十九 純米吟醸おりがらみ
卯月 七
今年の十九はいいっすよー。
酒屋のみねむら君がいう。
取り引きをしている尾澤酒造さんの
新酒が出来上がったという。
試飲をした、馴染みの飲み屋の旦那さんからも
十九、旨くて驚きましたとメールが来たから
飲まないわけにはいかない。
梅が満開になり、桜が開花したころに
早速買って酌んでみる。
冬から春にかけての楽しみは、気に入りの酒蔵の
新酒の味を利くことで、県内県外、
付き合いのある酒屋さんに注文したり、
馴染みの飲み屋さんで飲ませてもらったりしている。
尾澤酒造さんは、信州新町の国道沿いに蔵がある。
昔はたくさんの量を造っていた。
今は後を継いだ息子さん夫婦と、蔵人ふたりの四人で
地元の米と水を使い、量より質の小さな造りをしている。
それまで働いていた杜氏さんがいなくなり、
お嫁さんが杜氏になってから、
新しく 十九 という銘柄を立ち上げた。
十九号線沿いに蔵があり、杜氏としてはまだ未成年の
二十歳前という意味からつけたという。
昨年久しぶりに蔵におじゃまして新酒を利かせてもらったら
なめらかな美味しさが印象に残り、
春の新酒、夏の生酒、秋の冷やおろしと楽しませていただいた。
今年最初の十九は、純米吟醸のおりがらみで、
ラベルのデザインもこのたびから新しくなった。
十九の文字の背景に、昔の中国の算木という
計算道具で十九と書いてある。
瓶を振り、おりを混ぜて口に含めば、
新酒らしい刺激を伴って、みずみずしい旨みが感じられ
若干の苦味を残しながらすっと切れてゆく。
昨年よりもさらに洗練された感があり、
その気になれば、すぐに一本空けられる美味しさだった。
ためしに燗にしてみたら、そのまま味の幅が厚くなり、
花冷えの夜は温めてもいける。
これから出てくる他の種類もどんなものか、春の楽しみになる。
尾澤さんの好いところは、安いふつうの酒も手を抜かず
造っていることで、
月末になり、お金がなくてぴーぴーする身には
そんな酒があるのもありがたい。
造りの終盤になるころに、
杜氏さんは階段を踏み外して足を怪我したという。
今季の造りには新しい酵母も使ってみたというから
怪我が治ったあかつきには
造りの話をうかがいながら一献酌み交わしたい。
一緒に買った薄桃色の瓶の純米吟醸は、
春の宴にふさわしい。
このつぎの花見の席に持ってゆく。