隠退つづきに
2020年09月12日
へこりと at 11:52 | Comments(0)
長月 2
朝、散歩をしていたら、
近所の床屋の貼り紙に目が留まる。
けがをして仕事ができなくなりました。
長い間ありがとうございましたと、
店じまいの知らせだった。
しばらくした夕方どき、
ふたたび店の前を通ったら、
ご主人と奥さんが後片付けをしていた。
老いたご主人の丸い背中を目にしたら、
ちょっと切なくなってしまった。
母が世話になっていた歯医者が、
なんの知らせもないまま閉じていた。
入口には貼り紙もなく、
あっけらかんと片付いた室内が見えた。
年寄りにとって、かかりつけがなくなるのは、
たいそう困ったことだった。
母に、有本さんやめちゃったよと伝えたら、
ほんとにやめちゃったの?
休んでいるだけじゃないの?
入れ歯の調子がわるいのよ。
あんたもう一回たしかめてきてよ。
おなじ電話が三日つづけて、
二度も三度もかかってきて、
ようやく納得してもらって疲れた。
そしてこの頃になって、近所の外科の
お医者も、おやめになっていたと知る。
こちらが子供のときからのお医者で、
2年前に母を連れていったら、
すっかりおじいさんの先生が、
ひょうひょうと診てくれた。
小学四年生のときに、友だちに石を
投げつけられて、
左目の下を切ったことがある。
男の子だろ、泣くんじゃない!と
叱られながら、
縫ってもらったことが懐かしい。
48年前の縫いあとは、皮膚がたるんで、
今ではぜんぜんわからない。
朝、医院の前を通ったら、
1967年より53年間、
厚く御礼申し上げます。
閉院のあいさつが貼ってあった。
ぽつぽつと、昔からの佇まいが
静かになっていくのだった。

朝、散歩をしていたら、
近所の床屋の貼り紙に目が留まる。
けがをして仕事ができなくなりました。
長い間ありがとうございましたと、
店じまいの知らせだった。
しばらくした夕方どき、
ふたたび店の前を通ったら、
ご主人と奥さんが後片付けをしていた。
老いたご主人の丸い背中を目にしたら、
ちょっと切なくなってしまった。
母が世話になっていた歯医者が、
なんの知らせもないまま閉じていた。
入口には貼り紙もなく、
あっけらかんと片付いた室内が見えた。
年寄りにとって、かかりつけがなくなるのは、
たいそう困ったことだった。
母に、有本さんやめちゃったよと伝えたら、
ほんとにやめちゃったの?
休んでいるだけじゃないの?
入れ歯の調子がわるいのよ。
あんたもう一回たしかめてきてよ。
おなじ電話が三日つづけて、
二度も三度もかかってきて、
ようやく納得してもらって疲れた。
そしてこの頃になって、近所の外科の
お医者も、おやめになっていたと知る。
こちらが子供のときからのお医者で、
2年前に母を連れていったら、
すっかりおじいさんの先生が、
ひょうひょうと診てくれた。
小学四年生のときに、友だちに石を
投げつけられて、
左目の下を切ったことがある。
男の子だろ、泣くんじゃない!と
叱られながら、
縫ってもらったことが懐かしい。
48年前の縫いあとは、皮膚がたるんで、
今ではぜんぜんわからない。
朝、医院の前を通ったら、
1967年より53年間、
厚く御礼申し上げます。
閉院のあいさつが貼ってあった。
ぽつぽつと、昔からの佇まいが
静かになっていくのだった。