お蔵さんに願いを
文月 三
駅前の景家さんへ出かけた。
酒屋の峯村君が日本酒の会を開いたのだった。
伯楽星を醸す、宮城の蔵元を招いてのひとときに、
たくさんのお客が集まって、満員御礼の貸切りと相成った。
純米大吟醸をかわきりに、夏の限定酒に、
定番の純米吟醸や特別純米をつぎつぎと利いてゆく。
震災のあと、
良質の湧き水の出る山のふもとに蔵を移したら、
それまでのきれいな味わいにやわらかさが加わった。
糖度のひくい酒質は、
暑い夏でも杯をかさねられるのだった。
この日は峯村君の知り合いの、
宮城の酒屋さんもお見えになっていた。
ひさしぶりですと挨拶をしたら、
最近付き合い始めた、
栃木のお蔵さんも連れてきたといい、紹介をされた。
栃木市の相良酒造さんは、江戸時代の創業で、
現在の蔵元で八代目になるという。
造る銘柄は朝日栄といい、石高は二百石とちいさい。
蔵元の社長が杜氏をしていて、跡継ぎの娘さんは、
まだ二十五歳と若い。
昨年、初めてタンク一本の仕込みをしたという。
造りについてはまだまだといい、
勉強のために、長野で好き味を醸す、
女性杜氏のお蔵を訪ねてきたという。
ときどきお蔵のかたがたと酌み交わせば、
米の出来具合や、人間関係のしがらみなど、
過酷な労働に加えて、
頭を悩ます気苦労もすくなくないとわかる。
それでも毎年たがわぬ味を仕上げているから
えらいことと思えるのだった。
貫禄たっぷりに、酒の説明をしている伯楽星の蔵元も、
造りを始めたときは、
地元の酒屋にも相手にしてもらえなかったという。
国内外で名を馳せるようになったのは、
造りへの真摯な取り組みと、
関わるかたがたの、好き縁が導いたものとうかがえる。
知り合えた、栃木のちいさなお蔵さんの出来栄えも、
飲兵衛の楽しみのひとつになるのだった。