蕎麦屋さまさま
師走 七
蕎麦なら毎日食べていても飽きない。
馴染みの店がいくつかあって、それぞれに居心地が好い。
お昼のかき入れどき、昼酒でずるずる長居をしてしまうのは
もうしわけのないことだった。
蕎麦の味もさることながら、燗酒の付け具合とか、
店の雰囲気とか、働いている方のうごきぶりや
客あしらいの好さとか、いろいろひっくるめての
居心地の好さとわかる。
久しぶりにかどの大丸さんへ足を運んだ。
若旦那のよういちろうさんは、このごろ風邪をひいたという。
熱はないけど咳が止まらなくてと、ときどき咳き込んでいる。
お相撲さんのような、大きな体で頑丈そうなのに、
九月から休みなしで働いていたから、
疲れがたまってしまったのかもしれない。
店に入り、道路に面した打ち場のうしろの席に座ると、
目の前に、着物姿の女性二人、大きな日本画がある。
美人二人を眺めながら、キリンのラガーを一本に、
西之門の吟醸を酌んでいる。
ずいぶんの老舗だから、名のある大家の作品なのかもしれない。
作者を尋ねようと思うのに、いつも酔って忘れている。
店では若旦那のお姉さんが、
スタッフの女性とはきはき動きまわっている。
お姉さんは、弟とちがって華奢な体つきで、
すずやかな日本画のような顔つきをしている。
ときどきお姉さんを眺めながら酌むのも、また好しとなる。
見渡せばこの時期、あたたかい蕎麦を頼むお客が多い。
迷った末、いつものようにもり一枚お願いした。
十二月は、蕎麦屋さんも比較的ひまになるという。
年が明ければ目の回るいそがしさが待っているから
今のうちに体の調子をととのえてもらえればと思う。
仕事場に蕎麦の絵柄の手ぬぐいを飾った。
毎日眺めているとあたたかい蕎麦が食べたくなってくる。