呉服屋さんへ
2013年07月23日
へこりと at 15:01 | Comments(0)
文月 八
よわい八十をすぎた母は、
若いときから着道楽なひとだった。
いまでもときどき服を買っていて、
おしゃれ心をなくさないのは、
気持ちが若くて好いとながめている。
着物好きの友だちが、
展示会があるのでご一緒にと
声をかけてくれた。
駅前にある老舗の呉服屋は、
かつて母が贔屓にしていた店だった。
その頃目をかけていた社員のかたが、
いま専務になっているという。
ひさしぶりにと足を運んだら、
たくさんの着物、
刺激が会って楽しかったという。
十年前におおきな手術をして、
帯をしめると傷口にひびくからと、
着る機会がなくなった。
柔らかい生地の帯があったから、
これならしめても平気と買ってきたという。
それはよかったと言ったあとに、
値段を聞かされて、まじっすかあ!と
ひっくり返りそうになった。
買うなら良いものをが、
昔からあたりまえのひとだった。
コンビニでおにぎりを買うような感覚で、
さらっと着物に手を出す豪気な柄は、
ビール一本、十円二十円のちがいで
エビスにしようか黒ラベルにしようか
なやんでしまう、
気の小さい息子から見れば
うらやましいことだった。
お前に似合いの下駄があったという。
折りよく安売りセールがあるからと、
後日、着物好きの友だちも誘い呉服屋へ
出向いた。
開店早々、すでにたくさんのご婦人方が
訪れている。
専務さんのあいさつを受けて、
会場を案内される。
素人目にも、
これは見事という華やかな柄がならび、
見とれていたら、
息子さんにはこんなのがお似合いと、
さささと鏡の前に立たされて、
江戸小紋の反物をあてられる。
いや、そんな色気のある柄は、
この貧相な顔には似合わないと
即座に母が却下して選んだ柄は、
たしかにこの貧相な顔にも好く馴染み、
長い間に養った、玄人目はさすがと感心した。
大島紬の好きな母と、はるばる出張してきた
織り元さんの話を聞けば、
織りにも染めにも、
ずいぶんの手間がかかっている。
ふかい色柄は、見れば見るほど引き込まれ、
買ってしまう気持ちもわかるのだった。
これだけのもの、さぞかしと値札を見たら、
案の定、ひええ~っという額なのに、
大島も安くなったわねえ。
平然とつぶやく母にもひええ~っとなった。
じっくり目の保養をさせていただいて、
さらりと着流し姿で杯を酌む。
そんな粋な酒徒になりたい気分に
ひたったのだった。

よわい八十をすぎた母は、
若いときから着道楽なひとだった。
いまでもときどき服を買っていて、
おしゃれ心をなくさないのは、
気持ちが若くて好いとながめている。
着物好きの友だちが、
展示会があるのでご一緒にと
声をかけてくれた。
駅前にある老舗の呉服屋は、
かつて母が贔屓にしていた店だった。
その頃目をかけていた社員のかたが、
いま専務になっているという。
ひさしぶりにと足を運んだら、
たくさんの着物、
刺激が会って楽しかったという。
十年前におおきな手術をして、
帯をしめると傷口にひびくからと、
着る機会がなくなった。
柔らかい生地の帯があったから、
これならしめても平気と買ってきたという。
それはよかったと言ったあとに、
値段を聞かされて、まじっすかあ!と
ひっくり返りそうになった。
買うなら良いものをが、
昔からあたりまえのひとだった。
コンビニでおにぎりを買うような感覚で、
さらっと着物に手を出す豪気な柄は、
ビール一本、十円二十円のちがいで
エビスにしようか黒ラベルにしようか
なやんでしまう、
気の小さい息子から見れば
うらやましいことだった。
お前に似合いの下駄があったという。
折りよく安売りセールがあるからと、
後日、着物好きの友だちも誘い呉服屋へ
出向いた。
開店早々、すでにたくさんのご婦人方が
訪れている。
専務さんのあいさつを受けて、
会場を案内される。
素人目にも、
これは見事という華やかな柄がならび、
見とれていたら、
息子さんにはこんなのがお似合いと、
さささと鏡の前に立たされて、
江戸小紋の反物をあてられる。
いや、そんな色気のある柄は、
この貧相な顔には似合わないと
即座に母が却下して選んだ柄は、
たしかにこの貧相な顔にも好く馴染み、
長い間に養った、玄人目はさすがと感心した。
大島紬の好きな母と、はるばる出張してきた
織り元さんの話を聞けば、
織りにも染めにも、
ずいぶんの手間がかかっている。
ふかい色柄は、見れば見るほど引き込まれ、
買ってしまう気持ちもわかるのだった。
これだけのもの、さぞかしと値札を見たら、
案の定、ひええ~っという額なのに、
大島も安くなったわねえ。
平然とつぶやく母にもひええ~っとなった。
じっくり目の保養をさせていただいて、
さらりと着流し姿で杯を酌む。
そんな粋な酒徒になりたい気分に
ひたったのだった。
