元気に日々を
文月 1
7月初日、善光寺の仲見世に、すこし観光客の姿が増えた。
馴染みの蕎麦屋の丸清さんへ、昼酒に出かけたのだった。
暖簾をくぐって戸を開けたら、
1階のテーブルは満席で、2階の座敷へと上がった。
草履を脱いで部屋に入れば、いちばん奥の席で、
先客の、おばさん4人が生ビールを飲んでいた。
入り口わきの席に座って、天ぷらをつまみに、
こちらも生ビールを飲み始めれば、
おばさんたちのにぎやかな話し声が、
いやでも耳に入ってくる。
生ビールはね、最後まで泡を残すのがコツなのよ。
おねえさん、おかわりちょうだい。
あなた最近姿勢がわるいわよ。肩を抜いて、
胸を前にださなきゃだめよ。
こちらもいつも猫背の身で、肩を抜いてね、胸を前にね。
言い聞かせた。
旅行の好きな人たちらしく、
イタリアで聴いたカンツォーネは、
涙が出るほど素晴らしかったとだれかが言えば、
あらっ、涙といえば、ポルトガルのファドもよかったわよと、
ほかのひとりが切り返す。
昨日まで元気だった旦那さんが、
コロッと逝ってしまった話がでれば、
あなたみたいにだらしのない人は、
ろくな看病ができないから、コロッと逝ってくれたのよ。
旦那さんに感謝しなさいよと皮肉られている。
フキと山椒の佃煮で、大信州を酌みはじめたあたりでは、
近所の美容室が、借金こさえて夜逃げをした話が出て、
他人事ではないと冷や汗が出た。
最近購入したマンションの住み心地に、
なかなか慣れないとだれかがこぼすと、
なに言ってんの、今どきあんな立派なマンションに
住めるだけでも贅沢よとたしなめられていた。
義理の弟に、
連帯保証人を頼まれたけれど断った話では、
そうよ、いくら身内でも保証人はだめよと
みんなでおおいに賛同して、
お蕎麦やかつ丼が手元にきたら、
お蕎麦、美味しいわねえ。かつも柔らかいわと、
わしわし箸をうごかして、
あちこちと尽きぬ話を聞きながら、その元気ぶりに、
思わず笑いがこみあげてしまったのだった。
お会計を済ませて出ていくときに、
騒がしくてごめんなさいねえと声をかけてきたから、
いえいえ、楽しく話を聞かせてもらいました。
お気をつけてと見送った。
いろいろあるけれど、ああして日々を元気よく。
昼のひととき、ビール2杯と日本酒2合で、
見も知らぬおばさんがたを見習ったのだった。