くの商いをと願ってしまうのだった。

上田の町が好きで、ときどき訪ねている。
袋町にある,カレーの名店べんがるが閉店したという。
1月におじゃましたときは、年配のご主人が
厨房で元気に腕を振るわれていたのに、
どうしたことかと気になった。
そんな上田の町が舞台の映画、「兄消える」の上映が、
TOHOシネマズ上田で始まった。
さっそく観に行ったのだった。
ひとりで町工場を営む鉄男は、工場をつぶさぬように
働きづめの日々を送るうちに、
独身のまま、いつしか老境の身になっていた。
朝はトースト、昼はカップ麺。
夜は馴染みのスナックで仲間と酔っぱらう。
変わりばえのない毎日に気持ちもふさいでいた。
そんな鉄男のもとへ、
行方知れずになっていた兄の金之助が、
40年ぶりに、ひょっこりと帰ってきたのだった。
それも意味ありげな、きれいな中年女性と一緒に。
毎度世話になっている上田駅に、悠々と流れる千曲川。
とことこと鉄橋を渡る別所線に、
飲み屋のネオンが乱立して、昭和の風情を残す袋町と、
見慣れた景色が画面にあらわれる。
上田の町に暮らす友だちがいる。
上田の良いところは、町が小さくぎゅっと、
まとまっているところという。
駅を出てひとまわりすれば、
幼稚園に小学校に中学校に高校、
市役所に、大きなスーパーに、個人で営む商店や食堂、
肝心かなめの、肴の良い飲み屋は、袋町をはじめとして
いくつか点在していてうれしい。
歩ける範囲に必要なものがそろっていて、
住みやすい町とうかがえるのだった。
ほのぼのと良い作品だったと映画を見終えて、
袋町まで行けば、
べんがるの入り口に、張り紙がしてある。
店主体調不良のために閉店します。
長い間ありがとうございました。
向かいの焼きそばの名店福昇亭も、
ご主人が体調不良のまま、休業をつづけている。
古い町には、老境の身で頑張っている店が多い。
すこしでも長くの商いをと願ってしまうのだった。
歌川国義展へ。
皐月 4
長野市の日赤病院の近くに、水野美術館が在る。
きのこ会社のホクトの創業者が開館した、
日本画の美術館で、
気を引く展覧会をしばしば開いてくれる。
歌川国芳展を観に行ったのだった。
国芳は幕末の浮世絵師で、
長いこと目が出なかったときを経て、
30歳のときに,
水滸伝の登場人物をひとりづつ描いたシリーズが
爆発的な人気となって、
人気絵師の仲間入りを果たした。
会場には、
たくましい猛将たちが、躍動感あふれる姿で並び、
迫力が伝わってくる。
絵のわきに、それぞれの名前が書いてあったけれど、
長い名前は老眼で見づらくてあきらめた。
水滸伝シリーズのほかにも、
国芳が好きだった猫の擬人画や、色気のある美人画に、
かと思えば、妖怪や当時の世相を風刺した絵もあって、
作品の幅が広く、愛嬌も感じられる。
国芳、自由奔放な人柄だったかとうかがわせる、
楽しい展覧会だった。
帰り道、小腹がすいたので、
蕎麦屋の、かどの大丸さんに立ち寄った。
天ぷらでビールを飲みながら、
そういえば、この店にも浮世絵がいくつか飾ってあると
頭上を見上げた。
お店の主人のえりさんに、
これ、本物だよねと尋ねたら、本物ですよとさらりと言う。
目を凝らしてよく見たら、
国芳の師匠の、歌川豊国の作品たちだった。
さすが創業300年。価値あるものが身近にある。
おそれいったのだった。

長野市の日赤病院の近くに、水野美術館が在る。
きのこ会社のホクトの創業者が開館した、
日本画の美術館で、
気を引く展覧会をしばしば開いてくれる。
歌川国芳展を観に行ったのだった。
国芳は幕末の浮世絵師で、
長いこと目が出なかったときを経て、
30歳のときに,
水滸伝の登場人物をひとりづつ描いたシリーズが
爆発的な人気となって、
人気絵師の仲間入りを果たした。
会場には、
たくましい猛将たちが、躍動感あふれる姿で並び、
迫力が伝わってくる。
絵のわきに、それぞれの名前が書いてあったけれど、
長い名前は老眼で見づらくてあきらめた。
水滸伝シリーズのほかにも、
国芳が好きだった猫の擬人画や、色気のある美人画に、
かと思えば、妖怪や当時の世相を風刺した絵もあって、
作品の幅が広く、愛嬌も感じられる。
国芳、自由奔放な人柄だったかとうかがわせる、
楽しい展覧会だった。
帰り道、小腹がすいたので、
蕎麦屋の、かどの大丸さんに立ち寄った。
天ぷらでビールを飲みながら、
そういえば、この店にも浮世絵がいくつか飾ってあると
頭上を見上げた。
お店の主人のえりさんに、
これ、本物だよねと尋ねたら、本物ですよとさらりと言う。
目を凝らしてよく見たら、
国芳の師匠の、歌川豊国の作品たちだった。
さすが創業300年。価値あるものが身近にある。
おそれいったのだった。
緑さんさん
皐月 3
今だ、花粉症が収まらず。
毎年5月の連休前にはとまるのに、
今年はずるずると、
半ばを過ぎてもいじめられている。
今年は例年の5倍の花粉が飛んだという。
原因は、昨夏の猛暑のせいだという。
この夏の暑さが、早くも気になってしまうのだった。
そうはいっても緑の季節。
日ごと、まわりの木々が色濃くなって、
爽やかな初夏の景色にいやされている。
早朝、ふらりと散歩に出た。
城山公園の桜並木から、上松の昌禅寺の境内を経て、
雲上殿の坂道を上がる。
往生地のりんご畑を見ながら、坂を下って善光寺まで。
緑の景色を楽しめば、朝から気分は爽快になる。
目と鼻はぐずぐずだけど。
昼休みに、野暮用を済ませに近所へ出かければ、
城山小学校の庭で、ちびっ子たちが
にぎやかに飛び回っていた。
緑の季節と元気な子供たちの姿は、
まことに似合う。
子育てがない身でも、
元気に無事に。願わずにはいられないのだった。
休日、若穂の清水寺へ出かけた。
秋の紅葉の名所は、
この時期、緑の名所にかわるのだった。
門の前に立つと、長々とした石段に沿って緑がつづき、
こりゃ見事だわと思わず声に出た。
大木の緑を見上げながら上がっていくと、
先々に、名の知らぬ花が群れている。
曲がりくねった坂道から、里山に包まれた、
若穂の集落が見える。
山肌を背にそびえ立つ観音堂に着くと、
吹き抜ける風が心地よい。
しずかな広い境内で、緑を満喫させていただいた。
帰り道、坂道を下りてゆくと、
おばさんの2人組が、息を切らして上がってきた。
観音堂まであとどれくらいと尋ねてきたから、
カーブを4つ曲がったらと教えたら、
まだそんなにあるのお~!と、
なさけない声を出す。
頑張ってくださいと力づよく励まして、
門へ向かったのだった。

今だ、花粉症が収まらず。
毎年5月の連休前にはとまるのに、
今年はずるずると、
半ばを過ぎてもいじめられている。
今年は例年の5倍の花粉が飛んだという。
原因は、昨夏の猛暑のせいだという。
この夏の暑さが、早くも気になってしまうのだった。
そうはいっても緑の季節。
日ごと、まわりの木々が色濃くなって、
爽やかな初夏の景色にいやされている。
早朝、ふらりと散歩に出た。
城山公園の桜並木から、上松の昌禅寺の境内を経て、
雲上殿の坂道を上がる。
往生地のりんご畑を見ながら、坂を下って善光寺まで。
緑の景色を楽しめば、朝から気分は爽快になる。
目と鼻はぐずぐずだけど。
昼休みに、野暮用を済ませに近所へ出かければ、
城山小学校の庭で、ちびっ子たちが
にぎやかに飛び回っていた。
緑の季節と元気な子供たちの姿は、
まことに似合う。
子育てがない身でも、
元気に無事に。願わずにはいられないのだった。
休日、若穂の清水寺へ出かけた。
秋の紅葉の名所は、
この時期、緑の名所にかわるのだった。
門の前に立つと、長々とした石段に沿って緑がつづき、
こりゃ見事だわと思わず声に出た。
大木の緑を見上げながら上がっていくと、
先々に、名の知らぬ花が群れている。
曲がりくねった坂道から、里山に包まれた、
若穂の集落が見える。
山肌を背にそびえ立つ観音堂に着くと、
吹き抜ける風が心地よい。
しずかな広い境内で、緑を満喫させていただいた。
帰り道、坂道を下りてゆくと、
おばさんの2人組が、息を切らして上がってきた。
観音堂まであとどれくらいと尋ねてきたから、
カーブを4つ曲がったらと教えたら、
まだそんなにあるのお~!と、
なさけない声を出す。
頑張ってくださいと力づよく励まして、
門へ向かったのだった。
春の美濃焼陶芸市へ
皐月 2
毎年五月の連休に、
岐阜の土岐市で,
美濃焼きの陶器市が開かれている。
いつも足を運んでいる友だち夫婦に誘われて、
同行したのだった。
陶器の生産が盛んな岐阜の中でも、
土岐市は日本一の生産量を誇るという。
美濃焼伝統産業会館に着くと、
広い会場に、地元の窯元さんの作品が
ずらりと並んでいる。
普段より安い値段で販売されるとあって、
たくさんの人が訪れていた。
産業会館のとなりに焼き釜があって、
職人さんが器を焼いていた。
火の温度が1200度にもなるといい、
薪をくべるたびに、窯の穴から炎が噴き出して、
迫力がある。
会館の奥には、爽やかな緑に囲まれた道がつづいて、
先々に、窯元さんがある。
まったくおなじ形の器でも、値の張るものと、
安売りをしているものがあって、
老眼を凝らして見ても、ちがいがわからない。
作り手さんにしか見えないこだわりが、
値段の差にあらわれているのかもしれない。
定林寺地区へ移動すると、
迷路のような細い道に、
年季の入った窯元さんが点在して、
たくさんの人が窯元巡りをしている。
坂道ばかりの集落で、
親に連れまわされて歩き疲れた男の子が、
もう帰ろうよおとうんざりしている。
その歳で陶器に興味はないよなあと、
気の毒になってしまった。
集落を離れて、
友達夫婦気に入りの快山釜へ行くと、
かつて使われていたりっぱな煙突が迎えてくれた。
こちらの窯元さんの作品は、
今まで見てきた美濃焼きと趣きを異にする、
薄青い、涼を感じさせる磁器だった。
今日のような暑い日に使うにはちょうど良い。
値引き価格の平杯を頂戴した。
たっぷりと、
いろんな窯元さんで目の保養をさせてもらい、
器好きの身には至福のひとときだった。
定林寺のひさみ窯では、招き猫を頂戴した。
商売繁盛を、よくよくお願いしたいことだった。

毎年五月の連休に、
岐阜の土岐市で,
美濃焼きの陶器市が開かれている。
いつも足を運んでいる友だち夫婦に誘われて、
同行したのだった。
陶器の生産が盛んな岐阜の中でも、
土岐市は日本一の生産量を誇るという。
美濃焼伝統産業会館に着くと、
広い会場に、地元の窯元さんの作品が
ずらりと並んでいる。
普段より安い値段で販売されるとあって、
たくさんの人が訪れていた。
産業会館のとなりに焼き釜があって、
職人さんが器を焼いていた。
火の温度が1200度にもなるといい、
薪をくべるたびに、窯の穴から炎が噴き出して、
迫力がある。
会館の奥には、爽やかな緑に囲まれた道がつづいて、
先々に、窯元さんがある。
まったくおなじ形の器でも、値の張るものと、
安売りをしているものがあって、
老眼を凝らして見ても、ちがいがわからない。
作り手さんにしか見えないこだわりが、
値段の差にあらわれているのかもしれない。
定林寺地区へ移動すると、
迷路のような細い道に、
年季の入った窯元さんが点在して、
たくさんの人が窯元巡りをしている。
坂道ばかりの集落で、
親に連れまわされて歩き疲れた男の子が、
もう帰ろうよおとうんざりしている。
その歳で陶器に興味はないよなあと、
気の毒になってしまった。
集落を離れて、
友達夫婦気に入りの快山釜へ行くと、
かつて使われていたりっぱな煙突が迎えてくれた。
こちらの窯元さんの作品は、
今まで見てきた美濃焼きと趣きを異にする、
薄青い、涼を感じさせる磁器だった。
今日のような暑い日に使うにはちょうど良い。
値引き価格の平杯を頂戴した。
たっぷりと、
いろんな窯元さんで目の保養をさせてもらい、
器好きの身には至福のひとときだった。
定林寺のひさみ窯では、招き猫を頂戴した。
商売繁盛を、よくよくお願いしたいことだった。
菜の花公園へ
皐月 1
飯山の菜の花が見ごろをむかえたという。
今年も足を運んでみたのだった。
電車を降りたら駅の観光案内所で
自転車を借りて、菜の花公園を目指す。
畑にはさまれた道を進んでいくと、
畑の先々に菜の花が揺れている。
ぽつりぽつりと遠くで土を耕す人がいて、
耕運機の音が、風に乗って聞こえてきた。
風はつよいけれど、穏やかな陽気の祝日で、
公園にはたくさんの人が、見物に訪れていた。
満開の花を目の前に、
芝生で弁当を広げる家族連れに、
肩を並べてたたずむ年配のご夫婦に、
恋人同士、友達同士の若者もあちこちにいる。
両手にポールをにぎってやってきた
おじさんおばさんの集団は、
では、1時間後にここに集合で~す。
会長さんの声を合図に散っていった。
飯山東小学校のとなりの菜の花畑では、
鯉のぼりがたなびいている。
子供たちがにぎやかに、畑の迷路で迷っていた。
畑から、しずかな蛙の鳴き声が聞こえ、
ちっちゃな男の子が、
かえるいたよ~!
叫びながらお母さんのもとへ駆けて行った。
菜の花を背景に、家族で写真に納まるかたや、
自撮りをしている女の子がいる。
三脚を立てて写真を撮っているおじさんは、
じっくりと撮影場所を探している。
菜の花畑のむこうには、残雪の山を背景に、
千曲川が悠々と流れている。
もう何度も眺めた風景は、
何度眺めても好いものだった。
堤防道路を戻って、
観光案内所に自転車を返したら、
駅前のお好み焼き屋におじゃました。
オムレツ焼きそばをつまみにビールを2本。
腹を満たして、
時間つぶしに町をぶらぶらしていたら、
古刹の正受庵のそばのしだれ桜が、
まだまだ見ごろの色をたたえていた。
訪ねてくれば、なんだか気持ちがほっとする、
北信濃の春なのだった。

飯山の菜の花が見ごろをむかえたという。
今年も足を運んでみたのだった。
電車を降りたら駅の観光案内所で
自転車を借りて、菜の花公園を目指す。
畑にはさまれた道を進んでいくと、
畑の先々に菜の花が揺れている。
ぽつりぽつりと遠くで土を耕す人がいて、
耕運機の音が、風に乗って聞こえてきた。
風はつよいけれど、穏やかな陽気の祝日で、
公園にはたくさんの人が、見物に訪れていた。
満開の花を目の前に、
芝生で弁当を広げる家族連れに、
肩を並べてたたずむ年配のご夫婦に、
恋人同士、友達同士の若者もあちこちにいる。
両手にポールをにぎってやってきた
おじさんおばさんの集団は、
では、1時間後にここに集合で~す。
会長さんの声を合図に散っていった。
飯山東小学校のとなりの菜の花畑では、
鯉のぼりがたなびいている。
子供たちがにぎやかに、畑の迷路で迷っていた。
畑から、しずかな蛙の鳴き声が聞こえ、
ちっちゃな男の子が、
かえるいたよ~!
叫びながらお母さんのもとへ駆けて行った。
菜の花を背景に、家族で写真に納まるかたや、
自撮りをしている女の子がいる。
三脚を立てて写真を撮っているおじさんは、
じっくりと撮影場所を探している。
菜の花畑のむこうには、残雪の山を背景に、
千曲川が悠々と流れている。
もう何度も眺めた風景は、
何度眺めても好いものだった。
堤防道路を戻って、
観光案内所に自転車を返したら、
駅前のお好み焼き屋におじゃました。
オムレツ焼きそばをつまみにビールを2本。
腹を満たして、
時間つぶしに町をぶらぶらしていたら、
古刹の正受庵のそばのしだれ桜が、
まだまだ見ごろの色をたたえていた。
訪ねてくれば、なんだか気持ちがほっとする、
北信濃の春なのだった。