時間があいまいで

へこりと

2021年11月24日 12:13

霜月 6

早朝、スマホの着信音に起こされた。
介護施設に暮らす母からで、
何ごとかと思ったら、
りんごが食べたいから買ってきておくれと
言うのだった。
時計を見たら4時半で、
朝っぱらから、そんな用事で電話してと文句を言えば、
わるびれた様子もない。
おまけになにか食べている様子で、
聞いたら、らっきょう漬けをかじっているという。
朝っぱらから、らっきょうなんか食べてんじゃないと、
また文句を言いたくなった。
この頃になって、母は時間の観念が怪しくなってきた。
施設の職員さんにうかがえば、
夜中に食堂にご飯を食べに来たり、入浴をすると、
長いときで3時間もお湯に浸かっているという。
年寄りは風呂場で亡くなることが多いから、
入浴の際は、
ヘルパーさんに付き添ってもらうようにした。
日々、客商売をしている。
以前、月にいちど訪ねてきてくれるおばあさんがいた。
時間に几帳面なしっかりしたかたで、
毎月、決まってお昼前ぐらいに訪ねて来たのに、
そのうちに体内時計がおかしくなってきた。
ある朝、町をひとまわり、ランニングをして戻ってきたら、
玄関先に立っている。
顔を見るなり、あんたどこに行ってたんだねえと
待ちわびた様子で言われた。思わず時計を見たら
まだ6時半前だった。
別の日の朝、前夜の深酒が効いて、
二日酔いで寝ていたら、
玄関のチャイムに起こされた。
戸を開けたらおばあさんが立っていて、
あんた、まだ寝てたんかねえと怒られた。
時計を確かめたら、まだ6時前。
別の日の夜、晩酌をしていたらチャイムが鳴った。
おばあさんが立っていて
お医者へ行った帰り道、自宅の場所が
わからなくなったと、途方に暮れたように言う。
自宅は忘れてもここは覚えていてくれたかと、
ちょっと安心して、タクシーを呼んで自宅まで送り届けた。
それからしばらくして、
遠くの町に暮らす娘さん夫婦に引き取られたと
伝え聞いた。
まだお元気でいるのかいないのか、
間の抜けた母の電話を受け、懐かしく思い出した。
歳をとると、それまで当たり前だったことが、
当たり前じゃなくなってくる。
親を含め、身近なご年配のかたの姿に、
ときどき切なくなるのだった。