写真家、大門美奈さんに
文月 7
休日、東京へ出かけた。写真家大門美奈さんの
個展が始まるのだった。
先月、リコーというカメラ会社のホームページを
覗いていたら、このかたに出くわした。
コラムを読ませて頂いたら、カメラについて、
日々の暮らしについての台詞に味があり、
引き込まれた。けっこうな酒好きのかたで、
コラムにもツイッターにも、酒のネタが尽きない。
同胞ですと声をかけたくなった。
先日、近所の蕎麦屋の北野家で、だし巻き玉子を
つまみに長野市信州新町の、十九の純米吟醸を
酌んでいたら、ひらめいた。
大門美奈さん、酒に例えるならこれだな。
きれいな旨味が有って、涼やかな余韻を感じさせる。
そのようなかたとお見受けしている。
茅ヶ崎在住で、毎日海を眺めて暮らしている。
先日、「浜」という写真集を買わせていただいた。
地元茅ヶ崎の海と人を写したモノクロの写真は、
海と共に暮らす人々の、静かな力を感じさせる
写真集だった。
このたびの個展は、その続編ということで、
「浜のあとさき」と名付けられている。
渋谷から、こだわり酒場レモンサワーを
飲みながら、東横線で横浜の反町まで。
駅を出て、反町浴場を過ぎていくとじきに、
ギャラリー、Place M Yokohamaに着いた。
壁に並んだ作品は、このたびも茅ヶ崎の海の
風景がモノクロで切り取られている。
拝見していたら、大門美奈さんご本人が、
旦那様と一緒に御挨拶に来てくれた。
ツイッターいつも拝見しています。酒のネタが
多くて楽しいですと伝えたら、美しい目じりを
下げて微笑んだ。
室内のソファーの片すみに、個展の開催のお祝いに
もらったとおぼしき包みがふたつ置いてあった。
ひと目で日本酒かワインか洋酒と見当がついて、
酒好きは皆が認めているのだった。
こちらも手土産に、十九を持参しようかと
思ったものの、
この炎天下の中、延々酒瓶をぶら下げていたら味が
劣化する。
大門さんを日本酒に例えるならこれという銘柄が
長野に有ります。今度送らせてくださいと言ったら、
旦那さんが、鬼ごろしみたいな酒ですかと笑った。
お会いできて良かったです。挨拶をして、
お二人に見送られてギャラリーをあとにしたのだった。
暑い中、爽やかな気分に浸った、好いひとときだった。
炎昼や涼呼ぶ海の景色かな。
別所温泉のそば久さんへ
文月 6
上田の別所温泉に出かけた。小さな温泉町の
静かな風情が好きで、ときどき訪ねているのだった。
別所線の二両編成の電車に揺られて30分。
途中下車をして、塩田平の田園風景を眺めながら
歩いて行こうかと思ったものの、この日はあまりに
暑すぎた。炎天下にやられてぶっ倒れたらまずいと、
思いとどまった。駅を出て坂道を上がって行くと、
お昼を知らせるチャイムが鳴り響いた。
道端の紫陽花がまだ見ごろの彩りで咲いていた。
足場が組まれ、青いシートのかかった相染食堂の入口から、
どんぶり飯をほおばっているおじさんが見えた。
外湯の大湯に行けば、風呂代が200円。安すぎて
来るたびに恐縮してしまう。
汗を流して蕎麦屋の昼酒に向かう。
以前、別所温泉に暮らす飲み友だちが、そば久さん
美味しいですとブログに載せていた。
今年の正月明けにうかがったら、あいにく定休日で
ふられた。そのときは、北向観音の参道沿いの蕎麦屋、
だるま家に行ったけれど、そこも年配のご夫婦が営む
好い店だった。坂道を下ってそば久へ伺うと、
白い紫陽花の先の玄関口に暖簾が見えた。
サンダルを脱いで室内に入ると、20畳ほどの座敷に
4人掛けの座卓が六つ。広い窓越しに庭が見えて、
田舎の親せきのお宅に来たようで、気分がおちつく。
品書きを見ればビールはスーパードライの中瓶と
エビスの中瓶。エビスの方が値が張るのに、
ともに650円。なんとも価格が大雑把で好い。
日本酒は長野の地酒をそろえている。純米やそれより
値の張る純米吟醸も一律700円。
なんとも価格が大雑把で好い。酒を頼むと
そのたびに焼き味噌をつけてくれるというから、
良心的なことだった。
焼き味噌と漬け物をつまみにエビスを飲んでいると、
ぽちぽちお客がやってくる。
別所温泉に来たならば、塩田平の若林さんの月吉野を
酌まなくてはいけない。辛口純米を頼んだら、大ぶりの
ガラスの徳利になみなみ入れて運んできてくれた。
焼き味噌ばかり出してはいけないと思ったのか、
揚げ玉ときざみネギの醤油和えを添えてきてくれた。
そんな気配りも有り難いことだった。
月吉野のきりっと冴えた味わいが、今日の陽気にふさわしい。
ゆるゆると一本空にして二本目を注文したら、こんどは
なめこと蕨のおろし和えを添えてきてくれた。
お気遣いに感謝しつつ、冷たいもりでさっぱりと締めた。
小さな温泉町の、湯と蕎麦酒のひととき。
来るたびに、なんとも好いなあとなるのだった。
月吉野旨し盛夏の蕎麦屋かな。
車をやめて
文月 5
朝、友だちの営むセブンイレブンに行ったら、
入口わきの壁が壊れていた。
壁、どうしたの?と尋ねたら、
車でやって来た近所のおばあさんが、アクセルとブレーキを
踏み間違えて突っ込んだという。
以前も車が突っ込んだことがあって、再びの災難に
同情した。
新聞やニュースを観ていると、毎日、年寄りの交通事故が
起きている。我が身も昨年の10月に、散歩のときに
おじいさんの運転する車に追突された。
ゆるいスピードだったのが幸いで、後遺症が出ずに済んでいる。
身近なところでもいくつかあって、近所の肉屋は、
向かいの駐車場から出てきた車に突っ込まれて、
ガラスを粉々にされた。運転していたおじいさんが
アクセルとブレーキを踏み間違えたのだった。
この肉屋も過去に何度か車が突っ込んで、けが人が
出なかったのがせめてもの救いだった。
近所の洋服屋の奥さんは、玄関先の掃除をしていたら、
目の前にバックしてきた車に追突された。
運転していたおじいさんが、
後ろを見ていなかったせいだった。
足を骨折して、それ以来歩くのが難儀になってしまい、
他人の介助が必要になってしまった。
以前、町内のおばあさんが亡くなったときに、
告別式に出かけた。隣のお宅の旦那さんが、車に同乗
させてくれるというので助手席に乗ったら、
葬儀会場へ向かうのに、ずいぶん遠回りをしていく。
おかしいなあと思っていたら、年寄りになって、細い道を
運転するのが怖いのだという。広いおおきな道を選んで
走っているのだった。
二か月にいちど訪ねてきてくださるかたがいる。
市街地から外れたところに住んでいるかたで、いつも車を運転して
やって来る。ところが先日、珍しくバスに乗って来た。
話をうかがえば、長らく乗っていた愛車が車検を迎えた。
馴染みの自動車屋に持って行ったところ、不具合な個所が
あちこちに見つかって、けっこうな費用がかかると言われた。
悩んだ末に、もう八十歳。これを機に車の運転を
やめることにしたというのだった。ところがいざ手放したら、
買い物に行くのも友だちに会いに行くのも、
ぜんぶバスを乗り継がなければならず、不便でしょうがない。
あんな郊外に家を建てずに、もっと町の真ん中に暮せば
よかったとこぼすのだった。いろんなことの辞めどきは、
いずれ我が身にも起きること。他人ごとではない気分で
耳を傾けたのだった。
梅雨湿りバスに乗るのも億劫で。
上田のお蔵さんと
文月 4
休日になると、たいていどこぞの蕎麦屋で
昼酒を酌んでいる。
上田の町が好きでときどき出かけている。
かつて上田の原町に、太平庵という蕎麦屋が在った。
酒肴の品ぞろえが好く、ことに自家製のおぼろ豆腐が
旨くて、冷や酒を酌みながらつまんでいた。
好んで足を運んでいたのに、閉店して、店の在った
場所もすっかり更地になってしまい、さみしい
ことだった。
その太平庵で、地元の真田六文銭という酒を、
初めて飲んだことがあった。
この酒が見事に不味かったのだった。とても一合
飲み干せないとあきらめて、別の酒を注文した。
上田市の真田町に長野の地酒だけを扱う宮島酒店が在る。
日本酒愛にあふれたご主人が営む店で、誠実なお人柄は、
お蔵さんや飲食店さんや個人のお客さんから深い信頼を
得ている。春のはじめ、宮島さんのブログを拝見したら、
真田六文銭を醸す、山三酒造と取り引きを始めたと
載っていて驚いた。
ブログによると、長らく休業していたお蔵を、
異業種の会社が買い取って、新たな体制で造りを
始めたという。
宮島さんが扱うなら味に間違いはない。
上田にはすでに、互、亀齢、登水、瀧澤、月吉野と、
銘酒の誉れ高い銘柄が存在している。
ここに真田六文銭が加わって、、かつて上田の地を
治めていた真田家の家紋の六文銭よろしく、
六蔵揃い踏みとなったのだった。
7月最初の土曜日、宮島さんを含む上田の日本酒愛好家
のかたたちが、駅前のホテルで酒の会を開いてくれた。
六つのお蔵さんが勢ぞろいして、お話をうかがいながら
それぞれの味を楽しんだ。
ずいぶん久しぶりに利いた真田六文銭は、かつての味とは
うらはらに、旨い味わいだった。
宮島さん曰く、これから益々、信州上田の地酒はおもしろく
なるという。
ほんとにねえ。
日本酒を飲み始めて35年になるから、上田の酒の昔の味も
知っている。どのお蔵さんも上等の味を醸すようになり、
上田の酒に外れなしなのだった。
お蔵さんの努力と、宮島酒店さんや、地元の愛好家の
みなさんの支えがあってこその味わいと、
しみじみ感じ入ったことだった。
宴の前に利き酒大会が行われた。六つのうち正解したのは
ふたつだけ。さんざん杯を重ねているのに、味覚は
さっぱり疎いままだった。
夏夕べ上田の酒に惚れぼれと。
カメラを買って
文月 3
500円玉貯金をしている。
買い物をしてお釣りに混ざってくると、
菓子の空き箱に、ちゃらちゃら貯めている。
いい歳のおっさんが、ちまちま硬貨を
貯めているのもいかがなものかと思うものの、
稼いだ日銭は、すみやかに一升瓶に姿を変えるか、
馴染みの飲み屋に消えていくから、それしか
貯金の仕様がないのだった。
そこそこ貯まったら、服を買ったり、旅行に
出かけたり、気になるカメラを買うときの頭金に
使っている。
10年前、フジフイルムのカメラを買った。
佇まいにフィルムカメラのような懐かしさが有って、
以来、幾度か買い足した。
内田ユキオさんという写真家がいる。
フジフイルムから、X-Pro2というカメラが発売になった
ときに、
「X-Pro2と仲良くなりたいなら、手のなかで
転がしているのがいちばんだと思う。
一日五分だけでもいい。
X-Pro2で写真を撮り歩くのはもちろん楽しい。
でも電源を入れずに、もてあそんでいるだけでも喜びが
感じられる、稀有なカメラだと思う。」と
おっしゃっていた。
カメラがあると、日々の生活が豊かになると伝えてくれる
台詞に惹かれたのだった。
この頃発売になるフジフイルムのカメラは、そんな
情緒が薄らいだ感があり、ちょっと寂しいことだった。
この頃も、
「カメラは散歩を旅に、旅を冒険にしてくれる。」
と、胸に響く台詞を述べていて、このかたのコラムを
毎回楽しみにしている。
その内田ユキオさんが、リコーのGRという
ちいさなカメラも愛用している。
GRについての台詞も、なかなかそそられる響きがあって、
500円玉が好い感じに貯まったこの春、ぽちっとした。
名前だけは知っていたものの、届いたカメラを
手にしてみると、長きにわたって、ほぼ形を変えずに
作られつづけた製品は、佇まいに品が有る。
これもまた触っているだけで、好い気分になる代物
だった。
GRのホームページで、愛用している写真家の
かたがたの作品を眺めていたら、
大門美奈さんというかたを見つけた。
作品よりも先に、目元涼しい美しいお顔にやられた。
作品を拝見すると、
骨太な感の写真を撮られるかただった。
茅ヶ崎在住のかたで、
コラムとツイッターを拝見したら、酒ネタが
出てくる出てくる。ビール日本酒ワインウイスキー、
なんでもござれ。
黒霧島の一升瓶を枕に昼寝をしたり、
私は酔っ払っているといい写真を撮ると言っちゃたり、
馴染みの飲み屋で凍結酒でよれよれになったり、
夜中にウイスキーやリキュール飲んじゃったり、
仕事から解放されてほにゃららしている
サラリーマンを、楽しく観察しながら飲んでいたり、
早い夕方から福島の会津娘飲んじゃったり。
酒飲みの美しい女性写真家、最高です。
伯楽星の純米吟醸、一緒にやりませんか。
楽しくなって、写真集をぽちっとしてしまった。
届いた写真集に、7月に横浜で個展を開くと
メッセージが添えられていた。
夏の楽しみができたことだった。
一升瓶枕に昼寝淑女かな。
長野吉田高校吹奏楽班よ
文月 2
春のはじめ、見覚えのない番号の電話がかかってきた。
かわいい声の、こんにちは。長野吉田高校吹奏楽班の
まつはしと申しますの挨拶に、おっ、今年もきましたねと
合点がいった。
4年前、友だちのお嬢さんが我が母校の吹奏楽班に
入部していた。みやいりさん、定期演奏会のパンフレットに
広告を出してくれませんかと頼まれて、
お嬢さんのお役に立てるならと掲載させて頂いた。
以来、毎年依頼の連絡が来るようになったのだった。
後日、広告代の集金にやって来て、5月の下旬には、
パンフレットと大きなポスターと招待券を持ってきて
くれた。
演奏会当日の6月10日。幸い仕事がひまだったので、
会場のホクト文化ホールまで足を運んだ。
会場のむかいの寿司屋で、握りと刺身をつまみに、
ビール二本の昼酒を済ませて行くと、入口に、
他の高校の吹奏楽班からの、お祝いメッセージが
貼られていた。受付を済ませて席に着き見渡せば、
親御さんに、孫の晴れ舞台を観に来たおじいさんや
おばあさん、中学生や高校生の子供たちが、
大ホールを埋めている。
白いジャケットに身を包んだ子供たちがステージに
登場して、長野吉田高校の校歌から演奏が始まった。
高校時代、学校にたいした愛着もなかったのに、
子供たちの澄んだ音色と歌声を聴いていたら、
鼻の奥がつんとしてしまった。
ステージは三部構成で、第一部ではコンクールの課題曲
などを。第二部ではサウンドオブミュージックなどの
懐かしい映画音楽を、第三部では、色とりどりのTシャツに
着替えて登場して、アメリカのポップスに
ジャズのメドレーが奏でられた。
このたび世話になったまつはしさんはクラリネット。
パンフレットを覗いたら、今年の中部個人コンテストで
長野県の代表に選ばれて、本大会でも銀賞を受賞している。
たいしたものだのお。
最後の曲は宮崎駿の天空の城ラピュタで、フィナーレへと
向かう、力づよくて繊細な演奏を聴いていたら、
涙がこぼれてしまった。いい演奏会だったなあ。
席を立ち出口へ向かうと、演奏を終えた子供たちが
見送ってくれていた。みんなかっこよかったよと
声をかければ、かわいい笑顔で、ありがとうございますと
頭を下げる。
き~た~にそびゆ~る、いいず~なやまの~、
ぜんこ~じだいら、ふきく~るかぜの~。
いい子たちじゃないか。素敵な子供たちじゃないか。
好い音色の余韻を胸に、さて、どこでビールを
飲もうか思案したのだった。
後輩の音色六月光りけり。

春のはじめ、見覚えのない番号の電話がかかってきた。
かわいい声の、こんにちは。長野吉田高校吹奏楽班の
まつはしと申しますの挨拶に、おっ、今年もきましたねと
合点がいった。
4年前、友だちのお嬢さんが我が母校の吹奏楽班に
入部していた。みやいりさん、定期演奏会のパンフレットに
広告を出してくれませんかと頼まれて、
お嬢さんのお役に立てるならと掲載させて頂いた。
以来、毎年依頼の連絡が来るようになったのだった。
後日、広告代の集金にやって来て、5月の下旬には、
パンフレットと大きなポスターと招待券を持ってきて
くれた。
演奏会当日の6月10日。幸い仕事がひまだったので、
会場のホクト文化ホールまで足を運んだ。
会場のむかいの寿司屋で、握りと刺身をつまみに、
ビール二本の昼酒を済ませて行くと、入口に、
他の高校の吹奏楽班からの、お祝いメッセージが
貼られていた。受付を済ませて席に着き見渡せば、
親御さんに、孫の晴れ舞台を観に来たおじいさんや
おばあさん、中学生や高校生の子供たちが、
大ホールを埋めている。
白いジャケットに身を包んだ子供たちがステージに
登場して、長野吉田高校の校歌から演奏が始まった。
高校時代、学校にたいした愛着もなかったのに、
子供たちの澄んだ音色と歌声を聴いていたら、
鼻の奥がつんとしてしまった。
ステージは三部構成で、第一部ではコンクールの課題曲
などを。第二部ではサウンドオブミュージックなどの
懐かしい映画音楽を、第三部では、色とりどりのTシャツに
着替えて登場して、アメリカのポップスに
ジャズのメドレーが奏でられた。
このたび世話になったまつはしさんはクラリネット。
パンフレットを覗いたら、今年の中部個人コンテストで
長野県の代表に選ばれて、本大会でも銀賞を受賞している。
たいしたものだのお。
最後の曲は宮崎駿の天空の城ラピュタで、フィナーレへと
向かう、力づよくて繊細な演奏を聴いていたら、
涙がこぼれてしまった。いい演奏会だったなあ。
席を立ち出口へ向かうと、演奏を終えた子供たちが
見送ってくれていた。みんなかっこよかったよと
声をかければ、かわいい笑顔で、ありがとうございますと
頭を下げる。
き~た~にそびゆ~る、いいず~なやまの~、
ぜんこ~じだいら、ふきく~るかぜの~。
いい子たちじゃないか。素敵な子供たちじゃないか。
好い音色の余韻を胸に、さて、どこでビールを
飲もうか思案したのだった。
後輩の音色六月光りけり。
鎌倉ひととき
文月 1
鎌倉の友だちの蕎麦屋で、酒と蕎麦を堪能した翌朝、
宿で目を覚ましたら、前日の酒がまだ効いている。
友だちが宿まで同行してくれて、宿のご主人を交えて
酒を酌み交わしてからの後半の記憶が飛んでいる。
気がついたら布団の中にいたのだった。
よく飲んだなあ。
ぼーっとした頭で宿を出て、静かな住宅街を抜けて、
近くの腰越海岸まで出かけた。
通りを渡って浜辺に行くと、早朝から波に挑んでいる
サーファーがいた。穏やかな波の向こうに、
今にも降りだしそうな厚い雲の空が広がっている。
宿に戻ってもうひと寝入りして、江ノ電の腰越駅へ
向かうと、サーフボードを抱えた自転車の女性とすれ違った。
久しぶりの江ノ電に揺られて行くと、車窓越しの海に
ちらほらと黒いサーファーたちがいた。
眺めていたら、海街diary、好い映画だったなあと
思い出した。長谷駅で降りると、通りには朝から車が
連なって、歩道をぞろぞろ観光客が歩いている。
道沿いのカフェでサンドイッチとカフェラテを頂いて、
大仏さんを拝みに向かったら、
境内は観光バスの団体客や、修学旅行の子供たちで早々に
にぎわっていた。通りを戻って右折して長谷観音に行ったら、
見ごろの紫陽花を眺めに、こちらも観光客がすごい。
坂道を上がって本堂でお参りをして門を出たら、さらに
車も人も増えている。この時期の鎌倉にいると、
どこに行っても人波に飲み込まれるサーファーに
なってしまうのだった。時間を見計らってバスに乗り、
友だちの蕎麦屋、そばcafe tamazzeに行って昼酒にする。
昨日飲み過ぎたので、今日は控えめにしようと
思っていたのに、わらびのお浸しで黒ラベルを空けたら、
活気がぶり返して、日本酒を漬け物と濃い目の蕎麦汁で
三杯やってしまった。蕎麦も汁も、ほんとに旨いなあ。
今度はぜひ新蕎麦のときに来てください。
蕎麦の香りがぜんぜんちがいますといわれ、そそられる。
秋は秋で、どこもまた観光客でごった返すかなあ。
酒を飲んで新蕎麦食べて、あとは静かにのんびり、
波の音を聞きながら、江の島眺めながらワインでも
飲むか。
早々に次回の鎌倉詣でが頭に浮かんだことだった。
久しぶりの鎌倉、なんとも楽しいひとときでした。
宿酔いの頭抱えて夏の海。