この時期に
弥生 九
学校が休みになり、路地を通る学生の姿も少なくなる。
部活にいそしむ運動着姿の子供たちが
ときどき通ってゆく。
男の子のように髪の短い女の子二人が
毎朝にこにこ話しながら学校へ行き、
昼過ぎどき、にこにこ話しながら帰ってゆく。
運動着の背中には塁球部と書いてあり、
はて、なんの種目かいなと考えて、
字面から、ソフトボールかとあたりをつけた。
震災の後、町の気配も静かになる。
行きつけの蕎麦屋さんは、お客の入りがいつもの
三分の一になったという。
薬屋さんは、発注した薬がなかなか手に入らなくなった。
飲み屋さんでは予約のキャンセルが相次ぎ
冬さながらに寒い日が続き、三月に気持ちが盛り上がらない。
遠くの町に住んでいる友だちが帰省してきた。
中学校の同級生で、もうひとり、懇意にしている友だち誘い、
三人で酌み交わした。
このたびの地震の影響で、生活にも支障があったという。
それでもこうして顔つき合わせて飲めるのはなによりのこと。
往く先々、それぞれいろんなことがあっても
会えばかわらぬ馴染んだ気持ちで話が出来る。
昨年の夏、酔ってころんで頭に切り傷こしらえた話しをしたら
次の日に、帰るたび会えるのを楽しみにしているのだから、
自分を大事にしなさいとメールが来た。
ほんとになあ。無事会えるのはなによりのこと。
古い友だちの台詞に素直になる。
甲子園で選抜大会が始まれば、春の訪れを感じるようになる。
開会式は例年より地味に静かに行なわれた。
被災地から出場した学校の行進に、ひときわ高い拍手がおくられる。
女子高生の歌う君が代が、清々と澄んだ響きで胸に染み入ってくる。
この声がはるばる天まで届いてくれればと願わずにいられない。
選手宣誓をした少年は阪神大震災の年に生まれたという。
がんばれ日本!
生かされる命に感謝して、全力でプレーをすると力づよく誓う。
それぞれの人が、被災地への思いを胸に自分と向き合う。
そんな三月がつづく。