お見送りをして

へこりと

2012年12月13日 16:03

師走 二

師走、旅立つ人を見送った。
馴染みのおでん屋の女将さんが逝ったのだった。
八年前、鶴賀のさびれた通り沿いに開いて以来、
ずっと世話になっていた。
足しげく通う常連さんもだんだんと増えて
杯酌み交わす縁も作っていただいた。
女将さんのうらおもてのない柄に、
仕事のなやみ家庭のなやみ、恋のなやみを
聞いてもらうお客さんもいて、
励まされたり諭されたり、道々の節目の打ち明け場所に
なってくれていた。
気持ちのおさまりわるく、はしご酒をくりかえした夜、
ビール一本も飲めぬのに、ふらり立ち寄っては
締めの寄りどころと甘えさせてもらったことも
たびたびのことだった。
四年前、店をほど近い場所に移転したときに
引っ越し休業の合間に、おおきな手術をしたのだった。
退院してすぐに店を再開して、
おでんを煮て、酒を燗につけて、
ときどきだらしのないヨッパに活を入れ、
元気に立ち振る舞っていたのに、去年の終わりに近いころ
体調がおもわしくなくなった。
店を手伝うために、放浪の旅をしていた息子さんがやってきて
いっしょに働いていたものの、
カウンターのすみに座ってお客さんを迎える日が多くなる。
伺うたび、やせていく姿に胸がつんとなるものの
そこにいてくれる笑顔を目にすれば、
いつもの店とくつろいでいた。
冬のはじめ頃から、早い時間に顔を出しても会えない日がつづき、
最後の日は眠ったまま息をひきとっていたという。
亡くなった次の日、お別れパーティーをしますとの連絡に
早めに仕事を終いにして店に出向いた。
すでに店いっぱいの知った顔ぶれの常連さんが
杯を片手に別れの酒を交わしている。
女将さんに手を合わせ、棺の横の遺影を見れば
こんなにふくよかだったのにと、病の日々の重さが
あらためてわかる。
宴のさなかにも、仕事がいそがしくてご無沙汰つづきだった
飲み仲間もつぎつぎとやってきて、
気の置けない方々との出会いの店だったと、つくづくとありがたい。
酔いのいきおいで送る言葉をと、めいめい棺の内側に書き添えれば、
やっぱり、ありがとうございましたのひと言しか思い浮かばない。
通夜も葬式も行なわず、慕っていた馴染みの方々と
にぎやかにさっぱりと。
女将さんにふさわしい見送りかたと思う。
もっとしっかりしなさいよ。
さんざんはっぱをかけられたのに、ついぞしっかりできず、
申しわけなくてせつない。