温泉まで連れ立って

へこりと

2011年01月30日 14:52

睦月 十七

たまには温泉でも行きたいねえ。
そんな話がまとまって、
飲み仲間の蕎麦屋の旦那と、居酒屋の御主人と
上山田温泉まで出かけた。
日曜日、仕事を一時間早く切り上げて
蕎麦屋の旦那の車で向かう。
泊まりで温泉へ行くのは、ずいぶん久しぶりのことだった。
やもめ男が三人で連れ立っていくのも
中年のわびしさがあってよい。
雪のそぼ降る上山田の町を行けば
以前世話になったねずみやさんは
廃業したまま建物だけが残っている。
更地になったところもあって、
ぽちぽち見える観光客の姿も
盛りをすぎた温泉街のすきまを、よけいに感じさせている。
お世話になるのは菊水さん。
よろしくお願いしますと部屋へ向かえば
大きな建物のあつらいに、景気が良かったころの
なごりがある。
夕飯前にひと風呂浴びれば、
ぬるめのお湯が肌にやわらかく、気持ちもほっとゆるくなる。
宴の席へ行けば、年輩のご夫婦や友達同士の団体さんが
すでに一献始めていた。
格安プランでお願いしたから、もとより料理に期待はしていなかった。
それでもプロの料理人ふたりには
素人にはわからない手間さばきが見える。
この仕込には手間がかかっている。
盛り付けに工夫のあとがある。
がんばってるなあと、
厨房の同業者の労をねぎらう言葉が出るのだった。
腹もいっぱいになったら部屋に戻り、
布団でごろごろしながら真澄の吟醸をちびちびなめくつろいだ。
飲み屋の御主人は、あと半年もしたら他の場所に移って
商売をしたいという。
具体的なことを決めながら、これからはもっと
ストレスを抱えないかたちで商売をしたいという。
蕎麦屋の旦那の目下の悩みは
身近な人との関わりのことで、けんかをしたまま仲直りできず、
気持ちがおもくなっている。
思いもよらないことでいさかいになっってばかりでさあといえば、
男というのはわきの甘い生き物だからなあと
飲み屋の御主人がしみじみという。
心にひっかかる悔いごとや悩みごとを話していれば
なかなか寝る気にもならず、
真澄一本空にして、車の中にワインがあったと
蕎麦屋の旦那が持ってきた。
やもめ男のわびしい一献に拍車のかかる夜だった。