戸倉まで
卯月 3
毎日酒を酌んでいる。
この歳になると、宴をご一緒してくれるかたも、
年下のかたがたばかりとなっている。
ありがたいのは、食通酒通のかたばかりで、
ワインのブドウを作っていたり、
日本酒を造っていたり、
飲食店や酒屋を営んでいるかたもいる。
その道のプロのかたの話を聞きながら
酌み交わすのは、
存外楽しいことなのだった。
飲み仲間のおひとりに、
介護の仕事をされているかたがいる。
人当たり柔らかく物ごし丁寧で、
介護の仕事に、まさにうってつけのかただった。
宴の席でも、
いつもにこにこと、幸せそうに杯をかさねるから、
こちらもにこにこと、
幸せに酔いつぶされてしまうのだった。
昨年の秋に、職場が長野から、
温泉地の戸倉へ移動になった。
ぬかりなく、さっそく好さげな店を見つけたといい、
温泉に入って一杯の算段となった。
休日の夕方、しなの鉄道に揺られて戸倉駅で降りる。
国道を渡ってすぐの蕎麦屋、萱(かや)さんで落ち合って、
そばを食べずに酒だけ飲んで、白鳥園へ向かう。
柔らかなお湯にゆっくり浸かり、
広間でビールを飲んでから連れて行ってもらったのは、
戸倉小学校の近く、
静かな住宅街の中に在る、「こゆり」さんだった。
割烹着姿の若い女将さんが営む店は、
おでんに餃子にもつ煮など、家庭料理が品書きに並び、
酒は福井の銘酒、黒龍の逸品で、
料理も酒も値段が安い。
落ち着いた構えの店内で、楽しく酔ったのだった。
この歳になると、温泉に、好い酒好い肴、
そしてなにより好い友と、
それで充分ぜいたくなことなのだった。