苗木を眺めて
皐月 十一
穏やかな陽気の日がつづく。
ときには夏日のような日もあって、
菅平の空に、おおきな入道雲がわいていた。
Tシャツですごせる季節になって、
身も心も軽く往きたい気分になる。
玄関先のガマズミが花をつけた。
枝が伸びて葉が茂り、
昨年は蕾がついても開かなかった。
今年はちいさな花のかたまりが十一個、
白く路地に映えている。
駐車場に根を張ったつるバラも白い花が咲いた。
枝の伸びっぷりが好く、停車のじゃまになってきた。
葉のあちこちにしがみついている
毛虫にさわらぬよう、切りおとした。
仕事場のうらの、どくだみの群れも葉が茂り、
もうすぐ白い花が咲く。
路地に面した花壇のハコベは、
すっかり色あせて枯れた。
引っこ抜いてゴミ袋に入れた。
ひと仕事終えたら、
駐車場のすみの、プランターの様子をたしかめて、
水をあげる。
坂城町で畑仕事をしている友だちがいる。
ハーブや、名産の巨峰を作るかたわら、
ワイン用のぶどう栽培にも精を出している。
赤ワインの品種の、
メルローの苗木をもらったのだった。
ほったらかしにしてあったプランターに刺して、
毎日の水くれが日課になった。
貧弱な土だからと期待をしていなかったのに、
二十日をすぎた朝、葉が出はじめていた。
かぼそい苗木の健気さに、
朝からワインを飲みたい気分になった。
こんな些細なことでもうれしいのだから、
天候の良し悪しや、害虫の寄生に気をもみながら、
作物に向き合うかたがたの、
実が成ったときのこころ持ちは、
いかほどなものかと思いが向いた。
友だちのぶどうが、ワインになるまであと三年。
ファーストビンテージの祝い酒まで、
肝臓に持ちこたえてもらいたいのだった。

穏やかな陽気の日がつづく。
ときには夏日のような日もあって、
菅平の空に、おおきな入道雲がわいていた。
Tシャツですごせる季節になって、
身も心も軽く往きたい気分になる。
玄関先のガマズミが花をつけた。
枝が伸びて葉が茂り、
昨年は蕾がついても開かなかった。
今年はちいさな花のかたまりが十一個、
白く路地に映えている。
駐車場に根を張ったつるバラも白い花が咲いた。
枝の伸びっぷりが好く、停車のじゃまになってきた。
葉のあちこちにしがみついている
毛虫にさわらぬよう、切りおとした。
仕事場のうらの、どくだみの群れも葉が茂り、
もうすぐ白い花が咲く。
路地に面した花壇のハコベは、
すっかり色あせて枯れた。
引っこ抜いてゴミ袋に入れた。
ひと仕事終えたら、
駐車場のすみの、プランターの様子をたしかめて、
水をあげる。
坂城町で畑仕事をしている友だちがいる。
ハーブや、名産の巨峰を作るかたわら、
ワイン用のぶどう栽培にも精を出している。
赤ワインの品種の、
メルローの苗木をもらったのだった。
ほったらかしにしてあったプランターに刺して、
毎日の水くれが日課になった。
貧弱な土だからと期待をしていなかったのに、
二十日をすぎた朝、葉が出はじめていた。
かぼそい苗木の健気さに、
朝からワインを飲みたい気分になった。
こんな些細なことでもうれしいのだから、
天候の良し悪しや、害虫の寄生に気をもみながら、
作物に向き合うかたがたの、
実が成ったときのこころ持ちは、
いかほどなものかと思いが向いた。
友だちのぶどうが、ワインになるまであと三年。
ファーストビンテージの祝い酒まで、
肝臓に持ちこたえてもらいたいのだった。
初めての店で
皐月 十
ふらふらと飲み歩いてばかりいる。
陽も伸びて、薄暮の中を飲み屋へ歩いていくのは楽しい。
好い季節に、杯もくいくいすすむのだった。
この歳になり、なにごとも楽なのがいちばんと、
馴染みの店ばかりに顔を出している。
見慣れた笑顔にむかえられて、
気に入りの肴で、気に入りの銘柄を一杯二杯三杯四杯。
いつもかさね過ぎるのも、居心地の好さのせいだった。
ひさしぶりのかたとランチをした。
チェーン店のサイゼリアのエスカルゴが旨いという。
駅前の店に初めて連れて行ってもらった。
戸を開けると、店内に女子高生がいっぱいでおどろく。
教科書とノートを開いている子がいて、
試験の最中と察しがついた。
ドリンクバーでジュースをおかわりしながら、
スマホを見せ合って、にぎやかに笑っている。
ひとり、もくもくとハンバーグを食べている子がいて、
旺盛な食欲がうらやましい。
メニューを見たら、値段がおどろくほど安い。
エスカルゴをつまみに、赤ワインのボトルを空にした。
勢いづいて、すぐそばの築地市場食堂へ移動する。
この店は午後の三時から開いているから、
早い時間に飲みたい人にはありがたい。
おまけに、午後三時から五時までは、
生ビールが一杯百円という。
さっきのサイゼリアといい、どういうしくみで、
そんなに安くできるのかふしぎなことだった。
昼間から、高齢のおじさんや、若いおかあさんたちや、
旅行者でにぎわっている。
もう一軒初めての店に連れて行ってもらい、
昼から夕方までのはしご酒と相成った。
すすんで行くのは、
縁のふかい馴染みの店とかわらない。
足を踏み入れることのない店にご同行するのも、
ちょいと新鮮で楽しかった。
それにしても、女子高生の制服を間近に、
酒を酌んだのも初めてのことだった。

ふらふらと飲み歩いてばかりいる。
陽も伸びて、薄暮の中を飲み屋へ歩いていくのは楽しい。
好い季節に、杯もくいくいすすむのだった。
この歳になり、なにごとも楽なのがいちばんと、
馴染みの店ばかりに顔を出している。
見慣れた笑顔にむかえられて、
気に入りの肴で、気に入りの銘柄を一杯二杯三杯四杯。
いつもかさね過ぎるのも、居心地の好さのせいだった。
ひさしぶりのかたとランチをした。
チェーン店のサイゼリアのエスカルゴが旨いという。
駅前の店に初めて連れて行ってもらった。
戸を開けると、店内に女子高生がいっぱいでおどろく。
教科書とノートを開いている子がいて、
試験の最中と察しがついた。
ドリンクバーでジュースをおかわりしながら、
スマホを見せ合って、にぎやかに笑っている。
ひとり、もくもくとハンバーグを食べている子がいて、
旺盛な食欲がうらやましい。
メニューを見たら、値段がおどろくほど安い。
エスカルゴをつまみに、赤ワインのボトルを空にした。
勢いづいて、すぐそばの築地市場食堂へ移動する。
この店は午後の三時から開いているから、
早い時間に飲みたい人にはありがたい。
おまけに、午後三時から五時までは、
生ビールが一杯百円という。
さっきのサイゼリアといい、どういうしくみで、
そんなに安くできるのかふしぎなことだった。
昼間から、高齢のおじさんや、若いおかあさんたちや、
旅行者でにぎわっている。
もう一軒初めての店に連れて行ってもらい、
昼から夕方までのはしご酒と相成った。
すすんで行くのは、
縁のふかい馴染みの店とかわらない。
足を踏み入れることのない店にご同行するのも、
ちょいと新鮮で楽しかった。
それにしても、女子高生の制服を間近に、
酒を酌んだのも初めてのことだった。

酒蔵さんと
皐月 九
窓から眺める氏神さんの大木も、
日に日に緑の濃さが増している。
陽も伸びて、
緑をながめながら酌む酒は、おだやかにさわやかに旨い。
日曜日の夕方、歩道橋から通り沿いの緑を見下ろしながら、
東口のいいださんの戸を開けた。
酒屋の峯村君と、酒蔵さんの宴にまぜてもらったのだった。
集まったお蔵さんはぜんぶで八人。
寒い冬から春先までの造りを終えて、
みなさんの表情もやわらかい。
酌みあいながらうかがえば、
ねらい通りの味が出なかったり、蔵人が病気になったり、
税務署ともめたり、このたびも、
なにかと気苦労かかえた造りとなった。
酒米の不足も悩みの種で、今年は冷夏という情報に、
早々に秋の米の出来具合が心配になっている。
順番にそれぞれの味を利かせてもらえば、
旨みの幅にちがいがある。
共通しているのは、余計な香りがないことと、
味わいがきめ細かく、あとくちの切れが好い。
どのお蔵さんも世代交代をして、若いかたが造っている。
いいださんのカウンターで独り酒をしているときに、
出張で訪れた、
背広姿のおじさんたちと遭遇することがある。
旨いねえといいながら、
長野の酒をかたっぱしから飲んだりすると、
造り手の顔を知っているから、こちらもうれしい。
長野のちいさなお蔵の味の好さを、
たくさんのかたに知っていただきたいのだった。

窓から眺める氏神さんの大木も、
日に日に緑の濃さが増している。
陽も伸びて、
緑をながめながら酌む酒は、おだやかにさわやかに旨い。
日曜日の夕方、歩道橋から通り沿いの緑を見下ろしながら、
東口のいいださんの戸を開けた。
酒屋の峯村君と、酒蔵さんの宴にまぜてもらったのだった。
集まったお蔵さんはぜんぶで八人。
寒い冬から春先までの造りを終えて、
みなさんの表情もやわらかい。
酌みあいながらうかがえば、
ねらい通りの味が出なかったり、蔵人が病気になったり、
税務署ともめたり、このたびも、
なにかと気苦労かかえた造りとなった。
酒米の不足も悩みの種で、今年は冷夏という情報に、
早々に秋の米の出来具合が心配になっている。
順番にそれぞれの味を利かせてもらえば、
旨みの幅にちがいがある。
共通しているのは、余計な香りがないことと、
味わいがきめ細かく、あとくちの切れが好い。
どのお蔵さんも世代交代をして、若いかたが造っている。
いいださんのカウンターで独り酒をしているときに、
出張で訪れた、
背広姿のおじさんたちと遭遇することがある。
旨いねえといいながら、
長野の酒をかたっぱしから飲んだりすると、
造り手の顔を知っているから、こちらもうれしい。
長野のちいさなお蔵の味の好さを、
たくさんのかたに知っていただきたいのだった。
ソムリエさんと
皐月 八
月にいちど、ワイン好きな飲み仲間と、
馴染みのおでん屋でワイン会をやっている。
ひとり一本、長野のワインを持ち寄って飲み比べをする。
蕎麦屋のご主人が、手の込んだ鴨料理を持ってきて、
畑をあつかう友だちが、新鮮なハーブを持ってくる。
おでんの出汁も赤ワインのピノ・ノワールに合うといい、
わいわい飲んでいれば、
すみやかにボトルが空になってゆく。毎回、
どの銘柄を持ってゆくか悩むのも楽しいことだった。
夕方、駅前のホテルへ出かけた。
世界一のソムリエを招いての、
ワインの会があったのだった。
たくさんのワイン好きのかたが訪れていて、
精通したプロのかたのお顔も見える。
知事もお見えになっていて、
原産地呼称制度を設けていらい、
長野県は、ワインの生産に力を入れている。
このごろは、ちいさなワイナリーや、
ぶどう栽培を始めるかたが増えてきた。
醸造家の玉村豊男さんと、スイスのパオロ・バッソさんが、
ワイナリーに人が来るようになれば、
その地域のほかの産業も栄えると話をされる。
赤白五種類の長野のワインの味を利いて、
バッソさんが感想を述べていく。
カシスにレモンにりんご、バニラにバターにチョコ、
ひとつのグラスから、
いくつもの香りを例える言葉がみちびきだされる。
鼻をひくひくさせても、だらしのないヨッパには、
なかなかそれがわからない。
酸味に渋味、味のちがいを聞きながら飲んでいれば、
長野のワイン、旨いなあとしみじみ思う。
たくさんの勉強をしてきたという。
ソムリエコンクールで世界一になったら、
生活が一変していそがしくなった。
そんな毎日を家族が支えてくれていると、
細おもての温和な顔で語っていた。
一期一会、はるか彼方の世界の人とのひとときは、
酒好きの身に楽しくありがたいことだった。
長野のワインを褒めていただいて、
ますます飲む気が湧いてくる。

月にいちど、ワイン好きな飲み仲間と、
馴染みのおでん屋でワイン会をやっている。
ひとり一本、長野のワインを持ち寄って飲み比べをする。
蕎麦屋のご主人が、手の込んだ鴨料理を持ってきて、
畑をあつかう友だちが、新鮮なハーブを持ってくる。
おでんの出汁も赤ワインのピノ・ノワールに合うといい、
わいわい飲んでいれば、
すみやかにボトルが空になってゆく。毎回、
どの銘柄を持ってゆくか悩むのも楽しいことだった。
夕方、駅前のホテルへ出かけた。
世界一のソムリエを招いての、
ワインの会があったのだった。
たくさんのワイン好きのかたが訪れていて、
精通したプロのかたのお顔も見える。
知事もお見えになっていて、
原産地呼称制度を設けていらい、
長野県は、ワインの生産に力を入れている。
このごろは、ちいさなワイナリーや、
ぶどう栽培を始めるかたが増えてきた。
醸造家の玉村豊男さんと、スイスのパオロ・バッソさんが、
ワイナリーに人が来るようになれば、
その地域のほかの産業も栄えると話をされる。
赤白五種類の長野のワインの味を利いて、
バッソさんが感想を述べていく。
カシスにレモンにりんご、バニラにバターにチョコ、
ひとつのグラスから、
いくつもの香りを例える言葉がみちびきだされる。
鼻をひくひくさせても、だらしのないヨッパには、
なかなかそれがわからない。
酸味に渋味、味のちがいを聞きながら飲んでいれば、
長野のワイン、旨いなあとしみじみ思う。
たくさんの勉強をしてきたという。
ソムリエコンクールで世界一になったら、
生活が一変していそがしくなった。
そんな毎日を家族が支えてくれていると、
細おもての温和な顔で語っていた。
一期一会、はるか彼方の世界の人とのひとときは、
酒好きの身に楽しくありがたいことだった。
長野のワインを褒めていただいて、
ますます飲む気が湧いてくる。
上田であそぶ
皐月 七
上田へでかけた。
城址公園に行けば、お堀も櫓も石垣も、
すっかり緑に覆われている。
ちいさな子と遊ぶおかあさんがいる。
見下ろすグラウンドでは、運動着の生徒たちが
せっせとトラックをまわっている。
招魂社で手を合わせる、背広姿のおじさんふたり、
作業着のおじさんたちは、枝を刈る準備をしていた。
門を出たら、幸村公にお会いした。
大河ドラマの放送がきまったから、
幸村さまも、これからますますいそがしい。
小路をぬけて本町を歩けば、
街路灯に、人にやさしい、美しい町 本町とある。
柳町の隠れ家 えんが、はやばや商いをはじめている。
愛想の好い若旦那と言葉を交わしながら、
美味だれやきとりとビールでひとやすみとした。
はすみワイナリーのアンテナショップに立ち寄って、
白を二杯飲めば、ちょうどお昼の時間となった。
上田に暮らす知り合いと、駅前の蕎麦屋で待ち合わせて、
旨い馬刺しと天ぷらで、生ビールと佐久の花を酌んだ。
昼から好い酔いとなって、別所線に乗りこむ。
知り合いの御身内が、この頃カフェをはじめたという。
場所はどこかと探したら、
ほどなくちいさな看板が目に入る。
カフェ あいの日は、土日祝日が営業日。
紫陽花の咲くころに、ふたたび足を運びたい。
大師湯のやわらかい湯に浸かり、下りて行けば、
古風な雑貨屋の前に、
小山憲市紬織展の看板があった。顔見知りの作家さんで、
この日は、信州大学の繊維学部の、
学生の作った絹糸で仕上げた反物を飾ってあった。
清楚な白の色合いは、初夏の風に爽やかに合う。
別所駅へ戻って時計を見たら、
のんびりしすぎたとあきれる。
そもそも上田へ来たのは、
池波正太郎記念館で開いている、
風間完さんの絵を観るためだった。
午前から酔って、湯にくつろいで、
時間に間に合わなかったのはまぬけなことだった。
また次回とあきらめて、
馴染みのかたとひさしぶりのかたと、
駅前の明治屋であっという間に酔っぱらった。

上田へでかけた。
城址公園に行けば、お堀も櫓も石垣も、
すっかり緑に覆われている。
ちいさな子と遊ぶおかあさんがいる。
見下ろすグラウンドでは、運動着の生徒たちが
せっせとトラックをまわっている。
招魂社で手を合わせる、背広姿のおじさんふたり、
作業着のおじさんたちは、枝を刈る準備をしていた。
門を出たら、幸村公にお会いした。
大河ドラマの放送がきまったから、
幸村さまも、これからますますいそがしい。
小路をぬけて本町を歩けば、
街路灯に、人にやさしい、美しい町 本町とある。
柳町の隠れ家 えんが、はやばや商いをはじめている。
愛想の好い若旦那と言葉を交わしながら、
美味だれやきとりとビールでひとやすみとした。
はすみワイナリーのアンテナショップに立ち寄って、
白を二杯飲めば、ちょうどお昼の時間となった。
上田に暮らす知り合いと、駅前の蕎麦屋で待ち合わせて、
旨い馬刺しと天ぷらで、生ビールと佐久の花を酌んだ。
昼から好い酔いとなって、別所線に乗りこむ。
知り合いの御身内が、この頃カフェをはじめたという。
場所はどこかと探したら、
ほどなくちいさな看板が目に入る。
カフェ あいの日は、土日祝日が営業日。
紫陽花の咲くころに、ふたたび足を運びたい。
大師湯のやわらかい湯に浸かり、下りて行けば、
古風な雑貨屋の前に、
小山憲市紬織展の看板があった。顔見知りの作家さんで、
この日は、信州大学の繊維学部の、
学生の作った絹糸で仕上げた反物を飾ってあった。
清楚な白の色合いは、初夏の風に爽やかに合う。
別所駅へ戻って時計を見たら、
のんびりしすぎたとあきれる。
そもそも上田へ来たのは、
池波正太郎記念館で開いている、
風間完さんの絵を観るためだった。
午前から酔って、湯にくつろいで、
時間に間に合わなかったのはまぬけなことだった。
また次回とあきらめて、
馴染みのかたとひさしぶりのかたと、
駅前の明治屋であっという間に酔っぱらった。
縁いろいろと
皐月 六
五月早々、思いがけない別れがあった。
菜の花を眺めても、
深まる緑を眺めても、気持ちがそこへ向く。
ひとりで晩酌をしているといけない。
ふざけるなと酔った勢いの独り言が出て、
こんなに苦い酒ははじめてのことだった。
ひさしぶりのかたや、
なじみのかたとの飲み会がつづいたのは、
幸いなことだった。
気のおけない一献に気持ちをまぎらわせてもらい、
日ごろの縁に救われているのだった。
おでん屋の若だんなと蕎麦屋のだんなと酌み交わした。
行きつけの鳥志んさんで、キリンラガーで乾杯して、
焼き鳥十二本セットをたのむ。
この店のレバーが好きでといえば、
弱っているところを食べたくなるらしいと、
若だんながいう。
たしかになあ。毎日酒を飲んでいるから、
肝臓にもかなりの負担がかかっている。
だいたい前の晩もこの顔ぶれで、
おでん屋で飲んでいたのだった。
塩加減の好い串にかじりついていれば、
ぽつぽつ常連さんでカウンターも埋まってくる。
麦焼酎のボトルを入れてお湯割りに切りかえる。
男三人あつまれば、話は女性のことになる。
そろいもそろって浮いた話に縁がない。
恋だ結婚だと口にしても、
不出来に歳をかさねた身は、一歩の決心がない。
君はまだ若い、
われわれが脇をサポートして応援するからと、
おでん屋の若だんなにはっぱをかければ、
あんまり頼りにならんなあという顔をする。
飲むたびにうだうだと、
らちの明かない話で酔っているのだった。
おでん屋の常連さんのひとりで、
酔うと素行のわるくなるかたがいる。
ほかのかたにも迷惑をかけるから、
他人ごとではないと言い聞かせている。
気ままなひとり暮らしをしていると、
ふだんのだらしなさが、酔うと顕著に出てしまう。
居心地の好い縁にけちつけぬよう、
身振り素振り口ぶりに、
気を付けなくてはいけないのだった。
日本酒に切りかえてほとほと酔ったころに、
顔なじみのかたが入ってきた。
よしださん、こっちの席空いてますと手を挙げた。

五月早々、思いがけない別れがあった。
菜の花を眺めても、
深まる緑を眺めても、気持ちがそこへ向く。
ひとりで晩酌をしているといけない。
ふざけるなと酔った勢いの独り言が出て、
こんなに苦い酒ははじめてのことだった。
ひさしぶりのかたや、
なじみのかたとの飲み会がつづいたのは、
幸いなことだった。
気のおけない一献に気持ちをまぎらわせてもらい、
日ごろの縁に救われているのだった。
おでん屋の若だんなと蕎麦屋のだんなと酌み交わした。
行きつけの鳥志んさんで、キリンラガーで乾杯して、
焼き鳥十二本セットをたのむ。
この店のレバーが好きでといえば、
弱っているところを食べたくなるらしいと、
若だんながいう。
たしかになあ。毎日酒を飲んでいるから、
肝臓にもかなりの負担がかかっている。
だいたい前の晩もこの顔ぶれで、
おでん屋で飲んでいたのだった。
塩加減の好い串にかじりついていれば、
ぽつぽつ常連さんでカウンターも埋まってくる。
麦焼酎のボトルを入れてお湯割りに切りかえる。
男三人あつまれば、話は女性のことになる。
そろいもそろって浮いた話に縁がない。
恋だ結婚だと口にしても、
不出来に歳をかさねた身は、一歩の決心がない。
君はまだ若い、
われわれが脇をサポートして応援するからと、
おでん屋の若だんなにはっぱをかければ、
あんまり頼りにならんなあという顔をする。
飲むたびにうだうだと、
らちの明かない話で酔っているのだった。
おでん屋の常連さんのひとりで、
酔うと素行のわるくなるかたがいる。
ほかのかたにも迷惑をかけるから、
他人ごとではないと言い聞かせている。
気ままなひとり暮らしをしていると、
ふだんのだらしなさが、酔うと顕著に出てしまう。
居心地の好い縁にけちつけぬよう、
身振り素振り口ぶりに、
気を付けなくてはいけないのだった。
日本酒に切りかえてほとほと酔ったころに、
顔なじみのかたが入ってきた。
よしださん、こっちの席空いてますと手を挙げた。
野沢温泉へ
皐月 五
両親と野沢温泉へ出かけた。
冬、実家でテレビを観ていたら、藤岡弘が歩いていた。
地元のおじさんと大湯に浸かり、
野沢菜をつまんで、旅館の料理を堪能していた。
いっしょに観ていた母が、
ひさしぶりに行きたいとつぶやいたから、
冬すぎて、連休の混雑すぎたときにと、
足を運んだのだった。
入り組んだほそい通りを迷いながら、
手ごろで好い宿と友だちに教えてもらった、
てらゆさんにたどり着く。
熊の手洗い湯の源泉かけ流しの湯は、
ほどよい湯加減で、気分もすっかりゆるくなる。
ビールをひっかけて散策に出たら、
前を行く親の背中も、ずいぶんとちいさくなった。
麻釜では地元のおばさんたちが、
温泉で野菜や卵をゆでている。
大湯からほてった顔のおじさんたちが、
あついあついと言いながら出てきた。
宿に戻ると、ちょうど夕飯の時間となる。
地元の野菜や信州サーモン、みゆきポークを肴に、
地元の銘酒、水尾と北光正宗を、
父としたたかに酌み交わした。
翌朝はやく、宿のうらの古峰山を散策した。
ブナの林の中を歩けば、
新緑のむこうに温泉街が見わたせる。
ちいさな諏訪大社の祠をすぎていくと、
赤い鳥居の古峰神社に着いた。
ブナの林に、しずかにうぐいすの声がひびいている。
すこしはなれたところに露天風呂があって、
こんなところにもとおどろく。
夫婦風呂という看板が下がっていたから、
しずかな林の中で女性と風呂に入ったら・・・
早朝からあられもない妄想をしてしまった。
とおく、残雪の妙高山と黒姫山が映えている。
熊の手洗い湯で湯を浴びて朝食にむかう。
宿自家製の米がつやつやぴかぴかに炊かれて、
親子そろって旨い旨いとおかわりをした。
雪ふかい冬の寒さはきびしいものの、
温泉とゆたかな自然がある。
おまけに、好き味醸す酒蔵があり、
美味しい米と山の幸がある。
野沢温泉、なんとも好いところなのだった。

両親と野沢温泉へ出かけた。
冬、実家でテレビを観ていたら、藤岡弘が歩いていた。
地元のおじさんと大湯に浸かり、
野沢菜をつまんで、旅館の料理を堪能していた。
いっしょに観ていた母が、
ひさしぶりに行きたいとつぶやいたから、
冬すぎて、連休の混雑すぎたときにと、
足を運んだのだった。
入り組んだほそい通りを迷いながら、
手ごろで好い宿と友だちに教えてもらった、
てらゆさんにたどり着く。
熊の手洗い湯の源泉かけ流しの湯は、
ほどよい湯加減で、気分もすっかりゆるくなる。
ビールをひっかけて散策に出たら、
前を行く親の背中も、ずいぶんとちいさくなった。
麻釜では地元のおばさんたちが、
温泉で野菜や卵をゆでている。
大湯からほてった顔のおじさんたちが、
あついあついと言いながら出てきた。
宿に戻ると、ちょうど夕飯の時間となる。
地元の野菜や信州サーモン、みゆきポークを肴に、
地元の銘酒、水尾と北光正宗を、
父としたたかに酌み交わした。
翌朝はやく、宿のうらの古峰山を散策した。
ブナの林の中を歩けば、
新緑のむこうに温泉街が見わたせる。
ちいさな諏訪大社の祠をすぎていくと、
赤い鳥居の古峰神社に着いた。
ブナの林に、しずかにうぐいすの声がひびいている。
すこしはなれたところに露天風呂があって、
こんなところにもとおどろく。
夫婦風呂という看板が下がっていたから、
しずかな林の中で女性と風呂に入ったら・・・
早朝からあられもない妄想をしてしまった。
とおく、残雪の妙高山と黒姫山が映えている。
熊の手洗い湯で湯を浴びて朝食にむかう。
宿自家製の米がつやつやぴかぴかに炊かれて、
親子そろって旨い旨いとおかわりをした。
雪ふかい冬の寒さはきびしいものの、
温泉とゆたかな自然がある。
おまけに、好き味醸す酒蔵があり、
美味しい米と山の幸がある。
野沢温泉、なんとも好いところなのだった。
連休もすぎて
皐月 四
ゴールデンウィークがおわり、善光寺界隈もしずかになる。
道路が混むから訪ねてくるかたもない。
数珠つなぎの車や、おおきなバイクの集団をながめたり、
路地を通るおじさんと、
好い天気ですと言葉を交わしながら、
日がな一日、ぼんやりとすごしていた。
それでも、陽が沈むころになるといそがしい。
帰省してきた同級生の女性と、おでん屋で酌み交わした。
女手ひとつで育てた娘ふたり、
お姉ちゃんは、仕事の研修でオーストラリアに旅立って、
学校に通う妹は、もうすぐ家を出て、
寮生活になるという。
かわいいふたりの写メを見せてもらい、
元気でなによりと酔った。
翌朝起きたら眼鏡がない。
わすれたかと電話をしたら、おでん屋の若旦那に、
わすれていかなかったですが、
今朝、ちかくの路上で、
踏まれて壊れた眼鏡を拾いましたといわれた。
日をおいて、
べつの同級生の女性と、べじた坊さんで酌み交わした。
おおきな組織で責任者をしているから、
気苦労がおおい。
飲んでいるあいだにもメールが来て、
あれこれ打ち返している。
ひとりで働く気楽な身は、
たいへんなこととながめて酔った。
それにしても、
この頃は年下の女性との一献がほとんどだった。
ひさしぶりの同級生とのひとときに、
しわが増えたなあとながめてしまったのは、
我が身をたなに上げて、いけないことだった。
次の日は、なじみのかたがたと駅前で群れた。
立ち飲み屋でひっかけて、築地市場食堂で、
日本酒の四合瓶をつぎつぎと空けた。
毎年五月の連休に、
岐阜の陶器市へ出かける友だちがいる。
今年も土産にと、趣きのあるぐい飲みを買ってきてくれた。
散財つづきだったから、
しばらくはおとなしく家飲みでときめる。

ゴールデンウィークがおわり、善光寺界隈もしずかになる。
道路が混むから訪ねてくるかたもない。
数珠つなぎの車や、おおきなバイクの集団をながめたり、
路地を通るおじさんと、
好い天気ですと言葉を交わしながら、
日がな一日、ぼんやりとすごしていた。
それでも、陽が沈むころになるといそがしい。
帰省してきた同級生の女性と、おでん屋で酌み交わした。
女手ひとつで育てた娘ふたり、
お姉ちゃんは、仕事の研修でオーストラリアに旅立って、
学校に通う妹は、もうすぐ家を出て、
寮生活になるという。
かわいいふたりの写メを見せてもらい、
元気でなによりと酔った。
翌朝起きたら眼鏡がない。
わすれたかと電話をしたら、おでん屋の若旦那に、
わすれていかなかったですが、
今朝、ちかくの路上で、
踏まれて壊れた眼鏡を拾いましたといわれた。
日をおいて、
べつの同級生の女性と、べじた坊さんで酌み交わした。
おおきな組織で責任者をしているから、
気苦労がおおい。
飲んでいるあいだにもメールが来て、
あれこれ打ち返している。
ひとりで働く気楽な身は、
たいへんなこととながめて酔った。
それにしても、
この頃は年下の女性との一献がほとんどだった。
ひさしぶりの同級生とのひとときに、
しわが増えたなあとながめてしまったのは、
我が身をたなに上げて、いけないことだった。
次の日は、なじみのかたがたと駅前で群れた。
立ち飲み屋でひっかけて、築地市場食堂で、
日本酒の四合瓶をつぎつぎと空けた。
毎年五月の連休に、
岐阜の陶器市へ出かける友だちがいる。
今年も土産にと、趣きのあるぐい飲みを買ってきてくれた。
散財つづきだったから、
しばらくはおとなしく家飲みでときめる。
菜の花を眺めに
皐月 三
沿線のりんご畑が白い花で満ちていた。
電車に乗って飯山へでかけた。
駅で降りたら路線バスに乗りかえる。
商店街から木島平村、ひと気のすくない道路を二十五分。
菜の花公園の、いちめんの黄色が見えてくる。
東小学校前の坂道を上がって行くと、
菜の花の上に鯉のぼりが揺れている。
子供たちの描いた菜の花の絵が飾ってあって、
キレイにさいたよ。菜の花のおかに生まれてしあわせだ。
ひとこと添えてある。
六年生のおおきな絵には、
みんなのおもいでをつくってくれた東小にありがとうとあり、
八人の子供の名前が載っていた。
ずらりとならんだ屋台では、たこ焼きや大阪焼き、
飯山名物の笹ずしや山菜を売っている。
ひろがる菜の花のむこうに、千曲川が流れ、
斑尾山がそびえる。
芝生でくつろぐ家族連れに、ぱしゃぱしゃ写真を撮る人、
花に混ざって写真におさまる人もいて、
ボランティアのおねえさんやおじさんは、
シャッターを押すのにいそがしい。
ロードバイクのおにいさんたちは、かっこいい姿に、
子供たちに話しかけられている。
飯山小学校六年一組の子供たちが、
弁当を売っていた。
わたしたちが考えたメニューだといい、
作ったのは、いいやま食文化の会(菜の花)
代表丸山花子さんだった。
開いてみたら、郷土になじみの、
いもなますとしめじの和え物と、
みゆき豚のとんかつが入っている。
野外ステージでは、
栄村の子供たちの、栄太鼓の演奏がはじまった。
菜の花を前に、小気味好い太鼓の響きを聴きながら、
弁当を食べた。
帰り道、国道沿いの菜の花を眺めながら歩いていけば、
川のむこうに、今しがたの黄色が映える。
太鼓の音が、風に乗ってここまで聞こえてきた。
ひとしきり、おそい北信濃の春を楽しんだのだった。
十日前に愛でた飯山城址の桜も、
すっかり緑におおわれていた。

沿線のりんご畑が白い花で満ちていた。
電車に乗って飯山へでかけた。
駅で降りたら路線バスに乗りかえる。
商店街から木島平村、ひと気のすくない道路を二十五分。
菜の花公園の、いちめんの黄色が見えてくる。
東小学校前の坂道を上がって行くと、
菜の花の上に鯉のぼりが揺れている。
子供たちの描いた菜の花の絵が飾ってあって、
キレイにさいたよ。菜の花のおかに生まれてしあわせだ。
ひとこと添えてある。
六年生のおおきな絵には、
みんなのおもいでをつくってくれた東小にありがとうとあり、
八人の子供の名前が載っていた。
ずらりとならんだ屋台では、たこ焼きや大阪焼き、
飯山名物の笹ずしや山菜を売っている。
ひろがる菜の花のむこうに、千曲川が流れ、
斑尾山がそびえる。
芝生でくつろぐ家族連れに、ぱしゃぱしゃ写真を撮る人、
花に混ざって写真におさまる人もいて、
ボランティアのおねえさんやおじさんは、
シャッターを押すのにいそがしい。
ロードバイクのおにいさんたちは、かっこいい姿に、
子供たちに話しかけられている。
飯山小学校六年一組の子供たちが、
弁当を売っていた。
わたしたちが考えたメニューだといい、
作ったのは、いいやま食文化の会(菜の花)
代表丸山花子さんだった。
開いてみたら、郷土になじみの、
いもなますとしめじの和え物と、
みゆき豚のとんかつが入っている。
野外ステージでは、
栄村の子供たちの、栄太鼓の演奏がはじまった。
菜の花を前に、小気味好い太鼓の響きを聴きながら、
弁当を食べた。
帰り道、国道沿いの菜の花を眺めながら歩いていけば、
川のむこうに、今しがたの黄色が映える。
太鼓の音が、風に乗ってここまで聞こえてきた。
ひとしきり、おそい北信濃の春を楽しんだのだった。
十日前に愛でた飯山城址の桜も、
すっかり緑におおわれていた。
緑がまぶしく
皐月 二
あたたかな日がつづく。
松木さんのお宅のつたの葉が、あっという間に増え、
つやつやと陽に映えている。
玄関先の枝が、たくさんの実と葉をつけた。
訪ねてきたかたに名前を聞かれても、
植物に疎い身は、首をかしげるばかりだった。
三年前まで玄関のわきに、つるバラの枝が伸びていた。
毎年夏のはじめになると、ちいさな白い花が咲いていた。
ところが、伸びすぎて栄養が足りなくなったのか、
枯れて咲かなくなってしまった。
あきらめて切った折に、捨て忘れて、
仕事場の裏に放置したままの枝が根を張った。
春のはじめからぐいぐい葉が増えて、
あちこち蕾もついている。
岸さんのお宅のつつじも赤くいろづいて、
神社の木々の緑も空に揺れている。
午後、路地ににぎやかな声が聞こえてきて、
白い帽子の子供たちが、お兄さん先生とすぎて行く。
みんなにこにこ楽しそうだったから、
つられてこちらの顔もゆるんだ。
間をおいて、白い肩かけかばんの、
柳町中学の生徒が帰って行く。
ひとりでしずかに行く子もいれば、
わいわいがやがや、笑いながらの集団もいる。
夕方、保育園がえりの男の子が、
おかあさんといっしょにすぎて行った。
朝夕通るこの子も、そういえば背が伸びていた。
飲み仲間の女性の息子は、もうすぐ三歳になる。
知能と体の成長がめざましく、
このごろは、なまいきなこともいうからにくらしい。
友だち夫婦の息子は一歳をすぎた。
ひさしぶりに会ったら、
お父さん似の男前な顔になってきていた。
こいつも女を泣かせるかと、はやばや心配になった。
離れて暮らす娘は、この秋にお母さんになる。
不摂生をせず、よくよく体を労わってもらいたい。
植物の健気な力づよさを目にとめて、
育ちゆく身と育てる身に思いがむいてしまう。
やりきれず、胸につまる五月になっている。

あたたかな日がつづく。
松木さんのお宅のつたの葉が、あっという間に増え、
つやつやと陽に映えている。
玄関先の枝が、たくさんの実と葉をつけた。
訪ねてきたかたに名前を聞かれても、
植物に疎い身は、首をかしげるばかりだった。
三年前まで玄関のわきに、つるバラの枝が伸びていた。
毎年夏のはじめになると、ちいさな白い花が咲いていた。
ところが、伸びすぎて栄養が足りなくなったのか、
枯れて咲かなくなってしまった。
あきらめて切った折に、捨て忘れて、
仕事場の裏に放置したままの枝が根を張った。
春のはじめからぐいぐい葉が増えて、
あちこち蕾もついている。
岸さんのお宅のつつじも赤くいろづいて、
神社の木々の緑も空に揺れている。
午後、路地ににぎやかな声が聞こえてきて、
白い帽子の子供たちが、お兄さん先生とすぎて行く。
みんなにこにこ楽しそうだったから、
つられてこちらの顔もゆるんだ。
間をおいて、白い肩かけかばんの、
柳町中学の生徒が帰って行く。
ひとりでしずかに行く子もいれば、
わいわいがやがや、笑いながらの集団もいる。
夕方、保育園がえりの男の子が、
おかあさんといっしょにすぎて行った。
朝夕通るこの子も、そういえば背が伸びていた。
飲み仲間の女性の息子は、もうすぐ三歳になる。
知能と体の成長がめざましく、
このごろは、なまいきなこともいうからにくらしい。
友だち夫婦の息子は一歳をすぎた。
ひさしぶりに会ったら、
お父さん似の男前な顔になってきていた。
こいつも女を泣かせるかと、はやばや心配になった。
離れて暮らす娘は、この秋にお母さんになる。
不摂生をせず、よくよく体を労わってもらいたい。
植物の健気な力づよさを目にとめて、
育ちゆく身と育てる身に思いがむいてしまう。
やりきれず、胸につまる五月になっている。
ヨーグルトを習慣に
皐月 一
黄金週間になり、善光寺にも観光客が多い。
界隈の木々の葉も色を増して、爽やかに緑さざめく季節になった。
ところが、こちらはなかなか爽やかにといかない。
花粉症がつづいているのだった。
毎年、四月の下旬になるとおさまるのに、
今年はひとときよりましなものの、
あいかわらず目と鼻がぐずついている。
訪ねてきたかたが、
今ごろはヒノキの花粉が舞っていると教えてくれた。
不摂生に歳をかさねて、
年々免疫力がおちているとわかるのだった。
おなじように、花粉に苦しんでいる友だちふたり、
今年はずいぶん楽だったと、それぞれおなじことをいう。
尋ねてみたら、ふたりとも一年前から、
ヨーグルトを食べたり飲んだりしていたという。
来年にそなえてまねをしようと思ったのに、
ふだん買わないものを買うのはむずかしい。
コンビニに行くたびに、ビールはしっかりかごに入れても、
ヨーグルトのことは、いつも忘れる始末だった。
天気の好い昼間、
路地にがらがらカートを引きずる音が聞こえてきた。
玄関先で止まって、見知らぬ男のかたが顔をだす。
明治の者ですというから、
生命保険かと思ったら乳業のほうだった。
今日はこの地域で営業をしているという。
一本飲んで気に入ったらご検討くださいと、
チラシと小瓶をわたされた。
飲むヨーグルトで、免疫力を高めるR1乳酸菌が、
ほかの商品よりたくさん入っているという。
まろやかで飲みやすく、偶然とはいえタイミングの好さに、
次の日、瓶を回収に来た折に宅配をお願いした。
一日に百五十軒から二百軒のお宅をまわるといい、
そのうち契約してくれるのは二軒から四軒というから、
たいへんな仕事なのだった。
このごろのような陽気のときはいいけれど、
雨や雪の日はつらいという。
栄養ドリンクを差し上げたら、うれしいですと飲み干して、
帰りぎわ、R1をまた一本置いていってくれた。
一年後、花粉にひるまずに済むよう、期待するのだった。

黄金週間になり、善光寺にも観光客が多い。
界隈の木々の葉も色を増して、爽やかに緑さざめく季節になった。
ところが、こちらはなかなか爽やかにといかない。
花粉症がつづいているのだった。
毎年、四月の下旬になるとおさまるのに、
今年はひとときよりましなものの、
あいかわらず目と鼻がぐずついている。
訪ねてきたかたが、
今ごろはヒノキの花粉が舞っていると教えてくれた。
不摂生に歳をかさねて、
年々免疫力がおちているとわかるのだった。
おなじように、花粉に苦しんでいる友だちふたり、
今年はずいぶん楽だったと、それぞれおなじことをいう。
尋ねてみたら、ふたりとも一年前から、
ヨーグルトを食べたり飲んだりしていたという。
来年にそなえてまねをしようと思ったのに、
ふだん買わないものを買うのはむずかしい。
コンビニに行くたびに、ビールはしっかりかごに入れても、
ヨーグルトのことは、いつも忘れる始末だった。
天気の好い昼間、
路地にがらがらカートを引きずる音が聞こえてきた。
玄関先で止まって、見知らぬ男のかたが顔をだす。
明治の者ですというから、
生命保険かと思ったら乳業のほうだった。
今日はこの地域で営業をしているという。
一本飲んで気に入ったらご検討くださいと、
チラシと小瓶をわたされた。
飲むヨーグルトで、免疫力を高めるR1乳酸菌が、
ほかの商品よりたくさん入っているという。
まろやかで飲みやすく、偶然とはいえタイミングの好さに、
次の日、瓶を回収に来た折に宅配をお願いした。
一日に百五十軒から二百軒のお宅をまわるといい、
そのうち契約してくれるのは二軒から四軒というから、
たいへんな仕事なのだった。
このごろのような陽気のときはいいけれど、
雨や雪の日はつらいという。
栄養ドリンクを差し上げたら、うれしいですと飲み干して、
帰りぎわ、R1をまた一本置いていってくれた。
一年後、花粉にひるまずに済むよう、期待するのだった。