温泉新年
睦月 一
寒い日は温泉にかぎる。
大晦日、一年さいごの仕事を終えて、父と母と上山田まで出かけた。
さびれた温泉街も、この日は年越しの観光客で
すこし賑わっている。
有田屋さんは上山田の通りの中ほどにある。
家族で営んでいる小ぶりな旅館で、
にこにこ若旦那が出迎えてくれた。
お風呂は硫黄の香りがつよく、程よい湯加減が
肌にやわらかい。
ひと風呂浴びて、部屋で夕餉の膳をかこむ。
今年もお世話になりました。
ご心配ご迷惑おかけいたしました。
父と母に頭を下げて、一年の締めの乾杯をした。
手作りの料理は、ひとつひとつていねいな味付けで
それを肴につぎつぎと徳利が空になる。
宴の途中、女将が挨拶にきてくれた。
大正四年の創業で、私で三代目になるという。
跡を継ぐ若旦那と若女将の夫婦は、美男美女の組み合わせで、
若旦那は、修行先の兵庫のホテルで若女将と出会い、
見染めて上山田へと連れてきた。
昨年娘が生まれて、このごろ一歳になったという。
さんざん食べて飲んで、ひと風呂浴びて横になれば
はあ、極楽極楽と、紅白歌合戦を子守唄に眠りこけた。
次の日、朝風呂にと起きれば
風呂場やトイレに、松のお締めと鏡餅が飾られ、
玄関の広間には、大きな花器に花が活けられていた。
着物姿の女将と若女将がてきぱき働きまわり、
すっかりひきしまった新年の朝になる。
ちっちゃな娘さんもかわいい赤と白のはかま姿で現れて、
お客の目をなごましてくれる。
年明け最初のお湯で体を清め、おせち料理の並ぶ膳にむかう。
今年を無事にすごせますよう。
父と母とお屠蘇で乾杯をすれば、めでたく辰の年の始まりと相成った。